平成22年 2月22日(月):初稿 |
○間接損害とは交通事故によって直接の被害を受けた訳ではないが、直接の被害者の損害から派生して損害が生じた場合の損害を言います。例えば交通事故によって企業の代表者や従業員が傷害を受け就労が出来なくなったため会社の売上が減少するなどの被害を受けた場合の損害を企業損害と言いますが、これも間接損害の一つで、今回は、この企業損害についての備忘録です。 ○直接の交通事故被害者ではない企業が交通事故加害者に対し損害賠償請求出来るかという問題を企業損害問題で、①反射損害と②固有損害に大別されます。 ①反射損害とは、企業の代表者や従業員が受傷して就労できなかった期間も会社が役員報酬や給料を支払い、それを損害として請求するもので、肩代わり損害,転化損害とも呼ばれます。 ②固有損害とは、企業の代表者や従業員が受傷して就労できなかった企業の売上が減少したことによる損害です。実務で良く問題になるのはこちらの方です。 ○反射損害については、その請求金額についての問題はありますが、ほぼ異論なく認められており、実務で実際問題になるのは固有損害の方です。固有損害の考え方には概ね以下の4説があります。 A相当因果関係説 民法709条、自賠法3条は、賠償請求権の主体を直接被害者に限定する規定ではなく、加害行為と会社の損害の間に相当因果関係がある場合には、加害者の損害賠償責任が認められる。 B債権侵害説 代表取締役等に就任する個人と会社の間には委任等の債権関係があり、その個人に対する不法行為は、単なる過失による場合でも、その債権を侵害する C原則否定説 不法行為による損害賠償請求権の主体は、原則として不法行為の直接被害者に限られ、会社は間接被害者であり損害賠償請求の主体にはなれないが、例外として会社と直接被害者個人との間に経済的一体関係がある場合にのみ会社の固有損害について損害賠償請求権者と認める D全面否定説 間接被害者である会社の損害賠償請求権の主体性を否認し、上記①の反射損害以外には損害賠償請求を認めない ○裁判例の多くは、A相当因果関係説か、C原則否定説によっており、固有損害としての企業損害が認められる要件は相当厳しくなっており、実際被害を受けた会社の感覚とは相当異なっています。企業損害が認められるかどうかのポイントは、直接被害者と会社の経済的一体性で、この経済的一体性は容易には認められず、会社の資本金額・売上高・従業員数等の企業規模、直接被害者の地位・業務内容・権限・会社財産と個人財産の関係、株主総会・取締役会の開催状況等を総合考慮して決せられます。 ○この固有損害としての企業損害についての裁判例を以下に整理します。 昭和43年11月15日最高裁判決(判タ229号153頁、判時543号61頁) 甲会社の代表者乙が交通事故により受傷した場合に、甲会社が俗にいう個人会社で、その実権が乙個人に集中して乙に甲会社の機関としての代替性がなく、経済的に甲会社と乙とが一体をなす関係にあるときは、甲会社は、乙の受傷により同会社の被つた損害の賠償を加害者に請求することができる。 以上:1,271文字
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