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パワハラ行為に消滅時効と特定不十分として請求棄却した地裁判決紹介

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令和 3年12月 8日(水):初稿
○「パワハラ行為一部に消滅時効を認めた地裁判決紹介2」の続きで、同様にパワハラ等での損害賠償請求について、消滅時効とさらにパワハラ等について、特定がなく主張自体失当とした平成28年2月23日東京地裁判決(LEX/DB)を紹介します。

○事案は、被告会社の従業員であった原告が、同社の代表者である被告P2から、パワーハラスメント及びセクシャルハラスメントを受けたとして、同被告に対しては民法709条に基づき、被告会社に対しては会社法350条に基づき、683万円損害賠償等を求めたものです。

○これに対し、東京地裁判決は、原告の主張を前提とするとしても、原告の被告らに対する損害賠償債権は、一部消滅時効が完成しており、時効完成していない行為については、被告らからパワーハラスメント及びセクシャルハラスメントの要件事実を明らかにするようにとの釈明を受け、その具体的な日時、場所及び行為を特定するために提出した準備書面でも、具体的な行為を明らかにしないので、原告による同月における不法行為についての主張はそれ自体で失当であるとして、原告の請求を棄却しました。

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主   文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は,原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求

 被告らは,原告に対し,各自683万3219円及びうち600万円に対する平成23年7月1日から,うち83万3219円に対する平成27年7月8日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
 本件は,被告SKインターナショナル株式会社の従業員であった原告が,同社の代表者である被告P2から,パワーハラスメント及びセクシャルハラスメントを受けたとして,同被告に対しては民法709条に基づき,被告インターナショナル株式会社に対しては会社法350条に基づき,一部請求として,損害賠償並びにその遅延損害金の支払を求める事案である。

1 前提事実
 以下の事実は,(6)が当裁判所に顕著である外は,当事者間に争いがない。
(1)被告SKインターナショナル株式会社(以下「被告会社」という。)は,ミネラルウォーターの製造・販売等を行う株式会社であり,被告P2(以下「被告P2」という。)は,被告会社の代表取締役である。
(2)原告は,平成21年6月30日から平成23年6月30日まで,被告会社に営業部長兼事業部長として勤務し,ミネラルウォーターの製造・販売・輸出事業に関する営業を担当していた。
(3)被告会社の忘年会が平成21年12月にヒルトン東京で行われ,二件目として赤坂のクラブに移動した。
(4)被告P2及び原告は,平成22年3月上旬,長野県内の工場に出張に行き,ホテルアンビエントに宿泊した。
(5)原告は,被告らに対し,平成26年6月30日,被告P2の原告へのパワーハラスメント及びセクシャルハラスメントを理由として600万円の損害賠償を請求した(以下「本件催告」という。)。
(6)本件訴えは,平成26年12月26日に提起されている。
 被告らは,原告に対し,平成27年11月24日の第3回口頭弁論期日において,原告の被告らに対する本件請求に係る損害賠償債権につき消滅時効を援用する旨の意思表示をした。

2 当事者の主張
(1)原告の主張

ア 被告P2は,原告に対し,平成21年7月から平成23年6月末頃まで,別紙1の(1)から(5)まで及び別紙2の(2)から(13)まで(ただし,別紙2中「訴状第2の2」とあるのは「別紙1」と改める。)のとおりのパワーハラスメント及びセクシャルハラスメントを行った。したがって,被告P2は,原告に対し,この行為につき不法行為責任を負う。

イ 被告P2のアの行為は,被告会社の職務上の地位を濫用し,又は職務遂行中に職務に関連してされているから,被告会社は,会社法350条に基づき原告に生じた損害を賠償する責任を負う。

ウ 原告は,被告P2のアの行為を受けたことで,精神的苦痛を受け,それが原因で心身に疾患を抱え,退職を余儀なくされた。そうすると,原告には,被告P2のアの行為により,原告の精神的苦痛を慰謝するための慰謝料として300万円の損害及び逸失利益として原告の月給の6か月分相当額300万円の損害が生じ,また,その治療費として21万3250円の損害が生じた。また,原告は,原告代理人に本訴を依頼しており,被告P2のアの行為により,弁護士費用62万1201円相当の損害を被った。

 以上によれば,被告らは,原告に対し,各自〔1〕慰謝料300万円,〔2〕逸失利益300万円,〔3〕治療費21万3250円及び〔4〕弁護士費用62万1201円相当の損害合計683万4451円のうち683万3219円並びに上記〔1〕と〔2〕の合計600万円に対する不法行為の日の後である平成23年7月1日から,上記〔3〕と〔4〕の合計のうち83万3219円に対する不法行為の日の後である平成27年7月8日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払義務がある。

エ 原告は,被告P2の継続的不法行為によって,抑うつ状態,胃潰瘍,メニエル病で3か月の自宅療養及び通院加療が必要との診断を受け,平成23年6月30日に被告会社を退職したから,消滅時効の起算点は,早くとも同日であるところ,被告らに対し平成26年6月30日に本件催告をしているので,被告主張の消滅時効は中断している。

(2)被告の主張
ア 原告主張の被告P2の不法行為は,特定されていない。また,被告P2が原告に対しパワーハラスメント及びセクシャルハラスメントをしたことはない。

イ 不法行為に基づく損害賠償請求権及び会社法350条の責任は,3年の短期消滅時効にかかる。原告の主張する被告らの損害賠償債権の消滅時効の起算日は,原告主張の不法行為の最後の時期である平成22年3月上旬であり,また,遅くとも原告がたまきクリニックを受診した平成23年6月28日であるから,平成25年3月上旬又は平成26年6月28日の経過をもって,その消滅時効が完成している。

3 争点
(1)原告による被告P2の不法行為主張の適否及び被告P2の不法行為の有無

(2)原告の被告らに対する損害賠償債権の消滅時効の起算点は,平成23年6月30日の前であるかどうか。

第3 当裁判所の判断
1 原告による被告P2の平成23年6月における不法行為主張の適否(争点(1)の一部)及び消滅時効の起算点(争点(2))について
 原告は,被告P2から,平成21年7月から平成23年6月末頃までパワーハラスメント及びセクシャルハラスメントを受けた旨主張するところ,訴状においては,「被告P2からのパワーハラスメント,セクシャルハラスメントは,その後も平成23年6月頃まで継続した」と記載するものの,平成22年3月上旬後の具体的な行為を明らかにせず,被告らからパワーハラスメント及びセクシャルハラスメントの要件事実を明らかにするようにとの釈明を受け,その具体的な日時,場所及び行為を特定するために提出した平成27年11月24日付けの準備書面でも,
「平成23年5月には,一週間の中国出張から帰国した被告P2が,留守中の報告に対していつも以上に尋常でない大声を出し,物を投げ捨てるなどすることがあった。この頃には,原告は,被告P2からあまりにも大声で罵倒,威圧されるため,頭が痛くて食事も喉を通らない状態が続いていた」
と主張するにとどまり,平成23年6月における具体的な行為を明らかにしないので,原告による同月における不法行為についての主張はそれ自体で失当というほかない。

そして,原告が同月30日に被告会社を退職したことは,原告の主張の内容に照らしても,不法行為を構成するとみることはできない(なお,原告主張の逸失利益の損害は,休業による損害の主張と善解することができる。)。

そのため,原告の主張を前提とするとしても,原告主張の被告P2による不法行為の内容に鑑みれば,最後の加害行為の日となり得る同年5月31日には,遅くとも,原告において,被告に対する賠償請求をすることが事実上可能な状況の下に,それが可能な程度に,加害者のみならず,その損害を知ったということができる。

これに対し,原告は,平成23年10月3日に「うつ病」と診断され,平成24年1月4日には更なる治療が必要との診断を受けたので,原告の被告らに対する損害賠償債権につき消滅時効が完成していない旨の主張もする。

しかし,証拠(甲1,2)によれば,原告は,平成21年8月頃からかおり内科クリニックを胃腸障害,頭痛,肩こりの症状にて受診し,同クリニックのP3医師から,平成23年6月20日には抑うつ状態,胃潰瘍,メニエル病との診断を受け,また,たまきクリニックのP4医師から,同月28日には,身体症状が著しく,原告が神経衰弱状態であるとの診断を受けていることが認められる。

この事実に照らすと,仮に原告が同年5月31日には原告主張の被告P2による不法行為による損害の発生を現実に認識したとはいえないという余地があるとしても,原告は,被告らが主張する同年6月28日の時点では,抑うつ状態等にあり,かつ,神経衰弱状態にあったから,遅くとも,同日には,原告主張の心身疾患等による同損害の発生を現実に認識したということができる。

したがって,原告主張の被告P2に対する不法行為及びそれを理由とする被告会社に対する会社法350条に基づく損害賠償債権の消滅時効の起算点は,遅くとも平成23年6月28日であるので,同債権については,平成26年6月28日の経過により,消滅時効が完成しているということができる。
 

2 以上によれば,争点(1)のうち平成23年6月時点におけるものを除く原告による被告P2の不法行為主張の適否及び被告P2の不法行為の有無の判断はともかく,損害の点を検討するまでもなく,原告の被告らに対する請求は認められないことが明らかである。

第4 結論
 以上のとおり,本件請求には,いずれも理由がない。
東京地方裁判所民事第13部
裁判官 河合芳光

(別紙1)
(1)原告が被告会社に入社した平成21年7月頃以降,原告は被告P2から毎日のように夕食に誘われ、予定があっていけないと伝えても「社長の言うことが聞けないのか」などと怒鳴られるため、付き合わざるを得なかった。このようなとき、被告P2からは他人の悪口を聞かされるのが常で、時には朝方まで付き合わされた。
 原告は、寝不足でふらふらしながら出勤し、猛暑の中、ミネラルウォーターのサンプルや資料合計5~7キログラムくらいを持って外回りの営業に出るなどしていたが、被告P2にめまいを訴えるなどしても、毎日のようにヒルトンに呼ばれ、食事と酒に付き合わされた。

(2)被告P2は、原告の勤務期間中、日常的に、原告やその他の社員に対して、長時間、大声で理不尽に怒鳴りつけることがしばしばであった。
 例えば、原告がインターネットで見つけて見積もりをとった業者について、「関係があるから安くしろと言えないんだろ」と怒鳴り続けられたり、全く関係のない他の社員との仲を妄想して「P5と付き合ってるんだろう」などと、数時間も怒鳴り散らされるなどした。

 また、被告P2は、原告に対して、「誰それの売り上げが悪いからクビにしろ」、「お前は管理職に向いてない」「今までどんな仕事をしてきたのか、管理職は知人を呼ぶことにしたから、お前は辞表を出せ」「慈善事業じゃないんだ、給料返せ」などと、毎日のように電話を頻繁にかけてきた。仕事中でも、打合せ前だと説明しても、電話では一方的に怒鳴るだけで、多いときには一日に50回以上、切ってもまたかかることが続いた。
 帰宅後にも被告P2から電話がかかってくることがしばしばであり、長いときには午前2時過ぎまで切らせてもらえないこともあった。

(3)平成21年12月には、被告会社の忘年会がヒルトンで行われ、原告がその準備や司会等を任されたが、「料理が出てくるのが遅いから2時間じゃなかった。あんなの詐欺だ」と、被告P2がイライラし始めたため、2件目は赤坂のクラブに移動した。ところが、被告P2が他の社員らを殴ったり髪を引っ張って地面に倒すなどの暴力を振るったため、原告は、解散しようとしてタクシーを探しに大通りに向かったが、すぐに被告P2から電話が入り、「赤坂見附の駅にいるから今すぐ来い」「どうせP5とホテルにいるんだろう」「ヒルトンにぼったくられた」「早く来い」等という留守番電話が残っていた。

 その後も、朝方まで何度も被告P2からの着信があったが、わけもなく怒鳴り散らされた疲れと町中で社員を殴る様子への不安から、原告は着信音を切っておいた。

 翌朝、原告が出勤後も、朝から「P5と一緒だったから出なかった」「ホテルに行ったんだろう」「給料返せ」「俺がいくら払ったと思ってるんだ」などと同じことを被告P2から電話で言われた。被告P2からの電話は、昼も夕方も帰宅後も続いた。

(4)平成22年1月2日には、被告P2に勝手に決められ、新宿で、被告P2と会うことになった。被告P2と休日に会うのはこれが初めてであった。

 このころにも、原告は、被告P2から毎晩のようにミーティング名目でヒルトンビュッフェに誘われ、被告P2の一方的な話に付き合わされることがしばしばであった。食後に二件目の酒の誘いを断っても、「社長に付き合うのは当たり前」などと言われ、帰途に改めて呼び出され、2件目のバーに同席させられることもあった。

 被告P2の酒量はこの頃は特に多く、中国式だと言って原告も意識がもうろうとなるほどに飲まされることがあった。このようなつきあいによる睡眠不足から、原告の疲労と心労は溜まるばかりであった。

(5)平成22年3月上旬、被告P2の車で長野の工場へ出張に出掛けたが、予定より到着が遅くなり、P6工場に近いホテルアンビエントに宿泊することとなった。
 原告には宿泊の予定がなかったため、ホームセンターに寄ってもらい、原告が着替えと化粧品を購入して車に戻ったところ、被告P2の態度が急変し、「今まで払った給料を3倍にして返せ」「金がないなら親の名前で1000万払うと紙に書いて渡せ」「社長の悪口をお前ら全員でしゃべっているんだろう」などと大声で脅された。

 その後、場所をホテルの被告P2の部屋に移して、20時頃から午前6時頃まで、被告P2に怒鳴られ続け、原告は、水を飲むこともできず、意識がもうろうとするばかりであった。
 その会話の仲で、原告の交際相手に関する言及があったことから、原告が自分の携帯の中を見ていないか聞いたところ、被告P2は、当初は否定したが、その後、原告が買い物に行った間に原告の携帯の中を見たことを認めた。

 これを聞いた原告は部屋に戻りたいと言ったが、すぐには許されず、さらにエスカレートした猛烈な怒りと罵声がその後も続いた。
 早朝6時過ぎになってやっと「少し寝よう」と言われ、原告は自分の部屋に戻った。
 ふらふらしていた原告がスーツのままベッドに倒れ込んで寝ようとしたところ、被告P2が入ってきて、原告は被告P2に強姦された。原告はかなり抵抗したものの、既に疲れ果てて体に力が入らず、なすすべがなかった。被告P2は「俺も男だから」と言っていた。

(別紙2)

         (中略)

(10)平成23年1月中旬頃、原告が取引先の定例提案会に参加するために外出しようとしていたところ、被告P2がいきなり大声で怒鳴りはじめ、原告が首に書けていたセキュリティカードや会社用携帯電話、提案資料、名刺などを、「あれを出せ、これも出せ」というように騒ぎ立てたうえ、原告が襟に付けていた社員章をはぎ取って床に捨て、「お前など社員としてふさわしくない」「今日で最後だ、出ていけ。二度と会社に入るな」と言って原告を追い出す出来事があった。
 被告P2はものすごい剣幕でわめき散らしていたため、原告は何を言われているのか分からなかったが、やむを得ず会社近くの喫茶店に避難した。数分後、会社の事務から「商談会に行って欲しいと社長が言っているので戻ってください」という電話があった。

(11)原告は、ほとんど休みなく働き続け、平成23年3月頃には被告会社の水事業の売上は上がっていた。原告は引き続き被告P2から連日のように昼は怒鳴られ、夜は酒に誘われ、さらにひっきりなしの電話を受けていたが、月に一度通院していた厚生年金病院の医師から、ストレスが多くこのままでは精神病になってしまうと、再度の入院を強く勧められた。

 そのことを原告が被告P2に電話で報告すると、「また会社に迷惑をかけるのか」「減給でも皆頑張っているのにお前はサボるのか」「こんな大事なときに何を考えているんだ」「ガンで明日死にますという人以外は全員仮病だ」「入院して仕事から逃げる気だろう」などと、大声で怒鳴り散らされた。
 入院後も、前回の入院と同様、毎日何十回も被告P2から電話があり、担当の医師から「携帯電話をナースステーションで預かりますか?」と言われる状況であった。
 原告は平成23年3月12日に退院し、当日に出社して被告P2に診断書を提出しようとしたが、突き返された。

(12)東日本大震災の影響で水の需要が増え、退院して以降も多忙な日々が続いたが,業務のみならず、被告P2による酒食の共用や頻繁な電話も続いていた。
 平成23年4月上旬頃、βのカラオケ店で、被告P2は、2曲ほど歌った後、急に原告の体を触りはじめ、原告を押し倒して性行為を強要した。 

(13)平成23年5月には、一週間の中国出張から帰国した被告P2が、留守中の報告に対していつも以上に尋常でない大声を出し、物を投げ捨てるなどすることがあった。

以上:7,284文字

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