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全損害から人身傷害保険金相当額全額は控除できないとした最高裁判決紹介2

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令和 6年 8月 8日(木):初稿
○「全損害から人身障害保険金相当額全額は控除できないとした最高裁判決紹介1」を続けます。
この最高裁判決第一審令和3年3月31日宇都宮地裁真岡支部判決(LEX/DB)での原告主張概要は以下の通りです。
・交通事故によって死亡したAの損害は、逸失利益約5780万円・死亡慰謝料3200万円その他治療関係費合計約8985万円
・Aの妻ら遺族は、補助参加人ソニー損保から人身傷害保険金6000万円受領し、未払金は約2985万円、確定遅延損害金は約561万円
・妻ら遺族の固有慰謝料各300万円、妻は葬儀費用約196万円
・損害結論は
原告妻は約2497万円(相続損害約1492万円・固有損害495万円・弁護士費用200万円)
原告子ら各約971万円(相続損害約497万円・固有損害300万円・弁護士費用80万円)


これに対し一審宇都宮地裁真岡支部判決判決は
・損害結論
原告妻は約3145万円(Aの損害の法定相続分2分の1・固有慰謝料葬儀費合計4492万円の70%相当額)
原告子らは各約1036万円(Aの損害の法定相続分6分の1・固有慰謝料合計1481万円の70%相当額)
・原告らが補助参加人から支払を受けた保険金は,人身傷害保険金ではなく,その全額が自賠責保険の立替払
・原告らが補助参加人から支払を受けた6000万円は,自賠責保険金として、全額,過失相殺後の原告らの損害に填補
原告妻の損害約3145万円に支払日までの確定遅延損害金を加えた額から自賠責保険金3000万円差し引き残額は約326万円
原告子らの損害各1036万円に支払日までの確定遅延損害金を加えた額から自賠責保険金1000万円差し引き残額は約96万円

二審令和3年11月17日東京高裁判決も、控訴人らが補助参加人から支払を受けた保険金は,人身傷害保険金ではなく,その全額が自賠責保険の立替払として支払われたものと認めるのが相当として、一審判決とほぼ同様の結論

○これに対し原告妻らは、妻に関しては、損害全額3145万円の内Aの過失部分30%相当額943万円は、人身傷害保険金としての受領であり、人身傷害保険金全額が自賠責保険の立替払とするのは誤りとして上告していました。

○これに対し、令和5年10月16日最高裁判決は、被害者を被保険者とする人身傷害条項のある自動車保険契約を締結していた保険会社が、被害者の遺族に対し、上記条項の適用対象となる事故によって生じた損害について、人身傷害保険金として給付義務を負うとされている人身傷害保険金額に相当する額の金員を支払った場合、上記金員について作成された仮協定書に自動車損害賠償責任保険からの損害賠償額の支払の立替払であることを確認する趣旨を含む記載があることがうかがわれないなど判示の事情の下では、その後、上記保険会社が自動車損害賠償責任保険から損害賠償額の支払を受けて上記遺族に対して追加で金員を支払ったことにより人身傷害保険金額を超える額の金員を支払うに至ったとしても、上記保険会社が上記遺族に対して当初支払った人身傷害保険金額に相当する額の金員については、上記遺族の加害者に対する損害賠償請求権の額から、上記保険会社が上記金員の支払により保険代位することができる範囲を超える額を控除することはできないとして、上告人の請求を認め、認容額を大幅に増額ました。

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主   文

1 原判決中、上告人らに関する部分を次のとおり変更する。
 第1審判決中、上告人らに関する部分を次のとおり変更する。
(1)被上告人らは、上告人X1に対し、連帯して、1901万0006円及びうち172万円に対する平成28年5月2日から、うち1729万0006円に対する平成29年11月18日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2)被上告人らは、上告人X2に対し、連帯して、613万5430円及びうち55万円に対する平成28年5月2日から、うち558万5430円に対する平成29年11月18日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3)被上告人らは、上告人X3に対し、連帯して、613万5430円及びうち55万円に対する平成28年5月2日から、うち558万5430円に対する平成29年11月18日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4)被上告人らは、上告人X4に対し、連帯して、613万5430円及びうち55万円に対する平成28年5月2日から、うち558万5430円に対する平成29年11月18日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(5)上告人らのその余の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟の総費用はこれを3分し、その1を上告人らの、その余を被上告人らの負担とし、参加によって生じた費用はこれを3分し、その1を上告補助参加人の、その余を被上告人らの負担とする。

理   由

     (中略)

4 しかしながら、原審の上記判断のうち、本件支払金3に関する部分は是認することができるが、本件支払金1・2に関する部分は是認することができない。その理由は、次のとおりである。

(1)本件約款によれば、人身傷害条項の適用対象となる事故によって生じた損害について参加人が保険金請求権者に支払う人身傷害保険金の額は、保険金請求権者が上記事故について自賠責保険から損害賠償額の支払を受けていないときには、上記損害賠償額を考慮することなく所定の基準に従って算定されるものとされている。

このような約款が適用される自動車保険契約を締結した保険会社が、保険金請求権者に対し、人身傷害保険金として給付義務を負うとされている人身傷害保険金額に相当する額を支払った場合には、保険金請求権者との間で、上記保険会社が保険金請求権者に対して自賠責保険からの損害賠償額の支払分を含めて一括して支払う旨の合意(以下「人傷一括払合意」という。)をしていたとしても、上記保険会社が支払った金員は、特段の事情のない限り、その全額について、上記保険契約に基づく人身傷害保険金として支払われたものというべきである。

なぜなら、上記の場合には、保険金請求権者としては上記保険会社が給付義務を負う人身傷害保険金が支払われたものと理解するのが通常であり、人傷一括払合意をしていたということだけで、上記金員に自賠責保険からの損害賠償額の支払分が含まれているとみるのは不自然、不合理であり(最高裁令和2年(受)第1198号同4年3月24日第一小法廷判決・民集76巻3号350頁参照)、加えて、上記金員に自賠責保険からの損害賠償額の支払分が含まれていると解すると、保険金請求権者の有する損害賠償請求権の額から控除される額に差異が生ずる結果、遅延損害金等の額において保険金請求権者に不利益が生じ得ることをも考慮すると、上記金員は、他にその支払の趣旨について別異に解すべき特段の事情のない限り、人身傷害保険金として支払われたものと解するのが当事者の合理的意思に合致するものというべきだからである。

このことは、上記保険会社が、保険金請求権者に対し、当初、上記人身傷害保険金額に相当する額を支払い、その後、自賠責保険から損害賠償額の支払を受けて追加で金員を支払ったことにより、人身傷害保険金額を超える額の金員を支払うに至ったからといって、上記の当初支払分について、異なるものではない。

 これを本件についてみると、参加人が上告人らに対して支払った本件支払金1・2の額の合計は,参加人が本件保険契約に基づいて給付義務を負うとされている人身傷害保険金額に相当する額である。そして、本件仮協定書1には、本件支払金1・2について、自賠責保険の保険金額を含む旨や、上告人らの被上告人らに対する損害賠償請求権が本件支払金1・2の額を限度として参加人に移転することを承認する旨の記載があるものの、これらの記載は、本件代位条項を含む本件約款の内容も併せ考慮すると、参加人が人身傷害保険金の支払により本件代位条項に基づき保険代位することを承認する趣旨のものと解するのが相当であって、本件支払金1・2の支払について、自賠責保険からの損害賠償額の支払の立替払であることを確認あるいは合意する趣旨を含むものと解することはできないし、他に、そのような趣旨を含む記載があることはうかがわれない。

そのほか、参加人が自賠責保険から損害賠償額の支払として本件各支払金の合計額と同額を受領したことや参加人における内部処理の状況を踏まえても、本件支払金1・2について、人身傷害保険金としてではなく、自賠責保険からの損害賠償額の支払の立替払として支払われたものと解すべき特段の事情があるとはいえない。

 以上によれば、本件支払金1・2は、その全額について、本件保険契約に基づく人身傷害保険金として支払われたものというべきであるから、参加人は、この支払により保険代位することができる範囲において、上告人らの被上告人らに対する損害賠償請求権を取得し、これにより上告人らは上記損害賠償請求権をその範囲で喪失したこととなる。 

 したがって、本件支払金1・2については、上告人らの被上告人らに対する損害賠償請求権の額から、参加人が本件支払金1・2の支払により保険代位することができる範囲を超える額を控除することはできないというべきである。

(2)他方、本件約款によれば、参加人は、人身傷害保険金額を超えて人身傷害保険金を支払う義務を負わないから、本件支払金3は、人身傷害保険金として支払われたものでないことは明らかであり、前記事実関係等の下では、自賠責保険からの損害賠償額の支払の立替払として支払われたものというべきである。したがって、本件支払金3については、上告人らの被上告人らに対する損害賠償請求権の額からその全額を控除することができる。

(3)以上によれば、原審の本件支払金3に関する判断は、正当として是認することができ、この点に関する論旨は採用することができないが、本件支払金1・2に関する原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり、この点に関する論旨はこの趣旨をいうものとして理由がある。


(1)前記事実関係等及び上記4で説示したところによれば、上告人らが被上告人らに対して賠償請求することができる損害金の元本の額は、次のとおりとなる(いずれも弁護士費用相当額を除く。)。

(ア)過失相殺後の上告人X1の損害賠償請求権に係る損害金元本の額である3144万8484円と、本件支払金1・2のうち上告人X1が受領した1500万円との合計額4644万8484円は、過失相殺前の上告人X1の損害の額である4492万6406円を上回り、参加人は、その上回る部分に相当する152万2078円の範囲で、本件支払金2の支払時に上告人X1の上記損害金元本の支払請求権を保険代位により取得する。

よって、上記金額の限度で上告人X1は上記請求権を失うから、上記金額を上記損害金元本の額から控除すべきであり、本件支払金2が支払われた後の上告人X1の損害賠償請求権に係る損害金元本の額は、2992万6406円となる。

(イ)本件事故日から上記の代位取得の日である本件支払金2の支払日までの遅延損害金は、103万5394円であり、上記支払日の翌日から本件支払金3の支払日までの遅延損害金は、132万8206円である。本件支払金3のうち上告人X1が受領した1500万円は、上記各遅延損害金にまず充当され、その充当後の残額が上記損害金元本に充当される。そうすると、本件支払金3が支払われた後の上告人X1の損害賠償請求権に係る損害金元本の額は、1729万0006円となる。


(ア)過失相殺後の上告人X2の損害賠償請求権に係る損害金元本の額である1036万6161円と、本件支払金1・2のうち上告人X2が受領した500万円との合計額1536万6161円は、過失相殺前の上告人X2の損害の額である1480万8802円を上回り、参加人は、その上回る部分に相当する55万7359円の範囲で、本件支払金2の支払時に上告人X2の上記損害金元本の支払請求権を保険代位により取得する。

よって、上記金額の限度で上告人X2は上記請求権を失うから、上記金額を上記損害金元本の額から控除すべきであり、本件支払金2が支払われた後の上告人X2の損害賠償請求権に係る損害金元本の額は、980万8802円となる。

(イ)本件事故日から上記の代位取得の日である本件支払金2の支払日までの遅延損害金は、34万1290円であり、上記支払日の翌日から本件支払金3の支払日までの遅延損害金は、43万5338円である。本件支払金3のうち上告人X2が受領した500万円は、上記各遅延損害金にまず充当され、その充当後の残額が上記損害金元本に充当される。そうすると、本件支払金3が支払われた後の上告人X2の損害賠償請求権に係る損害金元本の額は、558万5430円である。

ウ 上告人X3及び同X4の被上告人らに対する損害賠償請求権に係る損害金元本の額は、それぞれ、上記イと同様となる。

(2)以上によれば、上告人X1の請求は、被上告人らに対し、1901万0006円(弁護士費用相当額172万円を含む。)及びうち172万円に対する不法行為の日である平成28年5月2日から、うち1729万0006円に対する本件支払金3の支払日の翌日である平成29年11月18日から各支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める限度で理由があり、上告人子らの各請求は、それぞれ、被上告人らに対し、613万5430円(弁護士費用相当額55万円を含む。)及びうち55万円に対する平成28年5月2日から、うち558万5430円に対する平成29年11月18日から各支払済みまで上記割合による遅延損害金の連帯支払を求める限度で理由があるから、これらを認容すべきであり、その余はいずれも理由がないから棄却すべきである。 したがって、原判決中、上告人らに関する部分を主文第1項のとおり変更することとする。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 安浪亮介 裁判官 山口厚 裁判官 深山卓也 裁判官 岡正晶 裁判官 堺徹)
以上:5,878文字

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