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令和 4年 1月 6日(木):初稿 |
○被害者Bが、被告Y1運転中型貨物自動車に衝突され、道路上に倒れたところに、被告Y2運転中型貨物自動車に轢かれて、死亡した事故について、B相続人原告が、被告Y1・Y2・Y2使用者株式会社Aに対し、民法第719条共同不法行為者として3276万円の連帯責任を追求した事案があります。 民法第719条(共同不法行為者の責任) 数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う。共同行為者のうちいずれの者がその損害を加えたかを知ることができないときも、同様とする。 ○争点は、Y1運転車両に衝突されて倒れ、Y2運転車両に轢かれる時点で、被害者Bが生存していたかどうかで、原告とY1は生存していたと、Y2は死亡していたと主張しました。この点 警察鑑定結果は「二回目の受傷直前に完全に絶命していたかについては,生存していた可能性は否定できず」、 保険会社調査結果は「最初の衝撃により即死したとは断定できず,後続車に轢過される直前の生死については断定できない。」 としており、裁判官は難しい判断を迫られたと思われます。 ○令和2年6月12日福岡地裁久留米支部判決(判時2497号43頁<参考収録>)は、Bは,第1事故によりほぼ即死し,第2事故発生時には,既に死亡していたとして、被告Y2及び株式会社Aに対する請求を棄却し、Y1に対して、被害者Bの過失割合30%を控除した残額から自賠責保険金3000万円を控除した625万円の支払を認めました。その関連部分を紹介します。 ○原告は判決を不服として福岡高裁に控訴していますが、この控訴審判決は別コンテンツで紹介します。 ******************************************** 主 文 1 被告Y1は,原告に対し,688万6109円及びうち625万6109円に対する平成29年9月7日から,うち63万円に対する平成28年2月23日から,各支払済みまで年5分の割合による金銭を支払え。 2 原告の被告Y1に対するその余の請求並びに被告Y2及び被告株式会社Aに対する請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用のうち,被告Y2及び被告株式会社Aに生じたものは原告の負担とし,その余はこれを5分し,その4を原告の負担とし,その1を被告Y1の負担とする。 4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 被告らは,原告に対し,連帯して3276万7812円及びうち2978万8920円に対する平成29年9月7日から,うち297万8892円に対する平成28年2月23日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 本件は,交通事故(後記の本件事故)で死亡したB(以下「B」という。)の唯一の相続人である原告が,自転車を運転していたBは,まず,被告Y1(以下「被告Y1」という。)の運転する中型貨物自動車(以下「被告Y1車」という。)に衝突されて道路上に倒れ(以下「第1事故」という。),次いで,被告Y2(以下「被告Y2」という。)の運転する中型貨物自動車(以下「被告Y2車」という。)に轢過され(以下「第2事故」といい,同事故と第1事故を総称するときは「本件事故」という。),死亡したものであるところ,本件事故によるBの死亡について,被告Y1及び被告Y2には共同不法行為が成立し,また,被告株式会社A(以下「被告会社」という。)は本件事故当時に被告Y2を使用していた会社の権利義務を承継した者であるから,上記被告Y2の共同不法行為について使用者責任を負い,これにより,被告ら全員が,連帯して損害賠償責任を負うと主張して,被告Y1に対し自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)3条及び民法(平成29年法律第44号による改正前のもの。以下同じ。)709条,719条に基づき,被告Y2に対し民法709条,719条に基づき,被告会社に対し民法715条に基づき,損害金3276万7812円及びうち弁護士費用を除く2978万8920円に対する平成29年9月7日(自動車損害賠償責任保険金の支払日の翌日)から,うち弁護士費用297万8892円に対する不法行為の日である平成28年2月23日から,各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を連帯して支払うよう求める事案である。 1 前提事実 (中略) 2 争点及び当事者の主張 (1) 第2事故発生時にBが生存していたか。 (原告の主張) 第1事故と第2事故には場所的時間的近接性が認められるから,第2事故発生時にBが既に死亡していたことが立証されない限り,被告Y1と被告Y2の共同不法行為の成立が認められると解すべきであるところ,以下のア及びイの事実からは,第2事故発生時,Bが既に死亡していたと認めるには足りず,かえって,Bは,虫の息ではあったかもしれないが,生存していたと認められるから,同被告らに共同不法行為が成立する。 ア 被告Y1は,第2事故発生直前に,Bに「大丈夫ですか。」と声をかけたところ,Bは「あー」と声を上げて手を動かした旨供述しており(乙5,被告Y1本人),この供述は,本件事故当初から一貫していることや,被告Y1に虚偽の供述をする理由がないことから,信用性が高い。 この点,確かに,被告Y1は,1回目の消防との通話時,Bには意識がない旨を答えているが,1回目の消防との通話時は気が動転しており,その後,冷静さを取り戻し,2回目の消防との通話の際に,消防の指示に従い,Bの挙動を確認したものと考えられるから,これは,被告Y1の供述の信用性を失わせるものではない。 イ 司法解剖における鑑定の結果(乙2。以下,「鑑定」というときは同号証を指す。)によれば,Bが第2事故発生時に生存していた可能性を否定できないとされており,解剖医は,Bが第一事故により即死したとは断定できず,第2事故により轢過される直前のBの生死については断定できない旨の意見を述べている(丙3)。 (被告Y1の主張) 原告の主張に同じ。 したがって,被告Y1と被告Y2は,共同してBの生命に関する法益を侵害したものとして,共同不法行為により,被告Y2が損害賠償責任を負う範囲で不真正連帯責任を負う。 (被告Y2及び被告会社の主張) 本件では,原告において,第2事故発生時,Bが生存していたことを立証する責任を負うと解されるところ,以下のア及びイの事実からは,第2事故発生時にBが生存していたと認めるには足りず,かえって,第2事故発生時,Bが既に死亡していた事実が認定できる。したがって,第2事故と,Bの死亡との間には因果関係が存しないから,同人の死亡について被告Y2は不法行為責任を負わず,被告会社は使用者責任を負わない。 (中略) 第3 判断 1 認定事実 証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 (1) 本件事故現場の状況 (中略) (6) 鑑定の結果等 Bの死亡が明らかであったことから,Bの遺体は,救急搬送されることなく,鳥栖警察署に搬送された。 被告Y1が,Bが第1事故直後に微かなうめき声をあげ,左手を少し挙げた旨供述したことから,司法解剖が実施されたが,これに基づく鑑定の結果等は以下のとおりである。(乙2,丙3) ア 警察作成の司法解剖の鑑定書(抜粋。乙2の11頁以下。) 「1 死因 本屍の死因は,外傷性ショックと考えられる。体幹右側に作用面の大きな鈍体(たとえば車両)が衝突し,路面に転倒したものと考えられ,仰向けになっていたところへ別の車両が到来して,右体側から頭頂方向に移動する際に頭部右側を轢過し,同時に体幹と車底の構造物が接触することで肝や心の損傷を惹起したものと考えられる。 今回は関連する車両が複数あって成傷機転が二つあると考えられるが,二回目の成傷の時点ではほとんど絶命していたものと考えられ,その際にできた損傷の周囲にはほとんど出血が認められなかった。ただし,二回目の受傷直前に完全に絶命していたかについては,生存していた可能性は否定できず,その場合,体を動かしたり声を出したりしていたとしても矛盾はない。」 イ 保険会社が鑑定医から聴取した事項(抜粋・適宜文章を整理。丙3の3頁目以下。) (ア) 説明 a 左右ともほぼ全ての肋骨が折れており,特に,右背部側の損傷が酷い。 b 右前腕部から右上腕部には衝突による損傷は認められないことから,右後方から強い衝撃を受けたものと認められる。 c 肋骨の骨折状態からして,呼吸もできない状態であったと認められ,ほぼ即死状態であったと判断する。 d 心臓が一部破れた状態であり,他の臓器についても一部は事故の衝撃によりバラバラ状態となっていたが,これらの臓器には,ほとんど出血の跡がなく,生活反応は認められない。 e 胸部,腹部の外表に擦過傷等は認められないことから,臓器の損傷は,絶命後の鈍体による打撃や圧迫によるものと認められる。 f 轢過された頭部右側の損傷箇所については,損傷状況の割には,ほとんど出血の跡が認められない。 g 頭部の損傷状態からすれば,被害者が倒れていた路上には,大量の流血が認められたと考えるが,事故当時,現場付近には,それほど大量の出血跡は認められなかったとの説明からしても,第一衝撃で既に絶命して体内流血がストップしていたため,流血が少なかったものと認められる。 (イ) 死因について 死因は,最初の衝撃によるものと認められ,たとえ後続車に轢過されず救急搬送されたとしても死亡していたものと認められるが,最初の衝撃により即死したとは断定できず,後続車に轢過される直前の生死については断定できない。 (中略) 2 判断 (1) 第2事故発生時にBが生存していたか。 ア 鑑定では,Bは第2事故発生時点でほとんど絶命していたと判断されている(認定事実(6)ア)。その理由としては,Bが同時点で生存していれば,頭部の損傷状態からして大量の出血があったはずであるが,そのような痕跡は認められておらず,第1事故により絶命して血液の循環が停止していたものと認められること,同様に,その他の臓器も損傷していたが,ほとんど出血の跡がなく,生活反応は認められないこと,ほぼ全ての肋骨が骨折しており,呼吸できない状態であったと認められ,ほぼ即死状態であったと判断されること等が挙げられているところ(認定事実(6)イ),これらの説明はBの遺体の客観的な損壊状況や流血状況に照らして考察されたものであって合理的である。 これに加えて,被告Y1が,1回目の消防との通話及び警察への通報の際,Bの意識がなかった旨を述べており,第1事故後,Bの意識はなかったと認められること(前提事実(3),認定事実(4))も考慮すると,Bは,第1事故によりほぼ即死し,第2事故発生時には,既に死亡していたものと認められる。 イ これに対し,原告及び被告Y1は,第2事故発生直前に,被告Y1が,消防の指示により,Bの生存確認をしたところ,Bがうめき声を上げ,手を挙げたと供述していること,鑑定において,第2事故発生時,「Bが生存していた可能性は否定できず」とされ,解剖医の聴取事項において「最初の衝撃により即死したとは断定できず,後続車に轢過される直前の生死については断定できない。」と記載されていること(認定事実(6)ア,イ)を根拠に,第2事故発生時,まだBは生存していた可能性が高く,少なくとも死亡していたと認めるには足りないと主張する。 ウ (ア) そこで検討するに,確かに,被告Y1の陳述書(乙5)及び本人尋問における供述には,第2事故発生直前に,Bがうめき声を上げ,手を挙げた旨の部分があり,警察の捜査段階でも同旨の供述をしていたこと(丙3)が認められる(以下,これらの被告Y1の供述等を総称するときは「被告Y1供述等」という。)。 (イ) しかし,被告Y1供述等は,陳述の時点により,挙げた手が右であったり,左であったりするなど,必ずしも明確な陳述をするものではない。 (ウ) かえって,1回目の消防との通話の際の録音記録及び警察への通報の記録によれば,被告Y1は,明確に,Bの意識はない旨を述べている(前提事実(4),認定事実(4)ア,イ)。特に,1回目の消防との通話では,合計4回,Bの状態を消防から問われたのに対し,被告Y1は,意識がある旨の返事は全くしておらず,3回は,Bの意識がない旨を答えている。しかも,被告Y1の発言の中には「大丈夫ですか?」と述べた部分が存するが(認定事実(4)ア(ア)),これは,Bに呼びかけたものと認められるから,被告Y1は,呼びかけても反応がないことを確認して,Bに意識がない旨を答えたと認められる。 したがって,第1事故の直後である1回目の消防との通話の時点では,Bに意識がなかったことは明らかである。 (中略) オ 以上のとおり,Bは,第2事故発生時には既に死亡していたと認められるから,被告Y2について,Bの生命侵害に係る不法行為は成立せず,被告Y1と被告Y2の共同不法行為は成立しないから,被告Y2は,Bの死亡について責任を負わない。 また,被告Y2の不法行為が成立しない以上,被告会社も使用者責任を負わない。 よって,その余について判断するまでもなく,原告の被告Y2及び被告会社に対する請求は理由がない。 (中略) (4) 小括 以上のとおり,認定された損害は全て人的損害であり,被告Y1は被告Y1車の運行供用者に当たるから,被告Y1は認定された全損害について自賠法3条に基づいて賠償責任を負うものである。 したがって,原告の被告Y1に対する請求は,合計688万6109円及びうち損害残額625万6109円に対する平成29年9月7日(自賠責保険金支払の日の翌日)から,うち弁護士費用63万円に対する平成28年2月23日(不法行為日である本件事故日)から,各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を求める限度で理由がある。 第4 結論 よって,原告の請求のうち,被告Y1に対する請求は上記の限度で理由があるから認容し,その余は理由がないから棄却し,被告Y2及び被告会社に対する請求はいずれも理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。なお,仮執行免脱宣言は相当でないから付さない。 福岡地方裁判所久留米支部民事部 (裁判長裁判官 岡田健 裁判官 田辺麻里子 裁判官 大西正悟) 以上:5,961文字
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