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令和 3年11月27日(土):初稿 |
○後遺障害が認定されても現実の収入減少がなければ加害者側保険会社は逸失利益を認めないか、認めても該当後遺障害等級標準労働能力喪失率より遙かに低い割合での逸失利益しか認めないのが原則です。右橈骨遠位端骨折に伴う右手指関節機能障害で自賠責保険後遺障害等級第12級を認められるも現実の収入減少がないゴルフ場支配人が、12級標準労働能力喪失率14%で67歳まで就労可能年数22年として1516万円の逸失利益を請求し、保険会社は全て否認しました。 ○この請求に対し、ゴルフクラブの支配人である原告は、右橈骨遠位端骨折に伴う右手関節機能障害の後遺障害のため、右手内側の痛みで右手首が十分に曲がらず,物を持つことが大変であり,手首が曲がりづらいので一度で運べる荷物が二,三回要するようになったり,ゴルフカートやゴルフ場の様々な場所の掃除をする際に狭いところに手が入らなかったり,デスクワークの作業効率も落ちるなどの労働への現実的な影響が生じているとして、現実の収入減少がなくても、67歳まで12%労働能力を認めた令和3年4月7日東京地裁判決(自保ジャーナル2097号30頁)関連部分を紹介します。 ○就労可能年限67歳は、令和3年からは、55年も前の昭和41年男子平均余命68.35歳を根拠にしたものです。従って平均余命80歳に達している現在の実態とは全く合致していません。就労可能年限67歳を前提とした就労可能年数の主張は全く実態に合わない請求になります。今後は、人生100年時代に入ったとして、就労可能年限を75歳程度に延長して請求し、裁判官の判断を仰ぐことも必要です。裁判官は、判断に困るでしょうが(^^)。 ******************************************** 主 文 1 被告Y1は,原告X1に対し,1370万0951円及びこれに対する平成29年10月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告Y1は,原告会社に対し,232万4000円及びこれに対する平成29年10月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 原告らの被告Y1に対するその余の請求及び被告Y2に対する請求をいずれも棄却する。 4 訴訟費用は,原告X1と被告Y1との間ではこれを5分し,その1を原告X1の負担とし,その余を被告Y1の負担とし,原告会社と被告Y1との間ではこれを5分し,その1を原告会社の負担とし,その余を被告Y1の負担とし,原告らと被告Y2との間で生じた費用はすべて原告らの負担とする。 5 この判決は,第1項及び第2項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 1 被告らは,原告X1に対し,連帯して,1711万6795円及びこれに対する平成29年10月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告らは,原告会社に対し,連帯して,286万円及びこれに対する平成29年10月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 本件は,原告会社が所有し,原告X1が運転する普通乗用自動車(以下「原告車」という。)と,被告Y1が運転する普通乗用自動車(以下「被告車」という。)が衝突した交通事故(以下「本件事故」という。)について,原告会社が,被告らに対し,被告Y1に対しては民法709条に基づき,被告Y1の父親である被告Y2に対しては保証契約又は併存的債務引受契約に基づき,物的損害286万円及びこれに対する本件事故日から民法(平成29年法律第44号による改正前のもの。以下「旧民法」という。)所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求め,原告X1が,被告Y1に対しては民法709条に基づき,被告Y2に対しては自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)3条に基づき,人的損害1711万6795円及びこれに対する本件事故日から旧民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める事案である。 1 前提事実(以下の事実は当事者間に争いがないか,後掲各書証及び弁論の全趣旨により容易に認められる。) (中略) 2 争点及び争点に関する当事者の主張 本件の争点は,①事故態様及び双方の過失の有無,割合(争点1),②被告Y2と原告会社との間で保証契約又は併存的債務引受の合意がされたか(争点2),③被告Y2が自賠法3条所定の運行供用者責任を負うか否か(争点3),④原告X1の損害(争点4)及び⑤原告会社の損害(争点5)である。 (1) 争点1(事故態様及び双方の過失の有無,割合)について (中略) (4) 争点4(原告X1の損害)について (原告X1の主張) (中略) オ 後遺障害逸失利益 1516万6902円 基礎収入を823万0268円とし,労働能力喪失率を14%,労働能力喪失期間を就労可能年数の22年(対応するライプニッツ係数13.163)とすると,原告X1の後遺障害逸失利益は1516万6902円となる。 原告X1は,本件事故により右手首を受傷し,右橈骨遠位端骨折に伴う右手関節の機能障害の後遺障害が残存した。 原告X1は事故後の収入が事故前に比べてわずかであるが増加しているが,これは原告X1の事故前の努力が評価されて平成30年10月に取締役兼ゴルフ場支配人に就任したことや勤務先の配慮があるためである。また,支配人の業務としては,勤怠管理,利用者の管理等の管理業務,清掃や利用者の荷物の運搬,商品の搬入等の業務,業務として行うゴルフなどがあるが,後遺障害により,重い荷物を持つのが困難になり,ゴルフができなくなるなどの影響が生じている。 (中略) (被告らの主張) (中略) カ 後遺障害逸失利益は否認する。原告X1は本件事故後増収をしている。 (中略) 第3 当裁判所の判断 1 争点1(事故態様及び双方の過失の有無,割合)について (中略) 4 争点4(原告X1の損害)について (中略) (5) 後遺障害逸失利益 1300万0202円 前記前提事実に加え,証拠(甲17,22,原告X1本人)及び弁論の全趣旨によれば,原告X1は,ゴルフクラブの支配人であるところ,本件事故により右橈骨遠位端骨折に伴う右手関節機能障害の後遺障害を残存し,その後遺障害により,安静時でも右手内側に痛みがあり,右手首が十分に曲がらず,物を持つことが大変であり,手首が曲がりづらいので一度で運べる荷物が二,三回要するようになったり,ゴルフカートやゴルフ場の様々な場所の掃除をする際に狭いところに手が入らなかったり,デスクワークの作業効率も落ちるなどの労働への現実的な影響が生じている。 もっとも,証拠(甲20,26ないし28)及び弁論の全趣旨によれば,原告X1は,本件事故年である平成29年度の収入が823万0268円であるが,その後減収をしておらず,令和元年度には1042万6882円と増収をしていることに照らすと,その労働能力喪失率は12級の労働能力喪失率14%より若干減じた12%とするのが相当である。 また,労働能力喪失期間については,証拠(甲22)によれば症状固定時の原告X1の年齢が45歳であることが認められるから,45歳から67歳までの就労可能年数である22年(対応するライプニッツ係数13.163)と認める。 原告X1の基礎収入は事故年度の収入である823万0268円と認める。 したがって,原告X1の後遺障害逸失利益は,1300万0202円となる。 (計算式)823万0268円×12%×13.163 (中略) 第4 結論 以上の次第で,原告X1の請求は,被告Y1に対し,1370万0951円及びこれに対する平成29年10月1日から旧民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で,原告会社の請求は,被告Y1に対し,232万4000円及びこれに対する平成29年10月1日から旧民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で,それぞれ理由があり,原告らの被告Y1に対するその余の請求及び被告Y2に対する請求はいずれも理由がないからこれを棄却し,訴訟費用の負担につき民訴法61条,64条本文,65条1項本文を,仮執行宣言につき同法259条1項をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第27部 裁判官 中直也 以上:3,480文字
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