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脊柱管狭窄既往頚髄障害について事故との因果関係を認めた判例紹介

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令和 1年 7月27日(土):初稿
○原告には、脊柱管の狭窄や椎間板の膨隆等の変性所見があり、本件事故を契機として、頚椎症性脊髄症の症状を発現するに至ったとして、事故との因果関係を認め、後遺障害第7級を認定した平成26年6月13日京都地裁判決(交民47巻3号709頁)の関連部分を紹介します。認容額は約430万円ですが、既払金が約1200万円あります。

○判決は、原告の変性所見は、一般的な加齢変性の程度を越えるものであり、既往症に当たるということができる上、脊柱管の狭窄や椎間板の膨隆等の既往症がなければ、外傷性の頚椎捻挫にとどまり、時間の経過とともに次第に緩和する経過をたどったはずのところ、原告の症状は、むしろ次第に多様化し、徐々に進行する脊髄症状を発症し、治療が長期化するとともに、前記のような後遺障害を残すに至ったのは、既往症の影響によるところが大きいとして、4割の素因減額をしました。

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主   文
一 被告は、原告に対し、429万5507円及びこれに対する平成22年2月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、これを100分し、その13を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。
四 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一 請求

 被告は、原告に対し、3300万円及びこれに対する平成22年2月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第二 事案の概要
 本件は、原告が普通貨物自動車を運転していたところ、前から後退で進行してきた被告の運転する普通乗用自動車に衝突される事故(以下「本件交通事故」という。)に遭い、これによって受傷し、損害を被ったとして、被告に対し、民法709条又は自動車損害賠償保障法3条に基づき、原告が負った損害の賠償及びこれに対する本件事故日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を請求した事案である。

一 前提事実(以下の事実は当事者間に争いがないか、掲記の証拠により容易に認定できる。)
(1) 本件事故の発生(甲1、3)

         (中略)

 事故態様 被告は、被告車を運転し、名古屋方面へ向かおうと、名神高速道路京都東インターより上り線に入ったが、自車の進入した路線が大阪方面行きであることに気付き、名古屋方面行きの路線入り口まで引き返そうとバックのまま走行させた結果、折から被告車の後方から大阪方面に向かって走行していた原告車の前部に自車の後部を衝突させた。


         (中略)

二 争点
(1) 後遺障害
(2) 素因減額
(3) 原告の損害


三 争点に対する当事者の主張
(1) 争点(1)(後遺障害)について

(原告の主張)
 原告には、左側頚部痛、頭痛、左肩関節の挙上障害・疼痛、両手の脱力感、右栂指・示指の運動障害、両手背部のシビレ感・冷感・疼痛、左大腿外側のシビレ感等が残存している。
 この後遺障害は、少なくとも「神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外に服することができないもの」として、自賠法施行令別表第二第7級4号(以下、単に等級のみで示す。)に該当する。

(被告の主張)
 原告の症状固定時点での主症状は、頚部痛等の自覚症状と両上肢の軽度の筋力低下及び知覚異常である。
 上肢筋力低下は概ね徒手筋力検査(MMT)で5段階中4レベルと軽度である。症状による苦痛は伴うものの、日常生活動作は自立しており、術前も、苦痛を伴い、左手で物を落下するという不都合はあったが通常の就労は可能であったし、術後は術前より症状が軽減し、術後3か月で元の就業に服することが許可された状態にあった。

 このような症状固定時の状況にかんがみれば、原告の後遺障害は、「通常の労務に服することはできるが、せき髄症状のため、就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの」として、9級に該当するというべきである。
 なお、原告においては、頚椎の手術により、「脊柱の変形」として11級にも該当するが、上記神経症状と同一系統による障害であるため、両者を総合して9級となる。

(2) 争点(2)(素因減額)について
(被告の主張)
 原告の傷病名は、頚椎症性脊髄症である。これは、外傷により生じる病態ではなく、加齢変性の結果生じて徐々に進行する病態である。
 原告の頚部に見られる変性所見は、すべて本件事故以前から存在したものである。そして、頚椎MRIの画像所見における脊柱管狭窄と脊髄圧迫の程度は、相当程度進行しており、本件事故がなくても、日常生活における軽微なきっかけや、何のきっかけもなく、脊髄症状を発症しておかしくない程度であった。原告が47歳と若い割に頚椎変性の程度が強いことからも、今後の人生における加齢で脊髄症状が自然発生した可能性は高い。実際、原告は、本件事故以前に、類似の病態である胸椎後縦靱帯骨化症を発症して、手術加療を受けている。

 他方、本件事故は、前方からの逆突であり、後方からの追突の場合ほど頚椎に障害をもたらすものではないし、本件事故による双方の車両の損傷は、外観上ほとんど確認できない程度で、修理費も僅少であった上、被告は本件事故により何ら傷害を負っていないことからして、本件事故自体は本来、傷害を負うような事故ではない。

 以上によれば、仮に、原告において、本件事故当時、頚椎症に伴う脊柱管狭窄状態がなければ、上記のような本件事故の程度からして、極めて軽度な頚椎捻挫症状に止まったはずであり、徐々に進行する脊髄症状を発症することも、手術適応となることもなかったはずである。
 このように、原告の素因は、本件事故後の治療期間、症状経過及びこれに対する治療内容、手術適応の有無等に対して極めて大きな影響を与えたものであり、かかる素因の割合は80パーセントを下らない。

(原告の主張)
 原告は、本件事故まで、脊髄症状を全く訴えておらず、平成17年2月から本件事故当時の勤務先であるf株式会社で検品作業に従事していたが、その間ほぼ無遅刻、無欠勤で、整形外科にかかったこともなかった。
 本件事故後3日の頚椎レントゲン画像所見では、側面において「椎体後方に加齢変性による骨棘~後縦靱帯骨化疑(矢印)の形成を認める」とあるが、この程度の画像は50代前後になれば、一般的に認められるものである。
 また、受傷後6日の頚椎MRIでは、C4/5/6レベル脊柱管内に骨棘及び椎間板膨隆による脊髄圧迫所見や、胸椎レベルに多発性に後縦靱帯骨化と考えられる脊柱管狭窄要素が認められるとの所見があるが、いずれも加齢によるものと推察される上、原告は本件事故前は健康そのものであった。

 他方、本件事故は、原告が、後退してくる被告車を認め、クラクションを鳴らして合図を送ったところ、被告車が停止したため、原告車から身を乗り出すような体勢で、原告車の後続車両に手で制止の合図を送っていたところ、再度後退してきた被告車に追突されたものである。このように、原告は、衝突を予測して身構えることもできないまま、頚部等に激しい衝撃を受けた。

 以上のとおり、原告には本件事故前に全く症状が見られなかったことに加え、本件事故による衝撃は重大であったことからして、本件事故による衝撃がなければ生涯無症状のまま過ごした可能性が高い。
 したがって、素因減額は相当でなく、仮に素因減額を行うとしても最大1割程度にとどめるべきである。


         (中略)

第三 争点に対する判断
一 争点(1)(後遺障害)について

(1) 掲記の証拠によれば、原告の症状経過は、以下のとおりであることが認められる。
ア 原告は、平成22年2月28日、高速道路に入るため料金所を抜けたあたりで、前方にいた被告車が停止しているのを認め、原告車を停止させるとともに、後続車両に合図すべく、運転席の窓から上体を出して後ろを向いていたところ、後退してきた被告車に逆突された(本件事故)。(甲1、3、12、原告)

イ 平成22年3月2日、原告は、頚部痛及び左上肢痛を訴え、a病院を受診した。
 診察の結果、ジャクソンテスト、スパーリングテストは(±)、上腕二頭筋反射両側亢進、上腕三頭筋反射左側亢進、腕橈骨筋反射左側亢進、ホフマン反射(両側+)等の所見が得られ、同日に実施された頚椎レントゲンにて、骨折、脱臼など外傷をうかがわせる所見はなく、同月5日に実施された頚部MRIにて、骨折、脱臼、出血巣等の明らかな外傷性の所見はなく、C6/7ヘルニアの所見が得られた。
 原告は、頚椎ヘルニアと診断され、約2週間の安静・内服とリハビリテーション加療(物療)を指示された。(乙1、6)

ウ 原告は、平成22年3月5日より、リハビリ目的で、b整形外科クリニックへの通院を開始した。
 初診時、原告は、肩から首にかけての張りとだるさを訴え、ジャクソンテスト(-)、スパーリングテスト(右-、左+)、上腕二頭筋反射(両側+)、上腕三頭筋反射(両側±)、腕橈骨筋反射(両側+)、ホフマン反射(両側-)、バビンスキー反射(右±、左-)、アンクルクローヌス(右+、左-)であったが、手指の巧緻運動障害はなかった。

 その後、原告は、同年3月10日から同年12月16日まで同病院に通院し、ホットパック・電気等の消炎鎮痛処置と頚椎牽引等の処置を受けるとともに、同年5月14日からは、およそ2週間に1回の割合で、トリガーポイント注射や星状神経節ブロック注射を受けた。
 この間にも、原告の訴えは、同年3月10日に頚の痛みや頭痛、同月15日に左手のしびれ、同年4月13日に左手栂指の先のしびれ、同月23日に左手で物を持つと落としてしまう、同年5月31日に手のひきつり、同年7月1日に左上肢の痛み、しびれ、脱力等と次第に加わった。(乙二)

エ 原告は、平成22年11月6日、精査、加療目的で、d診療所を受診した。
 原告は、左頚部痛、左栂指・示指しびれ、左栂指付け根の冷感を訴え、頚椎可動域は前屈25度、後屈25度、側屈右20度、左25度、回旋右45度、左20度であり、左項部筋、僧帽筋、斜角筋に圧痛があり、ジャクソンテスト(右-、左±)、スパーリングテスト(両側-)、上腕二頭筋反射(両側++)、上腕三頭筋反射(両側+)、腕橈骨筋反射(両側++)、ホフマン反射(両側-)であり、左前腕、左手栂指側に知覚鈍麻があり、握力は右34kg、左19kg、上肢徒手筋力テストは右4+、左4-であった。
 頚部MRI所見では、C4/5/6/7の狭窄、C4/5、5/6の左椎間板の膨隆、C6/7の右椎間板の膨隆が認められ、レントゲン所見では、頚部脊柱管の狭小化が認められた。
 原告は、頚椎捻挫、頚椎症性脊髄症と診断された。(甲5、乙3)

オ 原告は、平成23年1月26日から同年2月28日まで、c病院に入院し、同年1月28日、C5/6の前方固定、C4、5、6の後方椎弓形成、C7の上縁切除の手術を受けた。
 手術により、術前にあった左手指のしびれ、感覚鈍麻、脱力感は、軽減ないし消失したが、術後は右手指にしびれと感覚鈍麻が出現した。
 歩行及び頚椎の手術部位が安定し、右上肢の疼痛しびれも手術直後の半分程度まで改善したため、原告は、同年2月28日、退院した。(乙4の1・2)

カ 退院後、原告は、平成23年3月3日より、d診療所にて、外来フォロー及びリハビリを受けた。
 その後も、原告の右栂指、示指のしびれの訴えは持続し、その他にも、原告は、同月17日には左臀部痛、同年4月28日には左大腿部痛、しびれあり、歩行がつらい、同年6月25日には左栂指に違和感、右栂指、示指屈曲し、右手が動かしにくい、同年7月14日には右手冷感もあり、同年8月17日には左股関節痛、同年10月6日には両大腿外側が痛い、同年11月10日には左側頚部痛、頭痛、左手背部が冷たい等を訴えた。(乙3)

キ 同年11月24日、原告は、下記症状を残し、d診療所にて、頚椎症性脊髄症の傷病名で、症状固定と診断された。
 自覚症状は、左側頚部痛、頭痛、左肩関節の挙上障害、疼痛、両手の脱力感、右栂指・示指の運動障害、両手背部のしびれ感、冷感、疼痛、左大腿外傷部のしびれ感であった。
 他覚症状は、両上肢に筋力低下、握力右19kg、左27kg、頚椎運動障害(前屈30度、後屈20度、右屈25度、左屈25度、右回旋35度、左回旋35度)、肩関節運動障害(外転右180度、左110度、屈曲右180度、左120度、伸展右50度、左45度)等であった。(甲8)

(2) 上記のとおり、原告の頚部に、外傷に起因する骨折・脱臼等の器質的異常所見は認められないものの、脊柱管の狭窄や椎間板の膨隆等の変性所見が認められ、その程度は、C5/6の前方固定、C4、5、6の後方椎弓形成、C7の上縁切除の手術を要するほどであり、神経学的にも、本件事故後から一貫して、腱反射の異常や病的反射が認められ、頚部痛、上肢の痛み、しびれ、脱力、知覚鈍麻等、脊髄圧迫に起因する症状が現れていることからして、原告には、本件事故を契機に頚椎症性脊髄症の症状が発現したものというべきである。

 そして、症状固定時に原告に残存した各種症状、とりわけ両上肢の筋力低下、手指の運動障害、頚椎部及び左肩関節の可動域制限に、C5/6の前方固定術やC4、5、6の後方椎弓形成術による脊柱の変形障害を含めて、原告には、神経系統の後遺障害が生じているということができ、証拠(甲12、原告)によれば、上記後遺障害により、労務は軽作業に限られる上、細かな作業は困難であることが認められる。

 以上によれば、原告の後遺障害は、「神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外に服することができないもの」として、7級に該当するというべきである。


(3) これに対し、被告は、原告に残存した両上肢の筋力低下は軽度であり、苦痛は伴うものの日常生活は自立しており、元の就業に服することが許可された状態にあったから、原告の後遺障害は、「通常の労務に服することはできるが、せき髄症状のため、就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの」として、9級の限度であると主張する。

 しかし、前記のとおり、症状固定時点で、原告の頚椎部の可動域は、C5/6の前方固定術により、主要運動である屈曲・伸展について参考可動域(屈曲60度、伸展50度)の2分の1以下(屈曲30度、伸展20度)に制限されており、これのみでも「せき柱に運動障害を残すもの」として八級に該当するところ、これに両上肢の筋力低下や手指の運動障害等による動作・作業制限があることを加味すると、被告が主張する後遺障害等級は採用できない。

二 争点(2)(素因減額)について
(1) 前記のとおり、原告には、脊柱管の狭窄や椎間板の膨隆等の変性所見があり、本件事故を契機として、頚椎症性脊髄症の症状を発現するに至ったものと認められる。
 そして、証拠(乙1、6)によれば、本件事故後3日ないし5日の頚椎レントゲンや頚椎MRIでも、上記変性所見部分に骨折、脱臼、出血巣等の外傷所見はなかったことが認められ、上記変性所見は、いずれも本件事故前から存在したものと認められる。

 さらに、前記のとおり、上記変性所見の程度は、C五/六の前方固定、C4、5、6の後方椎弓形成、C7の上縁切除の手術を要するほどであったことが認められ、証拠(乙5)によれば、原告は、本件事故以前の平成8年にも、頚椎症性脊髄症と類似の病態である第2胸椎黄色靱帯骨化症を発症し、椎弓切除術を受けていることが認められる。これらの事実を併せてみれば、原告の変性所見は、一般的な加齢変性の程度を越えるものであり、既往症に当たるということができる。

 以上によれば、本件事故後の原告の症状経過及び治療経過について、原告の上記既往症による影響は否定できず、損害の公平な分担の見地から、損害賠償の額を定めるに当たっては、上記既往症を斟酌し、素因減額を行うのが相当である。

(2) 次に、素因減額の程度について検討する。
 前記認定のとおり、本件事故は、前からの逆突であるものの、原告が窓から上体を出して後ろを向いていたところに、後退してきた被告車に追突されており、原告として予想や防御が不可能であったことからすれば、原告車及び被告車に生じた損傷が軽微であったこと(乙7ないし12)を考慮しても、そのことをもって原告の体に対する衝撃が軽微であったとは言い難い。

 もっとも、脊柱管の狭窄や椎間板の膨隆等の既往症がなければ、外傷性の頚椎捻挫にとどまり、時間の経過とともに次第に緩和する経過をたどったはずのところ、原告の症状は、むしろ次第に多様化し、本件事故直後の頚部痛や左上肢痛の訴えから、左手指のしびれ、感覚鈍麻、脱力感が加わり、手術後には右手指にしびれと感覚鈍麻が出現する経過をたどっており、このような徐々に進行する脊髄症状を発症し、治療が長期化するとともに、前記のような後遺障害を残すに至ったのは、上記既往症の影響によるところが大きいと言わざるを得ない。
 以上を総合すれば、40パーセントの素因減額が相当である。


 これに対し、原告は、本件事故前に脊髄症状は全くなく、整形外科にかかったこともなかったと主張し、これに沿う証拠(甲9、10の1・2)を提出する。しかし、本件事故前に無症状であったことが、本件事故後の症状に対する既往症の影響について先に認定したところを左右するものではない。
以上:7,190文字

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