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全盲視覚障害者逸失利益を賃金センサス8割とした高裁判決紹介

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令和 4年 6月30日(木):初稿
○「全盲視覚障害者逸失利益を賃金センサス7割とした地裁判決紹介」の続きで、その控訴審令和3年9月10日広島高裁判決(判時2516号○頁)関連部分を紹介します。

○未熟児網膜症で全盲となっていた17歳女性が、交通事故で後遺障害等級が別表第二併合第1級に該当するとされ労働能力喪失率100%となり、後遺障害逸失利益の算定に用いる基礎収入の額について、被告側では全盲既往症を理由に賃金センサスの57%と主張し、一審山口地裁判決は、平成28年賃金センサス第1巻第1表,男女計,学歴計,全年齢の平均賃金(489万8600円)の7割の342万9020円と認定しました。

○これに対し広島高裁判決は、逸失利益の算定に用いる基礎収入としては,就労可能期間を通じ,平成28年賃金センサス男女計,学歴計,全年齢の平均賃金(489万8600円)の8割である391万8880円を用いるのが相当であるとし、その他の損害も増額を認め、全損害額は、一審認定額1億3929万3345円が控訴審認定額2億0344万4665円となり、約6415万円の増額となりました。

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主   文
1 原判決中,控訴人Aに関する部分を次のとおり変更する。
(1)被控訴人は,控訴人Aに対し,2億0344万4665円及びうち1億9026万5213円に対する平成20年5月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2)控訴人Aのその余の請求を棄却する。
2 控訴人B及び同Cの本件控訴をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は第1,2審を通じて,これを5分し,その2を控訴人らの負担とし,その余を被控訴人の負担とする。
4 この判決は,第1項⑴に限り,仮に執行することができる。 

事実及び理由
第1 控訴の趣旨

1 原判決を次のとおり変更する。
2 被控訴人は,控訴人Aに対し,3億4318万9579円及びうち3億3001万0127円に対する平成20年5月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被控訴人は,控訴人Bに対し,440万円及びこれに対する平成20年5月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 被控訴人は,控訴人Cに対し,440万円及びこれに対する平成20年5月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 訴訟費用は被控訴人の負担とする。
6 仮執行宣言

第2 事案の概要(以下,略語は,原判決の例による。)
1 事案の要旨等

 本件は,被控訴人運転の普通乗用自動車が横断歩道を歩行中の控訴人Aに衝突した交通事故(本件事故)について,控訴人Aが,被控訴人に対し,民法709条及び自賠法3条に基づき既払金控除後の損害賠償金の残金4億0924万1458円(なお,症状固定後の治療費につき,一部請求)と確定遅延損害金1317万9452円との合計額4億2242万0910円及び上記残金に対する不法行為の日(本件事故の日)である平成20年5月20日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,同控訴人の父母である控訴人B及び同Cが,被控訴人に対し,民法709条,710条に基づく損害賠償金440万円及びこれに対する同日から支払済みまで同割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求めた事案である。

 原審は,控訴人らの請求を控訴人Aにつき1億3929万3345円及びうち1億2611万3893円に対する遅延損害金の支払を求める限度で,同B及び同Cにつき,それぞれ220万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で認容し,その余を棄却した。
 これに対し,控訴人らが控訴した。また,控訴人Aは,当審において,損害額について症状固定後の治療費の全額を主張した上,請求の総額を減縮して前記第1の2のとおりとした。

2 前提事実

         (中略)


第3 当裁判所の判断
 当裁判所は,控訴人Aの請求は2億0344万4665円及びうち1億9026万5213円に対する遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がなく,控訴人B及び同Cの各請求は原審と同様にいずれも損害賠償金220万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がないと判断する。その理由は,次のとおりである。
1 争点
(1)(控訴人Aの損害額)について

         (中略)

(10)後遺障害逸失利益 4621万4176円(=ア×イ×ウ)
ア 基礎収入 年額391万8880円
 不法行為により後遺症が残存した年少者の逸失利益については,将来の予測が困難であったとしても,あらゆる証拠資料に基づき,経験則とその良識を十分に活用して,損害の公平な分担という趣旨に反しない限度で,できる限り蓋然性のある額を算出するように努めるのが相当である。
 そこで検討するに,控訴人Aが本件事故の前から抱えていた全盲の視覚障害が労働能力を制限し,又は労働能力の発揮を阻害する事情であることは否定し難く,このことを,本件事故による逸失利益として被控訴人が損害賠償責任を負う額の算定に際して無視することは困難である。

 証拠(乙8の1,2,乙9)及び弁論の全趣旨によれば,本件事故前の控訴人Aと同様の視覚障害のある者の雇用実態は,公的な調査結果によって十分につまびらかになっているとはいい難いものの,厚生労働省による平成25年度障害者雇用実態調査においては,同年10月時点の身体障害者(身体障害のある被調査者の内訳は,視覚障害が8.3%,肢体不自由が43.0%,内部障害が28.8%,聴覚言語障害が13.4%)の平均賃金(超過勤務手当を含む。)は22万3000円であったことが認められ,この額は,当裁判所に顕著な同年の賃金センサス男女計,学歴計,全年齢の平均賃金における「きまって支給する現金給与額」である32万4000円の約7割にとどまっているのであって,身体障害者の中には,職に就くことができず,調査対象とならなかった者も少なくないと推測できることに照らせば,調査対象とならなかった者も含む身体障害者全体の収入については,身体障害のない者と比較して差異があるといわざるを得ない。

そして,このような身体障害の中でも,両眼の失明は,多くの損害賠償実務で用いられる自賠法施行令別表第2において,労働能力喪失率が最も大きい等級に位置付けられているところである。このような差異が,社会の現状において,又は近い将来において,全面的かつ確実に解消されることを認定するに足りるまでの証拠はない。

 他方,証拠(甲42ないし46,59ないし61,65ないし69,72ないし81,89,90,116,乙8の1,2)によれば,我が国における近年の障害者の雇用状況や各行政機関等の対応,障害者に関する障害者雇用促進法等の関係法令の整備状況,企業における支援の実例,職業訓練の充実,点字ディスプレイ,画面読み上げソフト等のIT技術を活用した就労支援機器の開発・整備,普及等の事情を踏まえると,身体障害者であっても,今後は,今まで以上に,潜在的な稼働能力を発揮して健常者と同様の賃金条件で就労することのできる社会の実現が徐々に図られていくことが見込まれ,活躍の分野もあん摩マッサージや鍼灸に限られず,事務職その他に広がり,現に職場又は家庭において,健常者に劣らない活躍をしている身体障害者も少なくないと認められる。

しかも,証拠(甲32,35ないし40,47ないし53,55,甲56の1,2,甲57の1,2,甲59,60,原審控訴人A,原審控訴人C)によれば,こと控訴人Aについては,本件事故時17歳であったこと,平成16年3月にO盲学校小学部を卒業し,同年4月にP盲学校中学部に入学し,その後2年にわたって同校に在学した後,平成18年4月にO盲学校中学部に転校し,平成19年3月にこれを卒業し,同年4月に同校高等部普通科に入学したこと,上記のとおり在学したP盲学校中学部については,平成30年度の卒業生全員が同校上級部に進学し,高等部普通科や専攻科の生徒が大学や短大に進学し,又は就職している例もあること,控訴人A自身については,上記のとおり高等部に在籍中に職業見学や大学見学に参加したり,詩を多く作ったりするなど,自らの能力の向上と発揮に積極的であったことなどの事情が認められる。これらの事情に照らせば,控訴人Aについては,全盲の障害があったとしても,潜在的な稼働能力を発揮して健常者と同様の賃金条件で就労する可能性が相当にあったと推測される。

 そうすると,本件事故前の控訴人Aについては,全盲の視覚障害があり,健常者と同一の賃金条件で就労することが確実であったことが立証されているとまではいえないものの,その可能性も相当にあり,障害者雇用の促進及び実現に関する事情の漸進的な変化に応じ,将来的にその可能性も徐々に高まっていくことが見込まれる状況にあったと認めることができる。

その他の諸事情も総合すると,本件において損害賠償の対象となる控訴人Aの逸失利益の算定に用いる基礎収入としては,同控訴人の就労可能期間を通じ,平成28年賃金センサス男女計,学歴計,全年齢の平均賃金(489万8600円)の8割である391万8880円を用いるのが相当である。
以上:3,848文字

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