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交通事故での代表者負傷による企業損害の発生を否認した地裁判決紹介

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令和 4年 7月13日(水):初稿
○原告らが、被告の運転する普通乗用自動車と原告Aの運転する自転車とが衝突した交通事故によって原告Aが負傷して原告Aに損害が生じた上、原告Aにおいて代表取締役を務める原告会社にも損害(いわゆる企業損害)が生じたと主張して、被告に対し、自動車損害賠償保障法3条又は民法709条に基づき、原告Aは人身傷害損害賠償約271万円、原告会社は企業損害賠償約1812万円の損害賠償を求めました。

○これに対し、平成28年度、平成29年度の合計残高試算表の各記載の正確性には全体として疑問の余地があってこれらを信用することができず、これらに基づいて原告会社に損害が生じていると認めることはできないし、決算書を検討しても原告会社に損害が生じていると認めることができず、他にこれを認めるに足りる証拠はなく、原告会社の休業損害は認めることができないなどとして、原告会社の請求を棄却し、原告Aの請求を一部認容した令和3年7月20日大阪地裁判決(自保ジャーナル2106号78頁)の企業損害部分を紹介します。

○会社代表者負傷による会社の企業損害請求ができるのは、会社が俗にいう個人会社で、その実権が代表者個人に集中し、代表者に会社の機関としての代替性がなく、経済的に会社と代表者個人が一体をなす関係にあるときの強いしばりがありますが、このしばりを検討することなく企業損害自体の存否を判断し、会社に損害は発生していないとしています。

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主   文
1 被告は,原告Aに対し,161万4,720円及びこれに対する平成29年6月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告Aのその余の請求及び原告会社の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は,原告会社と被告との間においては,原告会社に生じた費用全部と被告に生じた費用の2分の1とを原告会社の負担とし,原告Aと被告との間においては,原告Aに生じた費用全部と被告に生じたその余の費用とを5分し,その2を原告Aの負担とし,その余を被告の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由
第一 請求

1 被告は,原告会社に対し,1,812万6,185円及びこれに対する平成29年6月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告は,原告Aに対し,271万7,400円及びこれに対する平成29年6月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第二 事案の概要
 本件は,原告らが,被告の運転する普通乗用自動車と原告Aの運転する自転車とが衝突した交通事故(以下「本件事故」という。)によって原告Aが負傷して原告Aに損害が生じた上,原告Aにおいて代表取締役を務める原告会社にも損害(いわゆる企業損害)が生じたと主張して,被告に対し,自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)3条又は民法709条に基づき,原告Aにおいて271万7,400円,原告会社において1,812万6,185円及び同各金員に対する本件事故の日である平成29年6月14日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法(以下「改正前民法」という。)所定の年5分の割合による遅延損害金の各支払を求める事案である。
1 争いのない事実等

         (中略)

第三 当裁判所の判断
1 争点(1)(過失相殺率)について


         (中略)

3 争点(4)(原告会社の損害額)について
 事案に鑑み,争点(3)に先立って争点(4)について判断する。
(1)休業損害
ア 原告らの主張要旨
 原告らは,原告Aが本件事故による負傷のために十分な稼働ができなかったため,原告会社の売上総利益が大きく減少しており,平成29年6月から平成30年1月までにつき,本件事故の年度と前年度の合計残高試算表を比較すると,原告会社の売上総利益は計1,241万1,948円減少しており,これが休業損害として認められるべきである旨の主張をする。

イ 検討
 原告会社の決算書の損益計算書(以下,単に「決算書」ということもある。)とその期末月の合計残高試算表の残高欄の記載の概要は,別紙対比表(略)のとおりであって,これも参照しつつ,検討する。
(ア)決算書の検討(特に各年度の推移)
 まず,本件事故日の属する会計年度(平成29年4月1日から平成30年3月31日。以下,原告会社の会計年度については,その始期の年を用いて「平成29年度」のように表記する。)とその前年度である平成28年度の決算書中の損益計算書を対比すると,営業損失が,平成28年度には220万3,209円であったものが,平成29年度には170万1,805円にむしろ減少しており,この対比からは,本件事故によって原告会社に損害が生じているとはいえない。

 また,決算書の営業損失について更に遡って検討すると,平成26年度が93万6,650円,平成27年度が110万3,036円,本件事故の属する会計年度の前年に当たる平成28年度が220万3,209円と損失が年々膨らんでいる。決算書の売上総利益を見ても,平成26年度が1,751万5,387円,平成27年度が1,628万6,151円,平成28年度が1,449万3,940円と年々減少している。これらの事実に照らすと,原告会社の業績が堅実に推移していたとはいえず,平成29年度に平成28年度と同程度の売上総利益を見込むことができたとはいえない(なお,決算書の貸借対照表を見ても,平成27年度には流動負債が流動資産を上回るに至り,平成28年度にはその差が更に拡大していたもので,このことに照らしても,原告会社の業績が堅実だったとは解しにくい。)。

 そして,本件事故日の属する平成29年度の決算書の売上総利益は1,220万1,512円であって,その前年度である平成28年度の1,449万3,940円と比較して229万2,428円の減少があり,平成28年度は平成27年度と比較して売上総利益につき179万2,211円の減少があったことに照らせば,売上総利益の減少額が50万0,217円拡大している。

しかしながら,その程度の拡大幅であれば,他の要因によるものと見ることもできるし,また,平成26年度と比較して平成27年度の売上総利益が122万9,236円減少し,平成27年度と比較して平成28年度の売上総利益が上記のとおり179万2,211円減少していて減少幅が56万2,975円広がっていたもので,平成28年度と平成29年度との売上総利益の減少幅が上記のとおり50万0,217円広がったとしても,これまでの延長線上の減少と見ることもできる。

これらの事情に,上記のとおり,平成28年度と比較して平成29年度の営業損失がむしろ減少していることも併せ考慮すると,平成28年度と平成29年度とを比較した売上総利益の上記減少又は減少幅の広がりをもって,本件事故によって原告会社に損害が生じたと直ちに認めることはできない。

(イ)合計残高試算表の検討(特にその信用性)
a 決算書との整合性
 決算書中の損益計算書とその期末月の合計残高試算表の残高欄とを対比すると,平成26年度,平成27年度,平成30年度,平成31年度については一致しているにもかかわらず,原告らが損害額算定の根拠としている平成28年度,平成29年度だけに食い違いがある。しかも,売上総利益は,平成28年度については合計残高試算表の方が多く,平成29年度については合計残高試算表の方が少ないもので,決算書よりも原告らに有利に食い違いが生じている(別紙対比表参照)。これらに照らすと,平成28年度,平成29年度の合計残高試算表の各記載は,決算書と一致せず,その食い違い方も原告らの主張に有利に食い違っているものであって,上記合計残高試算表の各記載の信用性には全体として疑問の余地が生ずる(平成28年度の合計残高試算表が「税込」とあることから消費税分を割り引いて検討するとしても結論は変わらない。)。

 原告らは,このような食い違いに関し,決算書においては,〔1〕決算期に期ズレの売上げや経費を調整して赤字を平準化したり(すなわち,合計残高試算表では平成28年度に計上していた売上高を決算書では平成29年度にずらしたり,平成30年度に支出する予定だった経費を平成29年度に前倒ししたりするということ),〔2〕期末の棚卸しで期末商品棚御高を損益に反映するといった決算期の処理の都合がある旨の説明をしている。

 しかしながら,上記〔1〕については,平成29年度については,売上高以外の項目は合計残高試算表と決算書とで一致し,経費の食い違いが生じているのは平成28年度のみであることに照らすと,経費の「期ズレ」は考えられない。また,売上高の「期ズレ」についても,平成26年度,平成27年度,平成30年度,平成31年度において,上記のとおり,合計残高試算表と決算書の売上高が一致していることからすれば,そのような「期ズレ」があるとすれば,平成28年度と平成29年度の相互においてのみということになり,その場合には,両年度の売上高の合計は合計残高試算表と決算書とで一致することになるはずであるにもかかわらず,売上高の両年度の合計は,合計残高試算表では6,983万8,579円,決算書では6,769万0,359円となり,一致しないのであって,売上高の「期ズレ」で説明することもできない(なお,平成28年度の合計残高試算表の売上高を消費税抜き価格に割り戻して算定しても,やはり一致しない。)。

 上記〔2〕については,期首商品棚卸高及び期末商品棚卸高は,平成28年度の合計残高試算表に記載がないものの,平成27年度及び平成29年度の合計残高試算表と決算書においてはいずれも一致しており,また,平成27年度の期末商品棚卸高と平成28年度の期首商品棚卸高とは一致し,平成28年度の期末商品棚卸高は平成29年度の期首商品棚卸高と一致するはずのものであることに照らすと、平成28年度の期首商品棚卸高及び期末商品棚卸高においても合計残高試算表と決算書において一致していることになるもので,棚卸しによって食い違いが生じたものともいえない。

 したがって,原告らの上記説明は理由がなく,平成28年度,平成29年度の合計残高試算表の各記載全体の信用性に疑問の余地が生ずるとの上記判断を左右するものではない。 

b 各月の連続性
 しかも,平成28年度の各月の合計残高試算表を見ても,平成28年7月1日から同月31日までの合計残高試算表上の売上高の残高と同年8月1日から同月31日までの合計残高試算表上の売上高の繰越残高とは,本来一致するはずであるのに,これが食い違っている。同様に,同年5月1日から同月31日までの売上高の残額と同年6月1日から同月30日までの売上高の繰越残高も食い違っている。

 平成29年度の各月の合計残高試算表を見ても,平成29年5月1日から同月31日までの合計残高試算表上の仕入高,販売費及び一般管理費の残高と同年6月1日から同年6月30日までの合計残高試算表のそれらの繰越残高とがそれぞれ食い違っている。
 このように連続性を欠く記載があることに照らすと,何らかの不正確な処理がされていることが推認でき,このことに照らすと,平成28年度,平成29年度の合計残高試算表の各記載の正確性は全体として疑われるものである。

(ウ)休業損害が生じない可能性の有無
 原告会社において,原告Aの負傷に伴って完全に休業したわけではなく,通常どおりの業務を何とか続けていたこと,原告Aの業務が純粋な肉体労働ではなく,従業員がおりその補助も得られることに照らすと,原告会社に損害が生じなかったこともあり得るところである。

ウ 小括
 以上のとおりであって,平成28年度,平成29年度の合計残高試算表の各記載の正確性には全体として疑問の余地があってこれらを信用することができないことに照らすと,これらに基づいて原告会社に損害が生じていると認めることはできないし,決算書を検討しても原告会社に損害が生じていると認めることができず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。
 よって,原告会社の休業損害は認めることができない。

(2)後遺障害による逸失利益
 上記(1)のとおり,本件事故による原告会社の休業損害が認められないことに照らすと,後遺障害による逸失利益もこれが生じる蓋然性があると認めることはできない。

(3)弁護士費用
 本件事案の難易,請求額,認容額などの事情に照らすと,原告会社について,弁護士費用を認めることはできない。

(4)小括
 以上によれば,原告会社に損害が発生したとは認められず,争点(3)について判断するまでもなく,原告会社の請求は理由がない。

第四 結論
 以上によれば,原告Aの請求は,民法709条に基づく損害賠償請求として161万4,720円及びこれに対する本件事故の日である平成29年6月14日から支払済みまで改正前民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し(自賠法3条に基づくものとしてもこれを超えるものではない。),その余は理由がないからこれをいずれも棄却することとし,原告会社の請求は全部理由がないからこれをいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第15民事部 裁判官 島田正人

以上:5,523文字

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