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事故と脳脊髄液漏出症の因果関係を認めた大阪高裁判決紹介4

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令和 4年 4月19日(火):初稿
○「事故と脳脊髄液漏出症の因果関係を認めた大阪高裁判決紹介3」の続きで、令和3年12月15日大阪高裁判決(ウエストロー・ジャパン、LEX/DB)の最終結論部分です。

○事故態様及び車両破損状況等から事故による衝撃は相当大きいことが推認されることから、事故に起因して脳脊髄液漏出症が生じて持続していると認め、起立性頭痛,全身倦怠感・易疲労性,意欲低下,聴覚過敏,耳鳴,めまいなど脳神経ないし整形外科領域の症状の内容・程度は、「神経系統の機能又は精神に障害を残し,服することができる労務が相当な程度に制限されるもの」として後遺障害等級9級10号に該当するとしています。

○一般には,脳脊髄液漏出症に対し,ブラッドパッチによって永続的な治癒が得られるとは限らず,国際頭痛分類第2版から第3版にかけても,そのような理解を前提とした診断基準の変更がされたことを挙げていることも重要です。

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(3)総合評価
ア 上記(1)(2)のとおり,控訴人については,本件事故に起因する脳脊髄液漏出症が生じたことを疑うに十分な臨床症状の経過が認められる上,CTミエログラフィーにおいて,本件画像診断基準上の確実所見に該当する画像所見も得られている。

 一方,控訴人の症状は,ブラッドパッチを受けた後も完治していないが,X線透視下でのブラッドパッチによって顕著な治療効果を多数得た旨の臨床研究もある(乙39)ものの,一般には,脳脊髄液漏出症に対し,ブラッドパッチによって永続的な治癒が得られるとは限らず,国際頭痛分類第2版から第3版にかけても,そのような理解を前提とした診断基準の変更がされたことは,前記4の医学的知見(5)のとおりである。

そして,控訴人も,ブラッドパッチによって一時的な症状緩和のほか,一定の持続的な改善も得られているところ,一過性の治療機序による効果が都度得られる一方,漏出部位の完全な修復までは得られない状態が続いているとの経過として了解可能であり,脳脊髄液漏出症との診断を妨げるような経過をたどっているとはいえない。

イ 以上に加え,本件事故後に控訴人に発症,持続している各種症状(前記1の認定事実)は,概ね脳脊髄液漏出症の主症状ないし随伴症状(前記4の医学的知見)とされるものであること,本件事故は,高速道路を進行中の車両同士が接触し,控訴人車両がその勢いのまま中央分離帯に正面から衝突するという激しいものであり,控訴人車両の前方部の損傷状況(乙27,28)からしても,助手席に乗車していた控訴人の受けた衝撃は相当に大きいものであったと推認されること,控訴人の各種症状をより合理的かつ客観性をもって説明できる他の疾患が主張立証されているとはいえないことも考慮すれば,控訴人については,本件事故に起因して脳脊髄液漏出症が生じ,これが持続しているものと認めるのが相当である。

ウ なお,上記認定判断は,交通事故による外傷性頚部症候群ないし頚椎捻挫の多くが実際には脳脊髄液漏出症(脳脊髄液減少症)である旨の見解を前提とするものではなく,国内外の信頼度の高い医学的知見を前提に、控訴人に係る臨床経過及び画像所見を踏まえた個別具体的なものであることを,当然のことながら付言する。

(4)障害等級
 本件事故後に発症,持続している控訴人の種々の症状(前記1(5)(7)の認定事実)は,いずれも本件事故によるものといえるが,中でも,起立性頭痛,全身倦怠感・易疲労性,意欲低下,聴覚過敏,耳鳴,めまいなど脳神経ないし整形外科領域の症状は,本件事故に起因する脳脊髄液漏出症によるものといえることに加え,その内容・程度(甲41,49,乙5,6,控訴人本人)を考慮すると,本件事故に起因して控訴人に後遺している障害は,「神経系統の機能又は精神に障害を残し,服することができる労務が相当な程度に制限されるもの」として後遺障害等級9級10号に該当すると認めるのが相当である。

6 争点(4)(控訴人の損害)について
(1)治療関係費 928万2325円
 前記1,4及び5の認定・説示を踏まえれば,本件交通事故後に控訴人が医療機関等の入通院に要した治療関係費は,脳脊髄液漏出症を前提としたものも含め,前記1の認定事実(5)の症状固定日までの分928万2325円(原判決別表2。甲10~20)につき,本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。

(2)入院雑費 11万5500円
 上記(1)のとおり,控訴人の受けた入院治療のうち,症状固定前の平成20年9月から同年11月までの77日間分は,本件事故との相当因果関係が認められる。
 1日当たりの入院雑費としては1500円が相当であるところ,その77日分である11万5500円が本件事故による入院雑費の損害である。

(3)入通院交通費 20万1309円
 上記(1)のとおり,本件事故後の医療機関等への入通院(原判決別表1)のうち,症状固定日までの分につき,本件事故との相当因果関係が認められるところ,証拠(甲10~16,19,20)及び弁論の全趣旨により,本件事故による入通院交通費は以下のとおりと認められる。
ア 長浜赤十字病院 2760円
イ 橋本市民病院
7.8km×2×15円×2=468円
ウ 紀和クリニック
3.8km×2×15円×23=2622円
エ なかいクリニック
2.7km×2×15円×61=4941円
オ 角谷整形外科(入院時の1往復分を含む。)
47.4km×2×15円×86=12万2292円
カ 向陽病院(入院時の1往復分)
47.2km×2×15円×1=1416円
キ 奥野クリニック
4.4km×2×15円×353=4万6596円
ク 三井整骨院
4.6km×2×15円×3=414円
ケ 西山接骨院
15km×2×15円×44=1万9800円
 アないしケの合計20万1309円

(4)休業損害 271万2422円
 控訴人は専業主婦で,本件事故によって現実に収入の減少があったわけではないものの,本件事故に起因する脳脊髄液漏出症に伴う症状などによって,家事の遂行に相当の支障を来したものといえる(甲49,控訴人本人)ところ,本件事故が生じた平成20年3月上旬から症状固定となった平成22年10月上旬までの2年7か月の間,平成20年の賃金センサス女性学歴計全年齢平均年収額349万9900円を基礎に,30%の休業損害が発生したと認めるのが相当であり,その額は以下のとおり算定される。
349万9900円×(2+7/12)×0.3=271万2422円

(5)入通院慰謝料 270万円
 本件事故と相当因果関係の認められる控訴人の入通院期間・日数(上記(1))及び傷害の程度を踏まえると,上記金額を相当と認める。

(6)将来治療費
 控訴人の後遺障害の内容を踏まえても,本件事故と将来治療費との間に相当因果関係は認められない。

(7)逸失利益 897万6883円
 前記5のとおり,控訴人は,本件事故に起因する脳脊髄液漏出症が持続し,後遺障害等級9級に該当する状態である。もっとも,上記のとおり,控訴人は専業主婦で,当該後遺障害によって現実に収入の減少があったわけではなく,また,自動車の運転などの自立的な能力も一定保持するほか,ブラッドパッチによって一定の持続的な回復も得られている。控訴人の障害の内容・程度,生活状況等(認定事実(7),甲49,控訴人本人)に照らし,症状固定日である平成22年10月(52歳)以降,67歳に至るまでの15年間(ライプニッツ係数は10.3797),平成22年の女性学歴計全年齢平均年収額345万9400円を基礎に,労働能力喪失率25%に相当する額の利益を逸失したものとみるのが相当であり,その金額は,以下のとおり算定される。
345万9400円×0.25×10.3797=897万6883円

(8)後遺障害慰謝料 670万円
 控訴人の後遺障害の内容・程度により,上記金額を相当と認める。

(9)小計 3068万8439円

(10)既払金の控除
 既払金が922万3477円であることは争いがない。
 前記(10)の金額から同金額を控除すると,残額は2146万4962円である。

(11)弁護士費用 210万円
 上記金額の範囲で,本件事故との相当因果関係が認められる。

(12)合計
 以上より,控訴人が本件事故によって被った損害のうち賠償されていない金額の合計は2356万4962円である。

第4 結論
 以上によれば,控訴人の請求は,被控訴人らに対し,連帯して2356万4962円の損害賠償及びこれに対する平成20年3月8日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから,その限りで認容し,その余の請求はいずれも棄却すべきである。
 よって,これと異なる原判決を変更することとして,主文のとおり判決する。
大阪高等裁判所第5民事部 裁判長裁判官 太田晃詳 裁判官 河本寿一 裁判官 松川充康

以上:3,696文字

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