平成26年 3月26日(水):初稿 |
○「妻の異常な嫉妬深さを原因とした別居で婚姻費用が減額された審判例全文紹介1」の続きです。 ********************************************* 3 以上の事実に徴すると、申立人は相手方の不貞を確信しているが、何ら確証と認めるに足る程のものがない許りでなく、却つてその確信の根拠となるものは、申立人の先入観にもとづき些細もしくは徴妙な事象を捉えた極めて短絡的飛躍的な推測ないし想像の域を出ないものであり、これを以て家庭不和別居の因が相手方の不貞にあつたとみることは困難であつて、むしろ今回の夫婦不和別居の原因は、主として申立人の異常なまでの嫉妬、猜疑心、想像力、被害意識に相手方が対応できず、これを忌避し、辟易し、申立人との婚姻生活を維持してゆく気持を失つて了つたところにあると思われる。 もとより、申立人が前記のような状態に陥つて了つたことは、独り申立人のみの責任と云うべきではなく、相手方の過去の繰り返された女性関係とこれにもとづく家庭不和や相手方に対する不信感が、申立人に今日のような異常なまでの嫉妬心等を抱かせるに至つたについて預かるところが大きいとみられるのであるが、それにしても上記に鑑れば夫婦が今回の別居に至つた責任は、夫たる相手方にもその一半がないとは云えないけれども、むしろより多くのものが申立人の側にあると云わなければならないと考える。 4 別居に至つた原因につき夫婦のいずれもがその責任を有するときは、一方は他方に対して婚姻費用分担義務を免れないと云うべきである。しかしながら、義務者の負う別居に至つた責任に対して、請求者の夫婦としての協力義務違反がより大きく別居の原因を作出しているものであるときは、義務者の負担する婚姻費用分担義務はそれに相応して相当程度減縮されると解するのが相当である。そしてこれを本件についてみれば、前記の次第からして、相手方は婚姻費用分担義務は免れないけれども、その分担の程度は通常の場合に比して相当程度減額されて然るべきである。 5 そこで、相手方の負担すべき婚姻費用額につき検討することとするが、各当事者調査、審問の結果によれば、申立人、相手方それぞれの生活状況、収入等は以下のとおりである。 (1) 申立人は肩書住所地の借家に単身居住し、別居後2~3ケ所で稼働したが、現在は原因不明の発熱があつたりして医師から静養を命ぜられており、無職無収入である(但し、本籍地に申立人所有の借家二軒があり、その賃料は月4500円であるが、可成り古い家であり、隔地でもあつて賃料収入は滞り勝ちである。そこで少額でもあり、本認定上収入より除外した。)。別居後今日までの生活費は、その都度申立人保管中の夫婦の預金中より払い出し支出して来た。その総額は100万円を下らない。なお別居後積立生命保険の解約金ないし満期支払金計90万円の支払いを受けたが、これは長男(成人、大学生)に学資として贈与された。 (2) 相手方は肩書住所地の勤務先会社の一室に単身居住し、配管工兼トラック運転手として稼働している、昭和50年6月において、基本日給額は5800円であり、月間、昼勤13日、夜勤9日、その他運転手当、タイヤ手当等を併せて給与総支給額は18万4160円、これより税金社会保険料等を控除した手取収入額は16万2350円即ち約16万円であつて、その後も同程度の収入があるものとみられる。 6 以上によると、申立人は別居後過去の婚姻費用については、既に前記預金より支出してこれを賄つているとみられるので、以下将来の婚姻費用分担額について計算することとするが、その具体的算定の基準としては、労働科学研究所が行つた実態調査の結果を利用する所謂労研方式に準拠するのが合理的と解するのでこの方式に従う。又前記のとおり相手方の婚姻費用分担額は、通常の場合算出される分担額より相当程度減額されるのが相当と解されるところ、その程度は、前認定の別居に至つた原因・事情からみて、上記労研方式計算における申立人の消費単位を半減する所謂消費単位半減法による算出額程度が相当であると考える。 そこで前記労研方式により標準的成人一人の消費単位を100とすると、申立人のそれは100(60歳未満の主婦の消費単位80+独立世帯加算20)、相手方のそれは125(60歳未満の中等作業に従事する既婚男子の消費単位105+独立世帯加算20)であるから、前記により、申立人の上記消費単位を半減して、相手方が申立人に対し負担すべき月当り婚姻費用額を計算すると、 16万円(相手方の月収×({100(申立人の消費単位)×1/2}/{100(申立人の消費単位)×1/2}+125(相手方の消費単位)) = 16万円×(50/175) = 45,714円強……約45,000円 となる。 7 そうすると、相手方は申立人に対し、昭和51年4月より夫婦の別居解消又は婚姻解消に至るまで、婚姻費用分担金として毎月4万5000円を支払う義務があると云うべきだから、よつて主文のとおり審判する。 (家事審判官 西岡宣兄) 以上:2,104文字
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