平成20年 3月27日(木):初稿 |
○「相続事件における一部相続人からの依頼と遺言執行者就任3」の続きです。 いったん遺言執行者に就任すると民法第1015条(遺言執行者の地位)「遺言執行者は、相続人の代理人とみなす。」と規定により相続人全員の代理人となったことになります。従ってその後、相続人間に争いが生じた場合に特定の相続人の代理人となることは他の相続人との関係で利益相反となり、形式的には旧弁護士倫理、現行弁護士職務基本規程に違反します。 ○私の場合、被相続人生前に被相続人から遺言書作成と遺言執行者就任を依頼されました。そして相続開始後、相続人である妻と長男から先妻の子との紛争解決を依頼され、相続開始後、遺言執行者としては預金払戻業務のみ行い、業務の殆どは先妻の子の代理人との間での遺留分減殺請求に対する防御及び遺言書に記載されていない遺産についての遺産分割協議でした。 ○この当時私は、自分の業務について形式的には利益相反行為に該当するとの意識は全くなく、また相手方である先妻の子もその代理人も全くそのような意識はなく、私自身は一応は遺言執行者として預金払戻業務を行ったもののあくまで被相続人の妻と長男の代理人と言う意識でした。 ○幸い遺留分減殺請求についての支払金額及び遺産分割協議は双方納得する内容での和解が成立し、相手方からも利益相反行為の指摘をされることもなく、依頼者からは感謝されて任務を終えることが出来ました。「相続事件における一部相続人からの依頼と遺言執行者就任1」記載のA弁護士は依頼者BからBの亡父(被相続人)が残した遺言書の検認と遺言執行者就任更に遺産内容調査と他の相続人特に長男Cに相続放棄をさせることを目的とした遺産分割協議を依頼されました。 ○遺言書には長男Cの相続廃除申立も記載されておりA弁護士は遺言執行者として遺言書に従いCに対する廃除申立もしました。しかしCに対する相続廃除申立は却下となりBの目的を達することが出来ず、おそらくこの過程で依頼者Bとの間に溝が出来たものと思われます。 ○そのため平成15年1月に至りA弁護士は依頼者Bから、遺言執行者辞任及び着手金の返還を求められ、同年3月家裁に遺言執行者辞任許可申立を行うも、同年6月遺言執行者として遺産分割調停申立を行い、同年10月遺言執行者辞任許可申立が却下されています。 ○A弁護士が、平成15年3月に遺言執行者辞任許可申立をしながら、同年6月遺言執行者として遺産分割調停申立を行っていることが全く不可解で、余程の事情があったものと思われます。遺言書は通常一方的に財産の処分方法を記載するもので、遺言執行者の職務はあくまで遺言書に記載された内容の実現ですから、何故遺言執行者が遺産分割協議申立をしなければならないのか不可解だからです。 ○いずれにしてもA弁護士としては元々の依頼者Bの不興を買った時点でその事件への関与は停止すべきであったように思います。然るに遺言執行者として遺産分割協議の申立をしたことが不可解で、更に家裁が辞任申立を却下したもの不可解です。遺言執行者はいったん就任すると家裁の許可がないと辞任できないのも、大変怖いところです。 ○私の場合、遺言書作成の段階で、遺言執行者には妻か長男を指名し、弁護士としては遺言執行者たる妻か長男個人の代理人となって、先妻の子との交渉に当たるのが正解でした。幸い依頼者との間で紛議が起こりませんでしたが、依頼者との信頼関係を重視すれば遺言執行者に就任するのは極力避けるべきと現在は確信しています。 以上:1,438文字
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