平成19年 4月21日(土):初稿 |
○弁護士や公証人の著作での被相続人Aの、相続人B、C宛の遺言書サンプルの例として、 「次の不動産は、これを売却して、売却代金から諸経費を差し引いた残金額を、Bに4分の3、Cに4分の1の割合で相続させる。この売却、売却代金の分配等の手続は遺言執行者Eが行う。」 と言うような例文があります。 果たしてこのような遺言書内容は遺言執行者を決めておけば執行が可能でしょうか。 ○民法第1012条(遺言執行者の権利義務)で「遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。」、1013条(遺言の執行の妨害行為の禁止)で「遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。」と定められ、上記遺言によれば、遺言執行者は、遺言内容執行のために指定不動産の売却権限を持ち、例えば上記Cが自己の法定相続分2分の1を他に売却しても遺言執行を妨げる行為に当たるとして無効とされます(昭和58年11月28日名古屋高裁判決、判時1107号80頁、判タ517号128頁参照)。 ○そこで遺言執行者Eが不動産を代金1000万円でFに売却した場合の執行の方法を検討します。先ず被相続人A名義の不動産を、B、Cの法定相続分に従った相続登記をする必要があります。これを遺言執行者Eの単独申請で可能かどうかが先ず疑問です。おそらくE単独では出来ないと思われます。 (注;この点は、「謹告!遺言執行者による遺産売却と移転登記は可能」に記載したとおり誤りでした。以下の記述は誤りでしたので、謹んでお詫び申し上げます。以下、敢えて間違いの軌跡を残しておきます。) ○この不動産の所有名義を被相続人A名義から相続人B、Cの各2分の1の法定相続分に従った共有登記が出来たとしても、次に、Fに売却したので、B、C名義からF名義に所有権移転登記手続をしなければなりません。これも遺言執行者がFと共同申請で行うことは出来ません。 ○結局、遺言執行者が、遺言に基づく不動産の売却権限を得てFに売却しても、その所有権移転登記手続を行うには相続人であるB、Cの協力が必要になります。具体的には登記手続のための委任状、印鑑登録証明書や登録印鑑による押印が必要になります。 ○従って例えば相続人Cが、配分割合あるいは売却代金額が安すぎる等の不満を持ってFへの売却について所有権移転登記手続に協力してくれない場合、遺言執行者だけではFへの所有権移転登記が出来ず、結局、Fとの売買も出来なくなります。この場合、遺言執行者Eが登記手続に協力しない相続人Cに対し、訴外Fに対し所有権(共有持分権)移転登記手続をせよとの給付判決を求めることが出来るかどうかについては、現時点では判例が見あたりません。 ○以上の点を詳しく解説した解説書は現時点では見あたりませんが、折角、遺言書に記載してもその実現が出来ないような内容の遺言書を作ることが問題であり、上記例文のような遺言内容は避けた方が無難です。 以上:1,238文字
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