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有職主婦の家事労働休業損害を否定した高裁判決紹介

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令和 2年10月 7日(水):初稿
○「有職主婦の家事労働休業損害を否定した地裁判決紹介」の続きで、その控訴審の平成26年2月28日福岡高裁判決(自保ジャーナル1921号35頁)全文を紹介します。

○控訴審判決においても、控訴人は,本件事故当時45歳で、会社勤務の夫と2人暮らしであり,本件事故前年は約542万円,本件事故時も約558万円の給与収入があり,事故時賃金センサス女性学歴計全年齢平均賃金355万9000円より高額な収入であったので、家事労働分を加算すべき事情は認められないとして、夫が家事の手伝いをしたとしても,収入減少とは認められないとしています。

○有職主婦で女性平均収入約360万円を超える収入があっても、実際、家事労働をしており、事故による傷害で家事ができなくなった場合、家事労働分について休業損害を認めて然るべきと思いますが、本件では夫と2人暮らしであり、且つ女性平均年収より200万円近く高い年収があり、それが減収になっていないことから家事労働休業損害は認められませんでした。

○原審では、有職主婦の休業損害について、給与減額分について認めれば足り、家事労働休業損害を認めることは、1人の人間の労働力を二重評価することになるから相当で無いとしてます。一見、もっともらしい理屈に聞こえますが、実際、社員としての労働に、家事労働もしている場合、二重に労働していることは事実ですから、二重評価して当然と思われます。被害者の立場になれば納得できない判決です。

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主   文
1 本件控訴及び本件附帯控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は控訴人・附帯被控訴人の,附帯控訴費用は被控訴人・附帯控訴人の各負担とする。

事実及び理由
第一 控訴・附帯控訴の趣旨

1 控訴の趣旨
(1)原判決を次のとおり変更する。
(2)被控訴人・附帯控訴人(以下「被控訴人」という。)は,控訴人・附帯被控訴人(以下「控訴人」という。)に対し,381万4436円及びこれに対する平成23年1月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2 附帯控訴の趣旨
(1)原判決中被控訴人敗訴部分を取り消す。
(2)控訴人の請求を棄却する。

第二 事案の概要等(略称は,特記するもの以外,原判決の表記に従う。)
1 事案の概要

(1)本件は,被控訴人が,普通乗用自動車(被控訴人車両)を運転中,控訴人が運転する普通乗用自動車(控訴人車両)に追突した交通事故(本件事故)により,控訴人が頸椎捻挫等の傷害を負い,後遺症が残存したとして,不法行為に基づき381万4436円及びこれに対する本件事故日である平成23年1月3日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

(2)原判決は,197万2235円及び平成23年1月3日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を認容し,その余の請求を棄却した。

(3)原判決に対し,控訴人が控訴し,被控訴人が附帯控訴をした。

2 前提事実,争点及びこれに対する当事者の主張は,次のとおり付加訂正し,当審における当事者の主張を3に加えるほかは,原判決「事実及び理由」中「第二 事案の概要等」の2及び3に記載されたとおりであるから,これを引用する。
(1)原判決2頁8行目の「甲1」の次に「,14」を加える。

(2)原判決2頁18行目冒頭から同頁19行目末尾までを「信号待ちで停止中の控訴人車両に被控訴人車両が追突し,控訴人車両は,その前方に停止していた車両に追突した。」に改める。

(3)原判決2頁19行目末尾に改行の上,以下を加える。
 「(2)責任原因
 被控訴人は,進路前方を注視すべき義務があるのにこれを怠り,本件事故を惹起したもので,民法709条により控訴人の損害につき賠償責任を負う。」

(4)原判決2頁20行目の「(2)」を「(3)」に改める。

(5)原判決2頁24行目の「頸椎捻挫」を,「頸部捻挫」に改める。

3 当審における当事者の主張
(1)控訴人の主張

ア 整骨院の施術費について
 原判決は,控訴人が通院したE整骨院の施術費55万4150円を,本件事故と相当因果関係を有する損害とは認めなかった。
 しかしながら,控訴人は,同整骨院に通院するために,予めD病院の医師に相談し,「控訴人の知っている整骨院のほうがよいのでは」と指示を受けた。そして,控訴人は,被控訴人の任意保険会社であるG共済の担当者Lに整骨院での施術をしてもよいか尋ね,了承を得たので,治療費が支払われると信頼して控訴人は整骨院に通ったのである。
 本件事故は追突事故である上,控訴人車両は大破し,その修理費は156万8700円を要したほどであり,控訴人は本件事故により大きな負傷をしたが,E整骨院の施術より控訴人の症状は軽くなったのであるから,同整骨院の施術費を損害として認めるべきである。

イ 通院交通費について
 控訴人の通院交通費については,〔1〕ガソリン代として,D病院への通院分1980円及びE整骨院への通院分1万0620円の合計1万2600円,〔2〕タクシー代3200円を認めるべきである。

ウ 休業損害について
(ア)主婦休業
 原判決は,控訴人の主婦としての休業損害を否定したが,これを認めるべきである。
 控訴人は,本件事故当時,勤務先(H保険会社)での仕事は多忙であったが,本件事故により,休まざるを得ず,以下のとおり有給休暇を取得した。従来は,控訴人が家事全般をしていたが,本件事故により,仕事を休むような状態であり,足,頸部,腰部等に痛みがあり,食事の用意,洗濯,掃除等の家事があまりできなかった。こうした事情に照らしても,控訴人の主婦としての休業損害110万7585円を認めるべきである(損害額の計算は原審における主張のとおりである。)。
a 全日休暇
 平成23年1月4日、5日,6日,7日,25日
    同年2月7日,25日
    同年3月28日
    同年4月15日,20日
    同年5月9日
    同年6月8日
    同年7月28日
b 半日休暇
 平成23年1月11日,18日
    同年2月1日,22日
    同年3月15日,30日
    同年6月27日
    同年7月20日,25日

(イ)主婦休業が認められない場合は,事故前3ヶ月の平均賃金の日額8169円とし,上記有給休暇17.5日分(全日13日と半日2回を1日に換算して4.5日の合計17.5日)の14万2957円を休業損害として認めるべきである。

エ 通院慰謝料について
 原判決は,控訴人の通院慰謝料として97万円を認めたが,相当である。 

オ 逸失利益について
 控訴人は,本件事故により傷害を負ったが,無理して出勤していたため,健常者と同等の業務が遂行できず,上司の配慮で仕事量を軽くしてもらったり,他の従業員にその一部を肩代わりしてもらい,また,有給休暇も取得していた。こうして,勤務先の配慮を得て,控訴人も苦痛であったが業務を遂行することにより収入を得たのであるから,後遺障害につき労働能力喪失率5%,喪失期間5年を最低条件として,逸失利益は認められるべきである。

カ 弁護士費用は34万6766円を認めるべきである。

(2)被控訴人の主張
ア 整骨院の施術費について
 争う。

イ 通院交通費について
 争う。

ウ 休業損害について
(ア)控訴人は,共働きの女性労働者であり,本件事故の前後で収入は減少しておらず,平均賃金を大きく上回る収入を得ているから,控訴人の主婦休業損害は認められない。

(イ)控訴人は,有給休暇の取得により給与は減少しなかったのであるから,損害は認められない。そして,控訴人がE整骨院への通院のために休暇を取得したとしても,E整骨院における施術は,本件事故と因果関係がないから,損害として認められない。

(ウ)控訴人は,有給休暇分の休業損害を主張するが,控訴審で初めて主張したものであり,時機に後れた攻撃防御方法であるから許されない。

エ 通院慰謝料
 控訴人の通院慰謝料算定の基礎となるのは,D病院への通院だけであるところ,同病院への通院は,平成23年1月3日から同年7月30日までの間の35日である。本件では,平成23年2月以降の通院については,通院頻度に照らすと通院実日数の3.5倍をもって通院期間とすべきであり,これに同年1月分を加えても3.45ヶ月となるので,通院慰謝料は50万円を超えることはない。

オ 逸失利益
 原判決は,本件事故後,控訴人の収入に減少がないことを認めながら,その理由を,控訴人の努力及び勤務先における配慮によるところが大きいとして,労働能力喪失率5%を認めた。しかし,控訴人の収入は,本件事故後に増加しているのであり,控訴人の努力や勤務先における配慮がどのようなものであるか不明である。

第三 当裁判所の判断
1 当裁判所は,原判決は相当であり,控訴及び附帯控訴のいずれも理由がないものと判断する。その理由は,原判決15頁3行目の「また,」から4行目末尾までを削除し,当審における当事者の主張に対する判断を2に加えるほかは,原判決「事実及び理由」中「第三 当裁判所の判断」1,2記載のとおりであるから,これを引用する。

2 当審における当事者の主張について
(1)整骨院の施術費について
 控訴人は,E整骨院の施術費55万4150円を本件事故による損害として認めるべきであると主張する。

 しかしながら,控訴人がD病院のK医師に整骨院の施術を受けるとの希望を述べ,同医師は特に止めたりはしなかったことは認められるが,控訴人に関する本件事故後から症状固定日までのD病院整形外科の診療録によっても,医師が整骨院に治療経過について情報提供をしたとか,整骨院における施術内容について話をしたような記載は一切なく,また,医師が控訴人を診察する際に整骨院における治療の効果を確認するなどのこともない。(控訴人)

 さらに,E整骨院が控訴人に宛てて作成した書面には,症状固定後である平成23年8月以降の施術による効果を簡単に述べるにとどまり,医師による指示の有無や症状固定までの施術の必要性・効果等について記載されていない。

 以上からすると,控訴人の請求に係る本件事故後,症状固定日までの整骨院における施術費については,本件事故と相当因果関係を有する損害と認めることは困難であり,控訴人の主張は採用できない。

(2)通院交通費について
 上記のとおり,E整骨院への通院に要した交通費は,本件事故による損害として認められないので,D病院の通院交通費のみ損害として認められるが,同病院の通院日数35日に1日当たりのガソリン代60円(15円×2キロメートル×2)を乗じると,合計2,100円となり,原判決の判断は相当である。
 なお,控訴人は,上記のうち2日分につきタクシー代を請求しているが,D病院の通院にタクシーを要したことや支出した日を明らかにする的確な証拠はなく,上記の限度で通院交通費を認めるものである。

(3)休業損害について
ア 主婦休業
 控訴人は,本件事故前は家事を100%しており,本件事故により家事労働が十分にできなくなったことについて,主婦休業を認めるべきであると主張し,控訴人の夫は,その陳述書において,本件事故により控訴人が負傷し,家事ができなくなり,夫が家事労働を手伝ったことなどを述べている。

 しかしながら,控訴人は,本件事故当時45歳で,会社勤務の夫と2人暮らしであり,本件事故の前年である平成22年には約542万円,本件事故のあった平成23年は約558万円の給与収入があり,これは,平成23年の賃金センサス女性の学歴計全年齢平均賃金(355万9000円),同学歴計45歳から49歳の平均賃金(392万5900円)より高額な収入であった。

 以上からすると,控訴人は給与収入により生計を立てていることは明らかであり,家事労働分を加算すべき事情は認められない。控訴人の負傷による苦痛や,家族が家事の手伝いをしたとしても,収入減少として勘案することは妥当ではなく,この点の控訴人の主張は採用できない。


イ 有給休暇取得分
 さらに,控訴人は,当審において有給休暇取得分を損害として請求するが,原審において,控訴人は,もっぱら家事労働分を休業損害として主張していたのであり(控訴人の平成24年11月13日付け準備書面2頁においては,勤務面での休業補償を主張しているのではないと明言している。),当審で,有給休暇について主張し,控訴人の勤務会社の休業損害証明書を証拠として提出してきたものである。

 この主張は時機に後れているが,訴訟遅延を招くことまでは認められないので判断するに,控訴人が休暇を取得したとする日とD病院の通院との関連性が不明であり,また,本件事故当時,控訴人はマイコプラズマ肺炎に罹患し,D病院の呼吸器科等も受診していたことに照らせば,有給休暇の取得が必ずしも本件事故を原因とするものとは断定できないのであり,これをもって本件事故による損害と認めることはできない。

ウ 以上によれば,原判決の休業損害に関する判断を変更すべき理由はない。

(4)通院慰謝料について
 本件事故は,被控訴人車両が控訴人車両に追突し,控訴人車両はさらに前方の車両に衝突したことから,控訴人車両は大破し,控訴人は負傷してD病院に救急搬送されたこと,控訴人は,本件事故時にETCカードリーダーが膝に刺さり,右膝打撲挫創の傷害を負い,その治療のために7針縫合していること,また,頸椎捻挫等に関しては,同病院の戊田医師は一般的には6ヶ月程度を要すると判断し,適宜,投薬と経過観察のために診療していることが認められる。

 以上からすれば,控訴人の症状固定までの治療期間は,その傷害の内容や程度との関係で相応であり,通院頻度にかかわらず,慰謝料として97万円を認めるのが相当である。

(5)逸失利益について,
 控訴人は,本件事故後,給与収入は減少してはいないが,身体の痛みやしびれがある中で就労していること,職場の協力を得ていることが認められ,症状固定後も,実際に整骨院に通うような状態であった。控訴人の後遺障害については,自動車損害賠償責任保険の後遺障害認定として併合14級と判断されている。(控訴人本人)

 以上の事情に照らせば,控訴人につき,労働能力喪失率5%,同期間5年として,原判決算定のとおり83万7455円の後遺障害による逸失利益が認められる。

(6)以上のほか,弁護士費用を含め,原判決を変更すべき事情等は認められない。

3 以上によれば,原判決は相当であり,控訴人の控訴,被控訴人の附帯控訴は理由がないから,これをいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。
福岡高等裁判所第2民事部
裁判長裁判官 高野裕 裁判官 吉村美夏子 裁判官 上田洋幸

以上:6,071文字

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