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破産事件で破産管財人の損害賠償義務を否認した地裁判決紹介

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令和 3年12月10日(金):初稿
○「破産事件で申立代理人に損害賠償義務を認めた地裁判決紹介」の続きで、同じ令和3年5月13日宇都宮地裁判決(判タ1489号69頁)関連部分で、破産管財人の責任について判断した部分を紹介します。

○株式会社A(以下「破産会社」という。)に対する求償金債権(後記本件求償金債権)を有していた原告が,破産会社の破産手続(以下「本件破産手続」という。)で債権者として届けられず、配当を受けられなかったため、破産会社の申立代理人と破産管財人に破産手続に参加していれば配当を受けた金額を損害賠償請求しました。

○判決は、申立代理人弁護士については、「破産事件で申立代理人に損害賠償義務を認めた地裁判決紹介」に記載したとおり、過失相殺で責任を5割に減額しながら、その責任を認めました。

○しかし、破産管財人については,破産者が提出している債権者一覧表に記載のない新たな債権者の存在がうかがわれた場合であっても,破産者に確認するなどの調査を行い,その結果,新たに存在が確認できた債権者を破産裁判所に報告すべき注意義務を負っているものとは認められないとして、その責任を否認しました。

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主   文
1 被告Y1は,原告に対し,217万1860円及びこれに対する令和2年2月26日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
2 原告の被告Y1に対するその余の請求及び原告の被告Y2に対する請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は,原告に生じた費用の4分の1及び被告Y1に生じた費用の2分の1を被告Y1の負担とし,原告に生じたその余の費用,被告Y1に生じたその余の費用及び被告Y2に生じた費用を原告の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求

 被告らは,原告に対し,連帯して434万3722円及びこれに対する令和2年2月26日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
 本件は,株式会社A(以下「破産会社」という。)に対する求償金債権(後記本件求償金債権)を有していた原告が,破産会社の破産手続(以下「本件破産手続」という。)において配当を受けられなかったことについて,破産会社の申立代理人であった被告Y1(以下「被告Y1」という。)及び破産会社の破産管財人であった被告Y2(以下「被告Y2」という。)にそれぞれ注意義務違反があったと主張して,被告らに対し,民法709条,719条1項に基づき,連帯して損害賠償金434万3722円(原告が本件破産手続に参加していれば得られたはずの配当金相当額)及びこれに対する不法行為の日以降の日である令和2年2月26日(後記本件配当実施の日)から支払済みまで民法(平成29年法律44号による改正前のもの。以下同じ)所定の年5%の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

1 争いのない事実等

         (中略)

2 争点

         (中略)


(2)被告Y2の注意義務違反
(原告の主張)
 被告Y2は,本件破産裁判所に対し,本件の債権調査期日である令和元年10月23日までに,原告に本件通知がなされたか否かを確認しなかった(以下「本件行為〔3〕」という。)。また,被告Y2は,被告Y1に対し,同日までに,原告が本件開始決定を知っているか否かを確認しなかった(以下「本件行為〔4〕」という。)。

 破産管財人は,善良な管理者の注意をもって,その職務を行わなければならないとされており,破産財団を巡る利害関係を調整しながら適切に破産財団を形成すべき義務を負う。そして,破産管財人は,破産手続開始の申立てをした者に対し,破産手続の円滑な進行のために必要な協力を求めることができること(破産規則26条2項),破産管財人は,破産手続開始後遅滞なく,破産法157条1項,2項所定の事項を記載した報告書を,裁判所に提出しなければならないこと,破産債権者に対する通知の重要性に鑑みれば,破産管財人は,債権者一覧表に記載のない新たな債権者の存在がうかがわれた場合には,破産者代理人に確認するなどの調査を行い,その結果を破産裁判所に報告する義務を負う。

 そして,本件においては,本件債権者一覧表に本件借受けに係る債権が記載されていながら,B銀行が同債権以外の債権のみを届け出たこと,本件債権者一覧表には近い将来代位弁済により原告が本件借受けに係る債権を取得することがうかがわれる記載がなされていたこと,公的な保証機関である原告が高額の破産債権の届出を行わないことは考え難いことからすれば,被告Y2は,遅くとも令和元年10月23日までの間に,本件破産裁判所に対し,原告に本件通知がなされたか否かを確認し,又は被告Y1に対し,原告が本件開始決定を知っているか否かを確認する義務を負っていたというべきである。

(被告Y2の主張)
 破産法32条1項,10条1項は,裁判所は,破産手続開始の決定をしたときは,その主文等を官報に掲げて公告することを規定しており,同条4項は,同公告により,一切の関係人に対してその裁判の告知があったものとみなされることを規定する。そして,破産法112条1項は,破産債権者がその責めに帰することができない事由によって一般調査期間の経過又は一般調査期日の終了までに破産債権の届出をすることができなかった場合には,その事由が消滅した後一月以内に限り,その届出をすることができると規定する。この規定によれば,破産債権者は,破産手続開始の決定を自ら調査し,債権の届出を行うか否かを判断すべきであり,破産管財人は,個々の破産債権者が債権届出を行っているか否か,破産手続開始の決定を知っているか否かを確認する義務を負うものではない。

 特に本件においては,原告は,債権回収を行うことを業とする専門機関であったにもかかわらず,官報やインターネットでの確認を怠ったのであり,破産管財人には,このような原告に対してまで,本件開始決定を知っているか否かを確認すべき義務はない。

(3)過失相殺

         (中略)

第3 当裁判所の判断
1 被告Y1から被告Y2への本件残高証明書の送付(上記第2の2(1)(被告Y1の主張)イ)について
 被告Y1は,同人が,令和元年7月25日、被告Y2に対し,本件申立ての申立書副本とともに,本件残高証明書をファクシミリにより送信したと主張し,これに沿う供述をするところ(乙5,被告Y1本人),被告Y2はこれを否定している(被告Y2本人)。
 上記の被告Y1の供述については,これを裏付ける証拠がない上に,被告Y2に本件申立ての申立書副本を送付した際の書類送付書に本件残高証明書が送付資料として記載されていないこと(丙2)に照らすと,信用できない。 
 したがって,上記の被告Y1の主張事実を認めることはできない。

2 争点1(被告Y1の注意義務違反)

         (中略)


3 争点2(被告Y2の注意義務違反)
(1)上記第2の1によれば,原告が,本件開始決定前に本件弁済により本件求償金債権を取得していたため,本件開始決定時点においてその破産債権を有していたが,本件破産裁判所から開始決定通知を受けておらず,本件求償金債権について破産債権の届出をしなかった事実が認められるところ,本件債権者一覧表のB銀行の2つの債権のうちの1つである本件借受けに係る債権には,その備考欄に原告に対して代位弁済を請求する予定である旨が記載されており(上記第2の1(3)イ),さらに,B銀行から提出された本件破産債権届出書には,本件借受けに係る債権の記載がなく,他方,原告からの破産債権の届出はなかったことから(同キ),破産管財人である被告Y2において,債権届出期間が経過した以降,上記事実を認識することは可能であったといえる。

すなわち,原告が破産債権者である事実を破産会社から直接伝えられたわけでもないので,原告が破産債権者ではない可能性は排除できなかったとしても,被告Y2において,本件債権者一覧表に記載のない債権者として原告の存在をうかがうことができる場合であったと認められる。

 そこで,破産管財人は,破産者が提出している債権者一覧表に記載のない新たな債権者の存在がうかがわれた場合には,破産者に確認するなどの調査を行い,その結果,新たに存在が確認できた債権者を破産裁判所に報告する義務を負っている,とする原告の主張の当否について検討する。

(2)ところで,破産管財人は,善良な管理者の注意をもって,その職務を行わなければならず,破産管財人がこの注意を怠ったときは,利害関係人に対し,損害を賠償する義務を負うところ(破産法85条1項,2項),この善管注意義務違反に係る責任は,破産管財人としての地位において一般的に要求される平均的な注意義務に違反した場合に生ずるものと解されるが,そのような注意義務の具体的な水準については,破産法の諸規定及びその趣旨を斟酌して,決せられるべきものと解される。

 そこで関連する破産法の諸規定についてみるに,まず,裁判所は,破産手続開始の決定をしたときは,決定及び決定と同時に定めた事項を官報に掲載して公告するとともに,知れている破産債権者に対してこれと同様の事項を記載した開始決定通知をするものとされており(破産法32条1項,3項1号,10条),こうした公告及び開始決定通知については,破産管財人の職務とはされていない。そして,裁判所は,書面の送付その他通知に関する事務を破産管財人に取り扱わせることができることから(破産規則7条),開始決定通知に関する事務を破産管財人に取り扱わせることができるものの,その場合であっても,その法的な責任の所在が変わるものとは解されない。

 次に,破産管財人は,届出のあった破産債権について認否すべきものとされており(破産法121条1項等),破産管財人について,届出のない破産債権についての認否及びその前提としての調査を義務付ける破産法上の規定はない。他方,破産手続開始の申立てをする債務者は,債権者一覧表を提出しなければならないとされており(破産法20条2項),また,破産手続開始の申立てと同時に免責許可の申立てがなされた場合に債権者名簿とみなされる債権者一覧表に破産者が知りながら記載しなかった請求権については免責許可決定の効力が及ばないとされている(破産法253条1項6号,248条5号)ことからすると,少なくとも,破産法の個別規定上は,知れている破産債権者が誰であるかの調査及びその申告の負担は専ら債務者が負うものであることを前提に規定がされているものと解される。

また,破産法10条4項は,同法の規定により裁判の公告がされたときは,特別の定めがない限り,一切の関係人に対して当該裁判の告知があったものとみなすとしており,破産事件における利害関係人の手続保障は,原則として,公告によって図ろうとしているものと解されるから,開始決定通知がなされなかった債権者についても,開始決定の公告がなされている限り,最低限の手続保障は与えられているというべきであり,これに関して破産管財人の責任を認めるべき個別規定がないにもかかわらず,一般的な注意義務規定(破産法85条)を根拠として破産管財人の賠償責任を認めなければならないほどの不利益が当該債権者に生じるものとはいい難い。

 さらに,破産法は,届出がなくとも配当を行う旨の立法を採用せず,破産手続に参加しようとするためには,債権者が自ら債権を届け出なければならないとして(破産法111条1項),債権届出をして権利行使をするか否かは破産債権者の自由な意思に委ねているところ,そのような法の建前からすると,債権者一覧表に記載され開始決定通知を受けている破産債権者から破産債権の届出がされていない場合はもちろん,債権者一覧表に記載されていない債権者からその懈怠により破産債権の届出がされていない場合(なお,後記4での検討によれば,本件の原告についてはこの場合であるとの評価が可能である。)に,特定の破産債権の届出がなされることに向けて破産管財人が積極的に動くことは,破産債権の届出をしている破産債権者と破産債権の届出を懈怠している破産債権者を,同じ破産債権者ということで,一見平等に扱おうとするものであるが,その結果,前者の配当が減少する事態を招きかねず,そうすると,積極的に自己の権利を保全しようとする者に対して法が予定していない不利益を与えることになりかねないし,また,届出をしていない破産債権者が他にも存在していてこれに破産管財人が気付いていないような場合には,その者との取扱いを不平等にすることになりかねず,そうであれば,破産管財人が特定の破産債権の届出がなされるために積極的に動くことは,むしろ破産管財人の職責の中立性の観点から問題がある,とする考え方も直ちに否定できるものではない。

(3)以上の検討によれば,一般に,破産管財人は,破産者が提出している債権者一覧表に記載のない新たな債権者の存在がうかがわれた場合には,破産者に確認するなどの調査を行い,その結果,新たに存在が確認できた債権者を破産裁判所に報告すべき注意義務を負っているものとは認められない。

なお,新たな債権者の存在がうかがわれるというだけにとどまらず,債務者(破産者)から新たな債権者の存在を破産裁判所に連絡するよう依頼されたなどの事情により,破産管財人が新たな債権者の存在を明確に認識しているような場合における破産管財人の注意義務については,別論というべきであるが,上記1によれば,本件はそのような場合であるとはいえない。

 以上のとおりであるから,本件行為〔3〕及び本件行為〔4〕について被告Y2の注意義務違反をいう原告の主張は,その前提となる破産管財人の注意義務の存在を認めることができないから,理由がない。

         (中略)


第4 結論
 以上によれば,原告の被告Y1に対する請求は,主文第1項に掲げる限度で理由があり,その余は理由がないから棄却することとし,原告の被告Y2に対する請求は,理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 大寄久 裁判官 大森隆司 裁判官國原徳太郎は,転補につき,署名押印することができない。裁判長裁判官 大寄久)
以上:5,898文字

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