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遺産分割弁護士報酬は相続財産取得費用にならないとした地裁判例紹介

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平成31年 4月25日(木):初稿
○遺産分割で取得した不動産を売却した場合の譲渡所得税について遺産分割交渉を弁護士に依頼し弁護士報酬を支払っていた場合、この弁護士報酬は譲渡所得計算の取得費になりますかと良く質問を受けます。残念ながらならないと答えざるを得ません。この点について判断した平成22年4月16日東京地裁判決(税務訴訟資料260号順号11420)の必要部分を紹介します。

○事案は、玉川税務署長が、国税通則法5条1項により、原告が相続人としてその納税義務を承継した被相続人の所得税について、遺産分割調停及び審判事件における被相続人の代理人弁護士に対する報酬額989万0181円は、被相続人が遺産分割審判によって取得した土地の譲渡所得の計算において取得費に算入することはできないとして、更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をしたのに対し、原告がこれらの処分は違法であるとして、被告(国)に対し、その取消しを求めたものです。

○判決は相続人が弁護士に委任することが通常必要とされるものではないから、遺産分割に係る事務の委任に係る弁護士報酬は、相続人が相続財産を取得するための附随費用には当たらないとして、原告の請求をいずれも棄却しました。

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主   文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求

 玉川税務署長が平成20年2月29日付けで原告に対してした亡Aの平成17年分の所得税に係る更正処分のうち、長期譲渡所得金額9078万6261円、納付すべき税額1352万0400円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分を取り消す。

第2 事案の概要
1 本件は、玉川税務署長が、国税通則法5条1項により原告がその納税義務を承継した亡A(以下「A」という。)の平成17年分の所得税について、遺産分割調停及び審判事件におけるAの代理人弁護士に対する報酬額は、Aが遺産分割審判によって取得した土地の譲渡所得の計算において取得費に算入することはできないとして更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をしたのに対し、原告がこれらの処分は違法であるとして、その取消しを求めた事案である。


         (中略)

第3 当裁判所の判断
1 法は、譲渡所得の金額について、総収入金額から資産の取得費及び譲渡に要した費用を控除するものとし(法33条3項)、上記の資産の取得費は、別段の定めがあるものを除き、当該資産の取得に要した金額並びに設備費及び改良費の額の合計額としている(法38条1項)。この譲渡所得に対する課税は、資産の値上がりによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得として、その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会に、これを清算して課税する趣旨のものである〔最高裁昭和41年(行ツ)第102号同47年12月26日第三小法廷判決・民集26巻10号2083頁、最高裁昭和47年(行ツ)第4号同50年5月27日第三小法廷判決・民集29巻5号641頁参照)。

 そして、これらの規定の文理及び譲渡所得課税の趣旨に照らせば、法38条1項が規定する「資産の取得に要した金額」には、当該資産の客観的価格を構成すべき取得代金の額のほか、登録免許税、仲介手数料等の当該資産を取得するための付随費用の額も含まれるが、他方、当該資産の維持管理に要する費用等居住者の日常的な生活費ないし家事費に属するものはこれに含まれないと解するのが相当である〔最高裁昭和61年(行ツ)第115号平成4年7月14日第三小法廷判決・民集46巻5号492頁参照〕。

2 また、法は、相続による資産の所有権移転の場合には、限定承認のときを除き、その段階において譲渡所得課税を行わず、相続人がその資産を譲渡したときに、その譲渡所得の金額の計算についてその者が当該資産を相続前から引き続き所有していたものとみなすと規定しており(法60条1項1号)、被相続人が当該資産を取得するのに要した費用は相続人の譲渡所得金額の計算の際に取得費としてその譲渡収入金額から控除されることとなる。

 これは、相続(限定承認を除く。)の時点では、資産の増加益が顕在化しないことから、その時点における増加益に対する課税を留保し、その後相続人が資産を譲渡することによってその増加益が具体的に顕在化した時点において、これを清算して課税することとしたものであり、この規定の本旨は、増加益に対する課税の繰延べにあると解される。

 そうすると、相続人が相続した不動産を譲渡した場合の譲渡所得の金額の計算において譲渡収入金額から控除される取得費としては、まず、被相続人がその不動産を取得した時におけるその不動産の客観的価格を構成すべき取得代金の額及びその取得のための付随費用の額が考えられるが、それに加えて、例えば、相続人が相続する不動産の所有権移転登記手続をする際の登録免許税等も、当該不動産を取得するための付随費用の額として、「資産の取得に要した金額」(法38条1項)に当たると解するのが相当である。

3 ところで、遺産分割の法的性質は、共同相続人の共有に係る相続財産の分配にすぎず、これにより相続財産に含まれている個々の資産の財産価値そのものに変動を及ぼすものではないから、遺産分割に要した費用は、当該資産の客観的価格を構成するものとは認められない。また、それが、被相続人の取得のときに遡ってその当時における客観的価格を構成するとか、あるいは、被相続人の取得のための付随費用とみる余地がないことは明らかである。

 また、遺産分割は、相続人間の協議、調停及び審判によって行うことができるところ、相続人間の協議によって行われる場合はもとより、調停や審判によって行われる場合であっても、相続人が弁護士に委任することが通常必要とされるものではないから、遺産分割に係る事務の委任に係る弁護士報酬は、相続人が相続財産を取得するための付随費用には当たらないというべきである。

4 そうすると、本件報酬部分は、遺産分割に係る事務の委任に係る弁護士報酬であるから、本件土地の客観的価格を構成するものと認められないことは明らかであるし、本件土地を取得するための付随費用ということもできない。また、これが設備費又は改良費に当たらないことも明らかである。よって、本件報酬部分は法33条3項の「取得費」には当たらないというべきである。

5 原告の主張について
(1)原告が引用する平成17年最高裁判決は、ゴルフ会員権の名義書換手数料を資産を取得するための付随費用として取得費に当たると解したものであるところ、ゴルフ会員権の名義書換手数料は、これを支払って名義書換えをしなければ、そのゴルフ会員権に基づく権利行使ができないのであるから、ゴルフ会員権の取得のための付随費用ということができるのに対し、前記のとおり遺産分割調停及び審判事件は、必ず代理人として弁護士に委任しなければならない手続ではないから、遺産分割事件の弁護士報酬が当該資産を取得するための付随費用ということはできないのであって、平成17年最高裁判決は、本件と事案を異にするものである。

(2)原告は、法33条3項に規定された取得費と譲渡費用の理論的根拠が異なってはならないとし、譲渡費用に係る平成18年最高裁判決の判断基準を取得費の判断基準とすべきであるとしている。確かに、法33条3項において取得費と譲渡費用は、共に譲渡所得の計算に当たって控除されるべきものではあるが、同項において取得費と譲渡費用が別個に挙げられていることからも明らかなように、両者は別個の概念であって、譲渡費用該当性の判断基準を直ちに取得費該当性の判断基準とすべきであるということはできない。したがって、平成18年最高裁判決の基準によって取得費該当性を判断すべきであるという原告の主張及びそれを前提とする原告の主張は、いずれも直ちに採用することができない。

6 本件各処分の適法性
(1)本件更正処分の適法性
 前提事実によれば、本件土地の分筆前の東京都a区○○×丁目×××番の土地は、被相続人が大正15年4月10日に取得した土地であり、法60条1項1号により、Aは、この被相続人の土地の取得の時期を引き継いでいるとみなされるから、昭和27年12月31日以前から引き続き所有していた土地等を譲渡したことになる。そうすると、法61条2項が適用されることになるが、さらに、措置法31条の4第1項により、本件所得の金額の計算上、実額取得費(本件確定申告書記載の取得費1076万3239円から、前記のとおり取得費と認めることのできない本件報酬部分989万0181円を差し引いた金額87万3058円)が、概算取得費(譲渡収入金額1億0500万円の100分の5に相当する金額である525万円)を下回るから、本件土地の譲渡所得に係る取得費は525万円となる。

 そうすると、Aの平成17年分の分離長期譲渡所得の金額は、譲渡収入金額1億0500万円から取得費525万円と譲渡費用345万0500円(本件確定申告書記載額)を差し引いた9629万9500円であり、納付すべき所得税額は、1434万7300円であって、別紙2の被告主張額のとおりである。本件更正処分における分離長期譲渡所得の金額及び納付すべき所得税額は、これと同額であるから、本件更正処分は適法である。

(2)本件過少申告加算税の賦課決定処分の適法性
 前記(1)のとおり、本件更正処分は適法であるところ、Aは本件更正処分により納付すべき税額の基礎となった所得について、過少に申告していたものであり、過少に申告していたことについて、国税通則法65条4項に規定する「正当な理由」があると認めることはできない。
 したがって、過少申告加算税の額は、別紙2記載の被告の主張のとおりである。そうすると、本件賦課決定処分における過少申告加算税は、これと同額であるから、本件賦課決定処分は適法である。

第4 結論
 よって、原告の請求は理由がないから、これらをいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民訴法61条を適用して、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第38部 裁判長裁判官 杉原則彦 裁判官 波多江真史 裁判官家原尚秀は、転補につき、署名押印することができない。
裁判長裁判官 杉原則彦
以上:4,266文字

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