平成21年 9月17日(木):初稿 |
○「ボス弁従業員型イソ弁形態の考察1~3」で、今後増えるであろうと思われるボス弁従業員型勤務弁護士の法的或いは経営上問題点を考察してきましたが、最も重要な点についての考察が不足していました。 それは、個人事件が出来ない完全職務専念型の勤務弁護士の勤務(拘束)時間の問題と、勤務弁護士の弁護士資格上の公益義務遂行の問題です。 ○先ず勤務時間の問題ですが、東京弁護士会が開設した公設事務所に勤務した勤務弁護士が、退職した後、膨大な時間外手当を開設者であり雇い主である東京弁護士会に請求して訴えを提起した事案があります。既に判決が出て、勤務弁護士の時間外手当請求は棄却されたとのことですが、まだその判決書を入手できず、将来、紹介したいと思っております。 ○弁護士業務においては、勤務時間は不規則で、私の知る某弁護士会の某勤務弁護士に、毎日夜の11時、12時まで事務所に残って仕事をするのが常態となっており、土日も休日においてすれ遅くても午後には事務所に出て、夜の10時、11時まで仕事をしているという方が居ます。最近は、記録を自宅に持ち帰り、午前3,4時まで仕事をしているなんてまで言います。 ○これは極端な例かも知れませんが、東京の渉外事務所に勤務した勤務弁護士などは、毎日午前様が続いて過労でダウン寸前の人も居るなんて噂を聞くと、案外弁護士の場合、勤務時間について労働基準法違反が蔓延しているのかも知れません。 労働法第32条(労働時間)の、 「使用者は、労働者に、休憩時間を除き1週間について40時間を超えて、労働させてはならない。 2 使用者は、1週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き1日について8時間を超えて、労働させてはならない。」 との規定は勤務弁護士については全く適用されない例があるようです。 ○ところが、労働法に弁護士など専門職について特別の規定がありました。労働法第38条の3の以下の規定です。 「使用者が、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、次に掲げる事項を定めた場合において、労働者を第1号に掲げる業務に就かせたときは、当該労働者は、厚生労働省令で定めるところにより、第2号に掲げる時間労働したものとみなす。 1.業務の性質上その遂行の方法を大幅に当該業務に従事する労働者の裁量にゆだねる必要があるため、当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をすることが困難なものとして厚生労働省令で定める業務のうち、労働者に就かせることとする業務(以下この条において「対象業務」という。) 2.対象業務に従事する労働者の労働時間として算定される時間 3.対象業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し、当該対象業務に従事する労働者に対し使用者が具体的な指示をしないこと。 4.対象業務に従事する労働者の労働時間の状況に応じた当該労働者の健康及び福祉を確保するための措置を当該協定で定めるところにより使用者が講ずること。 5.対象業務に従事する労働者からの苦情の処理に関する措置を当該協定で定めるところにより使用者が講ずること。 6.前各号に掲げるもののほか、厚生労働省令で定める事項 2 前条第3項の規定は、前項の協定について準用する。」 ○この規定は、弁護士業務は幅広い裁量が必要な高度な専門職であり、実際の労働時間にかかわらず一定の労働時間だけ労働したものとすることで、「労働の量にかかわりなく、その質(内容)ないし成果によって報酬を定めることを可能にした」ものと解されています。法律所定事項について定めた書面による労使協定があれば一日16時間働かせても8時間働いたこととみなすことが出来るようにも見え、使いようによっては雇い主にとって大変便利な規定です。 以上:1,594文字
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