平成20年 2月15日(金):初稿 |
○平成20年2月8日、平成20年4月から2年間の任期を務める日弁連会長選挙があり、いわゆる主流派の宮崎誠氏(63歳)が反司法改革路線派でここ数回日弁連会長選挙常連候補高山俊吉氏(67歳)を9402票対7043票の小差で破り当選しました。 ○今回は高山俊吉氏の票が相当伸びるだろうと予測されていましたが、私自身の予想よりもずっと多い得票数でした。それだけ現在の司法改革による弁護士大量増員に危機感を感じている弁護士が多いものと思われますが、このような弁護士の考え方に対し、マスコミからは厳しい批判的記事が掲載されました。 ○典型は日経新聞社説でしたが、私は後記の東京新聞社説の以下の部分が心に残りました。 「司法書士などの試験と同じく司法試験も法曹資格を得る試験にすぎず“生活保障試験”なぞではない。保持する資格を職業に生かせない例はいくらでもある。『弁護士資格を得たら、必ず弁護士として暮らしていけるよう参入規制すべきだ』とも聞こえる増員反対論に共感する一般国民は少ないだろう。」 ○私自身、僅か1回の司法試験に受かっただけで後は、さしたる努力もせずに一生の安泰が保障されるような極端に参入規制する制度はおかしい、もっと広く門戸を開放して法曹志願者を拾い上げるべく裾野を広くすべきと考えていましたので、上記『弁護士資格を得たら、必ず弁護士として暮らしていけるよう参入規制すべきだ』とも聞こえるとの意見には、仰るとおりと言わざるを得ません。 ○しかし問題は、現在の法科大学院制度に基づく新司法試験制度が「広く門戸を開放」したとは到底言えないところにあります。旧司法試験は、大学教養課程さえ終了すれば、誰でも、どの学部出身でも、どんな職業に就いていようと、何処に住んでいようと、何年かかろうとその挑戦意欲さえあれば受験の機会は広く与えられていました。 ○ところが、新司法試験制度は、大学卒業後更に高い授業料の法科大学院に入学し2乃至3年かけて卒業しなければ受験資格を得られず、その上、5年間の内に受験3回までしか認められないと、お金がかかり、拘束時間も長く、その上期間制限があり、二重三重の門戸制限をもうけ、お金と時間に余裕がない人には受験機会を得ることすら難しいものになっています。 ○これだけお金と時間をかけ弁護士になってもたとえば親が弁護士とか地盤がないと仕事もないとなれば、折角裾野を広げても有為な人材が法曹界に集まらなくなるのではと言う心配があります。かといって合格者を減らすべきとまでは言いませんが、事実上門戸制限となっている法科大学院制度は見直すべきと思っております。本日、「突然のメール、失礼いたします。ロースクールに通う費用も能力もないため、ほぼ望みなしと分かりつつも旧試験での合格を目指している親不孝者です。」とのメールを頂き、一層その感が強くなっております。 ***************************************** 東京新聞【社説】 日弁連新会長 改革後退は許されない 2008年2月13日 日本弁護士連合会の新会長を決める選挙では、「安定した生活をしたい」という多くの弁護士の本音が噴出したようだ。法曹の一翼である弁護士会の路線変更は国民待望の司法改革を危うくする。 新会長選では、現在の司法改革路線、弁護士の大幅増員に反対する高山俊吉氏が43%も得票した。従来通りの改革推進を掲げ辛勝した宮崎誠氏も、選挙中に増員ペース見直しを明言せざるを得なかった。 裁判員制度の実施が来春に迫る中で、裁判所、法務省と共同歩調だった日弁連の方針変更は重大だ。弁護士が身近になることを期待する国民に対する背信といえよう。 選挙の最大争点は弁護士増員だった。政府は二〇一〇年までに司法試験の合格者を毎年三千人に増やす。既に段階的増員が始まり、就職先の見つからない新人弁護士も出たことから増員反対論が力を増してきた。 司法改革の理念を理解していない鳩山邦夫法相の「多すぎる」という軽はずみ発言も後押しした。 だが、二百余ある地裁・同支部のうち半分近くは管轄区域内に弁護士が多くても三人だ。被疑者弁護や恵まれない人たちを支援する「法テラス」も弁護士不足に悩んでいる。 過剰論は、要するに都会で恵まれた生活ができる仕事が減った、ということではないだろうか。 司法書士などの試験と同じく司法試験も法曹資格を得る試験にすぎず“生活保障試験”なぞではない。 保持する資格を職業に生かせない例はいくらでもある。「弁護士資格を得たら、必ず弁護士として暮らしていけるよう参入規制すべきだ」とも聞こえる増員反対論に共感する一般国民は少ないだろう。 「生存競争が激化し、人権擁護に目が届かなくなる」-こんな声も聞こえるが、余裕があるからするのでは人権活動と呼ぶには値しない。 「法の支配」が確立するには、弁護士が高みにいて出番を待つのではなく、社会の各場面に自ら出向かねばならない。弁護士増員は司法改革の要であり、職域拡大は自らの努力と才覚にもかかっていることを忘れないでほしい。 むろん改革は弁護士だけの責任ではない。大量に生まれる新人の教育基盤整備、裁判官、検察官の増員、苦労が報われるような国選弁護報酬の実現など課題は多い。 しかし、四月に正式発足する日弁連の新執行部が増員に急ブレーキをかけるなら、弁護士会の信頼は失墜し、司法改革が頓挫しかねない。それは国民にとって不幸であり、避けなければならない。 以上:2,240文字
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