平成30年12月15日(土):初稿 |
○上告人が、被上告人に対し、本件相続分譲渡によって遺留分を侵害されたとして、被上告人が遺産分割調停によって取得した不動産の一部についての遺留分減殺を原因とする持分移転登記手続等を求め、本件相続分譲渡が、亡Aの相続において、その価額を遺留分算定の基礎となる財産額に算入すべき贈与(民法1044条、903条1項)に当たるか否かが争われました。原審平成29年6月22日東京高裁判決(判例集未登載)は、上告人は遺留分を侵害されていないとして、上告人の請求を棄却すべきものとしたため、上告人が上告しました。 ○平成30年10月19日最高裁判決(裁時1710号3頁、裁判所ウェブサイト)は、共同相続人間でされた無償による相続分の譲渡は、譲渡に係る相続分に含まれる積極財産及び消極財産の価額等を考慮して算定した当該相続分に財産的価値があるとはいえない場合を除き、上記譲渡をした者の相続において、民法903条1項に規定する「贈与」に当たるとし、本件相続分譲渡はその価額を遺留分算定の基礎となる財産額に算入すべき贈与に当たらないとして上告人の請求を棄却すべきものとした原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるとし、原判決を破棄し、更に審理を尽くさせるため原審に差し戻すこととした平成30年10月19日最高裁判決(裁時1710号3頁、裁判所ウェブサイト)を紹介します。 ○事案は以下の通りです。 被相続人亡B====亡A ______|_______ | | | |(養子) 上告人 被上告人 C D ・平成20年12月死去した亡B遺産分割調停で相続人の亡A及びDは、各自の相続分を被上告人に譲渡し、遺産分割手続から脱退 ・亡Aは平成22年8月全財産を被上告人に相続させる公正証書遺言 ・亡Bの遺産につき,上告人,被上告人及びCの間において、平成22年12月,遺産分割調停が成立 ・亡Aは,平成26年7月に死亡し、法定相続人は,上告人,被上告人,C及びD ・上告人が被上告人に対し、亡A相続に関し遺留分減殺請求の意思表示を亡B相続分譲渡を「贈与」として遺留分算定財産額に算入すべきと主張 ・原審東京高裁は、相続分譲渡は「贈与」に該当しないとして遺留分算定財産には算入できないとした ・そこで上告人は相続分譲渡も「贈与」に該当すると主張して上告 ******************************************* 主 文 原判決を破棄する。 本件を東京高等裁判所に差し戻す。 理 由 上告代理人○○○○,同○○○○の上告受理申立て理由について 1 原審の確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。 (1)亡Aは亡Bの妻であり,上告人,被上告人及びCはいずれも亡Bと亡Aとの間の子である。Dは,被上告人の妻であって,亡B及び亡Aと養子縁組をしたものである。 (2)亡Bは,平成20年12月に死亡した。亡Bの法定相続人は,亡A,上告人,被上告人,C及びDである。 (3)亡A及びDは,亡Bの遺産についての遺産分割調停手続において,遺産分割が未了の間に,被上告人に対し,各自の相続分を譲渡し(以下,亡Aのした相続分の譲渡を「本件相続分譲渡」という。),同手続から脱退した。 (4)亡Aは,平成22年8月,その有する全財産を被上告人に相続させる旨の公正証書遺言をした。 (5)亡Bの遺産につき,上告人,被上告人及びCの間において、平成22年12月,遺産分割調停が成立し,これにより,上告人は第1審判決別紙「亡Bの遺産目録」記載第1の6の土地及び同目録記載第2の4ないし8の建物を取得し,被上告人は同目録記載第1の5及び7ないし13の土地,同目録記載第2の2,3,9及び10の建物,同目録記載第4の現金及び預貯金並びに同目録記載第5のその他の財産を取得し,Cは同目録記載第1の1ないし4の土地及び同目録記載第2の1の建物を取得した。 (6)亡Aは,平成26年7月に死亡した。その法定相続人は,上告人,被上告人,C及びDである。 (7)亡Aは,その相続開始時において,約35万円の預金債権を有していたほか,約36万円の未払介護施設利用料債務を負っていた。 (8)上告人は,平成26年11月,被上告人に対し,亡Aの相続に関して遺留分減殺請求権を行使する旨の意思表示をした。 2 本件は,上告人が,被上告人に対し,本件相続分譲渡によって遺留分を侵害されたとして,被上告人が上記1(5)の遺産分割調停によって取得した不動産の一部についての遺留分減殺を原因とする持分移転登記手続等を求める事案である。本件相続分譲渡が,亡Aの相続において,その価額を遺留分算定の基礎となる財産額に算入すべき贈与(民法1044条,903条1項)に当たるか否かが争われている。 3 原審は,要旨次のとおり判断し,上告人は遺留分を侵害されていないとして,上告人の請求を棄却すべきものとした。 相続分の譲渡による相続財産の持分の移転は,遺産分割が終了するまでの暫定的なものであり,最終的に遺産分割が確定すれば,その遡及効によって,相続分の譲受人は相続開始時に遡って被相続人から直接財産を取得したことになるから,譲渡人から譲受人に相続財産の贈与があったとは観念できない。また,相続分の譲渡は必ずしも譲受人に経済的利益をもたらすものとはいえず,譲渡に係る相続分に経済的利益があるか否かは当該相続分の積極財産及び消極財産の価額等を考慮して算定しなければ判明しないものである。したがって,本件相続分譲渡は,その価額を遺留分算定の基礎となる財産額に算入すべき贈与には当たらない。 4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。 共同相続人間で相続分の譲渡がされたときは,積極財産と消極財産とを包括した遺産全体に対する譲渡人の割合的な持分が譲受人に移転し,相続分の譲渡に伴って個々の相続財産についての共有持分の移転も生ずるものと解される。 そして,相続分の譲渡を受けた共同相続人は,従前から有していた相続分と上記譲渡に係る相続分とを合計した相続分を有する者として遺産分割手続等に加わり,当該遺産分割手続等において,他の共同相続人に対し,従前から有していた相続分と上記譲渡に係る相続分との合計に相当する価額の相続財産の分配を求めることができることとなる。 このように,相続分の譲渡は,譲渡に係る相続分に含まれる積極財産及び消極財産の価額等を考慮して算定した当該相続分に財産的価値があるとはいえない場合を除き,譲渡人から譲受人に対し経済的利益を合意によって移転するものということができる。遺産の分割が相続開始の時に遡ってその効力を生ずる(民法909条本文)とされていることは,以上のように解することの妨げとなるものではない。 したがって,共同相続人間においてされた無償による相続分の譲渡は,譲渡に係る相続分に含まれる積極財産及び消極財産の価額等を考慮して算定した当該相続分に財産的価値があるとはいえない場合を除き,上記譲渡をした者の相続において,民法903条1項に規定する「贈与」に当たる。 5 以上と異なる見解に基づき,本件相続分譲渡はその価額を遺留分算定の基礎となる財産額に算入すべき贈与に当たらないとして上告人の請求を棄却すべきものとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官 鬼丸かおる 裁判官 山本庸幸 裁判官 菅野博之 裁判官 三浦守) 以上:3,157文字
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