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花押による遺言を有効とした平成26年3月27日那覇地裁判決紹介1

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平成28年 6月 5日(日):初稿
○「印章による押印をせず花押を書いた遺言書は無効とする最高裁判決紹介」の続きで、この事案の第一審である平成26年3月27日那覇地裁判決(平成24年(ワ)第342号、平成25年(ワ)第780号の2LLI/DB 判例秘書登載)の当事者の主張部分全文を紹介します。

○事案の概要は、亡Aの次男である原告が,長男及び三男である被告らに対し,遺贈を原因とする本件土地の所有権移転登記手続を求め(第1事件),被告らが原告に対し,亡Aの妻である亡Bの遺言が原告の強迫又は欺罔行為により作成されたとして,該遺言の無効確認を求めた(第2事件)ものです。


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主   文
1 被告らは,原告に対し,別紙物件目録記載の土地につき,平成15年7月12日遺贈を原因とする所有権移転登記手続をせよ。
2 被告らの請求を棄却する。
3 訴訟費用は被告らの負担とする。

事実及び理由
第1 請求の趣旨
1 第1事件

 主文第1項に同旨

2 第2事件
 那覇家庭裁判所平成25年(家)第409号遺言書検認申立事件において検認された平成21年11月25日付けB名義の遺言は無効であることを確認する。

第2 事案の概要
1 第1事件は,被相続人亡A(以下「A」という。)の次男である原告が,Aの長男である被告Y1及び三男である被告Y2に対し,Aの遺言により,Aが所有していた別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)の遺贈を受けたとして,本件土地の所有権に基づき,本件土地の所有権移転登記手続を求めた事案である。

第2事件は,被告らが,原告に対し,Aの妻であったB(以下「B」という。)の遺言が,Bが作成したものではないかBが原告の強迫又は欺罔行為によって作成したものであるとして,当該遺言が無効であることの確認を求めた事案である。

2 前提事実(当事者間に争いがないか,後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1) 当事者等
 A(大正7年○月○日生)は,昭和19年9月25日にBと婚姻し,平成15年7月12日に死亡した(甲1,17)。Aは,琉球国の三司官(国王及びこれを補佐する摂政の下で実務を処理する最高機関)を多数輩出した名門である△△家の第20代当主であった(甲5,51)。
 B(大正8年○月○日生)がAの妻,被告Y1(昭和21年○月○○日生)が長男,原告(昭和26年○月○○日生)が次男,被告Y2(昭和27年○○月○日生)が三男であったが,Bは平成24年4月8日に死亡した(甲1~2の3,甲17,20の2,乙23)。

(2) Aの遺言
 平成17年6月21日,那覇家庭裁判所において,Aのものとされる別紙1の遺言書(甲62。以下「本件遺言書1」という。)が検認された(同裁判所平成17年(家)第192号。甲3)。
 本件遺言書1は,平成15年5月6日付けで「△△家の相続について」と題し,「家督及び財産はX1を家督相続人として△△家を継承させる。」,「△△家の相続及運営は家督相続人の責務であることを申し渡すものである。」と記載され,作成名義人は「△△家十八世二十代家督相続人 A」とされた上,名下に花押がされている。

(3) 本件土地
 Aは,昭和52年8月12日,相続により本件土地の所有権を取得しており,本件土地の所有者であった(甲14)。

(4) 遺産分割調停申立事件
 被告らは,平成17年○月○○日,原告及びBを相手方として,那覇家庭裁判所に対し,Aの遺産につき遺産分割調停事件を申し立てた(同裁判所平成17年(家イ)第159号)が,本件遺言書1の効力を巡って調停による解決が難航したため,被告らは同調停事件を取り下げた(甲20の1・2,甲30,乙36)。

(5) Bの遺言
 平成25年7月29日,那覇家庭裁判所において,Bのものとされる別紙2の遺言書(以下「本件遺言書2」という。)が検認された(同裁判所平成25年(家)第409号。甲52)。
 本件遺言書2は,平成21年11月25日付けで「遺言書」と題し,「私の財産は全てX1が相続する事。Y1 Y2には一切相続させたくありません。」と記載され,作成名義人は「B」と記載された上,名下に押印がされ,その左隣に指印がされている。

3 争点
(1) 本件遺言書1により本件土地の遺贈を受けたことを理由とする原告の被告らに対する本件土地の所有権移転登記手続請求が認められるか(第1事件)。
(被告らの主張)

ア 本件遺言書1の本文,氏名等は,Aによって記載されたものではなく,本件遺言書1はAが作成したものではない。
 Aは,沖縄の慣習に従い,△△家の仏壇及び財産を長男である被告Y1に継がせる意思を有しており,被告Y1もまた△△家の仏壇及び財産を継ぐ意思を有しているのであって,被告Y1が△△家を継ぐのに何ら障害はなかった。他方で,原告は,Aの生前から,Bの母であるCの実家の△△家(Aの△△家とは別の△△家である。以下「△◇家」という。)を継ぐことが決まっており,既に△◇家の不動産の所有権移転登記も行っていた。また,原告は,本件遺言書1が作成されたとされる平成15年当時,多額の負債を抱えており,これを知っていたAは,原告が△△家の財産を継げば,これを借金の返済に充てるなど費消することは明らかであったため,原告を信頼していなかった。なお,原告は,後記のとおり,被告Y2の妻であるD(以下「D」という。)がAの実印を冒用したことから,Aは被告Y2及びDを信用していなかったと主張するが,被告Y2及び妻のDは清明祭,ウマチー等の門中行事を手伝ったり,Aの確定申告の手続をしたりしており,かかる主張は事実ではない。

 加えて,Aが亡くなった当初,原告は,被告らに対し,Aの遺言書は存在しないと述べていたにもかかわらず,その後Aの遺言書があると言い出して本件遺言書1のコピーを被告らに見せ,平成17年6月になって遺言書検認手続をとった。
 以上のとおり,Aには本件遺言書1を作成する動機がなく,本件遺言書1の発見経緯が不自然であることからすると,本件遺言書1はAが作成したものとは認められない。

イ 次に,前記アのとおりAには本件遺言書1を作成する動機がないことに加え,本件遺言書1には,Aが自筆証書遺言には押印が必要であると知りながら花押を用いたり,その文言上財産を全く特定せずに家督相続人という文言を用いたり,便箋等ではなく色紙を用いたり,本文中の誤記を線で消すのみの雑な書き方をしたりしていることなど,Aが作成したものとしては形式的な面でも不自然な点が存在していることからすると,仮に,本件遺言書1がAの作成したものであったとしても,Aは,本件遺言書1を自己の遺言書とする意思がなく,確定的な意思表示をする趣旨であったとは認められない。

ウ また,自筆証書遺言には印を押さなければならないところ,本件遺言書1にある花押は押印に当たらず,他に押印は存在しないから,本件遺言書1は自筆証書遺言の要件を欠き無効である。
 民法968条1項が自筆証書遺言において押印を必要とする趣旨は,遺言者の同一性及び真意を確保すること並びに重要な文書については作成者が署名した上その名下に押印することによって文書の作成を完結させるという我が国の慣行ないし法意識に照らして文書の完成を担保することにあるところ,花押は印影と異なり本人のものであるか確認できないことや,平成15年当時の一般社会において,花押をもって文書の作成を完結させるという慣行ないし法意識は存在しないし,Aは生前契約書等の書類を作成する際には花押ではなく印章を用いており,Aにおいても当該慣行ないし法意識は存在しなかったのであるから,本件遺言書1における花押は自筆証書遺言における押印とは認められず,本件遺言書1は無効である。

エ さらに,本件遺言書1の記載上,財産の内容の特定が一切なく対象が不明確であって特定できておらず,包括遺贈をする趣旨と読み取ることもできないのであるから,本件土地を遺贈する内容の遺言書であると解することはできない。
 また,原告を家督相続人とするとの文言が記載されているところ,家督相続制度は既に廃止されており,当該文言は民法の相続制度に反するものであって公序良俗に反し無効である。

オ 以上のとおり,本件遺言書1はそもそもAが作成したものではなく,仮にAが作成したものだとしても無効であるから,本件遺言書1により原告がAから本件土地の遺贈を受けたと認めることはできない。

(原告の主張)
ア 本件遺言書1の筆跡は,Aが記載した他の文書のAの筆跡と一致しており,被告Y2が本件遺言書1の検認手続において本件遺言書1の筆跡がAのものである旨述べている上,第三者が本件遺言書1を偽造するならば,偽造者がわざわざ花押を用いたり,「家督相続人」という文言を用いたりすることは不自然であることなどからすれば,本件遺言書1はAが作成したものと認められる。

 原告は,昭和59年に沖縄に戻ってから,長年門中行事を取り仕切るなどしており,その後,Aが平成14年夏頃に△△家を原告に継がせる旨宣言しているのであり,これらに基づき,Aは本件遺言書1を作成したのであって,Aには本件遺言書1を作成する動機が認められる。
 被告Y2の妻のDが,Aの実印と印鑑証明書を無断で持ち出し,他人に渡したため,A名義の土地に抵当権が設定されたことがあり,Aは,被告Y2らを信用していなかったし,だからこそ,冒用が困難な花押を用いた。また,被告Y1は長らく沖縄を離れて東京に居住しており,Aや△△家とは疎遠になっていたのであるから,Aには被告Y1を△△家の承継者に指定する意思はなかった。また,原告はかつて△◇家を継ぐよう言われていたものの,その後△◇家の承継者は原告の子孫から決めればよいこととなったため,既に解決した問題であり,原告が△△家を継ぐのに障害にはならない。また,原告は,平成15年当時,2社合計約2000万円の債務を抱えていたが,いずれも債権者に提供している担保の範囲内であったのであり,△△家の跡継ぎの障害となるものではない。以上からすれば,Aには本件遺言書1を作成する動機がないという被告の主張する点はいずれも理由がない。

イ 次に,前記アのとおり,Aは原告が△△家を承継するのが相当であると考えており,そのため本件遺言書1を作成したのであるから,本件遺言書1はAの意思に基づくものである。

ウ また,民法968条1項が自筆証書遺言に押印を求める趣旨は,遺言者の同一性及び真意を確保すること及び重要な文書については作成者が署名した上でその名下に押印することによるものであるが,花押の場合であっても,上記趣旨は担保されている。
 したがって,花押がされている本件遺言書1も押印がされているといえ,自筆証書遺言の方式に欠けるものではない。

エ 遺言の解釈に当たっては,遺言書に表明されている遺言者の意思を尊重して合理的にその趣旨を解釈すべきであり,可能な限りこれを有効となるように解釈すべきであるところ,本件遺言書1の内容や,これに加え,A自身が前戸主・Eから家督を承継し,△△家の全財産を相続したという経緯や,戦後も家督相続が続いた沖縄の特殊事情からしても,本件遺言書1によって,Aの財産を原告に包括遺贈するという意味に解するのが合理的である。

 また,本件遺言書1に家督相続人との文言があるからといって,本件遺言書1が公序良俗に反し無効であるとはいえない。

オ 以上からすれば,被告らが本件遺言書1の無効原因として挙げているものはいずれも理由がなく,本件遺言書1は自筆証書遺言の要件を何ら欠くものではないから,有効である。
 したがって,本件遺言書1により原告はAから本件土地の遺贈を受けたといえ,原告の被告らに対する本件土地の所有権移転登記手続請求が認められる。

(2) Aの原告に対する本件土地の死因贈与契約が認められるか(第1事件・予備的主張)
(原告の主張)
 本件遺言書1はAが△△家の財産を包括的に原告に譲渡することを内容とするものであり,原告はこれをAから手渡され,これを承諾して保管していた。したがって,仮に本件遺言書1が自筆証書遺言として無効であっても,本件遺言書1の授受により,Aと原告との間で本件土地の死因贈与契約が認められる。

(被告らの主張)
 前記(1)(被告らの主張)ア記載のとおり,Aが本件遺言書1を作成する動機はなく,Aが原告に対して本件土地を贈与する意思があったとは認められない。また,前記(1)(被告らの主張)エ記載のとおり,本件遺言書1には贈与の対象となる物件が特定されていない上,これをAから原告に贈与する旨の贈与の意思も記載されていないことから,死因贈与の意思を表示した書面であるということはできない。

(3) 本件遺言書2は有効であると認められるか(第2事件)
(被告らの主張)

ア 本件遺言書2はBが自筆して作成したものではない。
 前記(1)(被告らの主張)アのとおり,Aは自己の仏壇及び財産はAの長男である被告Y1が継ぐべきものと考え,他方で原告に継がせる意思は有していなかったところ,BもAと同様の考えであったことなどからすると,Bには本件遺言書2を作成する動機がなく,その内容もBが作成するものとして極めて不自然かつ不合理な内容である。

イ 原告は,Aの死後,Bが一人暮らしとなった実家に入り込んで住むようになり,Bを監視下に置いてBに対して被告らに会わないよう命じ,さらに,Bに対し,被告らは△△家の財産を売ろうとしており,△△家を守れるのは原告だけであるなどと虚偽の事実を繰り返し告げるなどしていた。
 したがって,仮に,Bが本件遺言書2を作成したとしても,Bは,原告による強迫または欺罔行為により本件遺言書2を作成したものである。

ウ 以上からすると,本件遺言書2は無効である。

(原告の主張)
ア 前記(1)(原告の主張)アのとおり,Aは原告に△△家を継がせることを決めており,原告はAの告別式で喪主として挨拶を述べ,Aの死後も△△家の門中行事を取り仕切っており,BもAと同じ意思を有していた。これらに加え,本件遺言書2にはBの実印で押印がされていることからすれば,本件遺言書2はBの自筆により作成されたものと認められる。

イ 原告は,Bに対し,強迫または欺罔行為をしていない。

ウ 以上からすると,本件遺言書2は有効である。


以上:5,915文字

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