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企業(間接)損害の賠償責任を認めた地裁判決紹介

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令和 4年 5月11日(水):初稿
○「間接損害-交通事故による企業損害について」に、直接の交通事故被害者ではない企業が交通事故加害者に対し損害賠償請求出来るかという問題を企業損害問題として、甲会社の代表者乙が交通事故により受傷した場合に、甲会社が俗にいう個人会社で、その実権が乙個人に集中して乙に甲会社の機関としての代替性がなく、経済的に甲会社と乙とが一体をなす関係にあるときは、甲会社は、乙の受傷により同会社の被つた損害の賠償を加害者に請求することができるとした昭和43年11月15日最高裁判決(判タ229号153頁、判時543号61頁)を紹介していました。

○この「甲会社が俗にいう個人会社で、その実権が乙個人に集中して乙に甲会社の機関としての代替性がなく、経済的に甲会社と乙とが一体をなす関係にあるとき」に該当するかどうかがしばしば争いになりますが、この点が争われて、その該当性を認めた令和3年3月12日大阪地裁判決(自保ジャーナル2096号64頁)関連部分を紹介します。企業損害約633万円の請求について、約251万円が企業損害として認定されました。

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主   文
1 被告は,原告X1に対し,270万4165円,及び,これに対する平成28年1月19日から支払済みまで年5%の割合による金員,を支払え。
2 被告は,原告会社に対し,250万8449円,及び,これに対する平成28年1月19日から支払済みまで年5%の割合による金員,を支払え。
3 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は,原告X1のものの全部と被告のものの2分の1を5分し,その3を原告X1の,その余を被告の負担とし,原告会社のものの全部と被告のものの2分の1を5分し,その3を原告会社の,その余を被告の負担とする。
5 この判決の1~2項は,仮に執行することができる。
 
事実及び理由
第1 請求の趣旨

1 被告は,原告X1に対し,626万3209円,及び,これに対する平成28年1月19日から支払済みまで年5%の割合による金員,を支払え。
2 被告は,原告会社に対し,633万4068円,及び,これに対する平成28年1月19日から支払済みまで年5%の割合による金員,を支払え。

第2 事案の概要
1 訴訟物等

 本件は,平成28年1月19日午前5時50分頃,大阪市〈以下省略〉先路上で,被告が運転する普通乗用自動車が,歩行する原告X1に衝突した交通事故(以下「本件事故」という。)について,被告に対し,民法709条に基づき,原告X1が,物的損害及び人的損害の賠償を求め,原告会社が,企業損害の賠償を求めた事案である(附帯請求は,不法行為の日から賠償済みまで平成29年法律44号による改正前の民法所定の割合による遅延損害金の支払請求である。)。

2 原告らの主張の要旨

         (中略)

(4) 原告会社の企業損害
 原告会社は,店舗内装のデザイン・図面作成・現場管理等を業とし,業務に従事していたのは,原告X1しかいなかったところ,原告X1が本件事故の受傷により業務に従事することができなくなったため,平成28年1月~12月,(有)aに対し,デザイン・図面作成を(甲31-1~3),b社に対し,図面作成を(甲32-1~10),c社に対し,現場管理を(甲33-1~12),外注した。
 ア 外注費 573万4068円(甲31~33〔枝番含〕)
 イ 弁護士費用 60万0000円

3 被告の主張の要旨

         (中略)


(3) 原告会社の企業損害について
 原告会社には,本件事故当時,取締役に原告X1の母が,社員に原告X1の当時の妻や原告会社の設立者であり100%株主でもある原告X1の父がいて,給料手当が支払われ,東京・倉庫がある鳥取等に出張し(甲12,14,17,28,40,41,44),原告会社の業務に従事していたから,原告X1に実権が集中していたり,代替者がいなかったり,原告X1と原告会社の経済的一体性があったりするわけではなく,原告会社は企業損害を請求することができない。

 原告会社の(有)aやc社に対する外注は,本件事故前から存在し(甲35,42-1・2),原告X1の症状固定後も増額し続けたから(甲60,61),経営戦略であって,本件事故により発生したものではない。

第3 当裁判所の判断

         (中略)


3 原告会社の企業損害
(1) 認定事実

 証拠(末尾括弧内掲記)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
ア 原告会社は,陳列用器具(マネキン)の販売・リース,並びに,展示会場,各種陳列用器具・ディスプレイ及び店舗内装の企画・設計を目的とする特例有限会社である(甲12,46,62,原告X1本人)。
 原告X1の父は,マネキンの販売・リース業等を営んでいたところ,平成16年,原告会社を設立し(100%株主),代表取締役に就任し,原告X1の母を取締役に就任させた(甲12,40,46)。
 原告X1は,平成22年,居宅を購入し,原告会社の本店所在地をそこに移転し,原告会社の代表取締役に就任した(甲12,25)。
 原告会社においてデザイン・図面作成のソフト(イラストレーター,CAD)を扱うことができるのは,原告X1だけである(甲46,62,原告X1本人)。


(ア) 原告会社は,平成27年,売上高は4100万3320円,外注費は1510万2256円,営業利益は▲184万0467円であった(甲14)。
 また,給料手当を,原告X1に341万5500円,原告X1の母に60万円,原告X1の父に283万2000円,原告X1の当時の妻に32万円,合計716万7500円支払った。賃借料を,原告X1所有の前記居宅,原告X1の父母の自宅付近の駐車場,及び,原告X1の鳥取県にある母方祖母所有の倉庫に関し,合計221万8519円支払った。旅費交通費を449万3027円支払った。原告X1からの借入金は1268万6531円であった。(甲13~15,28)

(イ) 外注費の内,50万円は,平成27年8月31日請求分の(有)aに対するデザイン・図面作成で(原告会社は,顧客に対しては,25万円の間接費を加算して請求した〔甲42,50,51〕。),42万8215円は,同年11月25日・12月20日請求分のc社に対するマネキン修理・塗装等であり(甲35,47,48),他に(有)a,c社,b社に対する外注費はない(甲35,42)。但し,後記ウ(イ)の通り,c社に対しては,平成27年,現場管理等18万1522円を外注していた(甲33-1,49)。


(ア) 原告会社は,平成28年,売上高は3618万4775円,外注費は2125万0635円,営業利益は▲343万2816円であった(甲17)。
 また,給料手当を,原告X1に28万9500円,原告X1の母に60万円,原告X1の父に60万円,原告X1の当時の妻に96万円,支払った。賃借料を,原告X1所有の前記居宅,原告X1の前記父母の自宅付近の駐車場,及び,原告X1の前記母方祖母所有の倉庫に関し,合計222万5926円支払った。旅費交通費を507万6725円支払った。原告X1からの借入金は1545万5671円であった。(甲16~18,29)

(イ) 外注費の内,合計59万4000円は(有)aに対するデザイン・図面作成で(原告会社は,顧客に対しては,合計40万6000円の間接費を加算して請求した〔甲30,31-1~3,52,53〕。),合計239万8361円(平成28年3月~9月請求分は合計151万3442円)はb社に対する図面作成で(甲30,32-1~10),合計274万1707円(平成28年3月~9月請求分は合計153万0215円)はc社に対する現場管理等(但し,内18万1522円は,平成27年分の現場管理等)である(甲30,33,43,49〔枝番含〕)。

 原告会社は,毎月,原告の父母及び当時の妻の「鳥取出張宿泊費」を計上し,仙台・東京・横浜・名古屋・広島・岡山・福岡出張の宿泊費・日当を計上した(甲41,44)。これらは,原告会社の業務上発生したものではなく,家計のつけ込みであった(原告X1本人)。
 原告X1は,平成28年9月13日,原告会社の預金口座に,1300万円を預け入れた(甲34-3)。


(ア) 原告会社は,平成29年,売上高は2436万9936円,外注費は1225万5491円,営業利益は▲565万6333円であった(甲60)。
 また,給料手当を,原告X1に347万4000円,原告X1の父に216万円,支払った(原告X1は,この頃,離婚した。)。賃借料を,原告X1所有の前記居宅,原告X1の前記父母の自宅付近の駐車場,及び,原告X1の前記母方祖母所有の倉庫に関し,合計214万4445円支払った。旅費交通費を285万8399円支払った。(甲38,60,弁論の全趣旨)

(イ) 外注費の内,合計366万4159円はb社に対するもので,合計348万9497円はc社に対するものである(甲36)。


(ア) 原告会社は,平成30年,売上高は2973万5481円,外注費は1581万2807円,営業利益は▲363万7724円であった(甲61)。
 また,役員報酬を原告X1に347万4000円,給与手当を原告X1の父に216万円,支払った。賃借料を,原告X1所有の前記居宅,原告X1の前記父母の自宅付近の駐車揚,及び,原告X1の前記母方祖母所有の倉庫に関し,合計214万4445円支払った。旅費交通費を128万1386円支払った。(甲39,61)

(イ) 外注費の内,合計369万8665円はb社に対するもので,合計706万0683円はc社に対するもの(但し,内350万円は,本店塗装工事)である(甲37,56~58)。

(2) 評価
 前記(1)の通り,原告会社は,人的資源が,原告X1夫婦及び原告X1両親だけであったこと,給料手当の外,賃借料名目による利益を得ていること,賃借料・宿泊費・日当等に家計のつけ込みがあること,原告X1の妻や父の給料手当まで,原告X1の就業への支障を原因として影響されたこと,原告会社の目的である設計業務を行うことができるのは,原告X1だけであったこと,原告X1が原告会社の経費に1300万円も充てながら借入金処理しなかったことが認められる。

 すなわち,原告会社は,法人とは名ばかりの,俗にいう個人会社であり,その実権は原告X1に集中して,原告X1には原告会社の機関としての代替性がなく,経済的に原告X1と原告会社とは一体をなす関係にあるものと認められる。
 したがって,本件事故と原告X1の受傷による原告会社の利益の逸失との間に相当因果関係があると認められる。


(3) 損害
ア 外注費 227万8449円
 前記(1)の通り,原告会社は,平成27年,売上高に占める外注費が36.8%(≒1510万2256円/4100万3320円)であったのに,本件事故(平成28年1月19日)の後の平成28年,58.7%(≒2125万0635円/3618万4775円)に増加し,b社に外注するようになったり,c社に継続的に外注するようになったりした。その後,売上高に占める外注費は,平成29年に50.2%(≒1225万5491円/2436万9936円),平成30年に41.4%(≒[1581万2807円-原告会社の本店塗装工事費350万円]/2973万5481円)と,本件事故前に戻りつつある。また,本件事故後,給料手当を471万8000円(=合計716万7500円-244万9500円)減額させたのに(但し,家計のつけ込みがある旅費交通費は,58万3698円〔=507万6725円-449万3027円〕増額した。),営業利益は,159万2349円(=184万0467円-343万2816円)も減少した。

 したがって,前記2(1)の通り,原告X1が本件事故により受傷し,設計業務に支障が生じたことで,原告会社が外注を余儀なくされ,利益を逸失したと認められる。
 そして,平成28年1月19日の本件事故から前記2(2)の通り因果関係のある同年8月25日までの治療期間に対応する同年3月~9月請求分のb社に対する外注費151万3342円は,本件事故後に初めて発生したことからも,原告X1の設計業務の支障により発生したものと認められ,本件事故との因果関係が認められる。

 また,同期間請求分のc社に対する外注費153万0215円は,本件事故直前にも発生していたこと,本件事故後の旅費交通費に減額がないことも考慮すれば,その50%に限り,原告X1の現場管理等業務の支障により発生したものと認める。
 他方,本件事故後の(有)aに対する外注は,本件事故前と同規模であり,原告X1の設計業務の支障により発生したものとは認められない。
 151万3342円+153万0215円×50%≒227万8449円

イ 弁護士費用 23万0000円
 本件事案の性質,認容額等を考慮した。

ウ 小計
 227万8449円+23万0000円=250万8449円

4 まとめ
 原告X1の請求は,物的損害5万7644円及び遅延損害金,並びに,人的損害264万6521円及び遅延損害金,原告会社の請求は,250万8449円及び遅延損害金の限度で理由がある。よって,一部認容し,主文の通り判決する。
 大阪地方裁判所第15民事部 (裁判官 永野公規)
以上:5,546文字

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