平成24年 4月16日(月):初稿 |
○「”自由と正義”H24年4月号懲戒例での注意点-監査役は鬼門」を続けます。 ここで紹介した懲戒例は、A社の顧問弁護士で且つ監査役である被懲戒者が、懲戒請求者が提起したA社代表取締役Bを被告とする株主代表訴訟で、B個人から依頼されて代理人となり訴訟活動をしたことが、弁護士法第56条1項「日本弁護士連合会の会則に違反」して「弁護士としての品位を失うべき非行に該当する。」とされたものです。今回はその理由について弁護士会会則及び会社法の規定から検討します。 ○株主代表訴訟とは、会社法の以下の規定で、会社の株主が取締役等会社役員の会社に対する責任を追及する訴えです。 第847条(責任追及等の訴え) 6箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き株式を有する株主(第189条第2項の定款の定めによりその権利を行使することができない単元未満株主を除く。)は、株式会社に対し、書面その他の法務省令で定める方法により、発起人、設立時取締役、設立時監査役、役員等(第423条第1項に規定する役員等をいう。以下この条において同じ。)若しくは清算人の責任を追及する訴え、第120条第3項の利益の返還を求める訴え又は第212条第1項若しくは第285条第1項の規定による支払を求める訴え(以下この節において「責任追及等の訴え」という。)の提起を請求することができる。ただし、責任追及等の訴えが当該株主若しくは第三者の不正な利益を図り又は当該株式会社に損害を加えることを目的とする場合は、この限りでない。 (中略) 3 株式会社が第1項の規定による請求の日から60日以内に責任追及等の訴えを提起しないときは、当該請求をした株主は、株式会社のために、責任追及等の訴えを提起することができる。 取締役の会社に対する責任を追及の訴えは次の規定により監査役が会社を代表しなければなりません。 第386条(監査役設置会社と取締役との間の訴えにおける会社の代表) 第349条第4項、第353条及び第364条の規定にかかわらず、監査役設置会社が取締役(取締役であった者を含む。以下この条において同じ。)に対し、又は取締役が監査役設置会社に対して訴えを提起する場合には、当該訴えについては、監査役が監査役設置会社を代表する。 2 第349条第4項の規定にかかわらず、次に掲げる場合には、監査役が監査役設置会社を代表する。 1.監査役設置会社が第847条第1項の訴えの提起の請求(取締役の責任を追及する訴えの提起の請求に限る。)を受ける場合 ○A社の代表取締役Bと株主である懲戒請求者との紛争について、被懲戒者は監査役としてBの職務執行を調査すべき義務があり、また、会社自身がBに訴えを提起する場合会社の代表となる地位にあり、明らかにBとの間に利益相反があります。 弁護士職務基本規程には第二節職務を行い得ない事件の規律として以下の規定があります。 第27条(職務を行い得ない事件) 弁護士は、次の各号のいずれかに該当する事件については、その職務を行ってはならない。ただし、第三号に掲げる事件については、受任している事件の依頼者が同意した場合は、この限りでない。 (中略) 四 公務員として職務上取り扱った事件 五 仲裁、調停、和解斡旋その他の裁判外紛争解決手続機関の手続実施者として取り扱った事件 第28条(同前) 弁護士は、前条に規定するもののほか、次の各号のいずれかに該当する事件については、その職務を行ってはならない。ただし、第一号及び第四号に掲げる事件についてその依頼者が同意した場合、第二号に掲げる事件についてその依頼者及び相手方が同意した場合並びに第三号に掲げる事件についてその依頼者及び他の依頼者のいずれもが同意した場合は、この限りでない。 (中略) 三 依頼者の利益と他の依頼者の利益が相反する事件 株主代表訴訟提起前に懲戒請求者はA社自身に代表取締役Bの会社に対する責任を追及する訴えを提起するよう請求し、60日以内にA社自身が訴えを提起しないために株主である懲戒請求者自身が訴えを提起した経過があります。 ○本件では、被懲戒者は、監査役としてA社の機関の一員であり、また、A社の法律顧問としてA社全体を依頼者としており、B個人はA社と利益相反関係に立つ場合に該当しますので、B個人への株主訴訟の被告事件は弁護士職務基本規程第27条で「職務を行い得ない事件」に該当します。それを6年間も継続したわけですから、懲戒処分を受けて当然ですが、通常は、相手方懲戒請求者の代理人弁護士が注意して辞任を促していたすはずです。それを無視して継続したのでしょうか。 以上:1,908文字
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