平成23年 3月 6日(日):初稿 |
○「信託銀行を遺言執行者にした遺言執行を解除できるか?2」を続けます。 父Aが、1億円相当の不動産は母Bに全て相続させる、預貯金6000万円は長男・長女・二男にそれぞれ2000万円ずつ相続させるとして遺言執行者を信託銀行と定めていた場合で検討します。 特定不動産を母Bに相続させるとの遺言があった場合、相続開始と同時にその不動産所有権は母Bに相続承継で移転しますので、母Bは遺言書を原因証書として単独で所有権移転登記手続が出来ます。この登記手続に遺言執行者は関与できません。平成3年4月19日最高裁判決(民集45巻4号477頁、判タ756号107頁)はこのことを明示しています。 ○平成11年12月16日最高裁判決(判例タイムズ1024号155頁)は、相続させるとの遺言のある不動産が被相続人名義である限りは遺言執行の余地はなく、遺言執行者の右職務権限が顕在化するのは、相続人の一人又は第三者が当該不動産につき不実の登記を経由するなど、遺言の実現が妨害される事態が生じた場合に限られ、この場合には、遺言執行者は、右の妨害を排除するため、遺言の執行として必要な登記手続を求めることができるとしており、上記例で母Bに相続させるとした特定不動産が父Aの名義である限りは、母Bが単独申請により相続登記をすることができ、遺言執行者が登記に関与する場面がないことを認めています。 ○平成13年6月28日東京地裁判決(判タ1086号279頁)は、遺言での特定不動産について相続分指定とは異なる内容の遺産分割協議をしてその旨の登記をしていたところ、遺言で遺言執行者に指定された弁護士が、この遺産分割協議は遺言に反するもので無効であるとして、遺言内容に従った登記への是正を求めて訴えを提起したものです。 この訴えに対し、判決は、遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができないから、これに違反するような相続人らの遺産分割行為は無効と解すべきであるとの形式論を判示しながら、実質論として、相続人らが行った遺産分割協議は、遺言によって取得した取得分を相続人間で贈与ないし交換的に譲渡する旨の合意をしたもので、有効な合意であり、現状の登記は現在の実体的権利関係に合致しているから、遺言執行者が現状の権利関係に合致する現在の登記の抹消を求めることは出来ないとして、遺言執行者の請求を棄却しています。 ○この判決に従えば、前記設例で、不動産は母Bに相続させるとの遺言に反して、相続人全員で長男Aに取得させるとの遺産分割協議をしてその旨の移転登記をしても、信託銀行はそれに異議を唱えることは出来ないと解釈して良いと思います。更に進めて、信託銀行に対し、相続人全員一致で遺産分割及び遺産の分配手続は全て相続人が共同で行いますので遺言執行業務はして頂かずとも結構ですと通知しても、信託銀行はこれに異議を唱えることは出来ないはずです。万が一、遺言執行手数料を請求した来た場合は、遺言執行業務はしていませんので、その支払を拒否して宜しかろうと思います。 ○遺産分割協議成立には相続人全員一致が必要ですから、信託銀行にそのように言えるのは全員一致の場合のみです。一人でも反対者が居る限りは、信託銀行の遺言執行者としての業務に従わざるを得ませんが、不動産の相続登記に関しては、母Bが単独で行うことになり、遺言執行者の関与は不要ですから、母Bが単独で司法書士に依頼して行えば足り、これは遺言執行業務で換価した財産にはなりませんので、この所有権移転に関する手数料を信託銀行に支払う必要はないでしょう。 以上:1,493文字
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