平成24年 4月14日(土):初稿 |
○「指定相続分・遺産分割方法指定・遺贈の区別困難」で、「民法902条では遺言で法定相続分とは異なる割合での相続分を定めることが出来、これを法定相続分に対し指定相続分と呼ばれ、指定相続分は法定相続分より優先します。ところが民法908条で遺言で遺産分割の方法を定めることが出来、更に民法964条で遺言でその財産の全部又は一部を処分する遺贈の制度が認められています。 ○この①相続分の指定、②遺産分割の方法の指定、③遺贈の3つの区別は大変紛らわしくて難しく我々実務家を悩ませます。」と記載しておりました。 ○さらに「相続分野は法の定めが不完全で解釈に任せるところが多く、なかなか理解が困難な面があり、備忘録を充実させる必要がある分野で、徐々に充実させたいと思っております。」とも記載しておりましたが、なかなか充実できないままで、大分類相続家族の総ページ数は、平成24年4月14日現在で117しかありません。 この相続家族のページについて時々投稿フォームをご質問を頂き、明確に答えられず、頭を悩ませます。 今回、「ご感想 = 遺言で、ブラス財産の分割指定比率と異なるのマイナス財産の分割指定は、有効なのですか? つまり、902条と899条は、どちらが優先されるのですか?」とのご質問を頂きましたので、私の考えを申し述べます。 ○まず、899条と902条の優先関係ですが、民法第5編相続、第3章相続効力、第1節総則に899条があり、902条は第2節相続分に規定されており、総則は原則を示し、原則に対する特則が902条ですから、902条が優先します。但し、902条の指定は、あくまで「相続分」即ち相続財産総額に対する分数的「割合」であり、ブラス財産とマイナス財産を区別してそれぞれ異なる比率の「相続分」指定は出来ないはずです。 ○ブラス財産の分割指定比率と異なるのマイナス財産の分割指定は、902条の「相続分の指定」ではなく、908条の「遺産分割方法の指定」乃至民法964条での「遺言でのその財産の全部又は一部を処分」としては有効と思われます。但し、あくまでプラス財産からマイナス財産を差し引いた最終財産の価値が遺留分を侵害しない範囲で有効であり、遺留分権利者が権利行使をした場合、遺留分侵害の範囲で無効になります。 ○また、「借金も原則として遺産分割の対象の範囲外」に「判例の趣旨からは遺言による指定相続分か遺言がない場合は法定相続分で分割されるべきと思いますが、実務的には相続分指定があっても債務承継に関しては法定相続分と覚えておいた方が無難なようです。 」記載したとおり、マイナス財産即ち債務の負担割合について遺言の定めがあっても、債権者との関係では、あくまで法定相続分で分割されたままと思われます。 ○マイナス財産が多い分割指定がなされ場合、例えば、 遺産として預貯金5000万円と2000万円の債務があるところ、 相続人Aには預貯金4000万円のブラス財産のみ、 Bには預貯金1000万円と2000万円の債務プラスマイナスでマイナス1000万円の財産 を相続させるとの遺言がなされた場合、 Bの遺留分は、遺留分基礎財産即ち 5000-2000=3000万円 の2分の1の2分の1即ち750万円ですから、4000万円の財産を得たAに対し、750万円を回復するために1750万円の返還請求ができると思われます。 但し、Bが1000万円の預金で2000万円の債務の一部を返済し,その後の1000万円残債務も返済すれば確定的に1750万円請求できますが、まだ残り1000万円が返済されてない場合、債権者との関係ではAは1000万円債務を負っていますので、その1000万円部分については、Bが債権者に支払うまでは支払わないとの一種の同時履行の抗弁が出来そうな気がします。Bは債権者との関係では自己の法定相続分での負担部分1000万円を返済済みで債務はありませんので、最終的には750万円の返還請求をすれば足ります。Aは遺産として取得した4000万円について1000万円は自己負担分債務として債権者に支払い、750万円を遺留分侵害分としてBに返済することで、実質遺産3000万円は、最終的にAが2250万円、Bが750万円の取得になります。 余り考えたことのない設例でその正確性には自信がありませんが、以上ご回答いたします。 このような一般論でのご質問は私自身の勉強になりますので,大歓迎です(^^)。 以上:1,819文字
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