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自損事故修理費相当保険金請求を棄却した地裁判決紹介

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令和 4年 5月24日(火):初稿
○保険契約に基づく保険会社に対する請求事件は、滅多に依頼がありません。現在、火災保険契約での火災保険金請求の相談を受けていますが、ハードルは相当高そうです。高級車ランボルギーニ所有者が、車両をガードレール等に衝突させる事故によって、車両の左側前方から後方にかけて及びホイールが損傷し、修理費用として,584万5367円の損害を被ったとして、同額の保険金請求を求めて棄却された令和3年11月18日東京地裁判決(ウエストロー・ジャパン)全文を紹介します。

○判決は、本件車両の損傷が本件事故現場の状況と整合しないこと、本件事故に関する原告の陳述内容が不自然・不合理であることを詳細に認定して、本件事故が発生したと認めることはできないとして請求を棄却しました。保険会社が支払を拒んだ保険金請求は相当内容を調査・吟味して行う必要があります。

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主   文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求

 被告は,原告に対し,584万5367円及びこれに対する令和元年5月15日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
 本件は,原告が,被告に対し,保険契約に基づき,584万5367円の保険金及びこれに対する約定の弁済期である令和元年5月15日から支払済みまで平成29年法律第45号による改正前の商事法定利率である年6分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

1 争いのない事実等
(1) 原告と被告との間の保険契約
 原告は,被告との間で,平成29年3月24日,以下の内容で,「○○(個人総合自動車保険)」の保険契約を締結した。
ア 契約車両(以下「本件車両」という。)
 車名 ランボルギーニ
 仕様 ガヤルド
 自動車登録番号 〈省略〉
 車台番号 〈省略〉
 初度登録 平成17年6月

イ 保険期間 平成29年3月24日午前0時から平成32年3月24日午後4時まで3年間

ウ 保険金額 1100万円(平成31年3月31日当時は990万円)

エ 保険事故 衝突,接触,墜落,転覆,物の飛来,物の落下,火災,爆発,台風,洪水,高潮その他の偶然な事故及び盗難

オ 保険給付を行う期限 請求完了日からその日を含めて30日以内

(2) 保険金請求
 原告は,被告に対し,平成31年4月15日,上記契約に基づく保険金の支払請求をした。

2 争点
(1) 保険事故の存否 (争点1)
(2) 原告の被った損害 (争点2)

3 争点に関する当事者の主張
(1) 争点1(保険事故の存否)に関する当事者の主張
 (原告の主張)
 原告は,平成31年3月31日午後10時00分頃,千葉県野田市〈以下省略〉付近路上(以下「本件事故現場」という。)において,本件車両をガードレール等に衝突させる事故(以下「本件事故」という。)に遭った。

 (被告の主張)
 本件事故が発生したことは否認する。

(2) 争点2(原告の被った損害)に関する当事者の主張
 (原告の主張)
 本件事故により,本件車両の左側前方から後方にかけて及びホイールが損傷した。
 これにより,原告は,修理費用として,584万5367円の損害を被った。なお,原告は,未だ,本件車両を修理していない。

 (被告の主張)
 本件事故により原告の主張する車両損害が生じたことは否認する。

第3 当裁判所の判断
1 争点1(保険事故の存否)に対する判断

 以下の理由から,本件事故が発生したと認めることはできない。

(1) 本件事故に関する原告の陳述内容
 原告は,陳述書(甲10)及び本人尋問において,大要,次のとおり陳述した。
ア 平成18年頃に自動車運転免許を取得し,本件事故当時は,有効期間5年の青色免許であった(尋問調書47頁,48頁)。
 平成26年頃,本件車両とは別の中古車(ホンダ・インサイト)を代金約100万円で買った(尋問調書48頁)。
 平成29年3月頃,本件車両を中古で代金約1200万円,10年間のローンで買った(甲10の1頁,尋問調書20頁,48頁)。当時の年収は,約400万円であった(尋問調書49頁)。
 本件事故前には,一度も本件車両をぶつけたり,傷付けたりしたことはなく,傷一つない状態であり,本件車両に傷を付けたくなかったので,丁寧に乗っていた。本件車両の損傷は,本件事故で一度についた傷で間違いない(尋問調書20頁,21頁,23頁,48頁)。

イ 平成30年に前記中古車(ホンダ・インサイト)を運転していた際に,交通事故に遭った。当該事故については示談がまとまらず,弁護士を依頼した(尋問調書49頁)。

ウ 本件事故現場を前記中古車(ホンダ・インサイト)で通行したことは,多数回ある。本件事故現場に狭い支柱があることは分かっていたので,本件車両をぶつけると嫌だと考えて,本件車両で本件事故現場を走行することは避けており,本件事故前に,本件事故現場を本件車両で走行したことはない(甲10の2頁,4頁,尋問調書27頁から29頁まで)。

エ 本件事故当時,本件事故現場で本件車両を時速約20kmまで減速させたものの,本件事故現場の支柱とぶつかる危険も特にないと考えたので,本件車両のドアミラーを畳むことはしなかった(尋問調書29頁から31頁まで,34頁,35頁)。

オ 本件事故当時,本件事故を警察に報告する義務があることは知っていたものの,ガードレールとかミラーとかを壊したとは思わなかったので,警察には連絡しなかった(尋問調書39頁,40頁)。

カ 令和3年1月15日付け原告準備書面1の3頁で,本件事故から2週間も経過した平成31年4月15日まで,被告に本件事故を連絡しなかった理由について,保険を使えないと思っていたと記載した。これは誤りであり,本件事故当時,保険を使えないと思ってはいなかった。上記準備書面の記載の理由は説明できない(尋問調書44頁から46頁まで)。

(2) 本件車両の損傷が本件事故現場の状況と整合しないこと
 以下のとおり,本件車両の損傷は,本件事故現場の状況と整合しないから,原告の上記陳述は信用できない。
ア 証拠(乙2,12,13)によれば,本件車両の車体の前面,背面,右側面には損傷が認められなかったこと,次の写真(乙12の2頁写真2)のとおり,本件車両の車体左側面の地上高約5~86cmの領域において,左フロントバンパーからドアミラーにかけての前方領域(領域A)と左リアフェンダーから左リアバンパーにかけての後方領域(領域B)の2か所に損傷が認められたことが認められる。
 〈画像省略〉

イ 証拠(乙3,12,13)によれば,本件事故現場の状況は,次頁の一連の写真(乙13の添付鑑定資料2の右上に「ページ:2/21」と記載された頁の写真)のとおりであったことが認められる。
 〈画像省略〉
 〈画像省略〉
 〈画像省略〉
 前記写真のとおり,本件事故現場には,道路の両端と道路中央に,それぞれガードレールと約2mの高さの金属製の柱(以下「本件柱」という。)があり,本件柱の間隔は,路面部(高さ0cm)で220cm,本件車両のドアミラーの高さ(高さ86cm)で222cmであることが認められる。
 証拠(乙13)によれば,本件車両のドアミラーは,全幅(ドアミラーを除いた車体の幅)に対して片側につき,約15cmずつ,両側で約30cmはみ出していること,本件車両の全幅は190cmであるから,ドアミラー部の幅は約220cm(=190+15×2)であることが認められる。
 そうすると,本件車両がドアミラーを畳まずに本件事故現場を通過する場合,本件車両のドアミラーが本件柱に接触することなく通過することは極めて困難であると認められる。

ウ 証拠(乙2,12,13)によれば,本件車両の左ドアミラーの損傷程度は,次の一連の写真(乙13の添付鑑定資料1の右上に「ページ:7
17」と記載された頁の写真)のとおり,その左側端部の擦過痕のみであり,車両を左側方からみた場合の左ドアミラー前端部(ドアミラー左側端部よりも根本側の位置)には,損傷が生じていなかったことが認められる。
 〈画像省略〉
 〈画像省略〉
 〈画像省略〉
 また,証拠(乙2,12,13)によれば,本件車両の左ドアパネルの擦過痕は,左ドアミラー前端部よりも車体後方側まで生じていたこと,本件車両の左ドアパネルの擦過痕の終端部まで本件柱と接触したとすると,左ドアミラーの前端部(根本側)も,必ず本件柱と接触し,損傷が生じていなければならないことが認められる。

 すなわち,本件車両の左ドアミラーの外側先端部のみにしか擦過痕が生じていないにもかかわらず,その前後で本件車両の車体外板部に本件柱が接触することは,本件車両の構造上あり得ない。
 これらのことからすると,本件車両の損傷が一つの事故で発生したということはあり得ないと認められる。

エ 証拠(乙2,12,13)によれば,次の一連の写真(乙13の添付鑑定資料1の右上に「ページ:2/17」と記載された頁の写真)のとおり,本件車両の左フロントバンパーは,特に前方部の地上高約20~26cmの範囲の損傷が著しく,擦過傷が生じ,塗膜の一部が剥離していたことが認められる。
 〈画像省略〉
 〈画像省略〉
 これに対し,証拠(乙13)によれば,本件事故現場には,高さが約26cm前後の構造物が存在せず,本件車両のフロントバンパーの擦過痕を生成させる接触(衝突)の対象物が,本件事故現場には存在しなかったことが認められる。

オ 小括
 前記ウのとおり,本件車両の左ドアミラーの損傷と左ドアパネルの損傷とが同一の事故で発生したということはあり得ないと認められる。
 また,前記エのとおり,本件車両のフロントバンパーの擦過痕を生成させる接触(衝突)の対象物が,本件事故現場には存在しなかったことが認められる


(3) 本件事故に関する原告の陳述内容が不自然・不合理であること
 以下のとおり,本件事故に関する前記(1)の原告の陳述は,その内容自体に,不自然,不合理な点がある
ア 前記(1)のとおり,原告は,本件車両を本件柱にぶつけることが嫌だと考えて,本件車両で本件事故現場を通行することを避けており,本件事故前に本件事故現場を本件車両で通行したことはないと陳述した。
 実際に,前記(2)イのとおり,本件車両の幅と本件柱の間隔はほぼ同一であり,本件車両がドアミラーを畳まずに本件事故現場を通過する場合,ドアミラーが本件柱に接触することなく,通過することは極めて困難であることが認められる。

 それにもかかわらず,前記(1)のとおり,原告が,本件事故当時,本件事故現場を本件車両で通行した理由が明らかでない。
 また,原告は,本件事故当時,時速約20kmまで減速したものの,本件車両と本件柱がぶつかる危険も特にないと考えていたので,本件車両のドアミラーを畳むことはしなかったと陳述している。これは,本件車両を本件柱にぶつけることが嫌だと考えて,本件車両で本件事故現場を通行したことは本件事故以前になかったとする前記陳述と矛盾するものである。

 さらに,前記(1)のとおり,原告は,年収約400万円であった頃に,本件車両を代金約1200万円,10年ローンで買ったから,本件車両には,傷を付けたくなかったので,丁寧に乗っていたなどとも陳述している。
 そのような原告が,本件事故当時,本件車両が本件柱に衝突することがないように特段の注意をすることもなく本件事故現場を走行して,本件事故を起こしたというのは,不自然,不合理であるというほかない。

イ 前記(1)のとおり,原告は,本件事故当時,警察に報告する義務があることは知っていたが,ガードレールとかミラーとかを壊したとは思わなかったので,警察に連絡しなかったと陳述している。また,令和3年1月15日付け原告準備書面1の3頁では,本件事故から2週間も経過するまで被告に連絡しなかった理由について,保険を使えないと思っていたと主張したが,これは誤りであり,本件事故当時,保険を使えないと思ってはいなかったと陳述している。

 原告は,本件事故当時,本件車両と何かが接触する交通事故が発生したことは認識していた旨陳述しているから,本件柱又はその周辺の構造物と本件車両が接触したことは当然に認識していたはずである。そうすると,警察に連絡しなかった理由に関する前記陳述内容と矛盾しており,不合理である。

 また,原告が本件事故から2週間も経過するまで被告に連絡しなかった理由は明らかでない。しかも,保険を使えないと思っていたと令和3年1月15日付け原告準備書面1の3頁で主張したのは誤りであるが,このような誤った主張をした理由については答えられないと陳述しており,不自然,不合理である。

 加えて,前記(1)のとおり,原告は,平成30年に本件車両とは別の自動車(ホンダ・インサイト)を運転していた際に,交通事故に遭い,示談がまとまらず,弁護士を依頼したことがあったとも陳述している。そのような原告が,本件事故を起こした後,直ちに,警察や被告に申告しなかったというのは不自然,不合理であるというほかない。


(4) 小括
 前記(2)のとおり,本件車両の損傷は,本件事故現場の状況と整合しない。また,前記(3)のとおり,本件事故に関する原告の陳述内容は,それ自体として,不自然,不合理な点がある。
 これらのことからすると,本件事故に関する前記(1)の原告の陳述は信用することができない。
 したがって,本件事故が発生したと認めることはできない。

2 結論
 以上によれば,争点2について検討するまでもなく,原告の請求には理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する
 東京地方裁判所民事第26部 (裁判官 西田昌吾)
以上:5,667文字

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