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包括遺贈遺言の遺言執行者は遺留分なき相続人にも相続財産目録交付義務あり

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平成30年 9月 6日(木):初稿
○夫が「妻に全財産を相続させる。遺言執行者を妻に指定する。」との公正証書遺言を残して死去し、妻以外の相続人は兄弟姉妹であった場合に、遺言執行者の妻から、民法第1011条「遺言執行者は、遅滞なく、相続財産の目録を作成して、相続人に交付しなければならない。」との規定に従って相続人である兄弟姉妹に相続財産目録を交付しなければならないのでしょうかと質問されました。

○民法第1028条には、遺留分の帰属及びその割合として「兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合に相当する額を受ける。」として兄弟姉妹には遺留分がないことを規定しています。「妻に全財産を相続させる」との遺言書があれば、遺留分のない兄弟姉妹は、相続財産には一切関与できず、相続財産目録の交付する意味がないのではとも考えられます。

○そこでこの点を判断した判例がないかどうか調べたところ平成19年12月3日東京地裁判決(判タ1261号249頁)がありました。結論として、遺言執行者は、遺留分のない兄弟姉妹にも相続財産目録交付義務があるとしています。以下、関係部分を紹介します。

(1)原告らに対する相続財産目録の交付や通知等の必要性について
ア 本件では,まず,被告Y1及び被告Y2が故Bの遺言執行者として平成18年3月14日付けで訴外大雄建設に対して本件土地・建物を売却した上,原告らへの相続登記,訴外大雄建設への所有権移転登記をするに先立ち,原告らに対して通知をするほか,遅滞なく故Bの相続財産目録を作成して原告らに交付したり,遺言執行の状況等について適切な時期に一定の説明することが必要か否かが問題である。

イ この点について,被告らは,そもそも遺言執行者は相続人に対して遺言執行者に就任したことにつき通知をすべき法的義務はないとした上,本件のように遺留分がない法定相続人しか存在しない状況で清算型の包括遺贈がなされていて,その遺言執行をする場合には,登記手続上,相続人の関与は必要的なものとはされていないから,その意味でも,遺言執行者が法定相続人に対して換価処分等に先立ち何らかの事前通知をしなければならない法的義務はないし,また,遺言執行者として相続人に対し遺言執行の状況について説明しなければならない場合でも,その内容を逐一相続人に対して報告し説明しなければならないわけではないと主張しているので,以下,順次,検討する。

ウ まず,現行民法によれば,遺言執行者は,遺言者の相続人の代理人とされており(民法1015条),遅滞なく相続財産の目録を作成して相続人に交付しなければならないとされている(民法1011条1項)ほか,善管注意義務に基づき遺言執行の状況及び結果について報告しなければならないとされている(民法1012条2項,同法645条)のであって,このことは,相続人が遺留分を有するか否かによって特に区別が設けられているわけではないから,遺言執行者の相続人に対するこれらの義務は,相続人が遺留分を有する者であるか否か,遺贈が個別の財産を贈与するものであるか,全財産を包括的に遺贈するものであるか否かにかかわらず,等しく適用されるものと解するのが相当である。

 しかも,相続財産全部の包括遺贈が真実であれば,遺留分が認められていない法定相続人は相続に関するすべての権利を喪失するのであるから,そのような包括遺贈の成否等について直接確認する法的利益があるというべきである。したがって,遺言執行者は,遺留分が認められていない相続人に対しても,遅滞なく被相続人に関する相続財産の目録を作成してこれを交付するとともに,遺言執行者としての善管注意義務に基づき,遺言執行の状況について適宜説明や報告をすべき義務を負うというべきである。

3 相続財産目録等の交付請求について
(1) 相続財産目録の交付請求についてであるが,前記認定,説示のとおり,民法1011条1項は,遺言執行者に対して遅滞なく相続財産目録を作成してこれを相続人に交付すべきことを定めており,このことは,包括遺贈がなされ,しかも相続人に遺留分が認められていない場合であっても変わりはないというべきである。そうすると,本件についても,遺言執行者である被告Y1及び被告Y2は,法定相続人である原告らに対して,故Bの相続財産目録を作成して交付する義務があるといわなければならない。


○遺留分のない兄弟姉妹は、「相続財産全部の包括遺贈が真実であれば,遺留分が認められていない法定相続人は相続に関するすべての権利を喪失するのであるから,そのような包括遺贈の成否等について直接確認する法的利益がある」ことが遺言執行者の相続財産目録交付義務を認める根拠であり、結論としては妥当と思われます。
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