仙台,弁護士,小松亀一,法律事務所,宮城県,交通事故,債務整理,離婚,相続

旧TOPホーム > 交通事故 > 交通事故判例-その他後遺障害関係 >    

自賠責後遺障害非該当を14級後遺障害認定地裁判決紹介4

   交通事故無料相談ご希望の方は、「交通事故相談フォーム」に記入してお申込み下さい。
令和 7年 6月21日(土):初稿
○「自賠責後遺障害非該当を14級後遺障害認定地裁判決紹介3」の続きで、自賠責後遺障害非該当認定を14級後遺障害と認めた令和4年9月21日名古屋地裁判決(交通事故民事裁判例集55巻5号1272頁)関連部分を紹介します。

○頸部痛につき自賠責保険の事前認定においては後遺障害非該当とされた被害者(男・21歳・大学生(卒業後公務員))が14級に該当するとして、468万円の損害賠償請求を求めました。これに対し被告側では、後遺障害は認められないと厳しく争いました。

○判決は、本件事故により原告の頚部に相当程度の衝撃等が加わり、現に原告には本件事故後から頚部痛が生じ、この症状は治療に伴って徐々に回復するも一定程度の症状を残して症状固定に至ったものと認められ、その症状も日常的に生じているものと評価できるところ(なお、本件における後遺障害の認定に当たり、たとえば原告の体勢等と無関係に常時疼痛が生じていることまでが要件として求められるものとは解されない)、原告が主張する右頚部痛については、「局部に神経症状を残すもの」として、14級9号に該当するものと認められるとしました。

********************************************

主   文
1 被告は、原告に対し、311万1108円及びこれに対する平成30年10月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを3分し、その1を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
4 この判決は第1項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求

 被告は、原告に対し、468万2825円及びこれに対する平成30年10月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
 本件は、原告が、被告が運転する自動車が対向車線にはみ出して原告運転に係る自動車に正面衝突する交通事故が発生し原告が傷害を負ったとして、被告に対し、民法709条及び自賠法3条に基づき、人的損害賠償金468万2825円及びこれに対する不法行為(交通事故)の日である平成30年10月27日から支払済みまで民法(ただし、平成29年法律第44号による改正前のもの。以下、利率について同じ。)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

1 争いのない事実等

     (中略)

第3 争点に係る検討・判断
1 認定事実
(証拠の記載は、枝番があるものは枝番を含む。)
(1)本件事故状況等(甲1、2、32、33、原告本人)
 原告は、本件事故当時、京都市内の大学の4回生であり、硬式野球部に所属していた。本件事故当日、原告は、滋賀県で開催される野球の試合に出るために、野球部の後輩やマネージャーを同乗させ、原告車を運転していた。
 本件道路(本件事故現場付近)は、片側1車線のいわゆる山道である。本件事故現場付近は急カーブになっており、本件事故当時、路面は濡れていた。

 原告は、原告車を運転し、本件道路をb方面からc方面に向けて進行していた。この際、原告車には、助手席に1人、後部座席に3名の同乗者がいた(後部座席の3名についてはシートベルトを着用していなかった。)。

 本件事故の際、被告は、被告車を運転し、実家に向かうべく、本件道路をc方面からb方面に進行していた。被告は、本件事故に至るまでの間、直線道路では時速100km以上出すなどしており、時速80km程度で本件事故現場に差し掛かり、カーブをうまく攻略しようなどと考え、(いつも曲がっている時の時速40kmよりも早い)時速50~60kmまで減速し、カーブに入ろうとハンドルを切ったが、カーブを曲がり切れず、被告車を対向車線にはみ出させ、被告車の右前部を対向してきた銀色の自動車(ホンダフリード。以下「訴外自動車」という。)の右後部にすれ違いざまに衝突させ、さらに対向車線上を走行させた上、同車線上で原告車と正面衝突させた(他方、原告車は、カーブに差し掛かった際、時速30km程度で走行していた。)。

     (中略)

2 争点(原告の損害の内容。特に後遺障害の有無。)についての検討・判断
(1)後遺障害の有無について

ア 上記認定事実を踏まえて検討するに、相当程度の速度で走行する車両同士の正面衝突という本件事故の態様、原告車及び被告車の損傷状況等に照らすと、本件事故により原告の頚部には相当の衝撃や負荷が加わったものと推認される。
 そして、原告の供述のほか医療記録に現れた通院経過について検討しても、原告は、本件事故後症状固定に至るまで、首の向きを変えたとき等の日常動作に係る頚部の症状を訴え続けているといえるのであり(その状況や内容については後述する。)、症状固定と診断された令和2年9月30日以降においても、上を向くときや左を向くときの首の痛みがとれず、パソコン作業を続けた際や自動車の運転の際等に痛みを感じたり、就寝に伴う症状を和らげるために枕を使い分けるなどしており、日常的に(特殊な動作や運動をした際などに限られるものではなく)痛みを感じる状況がある。

 そして、原告の主治医も、相当長期間に及んだ治療状況を踏まえ、原告の症状について「かわりなし」との見通しを示している。
 以上は、原告に後遺障害が残存したことを示す有力な事情である。

イ これに対し、被告は、原告が本件事故後野球の試合に出場していることなどから、原告の主訴が信用できないなどと指摘する。確かに、原告は本件事故に近接した時期に野球の練習や試合に参加又は出場しており、このことは、当時、原告が一定の運動が可能な状態であり、さほど重い症状が生じていなかったことを示すものとはいえる(少なくともある程度激しい運動が可能な状況であったといえる。)。しかし、本件に係る原告の主訴、症状、診断等に照らしても、当時野球の練習をしたり試合に出場すること自体が不可能又は著しく困難な状況ではなかったといえるし(原告主張に係る傷害ないし後遺障害は、そこまで重篤な内容のものではない。)、原告は、この時期においても、頻度は相当低いものであるが医療機関において頚部痛を継続して訴え続け、投薬治療等を受けていたものであり、必ずしも原告が野球をしていたことをもって原告の主訴に係る症状ないし後遺障害の存在が否定されるものではない。

 上記に関連して、原告の本件事故後数か月の通院状況を見るに、原告は、平成31年1月までの間、本件事故当日の救急搬送を除けば1か月に1回しか通院しておらず、その後に通院の頻度が増している。通常、交通事故の直後に最も重い症状があり、それが治療によって改善していくという経緯が想定されるところ、原告のこうした通院状況は、原告の症状の一貫性ないし後遺障害の残存に疑問を生じさせるものであるといわざるを得ない。

しかし、原告は本件事故後数か月の期間、卒業間近ということもあり、卒業論文の作成を行っており、比較的多忙な状況にあった旨の事情は指摘できるし、この間も投薬治療等は継続しており、その後に物理療法を希望して転医し、リハビリ等の治療を開始ないし継続したという経緯からすると、原告の通院経過がおよそ不自然とはいえず(繁忙状況に応じて限られた回数のみ通院して投薬治療等を受けたが、症状が思うように改善しないため、次の治療法を模索して物理療法を希望するに至ったなどの事情がうかがわれ、こうした経緯はおよそ不自然であるとはいえず、本件事故後数か月の通院経過をもって直ちに原告の主訴が信用できないとか当時通院の必要性がなかったなどとはいえない。)、この点が原告の症状等を否定すべき事情であるとまではいえない。

 また、被告は、医療記録の記載等を踏まえ、原告の症状が一貫性に欠けることや、さらなる改善可能性がないとはいえないことなどを指摘する。たしかに、原告の症状については、医療記録上、たとえば運転やデスクワーク等に際し、疼痛があったりなかったりしている。

しかし、原告の職務内容等については、その時期によってデスクワークの多少等の差異があると認められ、こうした職務の内容や生活状況よって特に痛みが生じる状況が変化することはあり得るものであり、これを踏まえて原告が医師に症状について適宜の説明をした結果、医療記録上、原告が痛みを訴える状況等に種々のものがみられることになっても特段不自然とはいえない(すなわち、原告の仕事の状況等により疼痛を感じる場面の説明が変化することをもって、直ちにその症状に一貫性がないものとはいい難い。)。

他方、上記医療記録の記載に照らすと、原告は、左を向いたときや上を向いたときなど、頚部の動き等に伴って右頚部に痛みが生じることは継続して訴えているものと評価できるし、少なくとも原告が症状を訴える部位が変化したり、痛みが生じる状況が相互に矛盾するなど、およそ不自然で一貫性を欠くような事情はうかがわれない。また、原告の症状につき、将来的な見込みとして「かわりなし」とした症状固定に係る主治医の判断については、継続して頚部痛を訴える原告の主訴や治療経過等に照らして特段不自然な点はなく、その医師としての知見ないし医学的根拠、判断の合理性に問題を生じさせる事情もうかがわれない。

 以上を総合すると、本件事故により原告の頚部に相当程度の衝撃等が加わり、現に原告には本件事故後から頚部痛が生じ、この症状は治療に伴って徐々に回復するも一定程度の症状を残して症状固定に至ったものと認められ、その症状も日常的に生じているものと評価できるところ(なお、本件における後遺障害の認定に当たり、たとえば原告の体勢等と無関係に常時疼痛が生じていることまでが要件として求められるものとは解されない。)、原告が主張する右頚部痛については、「局部に神経症状を残すもの」として、14級9号に該当するものと認められる(なお、原告が、本件事故前から頚部の神経症状を有していたことをうかがわれせる事情はない。)。

     (中略)

(2)損害の内容(算定)について

     (中略)

カ 後遺障害慰謝料 110万円
 本件における原告の後遺障害の内容・程度等に照らすと、標記の金額が相当である。
(ここまでの小計383万0203円)

キ 損害の填補 ▲100万1923円
(ここまでの小計282万8280円)

ク 弁護士費用 28万2828円
 本件事案の内容、原告の損害等に照らすと、標記の金額を相当と認める。

ケ 以上合計 311万1108円

第4 結論
 以上によれば、原告の請求は、主文第1項の限度で理由があるからその限度で認容し、その余は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。
裁判官 小川敦

以上:4,397文字

タイトル
お名前
email
ご感想
ご確認 上記内容で送信する(要チェック

(注)このフォームはホームページ感想用です。
交通事故無料相談ご希望の方は、「交通事故相談フォーム」に記入してお申込み下さい。


 


旧TOPホーム > 交通事故 > 交通事故判例-その他後遺障害関係 > 自賠責後遺障害非該当を14級後遺障害認定地裁判決紹介4