平成21年11月 6日(金):初稿 |
○収支共同型法律事務所概観を続けます。今回は財務です。 3 財務・経理の管理 (1)財務管理の重要性 複数弁護士の共同事務所経営の一番の問題は金銭配分で、殊に,収支共同型事務所では各弁護士の収支を共同管理するため,金銭問題についてはトラブルを未然に防ぐ技術の積み重ねが必要。 (2)収入の共同化 1)収入を共同化するということの意味 収支共同型事務所の特徴は収入の共同管理と配分の平準化。平準化とは,収入の多い者が少ない者に自分の収入を分け与えるという意味。顧客に対する報酬請求権が特定の弁護士に帰属しても、その結果得られる収入が他の弁護士にももたらされる。 2)共同化すべき収入の範囲 経営弁護士各自の弁護士業務収入は全て含まれる。 但し、パートナー間の特約で、原稿料等一定のものについては共同化の対象から除外することは可能。 また領収証不要の御礼金、商品券等細かい金員についても、一定金額以下は共同化不要等の規定も必要。 (3)財務の透明化及び明確化 1)透明化 事務所の一体性を高めるため事務所経理はメンバー全員に全事項公開が望ましい。 但し、パートナー限りでの経理公開という事務所も存在。公開レベル(決算書レベル,内訳書レベル,証票レベル)等も含めて財務・経理適正処理の信頼感保持のために詳細な取り決めと経理専門事務職員配置と,決算の税理士等専門化依頼も検討すべき。 2)明確化 事務所全体の共通勘定のほかに,パートナーごとにばらばらの経理処理ではなく、事務所全体の経理処理基準を明確化しておくべき。 (4)収入平準化の弊害防止 1)数値目標の重要性 事務所全体の経理状況を個々のメンバーに把握させるため月次試算表等による収入目標・支出抑制数値公開とこれによる数値目標達成誘導が必要。 2)交際費の問題点 固定給型パートナーの場合,支出抑制志向が乏しくなる傾向もあるので、顧客獲得のためとする飲食費等交際費について、上限金額・回数等についての明確な取り決めも必要。 3)原価管理の重要性 一般に収入金額に注目する余り事件処理労力(コスト)の判断が甘くなりがちなので、コストに見合った収入が実際に確保できるのかの判断する必要。ただし,時にコスト割れ事件受任の必要性もあり、これについてのパートナー間のルール作りも必要。 4)その他 収支共同型事務所においては,コスト割れ或いは批判を受けるようなリスクの高い事件も、リスクが分散されることからハイリターンを求めて安易に受ける傾向もある。所得分配に当たっては担当事件のコスト・リスクも考慮すべきである。 (5)所得税の申告等 前記のように,経営者をある特定の1人にして他は全員給与所得者とするケースと,利益分配金とそれに対応する経費を各人に振り分け,それぞれが事業所得として確定申告するケースがある。前者のメリットは給与所得控除(原則として給与額×5%+170万円が給与所得から控除される。)で、後者メリットは売上げが5000万円未満であれば消費税につき簡易課税の選択ができること。 4 利益の分配について 1)利益の分配の方法 ①固定基準型;パートナー間で予め合意した一定の基準に従って分配 ②毎年協議型:毎年パートナー間の協議により分配割合を変更 ①では、生じる収入差について最終利益配分割合・金額によって調整する方法もある ②で慮すべき点は,事務所への出資要素(出資現金,事務所賃借保証金,図書資料,備品),利益誘導要素(継続的依頼者,顧問先の導入,事件の紹介誘導),労務提供要素,責任・損失負担要素,生活費・年齢要素など。 2)事務所維持のポイント等 収入が似通った弁護士同士の方が収支共同型事務所を組みやすいが、その根底には相互の信頼関係維持・発展が不可欠。そのためにはパートナー間のコミュニケーション重要で頻繁な事務所会議等意図的にコミュニケーションを深める機会を作る必要がある。 中心パートナー(多くの場合一番売上げの多いパートナー)が利益の分配の点で一歩退くことが収支共同型事務所の結束の基礎。 3)ロックステップシステム 独・仏の共同事務所利益分配方法の一つ「ロックステップシステム」(年功序列型)は,その得失についてドイツにおいても評価が分かれていた。このシステムは,前提として,年代の異なる複数のパートナーが存在し,事務所がある程度の年数永続的に続くことが必要。そして,若いパートナーにとっては収入の安定が、年長のパートナーにとっては過去の実績評価と老後の安定がメリット。独・仏でこの制度が広く採用されている背景には,法律事務所の永続性と専門性への志向が定着しているという事情があり,直ちに日本においても導入ができるかどうかは,不明。 以上:1,935文字
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