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遺留分基礎財産から保証債務を控除できる場合を限定した高裁判例紹介

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平成30年12月14日(金):初稿
○「遺留分減殺請求のポイント整理」で、遺留分侵害額の算定は、
①遺留分基礎財産額の確定-相続開始時の財産全体の価額に贈与財産価額を加え、債務全額を控除
②これに相続人の個別遺留分率を乗じる
③遺留分権利者自身の特別受益財産額と相続による取得財産額を差し引き
④遺留分権利者自身が相続した債務額を加算する

としていました。

○この①での被相続人の「債務額を控除」について、被相続人の債務が自らの債務ではなく他人の債務についての連帯保証債務の場合、控除できるのかとの質問を受けました。この問題については、平成8年11月7日東京高裁判決(判時1637号31頁)は、保証債務は、主たる債務者が弁済不能の状態にあるため保証人がその債務を履行しなければならず、かつ、その履行による出捐を主たる債務者に求償しても返還を受けられる見込みがないような特段の事情が存する場合でない限り、民法1029条にいう「債務」には含まれないとしています。

○遺留分算定のために被相続人の連帯保証債務を相続財産から債務として控除できるのは、遺留分減殺請求を受けた側で、その連帯保証債務の主たる債務者が債務超過で連帯保証人が支払をしなければならず且つ主たる債務者に求償しても返還を受けられる見込みがないことを主張・立証できる場合に限られます。要するに保証債務を全額控除できるのは、主たる債務者が債務超過で支払不能状態にあり、保証債務履行後の求償債務も全く弁済できない場合に限られます。

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主  文
一 本件控訴を棄却する。
二 控訴費用は、控訴人らの負担とする。

理  由
【事実及び理由】
一 控訴の趣旨

1 原判決中、控訴人らに関する部分を取り消す。
2 被控訴人らの控訴人らに対する請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、第一、第二審とも被控訴人らの負担とする。

二 事案の概要
 次のように付加、訂正するほかは、原判決の事実及び理由の第二の一のうち、控訴人らと被控訴人らとに関する部分のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決5枚目裏4行目の「少なくとも」を「遅くとも」に改める。

2 控訴人らの当審における新主張
 訴外株式会社甲野百貨店は、平成元年10月27日丙川銀行丙田支店から5000万円を借り入れ、花子は同訴外会社の債務を連帯保証した。また、訴外丁原商事株式会社は、平成2年3月1日戊田抵当証券株式会社から5000万円を借り入れ、花子は同訴外会社の債務を連帯保証した。そして、右の花子の連帯保証債務について、前者につき平成5年5月21日花子の遺産から5000万円の弁済がなされ、後者につき平成6年8月23日花子の遺産から1000万円の弁済がされた。

 したがって、被控訴人らの遺留分計算の基礎となる純資産は原審認定額より6000万円少ない1億3379万6366円となり、その結果被控訴人らを除く控訴人らが取得した遺産の純資産額は、原審被告甲野夏子が原審認定額より1000万円少ない2861万1594円、控訴人秋子が原審認定額より5000万円少ない3033万7916円、控訴人春夫及び同夏夫が各3742万3428円となる。そして、これに基づき計算すると、被控訴人らが遺留分減殺により花子の遺産に対して取得する持分は、別紙遺留分侵害割合算出表のとおり、原審被告甲野夏子に対し、1万分の554、控訴人秋子に対し、1万分の570、控訴人春夫及び同夏夫に対し、各1万分の833となる。

三 当裁判所の判断
 控訴人らの当審における新主張に対する判断を付加するほかは、原判決の事実及び理由の第二の二のうち、控訴人らと被控訴人らとに関する部分のとおりであるから、これを引用する。
 控訴人らは、右純資産のほかに花子が丙川銀行に対する5000万円の連帯保証債務及び戊田抵当証券株式会社に対する5000万円の連帯保証債務(そのうちの花子の分として弁済した1000万円)を負担していたから、これらを花子の純資産の額から控除すべきであると主張する。

 しかしながら、保証債務(連帯保証債務を含む)は、保証人において将来現実にその債務を履行するか否か不確実であるばかりでなく、保証人が複数存在する場合もあり、その場合は履行の額も主たる債務の額と同額であるとは限らず、仮に将来その債務を履行した場合であっても、その履行による出捐は、法律上は主たる債務者に対する求償権の行使によって返還を受けうるものであるから、主たる債務者が弁済不能の状態にあるため保証人がその債務を履行しなければならなず、かつ、その履行による出捐を主たる債務者に求償しても返還を受けられる見込みがないような特段の事情が存在する場合でない限り、民法1029条所定の「債務」に含まれないものと解するのが相当である。これを本件についてみるに、仮に花子が相続開始時において控訴人ら主張の連帯保証債務を負担していたとしても、当時、右の特段の事情が存在したことを認めるに足りる証拠は全くない。そうすると、控訴人ら主張の債務額を純資産額から控除することはできない。

 なお、控訴人らは花子の遺産から右連帯保証債務につき弁済がされた旨を主張するが、右の特段の事情が本件の相続開始時に存在すると認められない以上、右弁済は、右認定判断を左右しない。

四 結論
 よって、原判決は相当であって、本件控訴は棄却を免れない。
 (裁判長裁判官 鈴木康之 裁判官 丸山昌一 裁判官 小磯武男)
以上:2,258文字

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