令和 6年11月 8日(金):初稿 |
○「交通事故損害賠償請求権に対する仮差押効力について判断した最高裁判決紹介」の続きで、差戻控訴審令和4年4月7日東京高裁判決(判時2490号43頁、判タ1485号28頁)の概要を説明します。 ○事案概要復習です。 ・原告は、h22.9.19、C(当時14歳)・Hから強盗目的の暴行を受け急性くも膜下出血等重傷を負う(強盗致傷事件) ・Cの父亡Gは、h26.9.9、加害者被告との交通事故被害で死亡し、被告に損害賠償請求権取得 ・原告は、Cの強盗致傷事件被害としてCに約4822万円の損害賠償請求権、亡Gにも監督義務違反として同額の損害賠償請求権取得したとして、亡G相続人の被告に対する損害賠償請求権を仮差押申立 ・千葉地裁は、h27.11.13、上記仮差押命令 ・この仮差押命令に対し、被告は自賠法18条差押禁止部分を除いて弁済の意思ありと陳述 ・被告とCらは、亡G交通事故被害賠償金として約4053万円の支払義務を認める示談契約締結 ・被告はh28.10.20頃Cら代理人口座に約3000万円を振込送金して支払 ・原告はCらに対し、損害賠償請求訴訟提起し、h30.1.26、千葉地裁は約6417万円支払命令判決 ・原告はCら債務者、被告第三債務者とする債権について転付命令を得て、h30.3.28確定 ・被告は、転付命令について、h30.3.23、前記示談金から支払済み3000万円を控除した残額の支払意思ありと回答 ・原告は被告に対し、転付債権として約4822万円の支払を求めて提訴 ○原告の被告に対する請求事件での争点は、 ①仮差押後にした示談契約の効力-被告は有効と主張 ②被告の約3000万円の支払の効力-被告は有効と主張 ③亡Gの被告に対する損害賠償請求額-原告は約5410万円、被告は示談額と主張 ○結論復習です。 一審千葉地裁 主 文 1 被告は,原告に対し,4463万2789円及びこれに対する平成27年11月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 控訴審東京高裁 主 文 2 平成30年(ワネ)第159号(一審被告の控訴事件)について (1)原判決主文第1項を次のとおり変更する。 (2)一審被告は,一審原告に対し,1063万1840円及びこれに対する平成30年3月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 上告審最高裁 主 文 原判決中,上告人敗訴部分を破棄する。 前項の部分につき,本件を東京高等裁判所に差し戻す。 差戻控訴審東京高裁 主 文 (1)第1審判決主文第1項を次のとおり変更する。 (2)第1審被告は,第1審原告に対し,4598万1702円及びこれに対する平成27年11月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え ○差戻控訴審東京高裁結論は、一審千葉地裁の結論に戻り、損害額計算の違いで、少し増えています。 以下、差戻控訴審東京高裁判決の関連部分を紹介します。 結論として、交通事故の被害者が加害者に対して有する損害賠償請求権の仮差押えがされた場合、その効力は自動車損害賠償保障法16条1項に基づく直接請求権にも及び、加害者は、仮差押えの発令を認識していた保険会社がした同項の直接請求権に基づく自賠責保険金の支払の効力を主張することはできないとしました。 ********************************************* 第3 当裁判所の判断 1 認定事実 (中略) 2 本件差戻審の審判の範囲について (中略) 3 争点2(本件支払の効力)について (1) ア そもそも自賠法3条又は民法709条によって加害自動車の保有者及び運転者が被害者に対し損害賠償責任を負う場合,被害者及び加害者双方の利便のため,被害者が自賠責保険会社に対しても自賠法16条1項に基づく被害者請求権を有するとき,両債権は別個独立のものとして併存するものの(最高裁昭和39年5月12日第三小法廷判決・民集18巻4号583頁参照),自賠責保険が保有者が被害者に対して損害賠償責任を負担することによって被る損害を填補することを目的とする責任保険であり,自賠法16条1項が,被害者の損害賠償請求権の行使を円滑かつ確実なものとするため,損害賠償請求権行使の補助的手段として,被害者が自賠責保険会社に対して直接に責任賠償金を請求しうるものであるという同項の趣旨に鑑みると,被害者請求権の成立には被害者の保有者に対する損害賠償債権の成立が要件となっているとともに(最高裁平成元年4月20日第一小法廷判決・民集43巻4号234頁参照),被害者請求権は,交通事故の被害者の保有者に対する損害賠償請求権が第三者に転付された後においては,被害者は転付された債権額の限度で自賠法16条1項の被害者請求権を失うものと解される(最高裁平成12年3月9日第一小法廷判決・民集54巻3号960頁参照)。 そして,自賠法16条1項の被害者請求権が被害者の損害賠償請求権の行使を円滑かつ確実なものにするため,損害賠償請求権行使の補助的手段として,同請求権の成立を要件に自賠責保険会社に対して認められたものである以上,被害者請求権は損害賠償請求権の一部について成立するものというべきであるから,交通事故の被害者が加害者に対して有する損害賠償請求権が差し押さえられた場合,その効力は自賠法16条1項に基づく被害者請求権にも及ぶものと解するのが相当である。 イ これを本件についてみると,前記認定のとおり,第1審原告は,平成27年11月頃,本件事故による亡A1の第1審被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求権である本件各損害賠償請求権につき仮差押えを申し立て,同月3日,本件仮差押命令が発令されたこと,その後,平成28年10月20日になり,第1審被告が自動車保険契約(任意保険)を締結していた第1審被告任意保険会社は,本件相続人らに対し,本件事故に関する自賠法16条1項に基づく損害賠償額の支払請求権に基づき,3000万1100円の立替払を行ったこと,その際,第1審被告,本件相続人ら及び第1審被告任意保険会社ら本件仮差押命令の発令を認識していたこと,その後,第1審原告は,平成30年1月26日,第1審原告の本件相続人らに対する本件各請求債権に基づく請求を一部認容する旨の仮執行宣言付き判決(本件判決)を得て,これを債務名義として,本件各損害賠償権及びその遅延損害金につき,本件相続人らを債務者,第1審被告を第三債務者とする債権差押命令及び転付命令の申立てをし,同年3月7日,本件差押命令が発令され,同月28日に確定したことがそれぞれ認められる。 そうすると,本件支払は,本件相続人らが本件仮差押命令による仮差押えを受けた後にされたものであり,本件仮差押命令の効力は,本件相続人らの被害者請求権にも及ぶにもかかわらず,本件相続人ら及び第1審被告任意保険会社その他の関係者は,本件仮差押命令の発令を認識しつつ,上記立替払を行っている以上,第1審被告は,本件各損害賠償請求権の仮差押債権者であり,その後債務名義を取得した第1審原告に対し,本件支払の効力を主張することはできないものと解される。 (2)これに対し,第1審被告は,自賠法18条により被害者請求権は差押えが禁止されていることを根拠として,本件仮差押命令によっても,本件相続人らの被害者請求権は仮差押えをすることができないから,本件支払により,本件相続人らの第1審被告に対する損害賠償請求権(本件各損害賠償請求権)もその限度で消滅したものであり,本件仮差押命令による債権保全の期待は法的保護に値しない旨主張する。 しかしながら,自賠法18条は,自賠法16条1項に基づく被害者請求権の差押えを禁止しているものの,被害者が加害者に対して有する損害賠償請求権(自賠法3条)を差押禁止債権としていない以上,自賠法18条の趣旨は,自賠法16条1項に基づく被害者請求権が被害者の加害者に対して有する損害賠償請求権から分離された上で当該被害者請求権が差し押さえられることを排除することにあるものと解される。そうすると,自賠法18条を根拠に本件仮差押命令の本件相続人らの被害者請求権についての処分禁止効を否定することはできないから,第1審被告の上記主張は採用することができない。 4 争点3(本件各損害賠償請求権の金額)について 本件各損害賠償請求権の金額について検討すると,以下のとおりとなる。 (1)逸失利益 3243万1140円 (中略) (10)弁護士費用 0円 不法行為の被害者が,自己の権利擁護のため訴えを提起することを余儀なくされ,訴訟遂行を弁護士に委任した場合には,その弁護士費用は,事案の経緯,請求額,認容された額,その他諸般の事情を斟酌して相当と認められる額の範囲内のものに限り,不法行為と相当因果関係に立つ損害と言うべきところ(最高裁昭和44年2月27日第一小法廷判決・民集23巻2号441頁参照),本件において,本件相続人らは,第1審被告側との示談交渉をC弁護士に依頼したにすぎず、訴訟を提起しその遂行を弁護士に委任したものではないため,本件相続人らに弁護士費用損害が発生したと認めることはできない。 (11)総計 4598万1702円 5 以上によれば,本件各損害賠償請求権の金額は,4598万1702円と認められ,本件示談金額(4063万2940円)は上記金額を下回るから本件示談をもって第1審原告に対抗することはできず,また本件支払の効力も認められないから,第1審原告は,第1審被告に対し,4598万1702円及びこれに対する平成27年11月14日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。 6 よって,第1審原告の請求は,主文2項(2)の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がないから棄却すべきところ,これと異なる第1審判決は一部失当であって,第1審原告の控訴は理由がないから棄却し,第一審被告の控訴は上記の限度で理由があるからその限度で第1審判決を変更することとして,主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第21民事部 裁判長裁判官 定塚誠 裁判官 菅野正二朗 裁判官 神野律子 以上:4,178文字
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