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2件の交通事故による二重轢過事案について判断した高裁判決紹介

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令和 4年 1月 7日(金):初稿
○「2件の交通事故による二重轢過事案について判断した地裁判決紹介」の続きで、その控訴審判決令和2年12月8日福岡高裁判決(判時2497号38頁)関連部分を紹介します。

○一審令和2年6月12日福岡地裁久留米支部判決(判時2497号43頁<参考収録>)は、被害者Bは、第1事故によりほぼ即死し,第2事故発生時には,既に死亡していたとして、被告Y2及び株式会社Aに対する請求を棄却し、第1事故加害者Y1に対する請求を一部認めていました。

○控訴審判決は、被害者の死亡が確認されるまでに2つの交通事故が発生した二重轢過事案において、民法719条1項後段を類推適用して、後発の事故の加害者に被害者死亡の損害の不真正連帯責任を負わせるためには、同条項の類推適用を求める者が「被害者が後発の事故によって死亡した可能性があること」を立証する必要があるとしました。
民法第719条(共同不法行為者の責任)
 数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う。共同行為者のうちいずれの者がその損害を加えたかを知ることができないときも、同様とする


○本件は,第1事故は被控訴人Y1の行為、第2事故は亡Y2の行為と区別でき、且つ、第2事故は第1事故がなければ生じていないのでY1に被害者Bの損害全部(後述の過失相殺を除く。)につき責任があるのは明らかであるから,加害者不明の場合の被害者の保護を目的とする民法719条1項後段の本来的な適用場面ではないとしました。

○しかし、Bが第2事故によって死亡した可能性があると認められる場合は,民法719条1項後段の被害者保護の趣旨を踏まえてこれを類推適用することにより,被控訴人Y3らに対し,連帯して賠償責任を負わせることができるが、Bが第2事故によって死亡した可能性があることは,同規定を類推適用するための要件となる事実であるため,その立証責任は控訴人にあるというべきであるとしました。

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主    文
1 本件控訴及び本件附帯控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は控訴人の,附帯控訴費用は被控訴人Y1の各負担とする。
 
事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 本件控訴

(1) 原判決を次のとおり変更する。
(2) 被控訴人らは,控訴人に対し,連帯して3276万7812円及びうち2978万8920円に対する平成29年9月7日から,うち297万8892円に対する平成28年2月23日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人らの負担とする。
(4) 仮執行宣言

2 本件附帯控訴
(1) 原判決中被控訴人Y1敗訴の部分を取り消す。
(2) 前項の部分につき,控訴人の被控訴人Y1に対する請求を棄却する。
(3) 訴訟費用は,第1,2審とも控訴人の負担とする。

第2 事案の概要等(略称等は,原判決の「被告Y2」を「亡Y2」と読み替えるほか,特に断らない限り,原判決の表記による。)
1 本件は,交通事故(後記の本件事故)で死亡したB(B)の唯一の相続人である控訴人が,自転車を運転していたBは,①被控訴人Y1の運転する中型貨物自動車(被控訴人Y1車)に衝突されて道路上に倒れ(第1事故),②亡Y2(亡Y2)の運転する中型貨物自動車(亡Y2車)に轢過され(第2事故),第1事故と第2事故が一連一体の事故(以下,第1事故と第2事故を総称して「本件事故」という。)であり,あるいはいずれの事故が原因でBが死亡したのか不明であるから,本件事故によってBが死亡したことについて,被控訴人Y1及び亡Y2には共同不法行為が成立し,また,被控訴人会社は本件事故当時に亡Y2を使用していた会社の権利義務を承継した者であるから,上記亡Y2の共同不法行為について使用者責任を負い,これにより,被控訴人Y1,亡Y2及び被控訴人会社の全員が,連帯して損害賠償責任を負うと主張して,被控訴人Y1に対し自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)3条及び民法709条,719条に基づき,亡Y2に対し民法709条,719条に基づき,被控訴人会社に対し民法715条に基づき,損害賠償金3276万7812円及びうち弁護士費用を除く2978万8920円に対する平成29年9月7日(自動車損害賠償責任保険金の支払日の翌日)から,うち弁護士費用297万8892円に対する不法行為の日である平成28年2月23日から,各支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの。以下同じ。)所定の年5分の割合による遅延損害金を連帯して支払うよう求めた事案である。

2 原判決は,控訴人の被控訴人Y1に対する請求を688万6109円及びその遅延損害金の限度で認容し,その余の請求をいずれも棄却したため,控訴人が本件控訴を提起した。それに対し,被控訴人Y1も本件附帯控訴を提起した。
 なお,亡Y2が令和2年1月31日に死亡したため,亡Y2の相続人である被控訴人Y3及び被控訴人Y4(以下,2名を総称して「被控訴人Y3ら」という。)が訴訟手続を受継した。



         (中略)

第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も,原判決と同じく,控訴人の請求のうち被控訴人Y1に対する請求につき688万6109円及びその遅延損害金の限度で認容し,その余の請求をいずれも棄却するのが相当と判断する。
 その理由は,以下のとおりである。

2 認定事実は,以下のとおり原判決を補正するほか,原判決の「事実及び理由」欄の「第3 判断」の1(原判決11頁22行目から同17頁26行目まで。同別紙図面を含む。)に記載のとおりであるから,これを引用する。

         (中略)

3 争点(1)(被控訴人Y1と亡Y2に共同不法行為が成立するか。)について
(1) 第1事故と第2事故との間におよそ8分から9分の空時間があり,その間,被控訴人Y1は警察や消防に順次電話による連絡を行いつつ,発煙筒をたいて後続車に注意喚起するなどの行動をしていたこと(認定事実(4),同(5)),Bの身体に対する成傷について第1事故によるものと第2事故によるものとで区別できること(認定事実(6))に照らせば,第1事故と第2事故は一連一体のものとは評価できず,かつ,第2事故による成傷とBの死亡との間の因果関係を積極的に認めるに足りる証拠がないから,本件に民法719条1項前段は適用できない。

(2)
ア 民法719条1項後段の趣旨は,関連共同性を欠く数人の加害行為により損害が生じ,その損害が当該数人中誰かの行為によって生じたことは明らかであるけれども,誰が生じさせたか不明の場合(いわゆる択一的競合の場合)において被害者保護のため,右数人全員に連帯して賠償責任を負わせる規定と解される。

 本件は,第1事故は被控訴人Y1の行為によるものであり,第2事故は亡Y2の行為によるものとそれぞれ区別できる上,第2事故は第1事故がなければ生じていないという条件関係があり,その意味では被控訴人Y1に被害者(控訴人)との関係では損害全部(後述の過失相殺を除く。)につき責任があるのは明らかであるから,加害者不明の場合の被害者の保護を目的とする民法719条1項後段の本来的な適用場面ではないが,Bが第2事故によって死亡した可能性があると認められる場合は,民法719条1項後段の被害者保護の趣旨を踏まえてこれを類推適用することにより,被控訴人Y3らに対し,連帯して賠償責任を負わせることができると解される。

 そして,Bが第2事故によって死亡した可能性があることは,同規定を類推適用するための要件となる事実であるため,その立証責任は控訴人にあるというべきである


イ 鑑定では,Bは第2事故発生時点でほとんど絶命していたと判断されている(認定事実(6)ア)。その根拠として,Bが同時点で生存していれば,頭部の損傷状態からして大量の出血があったはずであるが,そのような痕跡は認められておらず,第1事故により絶命して血液の循環が停止していたものと認められること,同様に,その他の臓器も損傷していたのにほとんど出血の跡がなく生活反応は認められないこと,ほぼ全ての肋骨が骨折しており,特に右後背部の損傷が酷いことから右後方からの衝撃が強く,この骨折の状態から呼吸できない状態と認められること等が挙げられ(認定事実(6)イ),解剖所見及び医学的な専門知見に基づいた合理的な推論と認められる。

すなわち,第1事故の態様(後背部からの追突)を考慮すれば,上記右後背部の損傷は,第1事故によってもたらされたものと推認でき,第1事故による衝撃によって呼吸不可能となる致命的な傷害がBに与えられたというべきである。その後の第2事故によって損傷した部分と推認される頭部や臓器において出血や生活反応がないことや,相対的に流血が少ないという事故現場の状況は,第2事故までにBが絶命していたことを裏付けているというべきである。

 また,Bは第1事故により約28.1m先まで,搭乗していた自転車と一緒にはね飛ばされたこと(認定事実(3)),被控訴人Y1のフロントガラスが割れて,中型貨物車両の前部ボディーが凹損しているという客観的状況(甲5)からも,Bに対して,相当程度の強い衝撃が加わったことが推察される。

 これに加えて,被控訴人Y1が,1回目の消防との通話及び警察への通報の際,Bの意識がなかった旨を述べており,第1事故後,Bの意識はなかったと認められること(前提事実(4),認定事実(4))も考慮すると,Bは,第1事故により死亡したものと推認できる。


(ア) これに対し,被控訴人Y1の陳述書(乙5)及び本人尋問における供述には,第2事故発生直前に,Bがうめき声を上げ,手を挙げた旨の部分があり,被控訴人Y1は,警察の捜査段階でも同旨の供述をしていた(丙3)(被控訴人Y1供述等)。

(イ) しかし,被控訴人Y1供述等は,陳述の時点により,挙げた手が右であったり,左であったりするなど,必ずしも明確な陳述をするものではない。
 かえって,1回目の消防との通話の際の録音記録及び警察への通報の記録によれば,被控訴人Y1は,明確に,Bの意識はない旨を述べている(前提事実(4),認定事実(4)ア,イ)。特に,1回目の消防との通話では,合計4回,Bの状態を消防から問われたのに対し,被控訴人Y1は,意識がある旨の返事は全くしておらず,3回は,Bの意識がない旨を答えている。

しかも,被控訴人Y1の発言の中には「大丈夫ですか?」と述べた部分が存するが(認定事実(4)ア(ア)),これは,Bに呼びかけたものと認められるから,被控訴人Y1は,呼びかけても反応がないことを確認して,Bに意識がない旨を答えたと認められ,第1事故の直後である1回目の消防との通話の時点で,既にBに意識があることを確認できない状況であったことが認められる。

 そして,上記以降の被控訴人Y1と警察との通話や被控訴人Y1と消防との通話には,録音等の直接的な証拠がないが,消防鳥栖本部の連絡無線の録音記録(乙21)によれば,被控訴人Y1が消防に対し救急車が対向車線を通り過ぎた旨の通報をしたことが推認されるのに,Bに意識がある趣旨のことの通報をしたと推認できるような記録がない。上記のとおり消防(本部及び救急車の双方)がBの容態に対して重大な関心を向け続けている状況下で録音された記録であることを考慮すれば,被控訴人Y1が,Bの意識が確認できるような趣旨の報告を,2回目以降の消防との通話においても一切しなかったと推認できるというべきである。

 以上からすれば,被控訴人Y1供述等には客観的な裏付けがない。

(ウ) 上記(イ)で検討したところに加え,被控訴人Y1は,第1事故を引き起こした直後の混乱した心理状態であり,かつ,Bの生存を願う希望的観測が含まれている可能性を排斥できず,さらには,願望による記憶の変容が生じやすく,その意味で供述の客観性に疑問が残るといわざるを得ないから,被控訴人Y1供述等を根拠にBが第1事故で死亡したとの推認を覆すことはできないというべきである。

エ 亡Y2車の車底に血痕が付着していた事実が認められるが,これは,Bの身体が車底に引っかかって4.7m移動した際に付着したと認められるものであって,それ以前にBが死亡していたという推認と矛盾しない。
 また,第2事故の前に,医師や救命士が用いる所定の基準に従った診断や判断がなされていなかったとしても,第1事故により死亡したとの推認を直ちに覆すものではない。

オ したがって,主にBの解剖所見に基づく鑑定意見のみならず,その他の各証拠を踏まえて検討すれば,Bは,第1事故により死亡したものと十分推認できるというべきであって,第2事故によって死亡した可能性があるとは認められない。
 してみると,本件に民法719条1項後段は類推適用できない。

(3) 以上によれば,被控訴人Y1と亡Y2に共同不法行為は成立しない。

 よって,その余について判断するまでもなく,控訴人の被控訴人Y3らに対する請求には理由がない。
 また,控訴人の被控訴人会社に対する請求も,上記共同不法行為が成立することを前提としているから,同様に理由がない。

         (中略)

第4 結論
 よって,控訴人の本件控訴及び被控訴人Y1の本件附帯控訴にはいずれも理由がないから,いずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。
 福岡高等裁判所第5民事部
 (裁判長裁判官 山之内紀行 裁判官 廣瀬一平 裁判官 杉本敏彦)
以上:5,603文字

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