平成22年 2月16日(火):初稿 |
○日弁連機関誌「自由と正義」平成22年2月号にも、弁護士懲戒事例での「戒告」事案が数例掲載されています。弁護士にとって、懲戒処分としては最も軽い「戒告」事案が最も参考になります。「弁護士戒告事案で身につまされ厳重注意を痛感した例」に記載したとおり、身につまされヒヤリとする例があるからです。業務停止以上の処分になると、ひどすぎて身につまされるレベルではなくなり、参考になりません。 ○平成22年2月号第1例は、株式会社Aに対する滞納処分をによる差押えを免れる目的で、A社から仮装して400万円を預かり、戒告となった例がです。これはちとひどい事例で、「戒告」程度で、世間の納得を得られるであろうかと疑問を感じました。 刑法96条の2(強制執行妨害)には「強制執行を免れる目的で、財産を隠匿し、損壊し、若しくは仮装譲渡し、又は仮装の債務を負担した者は、2年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。」と規定されており、「差押えを免れる目的で、A社から仮装して400万円を預かり」行為は立派な犯罪で、この犯罪の教唆犯として逮捕された弁護士さえ居ます。 倒産整理事件では、何とか財産を残す方法はありませんかとの質問を受けることが多くありますが、このアドバイスに当たっては、この強制執行妨害罪の存在をお伝えして慎重にアドバイスするように努めています。 ○平成22年2月号戒告第2例は、控訴審及びこれに関連する刑事告訴手続費用として受領した着手金等350万円について、控訴審で和解が成立し刑事告訴手続が不要になり、お客様からその返還を求められるも、何ら理由を説明せずこれを拒み続けた事案です。返還を拒む理由をキチンと説明すれば、弁護士とお客様の報酬に関する紛争を調停する紛議調停申立がなされたものと思われますが、何らの説明もないとすれば懲戒申立されて当然です。弁護士は、倒産事件等でお客様からお金を預かることが多くありますが、お客様は、長期間経ても預けたお金はシッカリと把握されています。お客様から何らかの形でお金を預かった場合は、事件終了に当たってはその精算を明確にし、返すべきお金は返して、債権債務がないことの清算確認書を作成する必要があり、当事務所では必ず作成しています。 ○平成22年2月号戒告第3例は、家庭裁判所への扶養申立調停事件で、調停案を承諾しないお客様の家庭裁判所への出頭要請を、代理人の弁護士が調停より審判で決した方がお客様に有利と独断して、調停委員からの要請をお客様に伝えず調停不調として審判手続に移行させ、審判期日に至るまで経過報告もせず、挙げ句に解任されたにもかかわらず2ヶ月以上お客様から預かった資料を返さなかったと言うものです。依頼された事件の手続経過は詳細にお客様に伝えるのが大原則であり、裁判所側との遣り取りも逐一報告すべきです。調停から審判移行との重大な手続の節目を独断で決めるなど以ての外です。 ○平成22年2月号戒告第4例は、交通事故後の死亡について交通事故との因果関係が共済と争いになり、3ヶ月間を目処に終了する調査を依頼され、1ヶ月後には2名の医者の病死との判断を得ながら、その結果をお客様に報告せず、その5ヶ月後のお客様からの照会に対しても「難航している」と回答しただけで医者の判断結果は報告せず、その後もお客様から何度も照会連絡を受けるも一切回答しなかったというものです。被懲戒者は超著名な弁護士ですが、およそ信じられない事実経過で、これが事実とすれば戒告は当然と思われます。 ○兎に角、お客様へのこまめな報告、お金については明確な清算の重要性をシッカリと自覚させられる懲戒例でした。 以上:1,499文字
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