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令和 4年 1月11日(火):初稿 |
○原告らが、原告Aが被告との間で総合自動車保険契約を締結していたところ、原告Aが交通事故を起こして原告らが負傷したなどと主張して、被告保険会社に対し、本件契約に基づく保険金として、運転していた原告Aが約117万円、同乗していた原告Bが約2777万円の保険金支払を求めました。 ○これに対し、原告Aの保険金請求については,本件飲酒免責条項により,被告は免責となるとし、原告Bの保険金請求については,本件重過失免責条項により,被告は免責となるとして、原告らの請求を全て棄却した令和3年1月27日札幌地方裁判所(自保ジャーナル2093号161頁)関連部分を紹介します。 ○ ******************************************** 主 文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実及び理由 第一 請求 1 被告は,原告Aに対し,117万1414円及びこれに対する令和元年6月15日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 2 被告は,原告Bに対し,2777万5533円及びこれに対する令和元年6月15日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 第二 事案の概要 本件は,原告らが,原告Aが被告との間で総合自動車保険契約(以下「本件契約」という。)を締結していたところ,原告Aが交通事故を起こして原告らが負傷したなどと主張して,被告に対し,本件契約に基づく保険金(原告Aにつき117万1414円,原告Bにつき2777万5533円)及びこれに対する令和元年6月15日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで商事法定利率(平成29年法律第45号による改正前のもの)年6分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 1 前提事実 (1)保険契約の締結 原告Aは,平成28年5月,保険会社である被告との間で,原告A所有の自家用軽四輪自動車(以下「本件車両」という。)を契約車両とし,保険期間を同月2日から平成29年5月2日までとして,以下の内容を含む総合自動車保険契約を締結した(本件契約)。 ア 人身傷害保険 被保険者 原告A及び原告B 保険金額 被保険者1名当たり3000万円 保険金支払事由 交通事故が発生した場合,契約車両の正規の乗車装置又はその装置のある車内に乗車する者が交通事故により被った身体の傷害に係る損害(治療費等)に対して保険金を支払う。 イ 運搬搬送費用保険 被保険者 原告A 保険金額 被保険者が負担する金額 保険金支払事由 落輪等の事由により契約車両が走行不能となった場合,被保険者が運搬・搬送費用を負担することによって被る損害に対して保険金を支払う。 ウ 免責条項 人身傷害保険及び運搬搬送費用保険に関して,被保険者が道路交通法65条1項に定める酒気帯び運転又はこれに相当する状態で契約車両を運転している場合に生じた損害については,保険金を支払わない(以下「本件飲酒免責条項」という。)。 人身傷害保険に関して,損害が保険金を受け取るべき者の重大な過失によって生じた場合は,その者の受け取るべき金額については,保険金を支払わない(以下「本件重過失免責条項」といい,本件飲酒免責条項と併せて「本件各免責条項」という。)。 (2)保険事故の発生 ア 原告Aは,平成28年8月7日午前2時30分頃,北海道恵庭市<以下略>先路上において,原告B及び原告らの子であるD(平成22年○月○○日生。以下「D」という。)が同乗する本件車両を運転中,直進道路において中央分離帯に乗り上げ,横転させる交通事故(以下「本件事故」という。)を発生させた。 イ 本件事故により,原告Aは右上腕骨折,右脛骨骨折等の傷害を,原告Bは左前腕挫創,左上腕打撲等の傷害を負い,原告らは,それぞれ個別の救急車により、いずれも北海道α市に所在する社会医療法人b病院(以下「b病院」という。)に救急搬送された。 (3)被告の対応及び本件訴訟の提起 (中略) 第三 当裁判所の判断 1 争点(2)(本件各免責条項による免責の成否)について (1)本件の事案に鑑み,争点(2)から先に判断する(なお,以下では,平成28年の出来事については年の記載を省略する。)。 (2)原告A(本件飲酒免責条項による免責の成否)について ア 証拠(略)によれば,8月7日午前2時30分頃に発生した本件事故を同日午前2時37分に覚知し,本件事故現場に臨場した警察官は,負傷していた原告Aからアルコール臭を認めたため,原告Aの救急搬送に同乗してb病院に向かい,原告Aにアルコール呼気検査に応じるよう求めたことが認められ,このような事実からすれば,同日午前4時頃に実施された呼気検査においては陰性の結果であったとしても,原告Aは,本件事故を発生させた当時,通常の状態で身体に保有する程度以上にアルコールを保有していることが,顔色,呼気等により外観上認知することができるような状態にあり,「道路交通法65条1項に定める酒気帯び運転又はこれに相当する状態」にあったものというべきである。 イ (ア)原告らは,原告Aはアルコールに弱い体質であるため普段から酒類を飲まず,本件事故前日(8月6日)の午後7時頃,自宅でアルコール度数3%の缶酎ハイを3口程度飲んだのみであると主張し,これに沿う供述をする。 (イ)しかしながら,原告Aは,8月7日の本件事故直後に救急搬送されたb病院においては,その「嗜好」として「お酒」について「飲む」と回答し,b病院から転院した先の医療法人社団c病院においても,同月9日の問診で「飲酒歴」について「時々」,「飲酒量」について「普通」と回答しており,2度にわたって飲酒の習慣があると回答しているのであって,これに反する原告らの供述は容易に採用し難いものであるといわざるを得ない(なお,原告Aは上記のような回答をしたことを否定する供述をしているが、異なる医療機関で同趣旨の医療記録が作成されており,上記の判断を左右するものではない。)。 かえって,原告Aは,前記アのとおり警察官からアルコール呼気検査に応じるよう求められたのに対し,b病院に救急搬送された後,「警察官により本人に令状請求による強制執行を行うことを説明」されるまでこれに応じなかったというのであって,このような事実からは,原告Aにおいて,相当程度の飲酒の事実を認識していたことが窺われるといわざるを得ない(なお,原告Aは,この点について「飲酒運転をしていないのに飲酒を疑われ,とても腹が立ったから」などと供述しているが,時期や量はともかく本件事故に先立つ飲酒の事実自体は原告Aも認めるところであって,必ずしも合理的な説明とは認め難く,上記の判断を左右するものではないといわざるを得ない。)。 (ウ)また,原告Aは,保険会社である被告の調査に対し,8月26日には飲酒の事実を否定し,11月18日には「7時頃」に飲酒をしたと述べたものの,同月21日には「どう考えても飲んでないんですよね。よくよく思い返せば」として再度飲酒の事実を否定しており,その後,本件訴訟において,8月6日午後6時頃(後に午後7時頃)に飲酒をしたとの主張をし,これに沿う供述をしているが,このような供述の変遷からは,原告Aにおいて,保険金の支払を求めるに当たり,飲酒の事実を糊塗しようとする意図があったと窺われるといわざるを得ない(原告Aは,この点について「飲酒運転を疑われた理由が分からなかったから」などと説明するが,必ずしも合理的な説明とは認め難く,「保険金が下りなくなると思ったから」とも説明しており,上記の判断を左右するものではない。)。 (エ)さらに,原告Aは,本件事故前日の夕方以降の行動について,保険会社である被告の調査に対し,〔1〕8月26日には,午後9時に自宅を出発して「家族3人で食事とカラオケに行った」と述べていたが,〔2〕11月18日には,(「f店とかには」)「行きは送ってもらったんですよね」と述べ,本件訴訟を提起した後,〔3〕証拠(略)では,8月6日は原告宅でDの誕生日会が開かれており,午後11時頃「原告Aが運転する自家用車に乗って,自宅から最寄りのカラオケに行った」とし,〔4〕証拠(略)でも「原告Aが運転する自家用車に乗り,自宅から最寄りのカラオケに行った」と主張していたが,上記〔2〕の証拠(略)が提出された後の〔5〕証拠(略)では,「カラオケ店に行くには,〔中略〕原告ら,D及び原告Aの父親の内縁の妻は原告Aの父親が運転する車両に同乗し」たとの主張となり,〔6〕原告Aの陳述書でも同旨の陳述をしていたが,〔7〕原告Aの本人尋問においては,カラオケ店に行く際に乗った車両は「Bの母」が運転していたものであると思う旨の供述をしている。 このように,原告Aにおいては,本件事故前日の夕方以降の行動について,頻繁にその認識の変遷がみられ,その記憶がどの程度正確なものであるかについても,疑問の余地があるものといわざるを得ない。 (オ)以上の検討を踏まえると,原告Aが本件事故前日(8月6日)の午後7時頃にアルコール度数3%の缶酎ハイを3口程度飲んだのみであるとの原告らの主張は,採用することができないといわざるを得ない。 ウ このほか,原告らは,警察官が感知したというアルコール臭が原告Bの呼気や原告Aの衣服から発されていたものである可能性もあるとも主張するが,原告らは個別の救急車で救急搬送されているところ,原告Bの救急搬送に係る救急活動報告書はアルコール臭に関する記載はなく,交通事故現場に臨場した警察官においてアルコール臭の発生元を誤るとも容易に想定し難いことから,その主張も採用することができない。 エ 以上のとおり,原告Aの保険金請求については,本件飲酒免責条項により,被告は免責となる。 (3)原告B(本件重過失免責条項による免責の成否)について ア 前記(2)のとおり,原告Aについては,本件事故の当時,「道路交通法65条1項に定める酒気帯び運転又はこれに相当する状態」にあったものと認められるところ,原告Bは,本件事故前日の夕方以降,原告Aとその行動を共にし,原告Aが飲食する様子を認識していたにもかかわらず,本件事故直前に原告Aが本件車両の運転を開始する際,原告Aの状況を確認したり,運転代行を要請することを検討したりすることなくその運転を委ねている。 そして,原告Aは,本件車両の運転を開始した直後に居眠りをし,本件事故を発生させたため,原告Bの身体に傷害を生じたというのであって,飲酒運転の重大性も考慮すれば,「損害が保険金を受け取るべき者の重大な過失によって生じた場合」に該当するものといわざるを得ない。 イ なお,原告Bは,本件事故発生時には寝ており,その供述によれば,本件事故前日から相当程度のアルコールを摂取していたとされているが,保険会社である被告の調査に対する8月26日の原告Aの回答によれば,「妻は最初の1杯目のみグラスビール」とされており,原告Bの飲酒量は必ずしも明らかではない上に,原告B自身,本件事故直前に原告Aが本件車両の運転を開始する際の状況を記憶しており,上記の判断を左右するには至らないというべきである。 ウ 以上のとおり,原告Bの保険金請求については,本件重過失免責条項により,被告は免責となる。 (4)以上によれば,原告らの損害額(争点(1))にかかわらず,原告らの請求について被告は本件各免責条項によって免責となるから,原告らの損害額について判断するまでもなく,その請求はいずれも理由がない。 2 よって,原告らの請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとし,主文のとおり判決する。 札幌地方裁判所民事第5部 裁判官 宇野直紀 以上:4,816文字
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