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破産管財人の破産申立受任弁護士への損害賠償請求を棄却した地裁判決紹介

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令和 5年 5月24日(水):初稿
○株式会社Aの破産管財人弁護士が、同社の破産開始決定申立を受任した弁護士に対し、同社との間の委任契約に基づく財産散逸防止義務に違反し約914万円の財産を散逸させて損害を与えたとして同額の損害賠償請求をしました。

○これに対し破産申立受任弁護士は、破産管財人弁護士の本件訴訟提起は、不当訴訟であり、訴訟での破産管財人弁護士の主張は名誉毀損に該当するとして100万円の慰謝料請求と訴訟提起・代理人弁護士選任行為が訴訟手続上の信義誠実義務違反として100万円の損害賠償請求を反訴として提起しました。

○いわば弁護士同士の争いですが、この争いについて、いずれの請求も棄却した令和4年2月25日東京地裁判決(判時2549号14頁)関連部分を紹介します。

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主   文
1 原告の本訴請求及び被告の反訴請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は,本訴及び反訴を通じてこれを11分し,その2を被告の負担とし,その余を原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求

1 本訴請求
 被告は,原告に対し,914万4152円及びこれに対する平成29年4月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2 反訴請求
(1)原告は,被告に対し,100万円及びこれに対する令和3年3月5日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。
(2)原告は,被告に対し,100万円及びこれに対する同月27日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
 本件本訴は,破産者株式会社A(以下,破産手続開始決定の前後を問わず「破産会社」という。)の破産管財人である原告が,破産会社から破産手続開始の申立て事件(以下「本件破産申立事件」という。)を委任された弁護士である被告は,破産会社の破産財団を構成すべき財産の散逸を防止すべき義務を負っていたにもかかわらず,上記の委任に係る契約を締結した後,破産手続開始の申立てがされるまでの間に,破産会社が管理する預貯金口座に入金された上演料,制作費,出演料等(以下,これらの費用を併せて「公演料等」という。)の合計額972万4152円から弁護士報酬相当額58万円を控除した合計914万4152円を散逸させた旨主張して,被告に対し,上記の委任契約の債務不履行に基づき,914万4152円の損害賠償及びこれに対する平成29年4月5日(上記の財産が破産会社から最後に散逸した日の翌日)から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

 本件反訴は,被告が,原告に対し,〔1〕原告による本件本訴に係る訴訟の提起が不当訴訟に当たり,本件訴訟において原告が提出した準備書面等における主張が被告の名誉を毀損し,又はその名誉感情を侵害する旨主張して,民法709条及び破産法148条1項4号に基づき,100万円の損害賠償及びこれに対する不法行為日以降の日である令和3年3月5日(反訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに(反訴請求の趣旨(1)),〔2〕原告の本件訴訟における立証活動妨害及び破産管財人代理の選任行為が訴訟手続上の信義誠実義務に違反するものである旨主張して,民法709条及び破産法148条1項4号に基づき,100万円の損害賠償及びこれに対する不法行為日以降の日である令和3年3月27日(令和3年3月24日付け訴えの変更申立書送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求める(反訴請求の趣旨(2))事案である。

1 前提事実(争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)

         (中略)

第3 当裁判所の判断
1 認定事実


         (中略)

2 争点(1)(本件委任契約に基づく被告の財産散逸防止義務違反の有無)について
(1)原告は,破産会社から破産申立てを受任した被告は,本件委任契約に基づき,破産財団を構成すべき財産の散逸を防止すべき義務(財産散逸防止義務)を負っていたにもかかわらず,同契約締結後に,破産会社が実質的に管理するB口座及びスイセイ・フレンズ口座に入金された公演料等及び出演料を散逸させた旨を主張する。

 そこで検討するに,破産制度とは,支払不能又は債務超過にある債務者の財産等の清算における,債権者その他の利害関係人の利害及び債務者と債権者との間の権利関係を適切に調整し,もって債務者の財産等の適正かつ公平な清算を図ること等を目的とする制度である(破産法1条参照)。そして,支払不能等にある債務者は上記のような目的を有する破産制度を利用する者である以上,自らその目的に反するような行為に及ぶことが許されないのは当然である。そこで破産法は,破産手続開始の決定の前後を問わず,債務者に,総債権者の利益のために破産財団を構成すべき財産を保全するとともに偏頗弁済や詐害行為等の債権者の公平性を損なう行為を避ける義務を負わせているのであり(破産法160条以下,265条以下参照),債務者がこれに反する行為に及んで破産財団を構成すべき財産が散逸した場合には,債権者等に対して第一次的な責任を負うことになるのはいうまでもない。

 これに対し,債務者から破産手続開始の申立ての委任を受けた代理人は,法令及び法律事務に精通する専門家(弁護士法2条)として,委任契約に基づき,飽くまで債務者の代理人として当該申立てに係る法律事務を遂行するにとどまるのであるから,当該債務者が債権者の公平性を損なうような行為に及んで破産財団を構成すべき財産が散逸したとしても,その一事のみをもって,当然に,第一次的な責任を負う当該債務者と共に,当該債務者との間の委任契約上の善管注意義務としての財産散逸防止義務違反の責任を負うと解するのは相当とはいえない。

もっとも,当該債務者から破産手続開始の申立ての委任を受けた代理人は,上記のような目的を有する破産制度を利用することを法律専門家として受任している以上,自ら破産財団を構成すべき財産を散逸させてその結果として当該債務者が破産制度を円滑に利用することのできない結果を招いたものと評価することができるような場合には,委任契約上の善管注意義務である財産散逸防止義務に反するものとして,債務者に対し債務不履行責任を負うとする余地もあるというべきである(なお,この点は,財産散逸防止義務につき不法行為構成を採った場合も変わるところはない。)。

しかるところ,破産手続開始の申立ての委任を受けた代理人は,破産管財人と異なり,債務者の財務状況,資産や負債の金額,種類及び内容,債権者数などに関する調査等の権限が破産法上認められておらず(破産法83条参照),申立代理人による上記事項に関する調査は債務者の任意の協力を前提とせざるを得ないこと等も併せ考慮すれば,
〔1〕上記代理人が,債務者に対して破産制度上課せられた義務に関して誤った指導及び助言をしたとき,
〔2〕債務者から委託を受けて保管していた財産を法的根拠に基づくことなく散逸させたときのほか,
〔3〕債務者が偏頗弁済や詐害行為等,明らかに破産法の規定に反するような財産の処分行為をしようとしていることを認識し又は容易に認識し得たにもかかわらず,漫然とこれを放置したようなとき
が,上記の場合に当たるものというべきである。


そして,上記〔1〕ないし〔3〕に当たるといえるか否かについては,事案の内容及び性質,破産手続の具体的状況及びその段階,債務者の説明状況及び協力態度,当該債務者による財産散逸行為に関する申立代理人の認識可能性を踏まえ,これらの要素を客観的・総合的に勘案して個別的かつ具体的に判断すべきものと解するのが相当である。

 以下においては,上記の見地から,被告の破産会社に対する委任契約上の財産散逸防止義務の債務不履行が認められるか否かにつき,まず,被告が破産会社に対して財産散逸防止義務を負う時期について検討し(下記(2)),次いで,原告が破産会社の破産財団を構成すべき財産であると主張している〔1〕B口座に係る預金債権(下記(3))及び〔2〕スイセイ・フレンズ口座に係る貯金債権(下記(4))の各財産ごとに,〔ア〕各財産が同義務の対象となる破産会社の破産財団を構成すべき財産であるか否かについて検討した後,必要に応じて,〔イ〕本件において被告の同義務の違反が認められるか否かを検討する。

(2)本件委任契約の効力発生時期(被告が財産散逸防止義務を負う始期)について
 上記(1)で説示したとおり,申立代理人が財産散逸防止義務に違反したことに基づき債務者に対し損害賠償責任を負う法的根拠は,申立代理人と債務者との間の委任契約に求められるから,本件においても,被告が破産会社との関係で財産散逸防止義務を負うのは本件委任契約の効力が生ずる時からであり,本件委任契約が締結された平成29年1月25日であると解するのが相当である。

 この点につき,被告は,本件委任契約には,被告の弁護士費用等が,知れたる債権者に対する受任通知送付日から破産手続終結日までに対応する費用等として支払われる旨の定めがあることから,本件委任契約の効力発生時期は,被告が受任通知を送付した平成29年2月6日である旨を主張する。しかしながら,上記の定めは,本件委任契約に基づく着手金及び報酬金の対価を算定する根拠に関する条項にすぎず,委任契約の効力の発生の時期を定めたものとはいえないし,本件受任通知の発送までの被告の事務が何らの契約上の根拠もなく行われているとはおよそ考え難いものであるから,被告の上記主張は採用することができない。

(3)B口座に係る預金債権について
ア 原告は,平成29年1月25日に奈良新聞社から396万8400円(別紙1番号1),同月31日にエヌオーフォーから162万円(同別紙番号16),同日にサントリーパブリシティから274万4280円(同別紙番号17)及び同年3月10日にローリングから21万5352円(同別紙番号19)がB口座に振込入金されているところ,上記の各振込入金によって成立した預金債権が破産会社に帰属する旨主張する。

 B口座は普通預金口座であるところ,普通預金は,預金者が任意に預入れ及び払戻しをすることができる流動的な取引を前提とするものであって,預金者が,普通預金契約を締結して普通預金口座を開設した後に当該口座に入金すると,当該入金額についての消費寄託契約が成立するが,それによって発生した預金債権は,既存の預金債権と融合して1個の預金債権として成立するものである。したがって,預金原資の出捐者をもって直ちに預金債権が帰属すると解するのは相当ではなく,口座の開設者,口座の名義人,口座の管理者,預金の原資等の事情を総合的に考慮し,預金債権が帰属する主体を認定するのが相当である(最高裁平成11年(受)第1172号同15年2月21日第二小法廷判決・民集57巻2号95頁,最高裁平成13年(行ヒ)第274号同15年6月12日第一小法廷判決・民集57巻6号563頁参照)。

イ B口座の名義は「B株式会社」であり(前提事実(8)ア),その名義人はBである。なお,C(※破産会社代表取締役)は,Bの取締役を務めるとともにBの代表取締役であるEと古くから親交のあったFからBの業務を一任されており(認定事実(3)イ),BがCに対してB口座を開設してその口座を管理することを委任していたとしても不自然とはいえない。また,B口座は,スイセイ・フレンズ口座とは異なり,破産会社の平成26年3月から平成27年2月までの事業年度における勘定科目内訳明細書に,破産会社の預金として記載されていなかった(認定事実(2),(3)イ)。

 そして,平成28年10月頃,破産会社の業務を徐々にBに移行し,これにより将来にわたって,破産会社の制作するミュージカルの公演を円滑に成功させ,破産会社によるミュージカルの制作及び公演を継続的に行っていくという目論見の下,同月1日付けで破産会社とBとの間で本件業務分担合意がされ(認定事実(3)ア),これを受けて,Bと奈良新聞社らとの間でそれぞれ公演契約が締結され,奈良新聞社らは,これらの公演契約に基づいてB口座に公演料等を振込送金して支払ったことからすれば(認定事実(4)アないしエ),奈良新聞社らからB口座に上記公演料等が振込送金されたことによって成立した預金債権の原資はBの資金であると認めるのが相当である。

 また,ローリングからB口座に振込送金された出演料についても,破産会社が,ローリングに対し,出演料の支払先をBに変更するよう求めたこと(認定事実(4)オ(イ))及びBの継続登記がされ,本件業務分担合意が締結された経緯(認定事実(3)ア)からすれば,破産会社とBとの間で,Bが上記出演料を収受することが合意されていた可能性も十分に考えられるものであり,ローリングからB口座に上記出演料が振込送金されたことによって成立した預金債権の原資についてもBの資金であると認めるのが相当である。

 なお,仮に,上記合意が認められないとしても,金銭については,所有と占有が結合し,破産会社は,Bに対して上記公演料等及び上記出演料に相当する金銭の支払請求権を有するにすぎないのであるから,結局のところ,上記出演料も含めて預金債権がBに帰属することになる(前掲最高裁15年2月21日第二小法廷判決参照)。

ウ 上記イの事情によれば,奈良新聞社ら及びローリングからB口座に振込入金されたことによって成立した預金債権はBに帰属していたものと認められ,それが破産会社に帰属していたと認めることはできない。この点に関する原告の主張を採用することはできず,これを前提として被告が本件委任契約における財産散逸防止義務に違反した旨の原告の主張も採用することができないことになる。

エ 原告は,B口座に係る預金債権がBに帰属するものであったとしても,Bの法人格は,形骸化し,又は破産会社によって破産会社の債権者からの差し押さえを回避する目的で濫用されたものであるから,法人格否認の法理によって,Bの法人格を否定し,その背後者である破産会社の法人格と同一視するべきであるから,上記預金債権は,破産会社の破産財団を構成する財産である旨を主張する。

 しかしながら,Bの継続登記の経緯(認定事実(3)ア)及びBが奈良新聞社らと公演契約を締結した経緯(認定事実(4)アないしエ)に照らし,Bの法人格を否認すべきであるとする原告の主張は,これを採用するに足りない。

 また,仮に原告が主張するとおり,Bの法人格が否認され,B口座に係る預金債権が破産会社の破産財団を構成する財産であると評価すべきであるといえたとしても,破産会社とBは外形上は別の法人として存在していたのみならず,実際にも本件業務分担合意に係る合意書やB名義の公演契約書が作成されていたこと(認定事実(4)),本件委任契約の締結時である平成29年1月25日から最後にB口座に係る預金が出金された同年4月4日までの期間において,被告又はD弁護士が破産会社とBとの関係性を具体的に認識できたといえるような事情を認めるに足りる的確な証拠はないこと,そもそも法人格否認の法理の適用の当否については種々の要素を総合的に考慮して判断されるものであってその判断は必ずしも容易なものとはいい難いことに照らせば、被告又はD弁護士において,上記期間において,Bの法人格が否認されるべきものと判断すること自体が困難であったというべきである。

したがって,被告がBの法人格が否認されると判断して,Cに対してB口座に係る預金債権を保全するよう指導及び助言をしなかったからといって,本件委任契約における善管注意義務としての財産散逸防止義務に違反したということはできない。

カ 以上によれば,B口座に係る預金債権は,破産会社の破産財団を構成すべき財産であるとは認められず,仮に,法人格否認の法理によりこれが破産財団を構成する財産であると扱われるべきと評価されたとしても被告に財産散逸防止義務違反は認められないから,B口座に関する原告の被告に対する債務不履行に基づく損害賠償請求は,理由がないことになる。

(後略)
以上:6,729文字

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