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事故態様と外傷性他覚所見から傷害について7割素因減額認定高裁判決紹介

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令和 5年11月14日(火):初稿
○「事故態様と外傷性他覚所見から傷害と事故の因果関係を否認した地裁判決紹介」の続きで、その控訴審令和4年10月14日大阪高裁判決(自保ジャーナル2139号57頁)関連部分を紹介します。

○控訴人(原告)の夫が運転し、控訴人が助手席に同乗する普通乗用自動車に、被控訴人(被告)車両が追突した交通事故に関し、控訴人が、被控訴人に対し、不法行為に基づき、約280万円の損害賠償を求めたところ、原審が控訴人の請求を棄却し、これを不服とする控訴人が控訴していました。

○控訴審判決は、〔1〕控訴人が、本件事故時、強いものではなかったが、頸部を含む身体に衝撃を受けたこと、〔2〕控訴人が本件事故当日に病院に搬送され、同日から4か月の間、おおむね継続して頸部痛、右肩痛等を訴えて通院し、理学療法等を受けたこと、〔3〕本件事故前の少なくとも数年間については控訴人が上記の症状を訴えて医療機関を受診したことを示す証拠がないこと等を考慮すれば、控訴人は、素因の影響はあるものの、本件事故時に身体に受けた衝撃により頸椎捻挫等の傷害を負ったものであって、事故後5ヶ月間の通院は本件事故との間に相当因果関係があるとしました。

○損害は、全部で約137万円と認定しましたが、控訴人の精神疾患や受傷部位の加齢性変化等の素因も影響を与えており,その寄与の度合いは上記衝撃より上記素因の方がはるかに大きいとして、素因減額7割として、素因減額後損害約41万円から既払額約約36万6000円を差し引いた金額に弁護士費用4500円を加えた約5万円を損害と認定しました。

○素因減額の理由としては、本件事故時に控訴人が身体に受けた衝撃が強いものではなかったことから、その衝撃のみによって,約3ヶ月もの間,通院を要するような頸部痛,右肩痛等の症状が発生し,継続するとは考え難いとして、素因の影響が強いとしました。しかし、控訴人としては、事故時から7年も前の平成25年5月頃の「右手がしびれる いつものこと」,「頭痛がする いつものこと」等の医師への訴えを訴因減額の理由とされるのは納得いかないと思われます。

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主   文
1 原判決を次のとおり変更する。
2 被控訴人は,控訴人に対し,4万9653円及びこれに対する令和2年4月29日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
3 控訴人のその余の請求を棄却する。
4 この判決の主文2項は仮に執行することができる。
5 訴訟費用は,第1,2審を通じ,これを50分し,その49を控訴人の負担とし,その余を被控訴人の負担とする。

事実及び理由
第一 控訴の趣旨

1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は,控訴人に対し,279万5170円及びこれに対する令和2年4月29日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。

第二 事案の概要
1 本件は,控訴人の夫が運転し,控訴人が助手席に同乗する普通乗用自動車(以下「控訴人車両」という。)に,被控訴人が運転する普通乗用自動車(以下「被控訴人車両」という。)が追突した交通事故(以下「本件事故」という。)に関し,控訴人が,被控訴人に対し,不法行為に基づき,損害賠償金279万5170円及びこれに対する本件事故の日である令和2年4月29日から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
 原審が控訴人の請求を棄却したところ,控訴人がこれを不服として控訴した。

2 前提事実及び当事者の主張は,次のとおり補正するほか,原判決の「事実及び理由」の第三及び第四(別紙を含む。原判決2頁6行目~4頁15行目,11~16頁)に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1)原判決2頁13行目の「原告は」を「控訴人の夫であるCが運転し,控訴人(昭和45年○月○○日生まれ)が」に改める。

(2)原判決4頁15行目の末尾に改行して次のとおり加える。
 「仮に,控訴人が本件事故により受傷し,損害が生じたと認められる場合には,控訴人の既往疾患により通院治療が長期化するなどして損害が拡大したことを考慮して素因減額がされるべきである。」

(3)原判決11頁の治療費欄の「c整形外科」の次に「内科」を加える。

第三 当裁判所の判断
 当裁判所は,控訴人の請求は4万9653円及び遅延損害金の支払を求める限度で理由があるものと判断する。その理由は,次のとおりである。
1 本件事故(追突)は専ら被控訴人の過失により発生したから,被控訴人は,不法行為に基づき,本件事故により控訴人に生じた損害を賠償すべき責任を負うというべきであり,被控訴人もこの点は争わない。そこで,以下では,控訴人の傷害の有無及びそれと本件事故との相当因果関係の有無,素因減額の当否並びに損害額について検討する。

2 控訴人の傷害の有無及びそれと本件事故との相当因果関係の有無について
(1)本件事故により控訴人が受けた衝撃の程度等
 控訴人車両については、本件事故後,リヤバンパーにナンバープレート痕(被控訴人車両のナンバープレートが当たった痕跡)が確認されたが,他には特に損傷が確認されなかった。控訴人の診療録には,控訴人による本件事故の説明として,「助手席(停車中)後方より車がぶつかった(一旦停止後にまた発進して)10キロメートル毎時くらい」,「信号待ちをしていたところ,相手後続車に追突された」,「後方寄り(「より」の誤記と解される。)の追突事故さほど速度は出ていなかった」などの記載がある。

これらの事情のほか,控訴人の本人尋問(原審)における供述並びにC及び控訴人の陳述書のうち上記事情に沿う部分によれば,本件事故の態様は,信号待ちのため控訴人車両が停止し,その後方に被控訴人車両が通常の車間距離をとって停止した後,被控訴人車両が動き出し,低速で控訴人車両に追突したというものであり,助手席に座っていた控訴人がこれにより身体に受けた衝撃は強いものではなかったことが認められる。

 控訴人は,本件事故による控訴人車両の損傷につき,修理内容をリヤバンパー交換等とし,修理代金見積額を39万7650円(協定額は36万8500円)とする証拠(略)を指摘し,その修理内容及び代金見積額に照らせば,本件事故時に控訴人が身体に受けた衝撃は強かったといえると主張する。

しかし,同証拠においてリヤバンパーの交換が必要であるとされた理由は明らかではなく,その理由が機能上の問題でなく美観上の問題であることもあり得る。したがって,同証拠により上記の認定は左右されるとはいえず,上記の主張は採用することができない。 

(2)控訴人の傷害の有無及びそれと本件事故との因果関係の有無
ア 本件事故後の控訴人の通院状況等につき,以下の事実が認められる。
(ア)控訴人は,本件事故当日である令和2年4月29日,救急車でa病院に搬送され,頸部痛,右肩の違和感等及び右小指の背側のしびれを訴え,頸椎捻挫と診断された。
(イ)令和2年5月11日から同年6月12日まで,右頸部痛,右肩挙上痛,右手第2指のしびれ等を訴えてb整形外科に通院し(実日数23日),理学療法等を受け,右肩挫傷及び頸部挫傷と診断された。
(ウ)令和2年6月30日から同年8月31日まで,頸肩部痛,右肩痛,右示指中指のしびれ等を訴えてc整形外科内科に通院し(実日数19日),理学療法等を受け,頸椎捻挫,右肩腱板損傷等と診断された。
(エ)令和2年9月28日から同年11月26日まで,上記(ウ)の症状が変わらない旨訴えてc整形外科内科に通院し(実日数16日),理学療法等を受けた。

イ そこで検討すると,〔1〕控訴人が,本件事故時,強いものではなかったが,頸部を含む身体に衝撃を受けたこと(前記(1)),〔2〕控訴人が本件事故当日である令和2年4月29日に病院に搬送され,同日から同年8月31日までの間,おおむね継続して頸部痛,右肩痛等を訴えて通院し,理学療法等を受けたこと(上記ア(ア)~(ウ)),〔3〕本件事故前の少なくとも数年間については控訴人が上記の症状を訴えて医療機関を受診したことを示す証拠がないこと等を考慮すれば,控訴人は,後記素因の影響はあるものの,本件事故時に身体に受けた衝撃により頸椎捻挫等の傷害を負ったものであって,上記ア(ア)から(ウ)までの通院は本件事故との間に相当因果関係があるというべきである。

 他方,本件事故時に控訴人が身体に受けた衝撃が強いものではなかったこと(前記(1)),控訴人の上記の症状が外傷性のものであることが他覚的所見により裏付けられていないこと,上記ア(ウ)の通院と同(エ)の通院との間には27日間の通院中断期間があること,控訴人には後記素因があったこと等を考慮すれば,本件事故から約5ヶ月が経過した時点以降の上記ア(エ)の通院については,専ら控訴人の素因によるものとみる余地が大きく,本件事故との間に相当因果関係があるということはできない。

3 素因減額の当否について
 控訴人の本件事故前における身体面及び精神面の状況についてみると,前記前提事実及び証拠(略)によれば,控訴人は,平成25年1月から本件事故後までの間,〔1〕d心療内科に通院し,抗精神病薬,睡眠薬等を継続的に処方され,〔2〕毎年4月頃,うつ病のため就労不可と診断され(平成25年から平成31年までの各4月,令和2年5月1日),〔3〕うつ病に関して入院したこともあり(平成27年7月頃,平成30年1月頃),〔4〕医師に対し,平成25年5月頃に「右手がしびれる いつものこと」,「頭痛がする いつものこと」,「胸が痛い」,同年7月頃に「指がしびれて,よく物をおとしたり,つかめなかったりする(右)」,「胸痛がある」などと伝えていたことが認められる。

 また,本件事故後の控訴人の受傷部位に係るレントゲン画像について,c整形外科内科の医師は,「頸椎 C3/4椎間板腔狭小」,「右肩関節 明らかな所見なし」とし,また,「外傷性変化なし」,「経年性変化あり」とした。
 そして,本件事故時に控訴人が身体に受けた衝撃が強いものではなかったことは前記(1)のとおりであって,その衝撃のみによって,約3ヶ月もの間,通院を要するような頸部痛,右肩痛等の症状が発生し,継続するとは考え難い。

 これらによれば,本件事故当日の令和2年4月29日から同年8月31日までの期間における控訴人の症状の発生及び継続については,本件事故時に控訴人が身体に受けた衝撃が要因の1つとなっているものの,控訴人の上記の精神疾患や受傷部位の加齢性変化等の素因も影響を与えており,その寄与の度合いは上記衝撃より上記素因の方がはるかに大きいというべきである。

したがって,上記期間に控訴人に生じていた症状に関する損害を全て被控訴人に負担させるのが公平であるということはできず,民法722条2項の類推適用により,控訴人の素因を斟酌して損害賠償の額を定めるのが相当である。そして,控訴人が本件事故時に身体に受けた衝撃の程度,傷害の内容・程度,控訴人の素因の内容・程度等を総合考慮すれば,後記4において認定される損害について7割を減額するのが相当である。

4 損害額について
(1)素因減額前の損害額について
ア 治療費及び薬剤費(請求額36万7911円,認定額36万1991円)
 証拠(略)によれば,本件事故から令和2年8月31日までの本件事故による控訴人の傷害に関する治療費及び薬剤費として,36万1,991円を要したことが認められる。

イ 通院交通費(請求額9793円,認定額9793円)
 証拠(略)によれば,本件事故から令和2年8月31日までの本件事故による控訴人の傷害に関する通院交通費として,9793円を要したことが認められる。

ウ 傷害慰謝料(請求額124万5333円,認定額60万円)
 通院期間(令和2年4月29日~同年8月31日),実通院日数43日,傷害の内容(他覚的所見の乏しい神経症状)等を考慮すれば,素因減額前の傷害慰謝料は60万円が相当である。

エ 休業損害(請求額128万4104円,認定額39万8630円)
 証拠(略)によれば,控訴人は,本件事故から令和2年8月31日までの間,夫ないし実母と同居して家事労働に従事したが,前記の症状を訴えて頻繁に通院しており,その家事労働に一定の支障があったことが認められる。これらによれば,その支障により控訴人が被った休業損害は,基礎収入を年額388万円(令和元年賃金センサス第1巻第1表の産業計,企業規模計,学歴計の女性労働者の全年齢の平均賃金額。1000円未満切捨て),上記期間を通じた休業割合を30%として算定するのが相当であり,39万8630円と認められる。
(計算式)3,880,000円×0.3×125日÷365日=398,630円

(2)素因減額及び既払金の控除
 上記(1)アからエまでの損害額(認定額)の合計は137万0414円となるところ,前記3の7割の素因減額をすれば,残額は41万1124円となる。同額から,控訴人が被控訴人の加入する任意保険会社から受領した保険金36万5971円(争いがない。)を控除すれば,残額は4万5153円となる。

(3)弁護士費用
 上記(2)の残額その他本件に現れた諸事情を考慮すれば,本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は4500円と認めるのが相当である。

(4)上記(2)及び(3)の合計額は4万9653円となり,被控訴人は,控訴人に対し,本件事故に関して,不法行為に基づき,同額及びこれに対する不法行為日(本件事故日)である令和2年4月29日から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金を支払うべきである。

第四 結論
 以上によれば,控訴人の請求は,4万9653円及び上記遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないからこれを棄却すべきところ,これと異なり,控訴人の請求を全部棄却した原判決は失当であって,本件控訴の一部は理由があるから,原判決を上記のとおり変更することとして,主文のとおり判決する。なお,仮執行免脱宣言は相当でないからこれを付さないこととする。
大阪高等裁判所第12民事部
裁判長裁判官 牧賢二 裁判官 和久田斉 裁判官 宮崎朋紀
以上:5,858文字

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