平成24年 4月17日(火):初稿 |
○「”自由と正義”H24年4月号懲戒例での注意点-監査役は鬼門2」を更に続けます。 A社の監査役であり,顧問でもあった被懲戒者弁護士が、A社株主である懲戒請求者のA社代表取締役Bに対する株主代表訴訟においてBの代理人として6年間活動したことが、弁護士法第56条1項「日本弁護士連合会の会則に違反」して「弁護士としての品位を失うべき非行に該当する。」とされましたが、被懲戒者が監査役ではなく、A社の顧問だけであった場合の問題を検討します。 ○被懲戒者はA社代表取締役BからA社の顧問を依頼されたもので、被懲戒者のお客様はB個人との感覚からすれば、Bの代理人となることに何ら問題ないと考えられがちです。しかし、顧問契約をB個人と締結していたのであれば何ら問題ないと言えますが、被懲戒者は法人であるA社との顧問契約ですから、何ら問題ないとは言い切れません。株式会社としてのA社の所有者は株主全体であり、Bは株主の一人であっても個人であり、代表取締役であってもあくまでA社の機関であり、A社そのものではありません。 ○A社との顧問契約締結によって、被懲戒者はA社の所有者である全株主と利害関係を持つことになります。株式会社は、株主の所有物であり、株主は株主総会を通じて会社経営の基本を決定し、配当請求権等各種の株主としての権利を会社に対して有しています。会社の取締役は、会社との間の委任契約によって株主の財産である会社の適切な運営を任されている関係で会社そのものではなく、時に会社と利益相反の関係になることもあります。 ○A社と顧問契約をした被懲戒者の依頼者は、A社の株主全体とも評価できます。だとすると株主間の争いが生じた場合、その紛争事件は、厳格に言うと、弁護士職務基本規程第27条「三 依頼者の利益と他の依頼者の利益が相反する事件」とも評価できます。従って、株主である懲戒請求者のA社代表取締役Bに対する株主代表訴訟で、A社の顧問である被懲戒者がB個人の代理人になることは、厳格に言うと、弁護士職務基本規程第27条三号違反になり、避けた方が無難です。私の場合、数少ない法人顧問の法人内部構成員同士の争いについては相談は受けても事件となった場合の代理人にはなれませんと、説明しております。 ○更に言えば、A社の法律顧問に就任して、且つ、監査役に就任するのも問題です。監査役とは、株式会社においては、株主総会、取締役(または取締役会)と並ぶ株式会社の機関の一つで、会社経営の業務監査および会計監査によって、違法または著しく不当な職務執行行為がないかどうかを調べ、それがあれば阻止・是正する職務です。A社の法律顧問は、A社経営上の法律問題を恒常的に相談に乗ってアドバイスをする職務を行うものであり、アドバイサーがチェック者を兼ねたのでは、厳格に言えば公平な第三者としてのチェックが出来なくなります。従って被懲戒者が法律顧問と監査役を兼ねていたこと自体から問題でした。 ○世間では,小さな会社の場合、夫が代表取締役で妻が監査役の会社が山のようにあります。監査役である妻は監査役として必要な書類等があれば社長である夫に言われるままに作成するのが一般で、監査役であって監査役の役割を果たしていません。だからといって法律の専門家である弁護士がこの現状に追随して名目だけの監査役になることは許されません。何より、弁護士の本来の職務をこなしながら他の会社経営の業務監査および会計監査によって、違法または著しく不当な職務執行行為がないかどうかを調べ、それがあれば阻止・是正する職務なんて、私の場合であったら、到底、こなせるはずがありません。監査役就任の要請があっても丁重にお断りするしかありません。 以上:1,526文字
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