平成26年 3月27日(木):初稿 |
○「弁護士の説明義務に関する平成25年4月16日最高裁判決まとめ」の続きで、最高裁での破棄差戻後の平成25年10月3日福岡高裁判決(判時2210号61頁)を紹介します。 ○事案が重要ですので、以下の通り、再度掲載します。 ・亡Xが、a群島のb公設事務所の弁護士であった被告に債務整理を委任した ・被告が債務整理の方針等についての説明を怠り、残債務のあるE社についての債務整理を放置した ・これにより亡Xは被告に対し、E社について経過利息が増大する損害が生じ、精神的苦痛を被ったとして、被告に対し、債務不履行に基づく損害賠償として、経過利息相当額15万4029円、慰謝料400万円、弁護士費用40万円の合計455万4029円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成22年3月29日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め、亡X死去後妻が訴訟承継 ・一審平成23年8月18日鹿児島地裁名瀬支部判決は、弁護士の説明義務違反・事務処理懈怠による債務不履行を認め慰謝料20万円・弁護士費用2万円の支払を命じ、被告弁護士が控訴 ・控訴審平成23年12月21日福岡高裁宮崎支部判決は、亡Xが被告弁護士からの時効待ち方針等の説明を受け、異議を述べず承認したとして護士の説明義務違反・事務処理懈怠を否定し、請求棄却し、亡X妻が上告 ・上告審平成25年4月16日最高裁判決は、被告弁護士からの時効待ち方針等の説明が不十分で説明義務違反があり、損害の点を更に審理を尽くさせるため破棄・差し戻し判決 ○差戻後の平成25年10月3日福岡高裁判決(判時2210号61頁)は、結局、一審平成23年8月18日鹿児島地裁名瀬支部判決を維持し、弁護士の説明義務違反・事務処理懈怠による債務不履行を認め慰謝料20万円・弁護士費用2万円の支払が相当として、 一 本件控訴を棄却する。 二 差戻前及び差戻後の控訴審並びに上告審の訴訟費用は、すべて控訴人の負担とする。 との判決となりました。 ○差戻後の平成25年10月3日福岡高裁判決は、亡Aが被った損害慰謝料金額20万円の妥当性の吟味をしていますが、控訴人弁護士側で慰謝料が発生しない事実を相当詳細に主張しているため、その判断も相当詳細になり、判決文は相当の長文になっています。 ○控訴人弁護士側主張骨子は、亡Xは時効待ちの期間2年9ヶ月何ら苦痛は生じていないはず、亡Xが控訴人弁護士を解任しなければ時効待ちしていたE社との間で減額和解が成立していたはず、亡Xは他の弁護士を依頼して長期分割で50万円を支払う和解をしているが12万円支払った時点で死去し残債務を免除されたので経済的損失が発生していない等から慰謝料は発生しないというものです。 ○控訴人弁護士がE社(プロミス)と和解できなかった理由は、利息制限法による計算後残額が、弁護士側主張が一連計算で約12万円、E社主張が分断計算で約30万円と約18万円の差があったからですが、第一取引と第二取引の分断期間は約13年9ヶ月もあり、裁判になった場合E社主張が通る可能性が高く、裁判になると亡Xに不利な結果が予想できました。このような場合、差額18万円の半額である9万円の増額和解案を提案して和解するのが一般的なやり方です。 ○控訴人側弁護士主張に対し、判決では、上記一般的なやり方を説明すれば亡Xは、それによる和解を希望したはずなのに説明不十分なため時効待ち方針を余儀なくされて約2年9ヶ月間債務整理が終了しないという不安定な地位に立たされ早期解決の機会を奪われたことで精神的苦痛を受けたことは明らかであること、但し、控訴人側弁護士は約48万円返還の際、将来のE社との交渉に備えて使わないで取っておくべきとアドバイスしたこと、亡Xから解任されたとき受領済み弁護士報酬30万円の内10万円を亡Xに返還したこと、亡XはE社に50万円支払の和解をするも12万円の支払で済んだこと等を考慮して、慰謝料は20万円が相当とし、結局、一審平成23年8月18日鹿児島地裁名瀬支部判決を維持しました。 ○僅か20万円の慰謝料を巡って、一審平成23年8月18日鹿児島地裁名瀬支部判決後の、控訴審・上告審・差戻後控訴審の大騒ぎは一体何だったのかとため息が出る事案ですが、もって他山の石とすべき重要事案でもあります。 以上:1,768文字
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