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失業申立人夫の医師妻に対する婚姻費用分担請求を却下した家裁審判紹介

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令和 7年 5月21日(水):初稿
○夫である申立人は、令和2年10月頃からうつ病でD市公務員職を病気休暇し、令和3年1月から休職し、令和6年1月に退職して令和4年以降殆ど収入がなくなっており、産婦人科医師で令和4年約1904万円、令和5年約2034万円の収入がある妻に婚姻費用の分担を求め、相手方の妻は、申立人が有責配偶者であるとして,申立人による婚姻費用分担請求は信義則に反し,権利の濫用に当たるから,認められないと主張しました。

○これに対し、離婚が成立するまでは,あくまで法律上夫婦としての地位を有するのであるから,夫婦の一方が生活に困窮している場合には,その他方は,これを放置すべきではなく,少なくとも最低限度の生活を維持させる程度の生活扶助義務は免れないとしながら、申立人の収入は,令和3年以降,令和元年ないし2年当時と比較して大幅に減少してが,令和4年1月から令和5年7月まで非課税の傷病手当を受給し、令和5年8月以降,定期的な収入は得ていないが,令和6年2月には約1938万円の退職手当を受給し,本件マンションに居住し,その住宅ローンは相手方が返済し続けていたことから、申立人のうつ病が遷延していることを考慮しても,一人暮らしの申立人が生活に困窮していたとは認められないとして、申立を却下した令和6年9月24日水戸家裁土浦支部審判(判タ1530号109頁)関連部分を紹介します。

○申立人は東京高裁に抗告していますが、別な理由で抗告を棄却されており、別コンテンツで紹介します。

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主   文
1 本件申立てを却下する。
2 手続費用は,各自の負担とする。

理   由
第1 事案の概要

 本件は,夫である申立人が,別居中の妻である相手方に対し,婚姻費用の分担を求めた事案である。
 なお,申立人と相手方は,本件審判手続に移行する前の婚姻費用分担調停(以下「本件婚姻費用分担調停」という。)係属中の令和6年5月10日に裁判離婚した。

第2 当裁判所の判断
1 一件記録によれば,次の事実が認められる。
(1)申立人(昭和38年*月*日生)と相手方(昭和45年*月*日生)は,平成19年*月*日に婚姻した。
 申立人と相手方との間には,長男A(平成19年*月*日生。以下「長男」という。)及び二男B(平成22年*月*日生。以下「二男」という。)がいる。

(2)相手方は,平成30年3月22日,長男及び二男を連れて,自宅(申立人肩書地所在のマンション(以下「本件マンション」という。))から出て行き,以後,申立人と別居している。

     (中略)

(5)申立人は,昭和62年4月から平成17年3月までC町に,同月からD市に勤務する公務員であったが,うつ病により,令和2年10月頃から休養・加療を要する状態となり(甲7),病気休暇を取得し,令和3年1月27日から休職し,復職しないまま,令和6年1月15日に自己都合退職した(甲18)。申立人は,その後,就職しておらず,年金も受給していない。

 申立人の給与収入は,令和元年が約717万円(甲14),令和2年が約695万円(甲15)、令和3年が約462万円(甲2),令和4年が約28万円(甲16)である。申立人は,令和4年1月27日から令和5年7月26日まで傷病手当を受給しており,令和4年分の受給額は約322万円,令和5年分の受給額は約195万円(推計)である(甲17参照)。また,申立人は,令和6年2月29日,退職手当として約1938万円を受給している(甲18)。
 申立人は,相手方との別居後,本件マンションで一人暮らしをしている。 

(6)相手方は,産婦人科の医師であり,E病院に勤務するほか,産婦人科のクリニックで当直等をしている。
 相手方の給与収入は,令和4年が約1904万円(甲11,乙61),令和5年が約2034万円である(乙81,107)。
 相手方は,申立人との別居後,相手方肩書地所在の賃貸住宅で,長男及び二男と3人で暮らしている。

     (中略)

2 検討
(1)夫婦は,互いに協力し扶助しなければならないところ(民法752条),別居した場合でも,自己と同程度の生活を保障するいわゆる生活保持義務を負う。
 この点に関し,相手方は,申立人が有責配偶者であるとして,申立人による婚姻費用分担請求は信義則に反し,権利の濫用に当たるから,認められない旨を主張する。

 別居ないし婚姻関係の破綻について専ら又は主として責任がある者は,夫婦の協力義務を果たしていないといえ,このような者が,夫婦の他方に対し,同人と同程度の生活を保障することを内容とする夫婦の扶助義務の履行ないし婚姻費用分担を請求することは,権利の濫用として許されるべきではない。しかし,離婚が成立するまでは,あくまで法律上夫婦としての地位を有するのであるから,夫婦の一方が生活に困窮している場合には,その他方は,これを放置すべきではなく,少なくとも最低限度の生活を維持させる程度の生活扶助義務は免れないと解するのが相当である。

(2)そこで,まず,別居ないし婚姻関係の破綻についての申立人の有責性について検討する。
ア 一件記録によれば,申立人は,相手方の働き方や,相手方の親族との交際の仕方等に不満を持ち,平成20年頃から,飲酒の上で,相手方や相手方の親族に対する暴言を吐くようになったこと,平成23年7月頃,その頻度が高くなったことから,相手方は,長男及び二男を連れて家を出ていったこと,申立人が,平成24年3月,アルコール依存症であると告白し,治療を受け,断酒に努める旨約したことから,相手方は,同年4月,申立人との同居を再開したこと,申立人は,遅くとも平成27年12月頃から,相手方に対し,相手方や相手方の親族を誹謗する悪辣な内容のメッセージを繰り返し送信し,これを受けて,相手方が,申立人に対し,離婚を望む旨のメッセージを繰り返し返信していたこと,申立人は,平成29年3月8日,長男及び二男への叱り方を巡って,相手方と口論をした際,相手方の背部を平手で何度も叩く暴力を振るい,相手方の110番通報により,警察官が臨場する事態となったこと,相手方は,これを契機に長男及び二男を連れて本件マンションを出ていき,相手方の親族の家に身を寄せていたが,二男の卒園式が迫り,申立人が,飲酒をしたら離婚する旨の誓約書を書くと申入れたことなどから,同月24日に申立人との同居を再開したこと,相手方は,申立人が相手方の面前で飲酒し,酔って相手方に暴言を吐く状態が続いていることに耐えきれなくなり,平成30年3月22日,長男及び二男を連れて本件マンションを出ていき,その後,別居状態が解消されないまま,裁判離婚に至っていることが認められる。

イ また,一件記録によれば,相手方は,平成24年4月に申立人との同居を再開した後,当直勤務の同数を減らし,勤務先の飲み会への参加を控え,相手方の親族を申立人と相手方の住居に宿泊させないなど,申立人の相手方に対する不満を解消するための配慮をしてきたことが認められる。

 上記ア認定の事実経過に,上記イ認定の事情も併せて考慮すれば,申立人が,飲酒をやめず,相手方に暴力を振るい,相手方に対し,相手方や相手方の親族に対する暴言を繰り返したことにより,平成30年3月22日の別居及びその後の婚姻関係の破綻に至ったといえるから,その責任は,主として申立人にあると認めるのが相当である。

(3)次に,申立人が生活に困窮していたかを検討する。
 一件記録によれば,申立人が,平成22年6月以降,相手方に生活費を渡さなくなり,その分を貯蓄していること,申立人の収入は,令和3年以降,令和元年ないし2年当時と比較して大幅に減少しているものの,休職中は職業費が不要である上,令和4年1月から令和5年7月まで受給していた傷病手当は非課税であること,申立人は,令和5年8月以降,定期的な収入は得ていないが,令和6年2月には約1938万円の退職手当を受給していること,申立人は,本件マンションに居住し,その住宅ローンは相手方が返済し続けていたことが認められ,このような申立人の収入及び資産状況からすれば,申立人のうつ病が遷延していること(甲7)を考慮しても,一人暮らしの申立人が生活に困窮していたとは認められない。

(4)以上によれば,相手方が申立人に対して婚姻費用分担義務を負うとは認められず,申立人による婚姻費用分担請求は理由がない。


3 よって,主文のとおり審判する。
以上:3,502文字

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