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工学鑑定事故態様から事故と傷害の因果関係を否認した判決紹介

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令和 3年10月12日(火):初稿
○「追突程度如何にかかわらず事故と傷害に因果関係を認めた地裁判決紹介」に引き続いて、工学鑑定事故態様から事故と傷害の因果関係を否認した平成3年5月24日仙台高裁判決(自動車保険ジャーナル・第910号)関連部分を紹介します。

○軽微追突事故で受傷の有無が争われた事案につき、仙台地裁・仙台高裁いずれの判決も、工学鑑定で衝突速度5キロ、衝撃加速度最大0.85G、小さな凹損の破損状況、異常所見がなく理学療法の治療状況等から受傷を否定しました。


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主   文
一 本件控訴を棄却する。
(以下略)

事実の要旨
 被害者は、昭和62年2月26日午後6時25分頃、仙台市太白区茂庭字人来田中27番4号先でタクシーを運転中、加害者の運転する乗用車に追突されて頸部挫傷、腰部打撲で通院5日の後59日入院、約2月通院の傷害を負ったとして253万8,648円を求めて反訴請求。

事   実
 控訴人は、「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。被控訴人は控訴人に対し253万8648円及びこれに対する平成元年2月7日から支払ずみまで年5分の割合による金員を支払え。」との判決を求め、主文1項同旨の判決を求めた。
 当事者双方の主張は、次のほかは、原判決の事実摘示と同一であるからこれを引用する。

一 控訴人の主張

(一) 原判決は、工学実験に基づく鑑定の結果を全面的に採用して、本件事故によっては控訴人に傷病が発生するとは推認できないとした。

(二) しかしながら、人間の行動や身体の動きは複雑なものであり、かつ、人それぞれには個性がある。また、事故の態様、事故時の人体の動き、作用エネルギーに対する耐性等も様々であるとともに、個人差がある。
 したがって、衝突速度が10キロメートル以下であるからとか、X線では異常がないということだけで、100パーセントの確率で傷害がないと判断することはできない。

(三) また、志願者を用いての追突実験においては、自己に衝撃が与えられることを予知している被験者は無意識のうちに防御姿勢を取る、というのが自然の生体の反射機構であるから、その実験結果を、不意に後方から衝撃が加えられる実際の追突事故に当てはめることはできない。

(四) したがって、工学実験に基づく鑑定結果によっては、本件事故による控訴人の傷病の発生の事実を否定することはできない。


(一) 控訴人は、事故の翌日である昭和62年2月27日の朝、気分が悪くなり、めまいもしたため、佐藤医師の診察を受け、その後、同年3月2日には、真っ直ぐに歩くのも大変になり、首が殆ど回らない状態になったことから、同医師の指示により、同月3日から同年4月30日まで佐藤整形外科医院に入院するに至った。

(二) 控訴人が警察官に受傷の届出をしなかったのは、事故当日は自分の受傷の程度が大したことはないと安易に思ってしまったことによるものであり、その後は届出手続が判らなかったことによるものである。
 したがって、届出のなかったことをもって、受傷の事実がなかったということはできない。


(一) 控訴人の従事する仕事は、休業すれば減給されるというものである。また、控訴人は、注射等の医療行為を受けることを苦手としていた。

(二) それにもかかわらず、控訴人は、59日間という長期間休業して入院治療を受けたのであり、このことからも明らかなように、控訴人に詐病の疑いを生ぜしめる余地はない。

二 被控訴人の主張

         (中略)


理   由
一 当裁判所も、被控訴人の請求を認容し、控訴人の反訴請求を棄却すべきものと判断する。その理由は、次のほかは、原判決の理由と同一であるからこれを引用する。ただし、原判決4枚目裏9行目の「犯則事犯」を「反則事犯」と訂正する。

二 当審における証拠調べの結果によっても、原判決の認定及び判断を左右することができない。
1 鑑定人大平信廣の鑑定につい

(一) 本件事故における有効衝突速度は時速5キロメートル、衝撃加速度は0.85Gと推定されるが(証拠略)、鑑定人大平信廣の鑑定によれば、このような場合には、椎間板の変性、高度の骨粗鬆症や退行性変性などがない限り、控訴人の頸部に傷害が生じる可能性は非常に稀なものであることが認められるところ、本件事故当時、控訴人に椎間板の変性、高度の骨粗鬆症や退行性変性などがあったことを認めるに足りる証拠はない。

(二) また、同鑑定によれば、本件においては、事故の翌日から治療を受けていたにもかかわらず、事故から7日経過して頸椎運動が全くできないほどの症状の増悪があったとされているが、このようなことは、日常の臨床では、特別の事情がない限り、余り経験するものではないことが認められるところ、右の特別の事情を認めるに足りる証拠はない。

2 控訴人本人の供述について
(一) 控訴人本人の供述中には、本件事故の衝撃により、控訴人は、体が一旦前にのめって、次に後ろに倒れたとの部分がある。
 しかしながら、正面衝突の場合と異なり、追突の場合は、慣性の法則により、体は背部がシートバックに、頸部がヘッドレストに先ず当たるものであるから(証拠略)、右供述部分は、物理法則に反するものであって、信用することができない。

(二) また、控訴人本人の供述中には、衝突時における被控訴人運転車両の速度は時速約20キロメートルであったとの部分がある。
 しかしながら、右供述部分は、有効衝突速度が時速5キロメートルと見積もっても過少評価のおそれはないとする(証拠略)に照らし、信用することができない。

(三) 更に、控訴人本人の供述中には、前記控訴人の主張2に沿う部分がある。
 しかしながら、右供述部分は、原判決が採用した証拠及び右1の鑑定の結果に照らし、信用することができない。

3 当審における控訴人の主張について
(一) 控訴人は、原判決が工学実験に基づく鑑定の結果を採用して傷害の発生を推認できないとしたことは不当であると主張する。
 しかしながら、自動車事故に基づく身体の損傷の有無について、自動車工学的分析の手法を採用し、自動車の損傷の部位、程度から衝突時の速度及び衝撃の度合いを算出し、その結果を判断の一資料として、事故による身体の損傷の有無、程度を判断することは、もとより許され、これが不相当であるとされるいわれはない。

 原判決の判断は、右鑑定の結果のみに基づくものではなく、これに加え、控訴人の事故後の行動、車両の破損の部位程度等を総合勘案した上でされたものであることが明らかであるから、控訴人の右の主張は、採用することができない


(二) 控訴人は、控訴人の従事する仕事は休業すれば減給されるというものであり、また、控訴人は注射等の医療行為を受けるのが苦手であったから、控訴人が休業して入院治療を受けたのは、本件事故により真実傷害を負ったからにほかならないと主張する。
 しかしながら、前示のとおり、他の証拠によって本件事故に基づく傷害の発生の可能性が否定されるものである以上、単に右の事実のみによっては、控訴人にその主張の傷害が発生したものと認定することはできない。

三 よって、主文のとおり判決する。


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(参考 仙台地裁 平成元年10月9日判決)

理   由

一 本件交通事故発生の事実は当事者間に争いがない。

二 (証拠略)によれば、被告が請求原因一記載のとおり佐藤整形外科医院に頸部挫傷、腰部打撲の傷病名により入通院し、理学療法、注射、投薬等の治療を受けたことが認められる。

三  しかしながら、(証拠略)(交通事故現場臨場報告書)、(証拠略)によると、事故の届出により事故後30分位して現場に到着した警察官は、被告から負傷の申告もなく、本件追突による車輌の破損は、原告車輌の右前照灯のガラスが破損し、被告車輌の後部バンパー左側に小さな凹損がある程度の軽微なものであったので、原告の犯則事犯として処理し、警察官に対してはその後も被告から受傷の届出がなされなかったことが認められ、反面(証拠略)(鑑定書)及び同証言によると、本件事故においては、原告車輌が被告車輌に衝突した時の有効衝突速度は最大に見積って時速約5キロメートル、その際被告車輌に生ずる衝撃加速度は最大で0.85Gであること、頸部屈曲角の静的限界値は後屈で60度であるところ、右衝撃加速度を前提とした被告の頸部後屈角は、ヘッドレストレイントの頸部後屈抑止効果を無視しても16度であり、過後屈のために頸部損傷が生ずるまでには44度の余裕があること、頸部に働く付加トルクの生体実験上の無傷限界レベルは後屈で35フィートポンドであるところ、本件衝突によって被告の頸部に生じた負荷トルクは3フィートポンドであることが認められるところであり、右鑑定の基礎とされた各車輌の重量、衝突時の速度、方向等の衝突の態様、車輌の破損状況等は、前掲(証拠略)(実況見分調書の原稿)、(証拠略)(自動車検査証)、本件事故車輌の写真であることに争いのない(証拠略)と対比して、妥当と認められる。

 したがって、本件交通事故によっては、被告の頸部に、その主張にかかる傷病が発生することを推認することはできないといわなければならない。

四 また、被告主張の腰部打撲についても、被告本人尋問の結果により被告は衝突直前、前を見てゆったりと信号待ちをしている状態であったことを、前掲(証拠略)の添付見取図、前掲(証拠略)から、被告車輌は被衝突回転運動を起こすことなく前方向に移動したことを、またA証人の証言及び被告本人尋問の結果から、被告は昭和58年2月頃交通事故に遭い、B整形外科医院に頸部痛のため2、3週間通院していたが、腰部痛を訴えていたわけではなく、本件事故前に腰痛はなく、特に腰部に関し傷害を受け易い状況にあったわけではなかったことが、それぞれ認められるものの、前記認定の本件衝撃加速度に照らすとき、本件交通事故から腰部打撲が生じたものと推認することはできない。


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