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相続不動産の占有につき取得時効成立を否定した大阪高裁判例紹介

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平成30年12月 7日(金):初稿
○「相続不動産の占有につき取得時効を認めた地裁判例紹介2」の続きで、その控訴審である平成29年12月21日大阪高裁判決(判時2381号79頁)全文を紹介します。
一審平成29年4月26日京都地裁判決(判時2381号83頁参考収録)との違いは別コンテンツで説明します。

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主   文
一 控訴人らの控訴に基づき、原判決中、控訴人ら敗訴部分を取り消す。
二 上記敗訴部分について被控訴人の請求をいずれも棄却する。
三 被控訴人の附帯控訴を棄却する。
四 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。

事実及び理由
第一 控訴及び附帯控訴の趣旨
一 控訴の趣旨

 主文1、2、4項同旨

二 附帯控訴の趣旨
(1)原判決主文二項(1)を次のとおり変更する。
(2)控訴人らは、被控訴人に対し、原判決別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)について、昭和48年12月24日時効取得を原因とする所有権移転登記手続をせよ。
(3)訴訟費用は、第1、2審とも控訴人らの負担とする。

第二 事案の概要
一 事案の骨子及び訴訟の経緯

 本件は、乙山太郎(被相続人、以下「太郎」という。)の遺産である本件土地について、長男の被控訴人が、
〔1〕昭和37年5月22日成立の被控訴人が本件土地を単独相続する旨の遺産分割協議により(主位的請求)、そうでないとしても、
〔2〕昭和48年12月24日又は
〔3〕昭和54年8月30日に本件土地上に賃貸マンションを新築したことにより(予備的請求)、以後、本件土地を20年間自主占有したのでこれを時効取得した
として、共同相続人(弟妹)である控訴人らに対し、所有権に基づく妨害排除請求権により、本件土地の所有権移転登記手続を請求している事案である。

 原審が予備的請求(〔3〕)を認容し、主位的請求(〔1〕)及び予備的請求(〔2〕)を棄却したところ、これを不服とする控訴人甲野及び同四郎が控訴を提起したが、本件は、合一確定の要請が働く必要的共同訴訟であるから、控訴人二郎及び同三郎も控訴人となり、さらに、被控訴人が当審における審判の範囲を予備的請求(〔2〕)に拡張することを求めて附帯控訴を提起した(したがって、主位的請求(〔1〕)は当審の審理の対象に含まれない。)。

二 前提事実
 争いのない事実、後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実並びに裁判所に顕著な事実は、次のとおりである。
(1)被控訴人(長男、昭和10年××月××日生)、控訴人甲野(長女、昭和12年××月××日生)、控訴人二郎(二男、昭和14年××月××日生)、控訴人三郎(三男、昭和17年××月××日生)及び控訴人四郎(四男、昭和20年××月××日生)は、太郎(明治44年××月××日生)とその妻松子(大正2年××月××日生)との間の子である(なお、太郎と松子の二女春子(昭和19年××月生)は、昭和20年××月××日に死亡している。以下、控訴人甲野、同二郎、同三郎及び四郎を併せて「控訴人ら」という。)。
 控訴人三郎は、平成19年に自殺を図った後遺症により、同年××月××日、京都家庭裁判所でした後見開始の裁判が確定し、A弁護士と被控訴人が成年後見人に選任されたが、被控訴人は、平成27年××月××日にこれを辞任した。
 太郎は、昭和37年××月××日に死亡し、松子は、平成18年××月××日に死亡した。太郎の相続人は、松子、控訴人ら及び被控訴人であり、松子の相続人は、控訴人ら及び被控訴人である。

(2)本件土地は、太郎が生前所有していたもの(農地)であり、昭和46年××月××日、土地区画整理法の換地処分による太郎名義の所有権登記がされた。
 被控訴人は、昭和47年までは、農業に従事しており、太郎の死亡後、本件土地を農地として占有していた。
 被控訴人は、本件土地上に賃貸マンション「M」(未登記。鉄筋コンクリート造三階建て店舗付き共同住宅、建築面積165・08平方メートル、延べ面積432・58平方メートル。以下「本件建物」という。)を建築して第三者に賃貸し、賃料等を全額所得している。また、被控訴人は、遅くとも昭和59年以降、京都市に本件土地の固定資産税及び都市計画税(以下「固定資産税等」という。)を全額納付している。

(3)被控訴人は、平成27年5月28日の原審第一回口頭弁論期日において、本件土地の取得時効を援用する旨の意思表示をした。

三 争点
(1)被控訴人は、昭和48年12月24日又は昭和54年8月30日に本件建物を建築し、本件土地の自主占有を開始したか(争点一)
(2)被控訴人の取得時効の援用は権利の濫用か(争点二)

四 争点に関する当事者の主張
(1)被控訴人は、昭和48年12月24日又は昭和54年8月30日に本件建物を建築し、本件土地の自主占有を開始したか(争点一)について

ア 被控訴人の主張
(ア)共同相続人の一人が、遺産土地を単独相続したものと信じて疑わず、現実にこれを占有し、その管理、使用を専行して収益を独占し、公租公課を負担したが、他の共同相続人はこれに関心を持たず異議を述べなかった場合、その新たな事実的支配は、「形式的客観的に見て独自の所有の意思に基づくと解される事情」(以下「自主占有事情」ということがある。)があり、自主占有を開始したと評価される(最高裁判所第二小法廷昭和47年9月8日判決・民集26巻七号1348頁参照)。

(イ)本件では,被控訴人、控訴人二郎、同三郎、同四郎が、昭和40年1月25日に太郎の遺産分割について協議し、それぞれが取得する土地を決めた際、本件土地は被控訴人が単独相続することになった。控訴人らはそれぞれ十分な特別受益や遺産を取得しており、被控訴人が本件土地を取得することに異議を述べなかった。したがって、被控訴人が本件土地を単独相続したと信じて疑わなかった事情がある。

 そして、被控訴人は、昭和48年7月2日に本件建物の建築請負契約を締結し、同年11月30日までに請負代金を全額支払い、同年12月24日には本件建物が完成した。
 被控訴人は、以後、本件建物を第三者に賃貸して賃料等を全額取得し、本件土地を独占的に使用収益する一方、遅くとも昭和59年以降、本件土地の固定資産税等を全額納付している。これに対し、控訴人らは、本件土地を使用収益せず、被控訴人が本件土地を使用収益していることに異議を述べることもなかった。
 したがって、本件建物の建築による本件土地の新たな事実的支配には、本件土地を単独で相続したと信じて疑わなかった事情、すなわち自主占有事情があり、自主占有を開始したというべきである。

イ 控訴人らの主張
 被控訴人は、太郎の共同相続人の一人に過ぎず、本件土地の占有は、その性質上所有の意思を欠くものである。
 被控訴人は、「嫁に行った者は他人と同じ」等と言って控訴人甲野を太郎の遺産相続から除外し、他の控訴人らに対しても専横な態度を取っていた。控訴人三郎は成年被後見人でもあり、控訴人らは太郎の遺産分割に口出しすることができないまま、被控訴人が本件土地上に本件建物を建築したことも知らず、平成26年7月まで異議を述べることができなかった。その様な事情に照らすと、被控訴人が本件建物を建築したからといって、自主占有事情があったといえず、自主占有は否定されるべきである(最高裁判所第一小法廷昭和58年3月24日判決・民集37巻二号131頁参照)。

(2)被控訴人の取得時効の援用は権利の濫用か(争点二)について
ア 控訴人甲野、同四郎及び同三郎の主張
 被控訴人は、太郎の遺産分割について控訴人らに口出しをさせず、控訴人らの実印を偽造し、遺産の一部を勝手に処分して得た金員で本件建物を建築したもので、本件土地の取得時効を主張することは、権利の濫用に当たる。

イ 被控訴人の主張
 被控訴人は、入院中の松子や控訴人三郎の面倒をみており、控訴人らとの関係は良好であった。松子や控訴人二郎は被控訴人が本件建物を建築することを事前に承諾していたし、同甲野は遅くとも平成16年頃、同三郎は平成元年頃、同四郎も平成26年7月には本件建物の存在を知っていたが、いずれも異議を述べなかった。被控訴人は、控訴人らに無断で遺産の一部を処分した金員で本件建物を建築していない。
 被控訴人の取得時効の援用は権利の濫用に当たらない。

第三 当裁判所の判断
一 認定事実

 前記前提事実に加え、後掲の証拠《略》及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(1)太郎は、生前、農業兼瓦葺職人をしていた。
 本件土地を除く太郎の遺産である複数の土地の大半については、太郎の死亡直後の昭和37年5月22日受付で松子、被控訴人及び控訴人らが法定相続分に従い共同相続した旨の登記がされ、同年5月22日錯誤を原因として昭和38年3月26日受付で控訴人甲野が相続しなかった旨の所有者更正登記がされ、その後、昭和40年ないし昭和41年頃に、持分放棄(昭和40年3月18日)又は共有物分割(昭和40年3月20日)により被控訴人が全ての持分を取得した旨の昭和40年3月30日受付持分移転登記がされ、錯誤によって再び控訴人甲野を除く相続人が相続した旨の昭和41年3月18日受付所有権抹消登記がされ、更に共有持分の放棄(昭和40年3月20日)によって控訴人甲野以外のいずれかの相続人の所有に帰属した旨の昭和41年3月18日受付所有権抹消登記がされた。

 控訴人二郎、同三郎、同四郎及び被控訴人は、上記により単独所有名義となった太郎の遺産土地上に、それぞれ建物を建築し、自ら居住したり、これを売却するなどしている。
 本件土地は、太郎の相続開始時において農地であり、相続開始直後の時期以降、被控訴人により耕作されていたが、昭和46年××月××日、土地区画整理法による換地処分がされ、宅地として所有権登記がされた土地である。
 控訴人甲野は、昭和38年××月××日に婚姻した。

(2)被控訴人は、昭和48年7月2日、本件建物の建設工事請負契約を締結し、同月20日に建築確認を受け、同年11月30日に請負代金を支払い、本件建物は同年12月24日に完成した。被控訴人は、それ以降、本件建物を第三者に賃貸して賃料等を全額取得したほか、遅くとも昭和59年以降、本件土地の固定資産税等を全額支払ってきた。
 また、被控訴人は、昭和54年8月30日頃、本件建物西側に自転車置場を新築した。

(3)被控訴人は、控訴人らに対し、平成26年8月23日付け通知書をもって、昭和37年頃本件土地を被控訴人が取得する内容の遺産分割協議が成立しているとして、遺産分割協議書の作成を求めたが、控訴人らは、これを拒否した。

二 被控訴人は、昭和48年12月24日又は昭和54年8月30日に本件建物を建築し、本件土地の自主占有を開始したか(争点一)について
(1)本件土地は、太郎の死亡により、共同相続人である松子、控訴人ら及び被控訴人の共有となり、被控訴人は、相続開始の直後の時期から本件土地を単独で耕作することにより、これを占有(事実的に支配)していたということができる。しかし、被控訴人は、太郎の共同相続人の1人として本件土地の持分10分の1を有するにすぎないのであるから、本件土地の持分10分の9についての被控訴人の占有は、権原の性質上客観的にみて所有の意思がないのであって、被控訴人の本件土地に対する占有は、単独所有者としての所有の意思を伴うものということはできず、これを自主占有ということはできない。

 そこで、以下、被控訴人の本件土地に対する占有の性質が自主占有に変更したかどうか、すなわち、被控訴人が、民法185条にいう「新たな権原により更に所有の意思をもって占有を始める」に至ったかどうかについて検討する。

(2)まず、太郎の遺産土地については、昭和37年5月22日受付の登記がされているが(認定事実(1))、この時期に被控訴人に本件土地を単独取得させる旨の遺産分割協議が調った事実を認めるための証拠は見当たらない。
 また、被控訴人に本件土地等を単独取得させる旨が記載された昭和40年1月25日付け遺産分割協議書が甲第90号証として提出されているが、法定相続人である松子及び控訴人甲野が協議に加わっていないことは同書面から明らかであるから、仮に上記協議書が真正文書であったとしても、同日に太郎の相続人間で上記遺産分割協議が調ったということはできない。

 そして、被控訴人は、昭和40年頃、宅地建物取引主任者(当時)の資格を取得し、それ以降、「乙山産業」の屋号で不動産業をしていたことをも考慮すれば、被控訴人は、控訴人甲野が太郎の共同相続人の1人であることを知りながら、あえてこれを排除した上で上記協議書を作成したことが推認されるから、同日時点で、被控訴人が本件土地を単独で相続したと誤信したとか、そのように信じて疑わなかったということはできない。

 そうすると、昭和37年5月22日時点及び昭和40年1月25日時点においても、被控訴人の本件土地に対する占有が自主占有に変更されたということができない。

(3)ところで、認定事実(2)のとおり、被控訴人は、昭和48年12月24日に本件土地に本件建物(M)を建築し、その所有者となり、引き続き本件土地を占有していること、それ以降、本件建物を第三者に賃貸して賃料等を全額取得したほか、遅くとも昭和59年以降、本件土地の固定資産税等を全額負担してきたのである。
 そこで、昭和48年12月24日以降、被控訴人の本件土地に対する占有が自主占有に変更されたかどうかを検討する。

(4)共有土地に共有者の一人が建物を建築したが、他の共有者との間で建物所有を目的とした土地の賃貸借又は使用貸借が合意されていないという場合、一般的にいえば、他の共有者の持分が無断で使用されていると考えられるのである。したがって、建物を建築してその敷地に対する独占的な占有を開始したという事実があっても、そのことから当然に、当該占有開始時に土地の占有権原が当然に自主占有になったということはできないし、単独所有の土地となったものと信じて当該不動産の占有を始めたなどの自主占有事情が直ちに基礎づけるものでもない

 昭和48年12月24日以降における被控訴人の本件土地の占有も同様に理解することになるが、全ての共同相続人間で太郎の遺産の分割協議がされていないこと(上記(2))からすれば、被控訴人は、本件土地と共同相続人の1人として占有していることを認識した上で、本件建物を所有して本件土地を占有しているに過ぎないと評価すべきである。

(5)確かに、上記(3)によれば、被控訴人は、昭和48年12月24日以降、本件土地を独占的に使用したのであり、本件の証拠から、控訴人らが、平成26年7月頃までに、その独占的使用状態に異議を述べた事実を認定することができない。
 しかしながら、被控訴人による独占的使用状態に異議を述べていないとしても、控訴人らが本件土地について相続分を主張してその遺産分割を求めたり、法定果実の精算を求める等の権利行使が妨げられる事情もまた見当たらない。弁論の全趣旨によれば、控訴人らが本件土地について遺産分割調停や審判の申立てをしていない事実が認められるが、その事実は、控訴人らの本件土地の相続分に基づく権利行使が妨げられる事情に当たらない。

 しかも、証拠《略》及び弁論の全趣旨によれば、控訴人甲野は、被控訴人との間で種々の確執があったこと、控訴人甲野が被控訴人に対し、昭和39年頃、太郎の遺産相続手続について問い合わせた際、「嫁入りした女は乙山の人間ではない。土地について一切口出しするな。」と言われたこと、そのため、それまでの被控訴人に対する恐怖心もあって、太郎の遺産について口出しができないものと考えていたことが認められる。
 そうすると、少なくとも、遺産分割から明確に排除され、遺産分割協議の機会すら与えられていなかった控訴人甲野については、被控訴人による本件土地の独占的使用状態を容認していたとみることはできない。

(6)本件建物の建築を機に、被控訴人が控訴人らに対し、自らが本件土地の所有者であることを伝えるなど、所有の意思があることの表示をした事実を認めるに足りる証拠もない。

(7)以上によれば、本件建物の建築による本件土地の独占的使用状態をもって自主占有事情があったとする被控訴人の主張は採用できないのであって、被控訴人が昭和48年12月24日に本件土地の自主占有を開始したと認めることはできず、同日を起算日とする被控訴人の時効取得の主張は理由がない。

 なお、認定事実(2)及び弁論の全趣旨によれば、被控訴人が本件建物を建築したのは、昭和48年12月であって昭和54年ではないこと、昭和54年8月30日頃に本件建物西側に自転車置場を新築したが、被控訴人の本件土地の占有状況に変化がなかったことが認められ、昭和54年8月30日当時、新たに自主占有事情が問題となる余地はないから、被控訴人が昭和54年8月30日に本件土地の自主占有を開始したと認めることはできず、同日を起算日とする被控訴人の時効取得の主張も理由がない。


三 結論
 以上によれば、被控訴人の取得時効を理由とする所有権移転登記手続請求はいずれも理由がないから棄却すべきであり、これと結論が異なる原判決は相当でない。
 よって、控訴人らの本件控訴に基づき、原判決中、控訴人ら敗訴部分を取消して同請求をいずれも棄却し、被控訴人の附帯控訴は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 中本敏嗣 裁判官 橋詰均 藤野美子)

以上:7,263文字

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