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自賠責後遺障害非該当について後遺障害等級12級と認めた地裁判決紹介1

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令和 5年 2月28日(火):初稿
○原告が運転していた自動車に、被告会社の業務上被告Bが運転していた自動車が衝突した交通事故に関し、原告は自賠責後遺障害非該当認定でしたが、後遺障害10級に該当するとして、被告Bに対しては民法709条に基づき、被告会社に対しては自動車損害賠償保障法3条に基づき、約3190万円損害賠償を求めました。

○これに対し、自賠責後遺障害認定非該当を否認し、第12級13号に該当すると認められるなどとして約463万円(既払金約274万円)の支払を命じた令和4年1月31日名古屋地裁判決(自保ジャーナル2117号74頁)を2回に分けて紹介します。先ず当事者の主張です。

○原告は本件事故により右肩腱板損傷等の器質的損傷が生じ、その結果右肩関節の可動域が健側の2分の1に制限されたから,右肩関節の機能障害は自賠法施行令別表第二第10級10号に該当すると主張し、被告は、原告の右肩関節の可動域が変動は、器質的損傷ではなく疼痛にすぎず、本件事故によって傷害を負っていない左上肢に関節可動域の限定と握力の低下が生じていることなどから右肩関節についての原告の症状が本件事故と相当因果関係があるとも認めがたいと全面的に争いました。

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主   文
1 被告らは,原告に対し,連帯して,463万2246円及びこれに対する平成28年6月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを7分し,その6を原告の負担とし,その1を被告の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由
第一 請求の趣旨

 被告らは,原告に対し,連帯して,3190万6572円及びこれに対する平成28年6月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第二 事案の概要
1 本件は,原告が運転していた自動車に,被告会社の業務上被告Bが運転していた自動車が衝突した交通事故(以下「本件事故」という。)に関し,原告が,被告Bに対しては民法709条に基づき,被告会社に対しては自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)3条に基づき,本件事故による損害3190万6572円及びこれに対する不法行為の日である平成28年6月6日から支払済みまで民法(ただし,平成29年法律第44号による改正前のもの。)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

2 前提事実
(1)当事者等
 原告は,本件事故当時36歳であったb国人男性であり,D(以下「D」という。)との間に子(平成19年○月○○日生。以下「E」という。)をもうけている。原告は,永住者の在留資格を取得している。
 被告会社はロードサービスを業とする会社であり,被告Bは,本件事故当時,被告会社の従業員である。

(2)本件事故の発生(争いなし)
ア 日時   平成28年6月6日午前9時26分頃
イ 場所   名古屋市<以下略>先路線上(c線)
ウ 原告車両 自家用普通乗用自動車
  運転者  原告
エ 被告車両 自家用普通乗用自動車
  運転者  被告B
  使用者  被告会社
  所有者  有限会社d
オ 事故態様 上記場所において,赤信号で停車中の原告車両に,被告B運転の被告車両が追突した。

(3)被告らの責任(争いなし)
 被告Bは,前方に注意せず漫然と被告車両を運転し,赤信号に従い停車中の原告車両の発見が遅れるなどの過失により,停車中の原告車両に追突したものであり,民法709条に基づく責任を負う。
 被告会社は,本件事故当時,被告車両の使用者として,レッカー車である被告車両を業務に使用していたところ,本件事故は被告会社の従業員である被告Bが業務上被告車両を運転中に発生させたものである。よって、被告会社は,被告車両を事故のために運行の用に供していたものであり,自賠法3条に基づく責任を負う。

(4)原告の治療経過(客観的な治療経過については争いがない。)
ア 原告は,平成28年6月6日から平成29年6月2日まで,e整形外科に通院し,頸部挫傷,右肩関節挫傷と診断された。 

イ 原告は,平成28年6月27日にf検査センターに通院してMRI検査を行い,右肩腱板損傷との検査所見を得て,右肩挫傷と診断された。

ウ 原告は,平成29年6月6日から平成30年12月5日までg病院に通院し,右外傷後胸郭出口症候群,右上腕骨骨挫傷と診断された。

エ 原告は,平成29年6月28日から同年12月22日までh整形外科に通院し,右外傷性胸郭出口症候群,右上腕骨挫傷,右肩関節拘縮,右肩関節拘縮と診断された。

オ 原告は,平成30年1月23日から平成30年12月31日までi整形外科クリニック(以下「i整形外科」という。)に通院し,右肩関節周囲炎,頸椎症,神経障害性疼痛,難治性慢性疼痛,嘔吐症,末梢神経障害と診断された。

(5)既払金(争いなし)
 原告は,被告の任意保険会社から,34万6,256円の支払を受けた。

(6)自賠責保険の後遺障害認定
 原告は,平成29年1月31日,頸部及び右肩の症状について,症状固定の診断を受けた。原告は,同年3月29日,自賠責保険により,画像上外傷性の所見が認め難く,その他自覚症状を裏付ける客観的な医学的所見に乏しいことから,後遺障害に該当しないとの判断を受けた。
 原告は,上記後遺障害非該当との判断に対して意見書及び「Aさんの照会に対する回答書」を資料として異議申立てをしたが,平成30年3月12日,後遺障害に該当しないとの判断を受けた。

 原告は,再度異議申立てをしたが,令和3年6月14日,右肩関節の可動域制限について,明らかな外傷性の異常所見は認められないことなどから,後遺障害の残存を否定し,右肩関節痛,頸部痛,上肢しびれ等の症状についても,将来においても回復困難と見込まれる障害と捉えることは困難であるとして,後遺障害に該当しないとの判断を受けた。

(7)労災保険の認定及び労災保険金の受給
 原告は,令和2年9月17日,労災保険により,右肩の症状について,労働者災害補償保険法施行規則別表第一第10級9号に該当するとの認知を受け,同月25日,労災保険より,第10級9号の障害補償給付として239万6672円及び特別支給金39万円の支払を受けた。

3 争点及び争点についての当事者の主張
(1)本件事故による傷害と相当因果関係を有する治療期間

【原告の主張】
 原告は本件事故により右肩腱板損傷の傷害を負った。
 症状固定日は,後遺障害が認定されることを前提に,自動車損害賠償責任保険後遺障害診断書及び労働者災害補償保険診断書記載の平成29年1月31日と主張する。なお,後遺障害が認定されない場合には,当時の主治医であるi整形外科のF医師が完治するか否か不明であると評価した月である平成30年12月31日までと主張する。
 なお,治療費は,上記症状固定日の判断にかかわらず,平成30年12月31日までの治療は,症状改善,少なくとも悪化防止のため必要な治療であったと評価できるため,症状固定後であっても本件事故と相当因果関係がある損害である。

【被告らの主張】
 原告の負った傷害内容は不知ないし否認する。

 症状固定時期について,e整形外科のGは,原告の症状固定時期について,平成29年1月31日と診断していること,原告の症状の内容は神経症状のみであり,器質的損傷によるものではないこと,同日以降症状の有意な改善は見られないこと,治療,処置の内容について,すべて対症療法であり,内容の変化も認められないこと,平成29年2月1日以降通院頻度に有意な減少が認められること,他覚的所見が認められないこと,原告の症状について,症状固定に要する通常の期間は3ヶ月から6ヶ月程度であること,衝突の状況は必ずしも重大であったとはいえないことなどに照らし,症状固定日は,遅くとも平成29年1月31日である。

(2)原告の後遺障害
【原告の主張】
 原告は,本件事故により,右肩腱板損傷等の器質的損傷が生じており,その結果右肩関節の可動域が健側の2分の1に制限されたから,右肩関節の機能障害は自賠法施行令別表第二第10級10号(以下,後遺障害等級について言及する際には,「自賠法施行令別表第二」の記載は省略する。)に該当する。
 また,頸部から掌にかけての疼痛は,第12級13号に該当する。

【被告らの主張】
 右肩関節の可動域が変動していることなどからすると,右肩関節の可動域制限の原因は器質的損傷ではなく疼痛である。また,本件事故によって傷害を負っていない左上肢についても,本件事故後に関節可動域の限定と握力の低下が生じていることなどからすると,右肩関節についての原告の症状が本件事故と相当因果関係があるとも認めがたい。以上からすると,右肩関節の可動域制限は10級10号の後遺障害に該当せず,仮に該当するとしても14級の神経症状を超えるものではない。

 右肩から指までの強いしびれについて,原告が訴える症状は,他覚的所見に基づくものではなく,本件事故前の平成24年中から右肩と右腕の痛み等について通院治療を受けていたこと,本件事故当時36歳という原告の年齢からすると,加齢による変性の影響も考えられる。原告の上記症状は後遺障害には該当しない。

(3)原告の損害
【原告の主張】
ア 治療費 通院状況は前提事実(4)のとおりであり,治療費は,別紙治療費明細書(略)のとおり,42万2,896円である。

イ 通院交通費 別紙通院交通費明細書(略)のとおり,2万8,449円である。

ウ 文書料 5940円
 g病院 診療情報提供書料 5400円
 交通事故証明書 540円

エ 休業損害 97万4880円
 原告は家事従事者であり,頸部から右肩,右腕,右手のひらの疼痛や肩の可動域制限により,子の監護を中心とした家事に多大な支障が生じた。また,通院のために勤務先のj店から早退したほか,語学学校の講師等の仕事のオファーを断った。休業損害は,これらの事情により,別紙休業損害明細書(変更)(略)のとおり,97万4880円である。

オ 後遺障害逸失利益 2279万2191円
 原告には本件事故により右肩腱板損傷等の器質的損傷が生じ,その結果右肩関節の可動域が健側の2分の1に制限されていたのであるから,右肩関節の機能障害は,第10級10号に該当する。
 また,頸部から掌にかけての疼痛は,第12級13号に該当する。

 原告に生じている疼痛等の神経症状は,広範囲であり,右肩の可動域制限と通常派生する関係にあるとはいえない。よって,原告に残存する上記2つの傷害を併合し,第9級と認定し得るか否かにかかわらず,労働能力喪失率は,第10級10号の労働能力喪失率とされる27%より多い,30%程度とすべきである。

 したがって,原告には,別紙逸失利益明細書(変更)(略)記載のとおり,2279万2191円の逸失利益の損害が生じた。

カ 通院慰謝料 130万6667円

キ 後遺障害慰謝料 600万円

ク 合計 3153万1023円

ケ 損益相殺 ▲274万2928円
 原告に後遺障害が認定される限りで任意保険からの既払金34万6256円及び労災保険からの障害補償給付239万6672円について,損益相殺を認める。

コ 弁護士費用 311万8,477円

【被告らの主張】
ア 治療費
 客観的な通院の事実については認め,その余は否認し,または知らない。
 症状固定時について,本件事故による原告の傷害及び症状の内容は神経症状のみであること,可動域制限の程度が不定であるから,器質的損傷によるものとは認められないこと,症状は有意の改善は見られないこと,治療,処置の内容は,対症療法であり,内容の変化もないこと,平成29年2月1日以降は通院頻度が有意に減少していること等からすると,原告の症状固定時期を,本件事故から約8ヶ月が経過した平成29年1月31日であるとしたGの判断に不合理な点はない。

イ 通院交通費 知らない。

ウ 文書料 知らない。なお,紹介状文書料は,セカンドオピニオン用の紹介状作成費用と解されるが,必要性がない。

エ 休業損害 否認する。原告が家事従事者であったとは認められない。

オ 後遺障害逸失利益 否認する。
 上記争点(3)での【被告らの主張】のとおり,原告に後遺障害が残存したことは否認する。また,原告の収入は本件事故後増加しており,原告には後遺障害による労働能力の喪失及びそれによる逸失利益は発生していない。
 仮に疼痛について本件事故との相当因果関係を認め,かつ,後遺障害として評価するとしても,その訴えが一定しないことからすれば,相当因果関係がある労働能力喪失期間は,5年間に限定されるべきである。

カ 通院慰謝料 通院期間,通院実日数,治療経過,過去の通院歴などを踏まえると,相当な通院慰謝料の金額は76万円を超えない。

キ 後遺障害慰謝料 上記争点(3)での【被告らの主張】のとおり,原告に後遺障害が残存したことは否認する。

ク 損益相殺 知らない。障害補償給付は休業損害との関係でも損益相殺の対象となる。

ケ 弁護士費用 否認する。
以上:5,402文字

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