令和 3年 8月26日(木):初稿 |
○「全財産を顧問弁護士に遺贈する内容の遺言を無効とした高裁判決紹介2」は、顧問先の老人Aからその全財産(5億円以上)を顧問弁護士に遺贈するとの内容の遺言について、判断能力が低下するなどしていたAの信頼を利用して,合理性を欠く不当な利益を得るという私益を図ったというほかないのであるから,全体として公序良俗違反で無効とした裁判例であり、極めて妥当な判断でした。 ○そこで、弁護士や司法書士等職務として高齢者に適切な情報提供すべき義務がある者が、その報酬を遙かに超えた不適切な利益を受けるような行為は、到底、許されないと考えるべきですと記載していましたが、「弁護士職務基本規程」に、この事案のような利益相反行為を禁止する条項がないか見てみました。 ○やや関連するかと思った規定が弁護士職務基本規程第28条「 弁護士は、前条に規定するもののほか、次の各号のいずれかに該当する事件については、その職務を行っては ならない。(中略)四 依頼者の利益と自己の経済的利益が相反する事件」があり、日弁連発行逐条解説には「弁護士が自己の利益を図るあまりに依頼者にとって誠実な事件処理をおろそかにするような場合」と説明されています。依頼者の全財産を自己に遺贈する遺言書作成業務はこの規定に違反すると言えなくもありませんが、明確とは言えません。 ○弁護士同様他人の財産管理事務を行う可能性のある司法書士については、以下の通り、「司法書士倫理」規程に財産管理事務として明確な規定がありました。 司法書士倫理第78条(財産管理事務) 司法書士は、財産管理事務を行う場合には、自己又は自己の管理する他の財産と判然区別可能な方法で個別に保管する等、善良な管理者の注意をもって管理しなければならない。 2 司法書士は、前項の事務執行中、本人の財産又は本人に対する第三者の権利を譲り受ける等、本人と利益相反する行為をしてはならない。 司法書士倫理逐条解説には、その趣旨を「司法書士が、本人との間で利益相反行為をなすことは、職務の公正さを保ち得ないおそれが生じるとともに、事務処理上の信頼関係を傷つける可能性が高いことから禁止されるべきである」と説明されています。 ○そして、この司法書士倫理第78条違反懲戒事例として、本人所有全財産を対象として、預貯金証書・預貯金通帳・印鑑・権利証等の保管等財産管理委任契約を締結した司法書士が、司法書士が考えた文案に基づき、司法書士を受遺者兼遺言執行者とする公正証書遺言を本人に作成させ、本人死亡後、司法書士名義への所有権移転登記手続を行った事案が、業務停止1年6ヶ月とされた例があげられています。 ○前記の老人Aから全財産を弁護士に遺贈するとの遺言書を作成させた弁護士も懲戒処分となって然るべきと思いますが、その情報はありません。弁護士職務基本規程にも、司法書士倫理第78条(財産管理)のような明確な規定を置くべきです。このままでは、お客様の財産管理については司法書士の方が厳格な自律規定を置いているのに、弁護士会は「甘い」と評価されます。 以上:1,259文字
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