令和 3年12月 9日(木):初稿 |
○株式会社A(以下「破産会社」という。)に対する求償金債権(後記本件求償金債権)を有していた原告が,破産会社の破産手続(以下「本件破産手続」という。)で債権者として届けられず、配当を受けられなかったため、破産会社の申立代理人と破産管財人に破産手続に参加していれば配当を受けた金額を損害賠償請求しました。 ○これに対し、破産申立人代理人弁護士は,債権者の変動等の理由で提出済みの債権者一覧表の一部に誤りが生じたことを知った場合には,知れている破産債権者への開始決定通知が適正かつ迅速に行われる前提を確保するために,訂正した債権者一覧表を提出する等の方法により,正確な債権者の氏名及び債権の内容等を裁判所に対して報告する義務を負うとして損害賠償義務を認めた令和3年5月13日宇都宮地裁判決(判タ1489号69頁)関連部分を紹介します。 ○破産申立時に債権者一覧表を作成して裁判所に提出しますが、その提出に当たって債権者の記載漏れがないかどうかシッカリ確認する注意義務が代理人の弁護士ありますので、改めて注意喚起が必要です。 ******************************************* 主 文 1 被告Y1は,原告に対し,217万1860円及びこれに対する令和2年2月26日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。 2 原告の被告Y1に対するその余の請求及び原告の被告Y2に対する請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は,原告に生じた費用の4分の1及び被告Y1に生じた費用の2分の1を被告Y1の負担とし,原告に生じたその余の費用,被告Y1に生じたその余の費用及び被告Y2に生じた費用を原告の負担とする。 4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 被告らは,原告に対し,連帯して434万3722円及びこれに対する令和2年2月26日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 本件は,株式会社A(以下「破産会社」という。)に対する求償金債権(後記本件求償金債権)を有していた原告が,破産会社の破産手続(以下「本件破産手続」という。)において配当を受けられなかったことについて,破産会社の申立代理人であった被告Y1(以下「被告Y1」という。)及び破産会社の破産管財人であった被告Y2(以下「被告Y2」という。)にそれぞれ注意義務違反があったと主張して,被告らに対し,民法709条,719条1項に基づき,連帯して損害賠償金434万3722円(原告が本件破産手続に参加していれば得られたはずの配当金相当額)及びこれに対する不法行為の日以降の日である令和2年2月26日(後記本件配当実施の日)から支払済みまで民法(平成29年法律44号による改正前のもの。以下同じ)所定の年5%の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 1 争いのない事実等 (中略) 2 争点 (1)被告Y1の注意義務違反 (原告の主張) ア 被告Y1は,本件破産裁判所に対し,本件の債権調査期日である令和元年10月23日までに,原告を債権者に加えた債権者一覧表を提出するなどの方法により,原告が本件弁済により破産債権者になった事実(以下「本件事実〔1〕」という。)を報告しなかった(以下「本件行為〔1〕」という。)。 破産法32条3項1号は,裁判所は,知れている破産債権者に対し,同条1項の規定により公告すべき事項を通知しなければならないと規定するところ,同号は,債権者の権利行使の機会を確保するための規定であると解される。そして,破産法20条2項は,債権者以外の者が破産手続開始の申立てをするときは,最高裁判所規則で定める事項を記載した債権者一覧表を裁判所に提出しなければならないことを規定するところ,同項は,破産法32条3項1号の通知を適正かつ迅速に行い,破産債権者に対し,破産手続に参加する機会を付与するための規定であると解される。 そして,本件においては,被告Y1が原告から本件残高証明書を受領していること,被告Y1が原告の担当職員に対して本件弁済の事実を本件破産裁判所に報告すると発言したことからすれば,被告Y1は,本件破産裁判所に対して本件事実〔1〕を報告すべき義務を負っていたというべきである。 イ 被告Y1は,被告Y2に対し,本件の債権調査期日である令和元年10月23日までに,本件事実〔1〕及び本件破産裁判所に対して本件事実〔1〕を伝えていない事実(以下「本件事実〔2〕」という。)を報告しなかった(以下「本件行為〔2〕」という。)。 破産法40条1項2号は,破産者の代理人は,破産管財人の請求があったときは,破産に関し必要な説明をしなければならないことを規定する。 本件事実〔1〕及び本件事実〔2〕は,知れている破産債権者に対する債権届出の機会を与え,債権者間で破産者の財産を公平に分配するという破産法の趣旨からすれば,破産管財人である被告Y2に対して速やかに報告されるべき事実であることから,被告Y1は,被告Y2に対して本件事実〔1〕及び本件事実〔2〕を報告する義務を負っていたというべきである。 (被告Y1の主張) ア 原告は,本件申立ての際,破産会社に対して債権を有していなかったのであるし,被告Y1は,本件申立ての際,本件債権者一覧表に「代位弁済請求予定」と記載し,原告による代位弁済がなされ得ることの注意喚起をしている。 イ また,被告Y1は,被告Y2に対し,令和元年7月25日,本件申立ての申立書副本とともに,本件残高証明書をファクシミリにより送信していたから,被告Y2に対し本件弁済の事実を報告していた。 (中略) 第3 当裁判所の判断 1 被告Y1から被告Y2への本件残高証明書の送付(上記第2の2(1)(被告Y1の主張)イ)について 被告Y1は,同人が,令和元年7月25日、被告Y2に対し,本件申立ての申立書副本とともに,本件残高証明書をファクシミリにより送信したと主張し,これに沿う供述をするところ(乙5,被告Y1本人),被告Y2はこれを否定している(被告Y2本人)。 上記の被告Y1の供述については,これを裏付ける証拠がない上に,被告Y2に本件申立ての申立書副本を送付した際の書類送付書に本件残高証明書が送付資料として記載されていないこと(丙2)に照らすと,信用できない。 したがって,上記の被告Y1の主張事実を認めることはできない。 2 争点1(被告Y1の注意義務違反) (1)上記第2の1(3)エのとおり,原告の担当職員は,令和元年5月27日,被告Y1との電話で,同人に対し,原告が同月24日にB銀行に対して本件弁済を行ったことを伝え,これに対し,被告Y1は,その電話で,原告の担当職員に対し,破産会社の破産手続開始の申立てをしているが,まだその決定がされていない現状を伝えた上で,本件破産裁判所に対して本件弁済の事実を報告する旨発言している。 そして,証拠(乙5,被告Y1)及び弁論の全趣旨によれば,被告Y1が,本件の債権調査期日までに,原告が本件弁済により債権者になったこと(本件事実〔1〕)を本件破産裁判所に報告しなかった事実(本件行為〔1〕)が認められる。 (2)ところで,債務者は,その破産手続開始の申立てに当たっては,破産規則14条1項所定の事項を記載した債権者一覧表を提出しなければならないところ(破産法20条2項),この債権者一覧表の提出義務については,破産手続開始の決定の後に裁判所が行うこととなる,知れている破産債権者への破産法32条1項所定の事項の通知(同条3項1号,以下「開始決定通知」という。)を適正かつ迅速に行うことを可能とするために規定されたものと解される。 そのような趣旨からすると,債務者は,破産手続開始の申立てをした後であっても,少なくとも破産手続開始の決定がなされるまでの間においては,上記提出義務を免れるものではないというべきであり,代位弁済による債権者の変動等の理由で提出済みの債権者一覧表の一部に誤りが生じたことを知った場合には,知れている破産債権者への開始決定通知が適正かつ迅速に行われる前提を確保するために,訂正した債権者一覧表を提出する等の方法により,正確な債権者の氏名及び債権の内容等を裁判所に対して報告する義務を負うというべきである。 これを本件についてみるに,被告Y1は,破産会社の代理人として本件申立てを行ったものであるところ,本件開始決定前の令和元年5月27日にした原告の担当職員との電話により,同月24日に本件弁済により原告の本件求償金債権が生じたことを知ったにもかかわらず,原告が本件弁済により破産会社の債権者となった事実を本件破産裁判所に報告しなかったのであるから,上記義務に違反したものと認められる。さらに,被告Y1は,令和元年5月27日の原告の担当職員との電話で,同人に対し,本件弁済の事実を本件破産裁判所に報告する旨発言して,これにより破産会社の破産開始決定がなされた場合には原告が知れている破産債権者として本件破産裁判所から開始決定通知を受けることになるとの一定の信頼を原告の担当職員に生じさせたことから,上記発言に沿った本件破産裁判所への報告をすべき信義則上の義務を原告に対して負うに至っていたといえ,本件行為〔1〕については,そのような義務にも違反したものと評価することができる。 なお,被告Y1が本件弁済により債権者になった事実等を被告Y2に報告しなかった事実(本件行為〔2〕)については,上記1のとおり,そのような報告がなされた事実を認めることはできないが,いずれにせよ,被告Y1が本来的に負っていた作為義務は,上記の本件破産裁判所への報告義務であって,その義務履行の一手段として破産管財人を通じて本件破産裁判所に報告することがありうるものであるとしても,被告Y1が本件破産裁判所への報告義務から独立した別途の破産管財人への報告義務を負っていたものと解することはできない。したがって,そのような意味において,本件行為〔2〕について注意義務違反をいう原告の主張は理由がない。 3 争点2(被告Y2の注意義務違反) (中略) 4 争点3(過失相殺) 被告Y1の不法行為による損害の発生に関する原告の過失について検討するに, 〔1〕信用保証協会である原告は,保証債務の履行によって金融機関から取得することとなる返済の滞っている債権の回収を業としており,令和元年度に原告が裁判所に破産債権の届出を行った回数が144回であったこと(甲26)などに照らしても,破産手続参加の経験が豊富であり,破産債権届出の実務に相当程度精通しているものであったと認められること, 〔2〕B銀行は,平成31年2月頃の時点で,破産会社が支払停止の状態にあることを知っており,信用保証協会として本件借受けに係る債務を連帯保証していた原告は,本件弁済の際に,当然,B銀行から,その情報を得ていたと考えられること, 〔3〕原告の担当職員は,令和元年5月27日時点で,破産会社について破産手続開始の申立て(本件申立て)がなされていること及びその開始決定がまだされていないことを被告Y1から具体的に聞いて知っていたこと, 〔4〕本件開始決定については官報に掲載されて公告されていたのであり,それは破産法が予定している裁判の告知というだけでなく,信用保証協会である原告にとってはその確認を期待するのが酷とはいえないものであること, 〔5〕「政治経済・時事・倒産情報のJCNET」や「東京経済ニュース」のインターネットのホームページ上に,平成31年2月22日には,破産会社が事業を停止し,破産手続開始の申立ての準備を行っていることが,令和元年7月30日には,本件破産裁判所が本件開始決定を行ったことが,それぞれ掲載されており(乙2,3),信用保証協会である原告において,それらの情報の確認が困難であったとは考えられないこと, 〔6〕仮に,原告の担当職員において,破産会社について破産手続開始の決定がされていない理由が破産会社の代表者の死亡であることを令和元年5月27日に被告Y1から聞いたために、そのような事情であれば開始決定までに時間を要することは不自然ではないとの認識でいたのだとしても(甲26),原告の担当職員が本件開始決定を知ったのは令和元年7月19日の本件開始決定から約7か月半後の令和2年3月5日であり(なお,本件開始決定から,これを経過すると破産債権の届出をしても配当の対象とすることができなくなると解される配当に係る除斥期間の経過(令和2年2月4日)までは約6か月半),原告はかなりの長期間にわたって破産会社について破産手続開始の決定がされたか否かを確認せずにいたこと, 以上の諸点に照らすと,令和2年3月5日の被告Y1との電話により知らされるまで原告の担当職員が本件開始決定を知らなかったとの事実関係を前提としても,原告が本件求償金債権について破産債権の届出を行わず,本件破産手続において配当を得られなかったことについては,原告にも相当な落ち度があるといわざるを得ない。 そうすると,被告Y1については,上記2のとおり,債権者一覧表の提出義務という一般的な破産法上の義務に違反しているだけでなく,原告の担当職員に対し本件弁済の事実を本件破産裁判所に報告する旨発言したことを根拠として認められる信義則上の義務にも違反しており,その過失の程度がかなり重いものであることを考慮しても,上記2の被告Y1の注意義務違反行為により原告に生じた損害については,原告に5割の過失を認めて,過失相殺を行うのが相当である。 5 小括 したがって,原告は,被告Y1に対し,217万1860円(原告が本件求償金債権について破産債権の届出をしていれば本件配当において配当を受けたであろう配当金相当額(上記争いのない事実等(3)ク)から50%を控除した金額)及びこれに対する不法行為の日以降の日である本件配当の日(令和2年2月26日)から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払を請求することができる。 第4 結論 以上によれば,原告の被告Y1に対する請求は,主文第1項に掲げる限度で理由があり,その余は理由がないから棄却することとし,原告の被告Y2に対する請求は,理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官 大寄久 裁判官 大森隆司 裁判官國原徳太郎は,転補につき,署名押印することができない。裁判長裁判官 大寄久) 以上:5,984文字
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