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被害者の合理性を欠く判断での拡大損害部分責任を否認した地裁判決紹介

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令和 7年 5月20日(火):初稿
○被告の従業員が運転する車両を原告所有の車両を追突させたという交通事故よる車両損害について、原告が被告に対し、使用者責任(民法715条1項)に基づく損害賠償として、代車費用等合計約293万円の支払を請求しました。

○これに対し、原告が合理性を欠く判断をしたことによって損害が拡大した分について被告側に責任を負わせる合理的な理由は見出し難いなどとして、原告の主張する車両の修理費用、買替費用及び代車費用の一部を損害と認め、請求額のうち約164万円を損害と認めた令和6年3月15日東京地裁判決(LEX/DB)全文を紹介します。

○原告は、実際の修理期間約4ヶ月分の代車費用を請求しましたが、判決は代車費用は、買替を選択した場合に要する期間を基本とし、事故日から賠償額の提示があるまでの期間(11日間)は被害者(原告)側における検討に要する期間として、合計40日分を計上するのが相当として相当減額したようです。

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主   文
1 被告は、原告に対し、163万9118円及びこれに対する令和3年11月26日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、その9分の5を被告、その余を原告の負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 事案の概要

1 請求の趣旨(脚注*)(原告の求める判決)
 被告は、原告に対し、292万8723円及びこれに対する令和3年11月26日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。

2 上記請求は、令和3年11月26日午前4時30分頃、埼玉県北葛飾郡α大字β×××番地×付近で、被告の従業員が運転する車両を原告所有の「本件車両」に追突させた「本件事故」による車両損害について、使用者責任(民法715条1項)に基づく損害賠償と遅延損害金を請求するものである。

第2 争点整理の結果
1 被告が従業員の業務中に発生させた本件事故について使用者責任を負うことに争いはなく、損害費目について下記のとおり主張が対立している。

(表1)

2 補足すると、原告は修理を前提として各費用を損害として計上すべきと主張するのに対し、被告は、修理費について争うほか、経済的全損とも主張する。最も対立の大きい代車費用については、本件車両が損傷によって使用できない状態になり、原告の事業のために代車が必要となったこと、本件事故当日から修理終了(令和4年5月30日)まで代車を使用したことには争いがないが、代車を必要とする期間について主張が対立し、日額にも若干の争いがある。

第3 争点に対する判断(上記「裁判所」欄のとおり損害額を確定した理由)
1 次の事実は、当事者間に争いがないか、弁論の全趣旨と証拠(原告本人、証人C、甲9~12のほか掲記のもの)によって認定することができる。
(1)本件事故は、令和3年11月26日、大型貨物車両が赤信号で停止中の本件車両に追突したというものである。本件車両の後部は大きく凹み、荷台等にも相当の損傷を生じた(甲7)。原告も負傷し、通院を余儀なくされた。

(2)原告は、事故当日、知人である板金塗装業者(証人C)の作業場に本件車両を搬入し、修理と買替のいずれを選ぶべきかを相談した。

(3)Cは、知り合いのレンタカー業者を通じて代車を手配したが、原告に対して、法的には原告が借主として代車費用の支払義務を負うことや、加害者側が代車費用を全て負担するとは限らないことを全く説明しなかった。

(4)被告の任意保険会社(a)の担当者(D)は、令和3年11月30日の損傷状況確認を踏まえ、同年12月6日、当初提示の72万円を増額した96万2000円を賠償額の上限とする旨を連絡した。Dは代車費用を無制限で負担するとは約束していないが、上記(3)の経緯もあって、原告は被告側が代車費用を全て負担するものと思い込んでいた。

(5)原告は、本件事故によって負傷した部位の治療を行う一方、業務も繁忙期で多忙であり、代替車両が思うように見つからず、引き続き購入候補を探すか、本件車両を修理するかを決めかねていた。Dは、原告に対し、何度か電話をかけて早く対応を決めてほしいと申入れた。これに対し、原告は、令和4年1月になっても何ら確定的な返答はしなかった。

(6)Dは、令和4年1月7日付けの連絡文書(甲6)をもって、修理(車両部分72万2359円と荷台部分26万1338円)を前提とする賠償額を提示し、代車費用を負担するのは修理期間分だけであり、修理をしないのであれば同月15日以降の代車費用は負担しかねる旨を原告に通知した。これに対し、原告は、Cに相談するとともに、電話をかけてきたDに強く抗議した上、Dの説明を遮って一方的に電話を切った。原告は、同文書を、修理を決断すれば引き続きaが代車費用を負担するという意味に理解した。

(7)間もなくして、原告はCに修理を依頼した。Cは、本件車両の損傷がかなり深刻であり、修理には相当期間を要すると考える一方、令和4年2月頃まで他の車両を優先させて本件車両の修理に着手せず、着手後も納品した部品に不具合(甲18)があるなどしたため、修理完了は同年5月30日となった。aの別の担当者(E)は、修理状況を確認するたびにCに対して代車費用に触れながら早期の修理完了を促していた。

2 原告の損害額は、原告が代車を借り受け、その費用が発生することを前提として、修理と買替のいずれを選択するのが主に経済的観点から合理的かを検討して算定すべきである。そのような観点から検討した結果は、次のとおりである。
(1)修理費用
 本件車両の損傷状況、過剰な修理がなされた疑いがないことから、修理費用は原告主張の112万9447円を採用する(甲3、4、7)。

(2)買替費用
 本件車両は、初度登録が平成24年12月、走行距離9万5447kmの日産製ワンボックスカーであり、約10年前に約180万円で購入された中古車両である(甲3、原告本人)。書証(甲15、乙4)の内容を踏まえ、同程度の車両自体の再取得価格は96万2000円と認める。このほか、本件車両の荷台部分には原告の事業に用いるための加工がなされていることから、大きく損傷した本件車両(甲7)の荷台の修理に26万1338円を要するとの見積書(甲4)を参考に、購入車両への加工費用も同程度として算定する。

(3)代車費用
 請求書と示談交渉の録音(乙6、甲12・p1)により、代車費用の日額は9476円と認め、不当に高額ともいえないから同額を採用する。原告は修理には50日以上を要する見込みであったと主張し、修理業者(証人C)も同様の証言をしており、実際の修理には約4か月間を要している。これに対し、買替を選択した場合、1か月程度あれば荷台の加工を含め、購入した車両が使用可能となったと考えられる。このように、修理を選択した場合、原告が代車を連日借り受けることを前提とする限り、買替を選択した場合に比べて遥かに高額の代車費用が発生することが当時から明らかであったといえる。そこで,代車費用は、買替を選択した場合に要する期間を基本とし、事故日から賠償額の提示があるまでの期間(11日間)は被害者(原告)側における検討に要する期間として、合計40日分を計上するのが相当である。

3 原告の不満は、
〔1〕自身に過失のない事故による損傷について自己負担分が生じるのは納得できない、
〔2〕修理終了に至るまでの経過にも自身に落ち度はない、
〔3〕Dは、代車を手配する一方、修理で対応するよう指示していた、
〔4〕別の担当者も修理状況を確認しながら、特に異議を述べなかったというものである。 

 しかしながら、事故の責任と損害の算定とは別の問題である。被害者である原告にも損害(加害者に賠償させるべき金額)を不必要に拡大させることのないよう努める義務があり、被告側では原告に選択を強制することはできない。修理に相当長期間を要するのであれば、代車費用が高額となることは当然に予想されるし、原告自身、代車費用が自己負担であれば対応は異なったとも述べている。原告が合理性を欠く判断をしたことによって損害が拡大した分について被告側に責任を負わせる合理的な理由は見出し難い。なお、上記確定した事実経過のとおり、原告が修理等を依頼した業者の対応にも代車費用が不必要に高額となる原因となった面がある。原告の上記指摘は、いずれも上記判断を左右しない。

第4 結論
 以上の理由から、上記表「裁判所」欄のとおり算定し、原告の請求を主文第1項の限度で正当と判断した。仮執行免脱宣言を付すのは相当でない。
東京地方裁判所民事第27部裁判官 倉鋪卓徳

(脚注*)令和5年11月17付け訴えの変更申立書による変更後のもの
以上:3,641文字

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