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40代専業主婦の67歳まで逸失利益を認めた地裁判決紹介

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令和 2年 1月20日(月):初稿
○「20代専業主婦の67歳まで逸失利益を認めた地裁判決紹介」の続きです。

○原告が運転する原告車と被告が保有し運転する被告車が正面衝突した交通事故について、原告が、被告に対し、損害賠償を請求した事案において、原告には、右大腿骨・脛骨骨折後の右膝関節の機能障害、右腓骨、右第3・4趾中足骨骨折後の右足関節機能障害(右下肢の機能障害9級)、 PTSD(14級9号)、左膝痛等(14級9号)の後遺障害が残存した(併合9級相当)と認められるところ、専業主婦である原告の後遺障害逸失利益につき、賃金センサス女性全年齢平均賃金を基礎とし、労働能力喪失率を35パーセント、労働能力喪失期間を21年として算出する等し、原告の請求の一部認容した平成26年12月19日名古屋地裁判決(自保ジャーナル1941号54頁)関連部分を紹介します。


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主    文
1 被告は原告に対し,3643万1314円及びこれに対する平成16年10月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを2分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。
4 この判決は,1項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求

 被告は原告に対し,7166万4172円及びこれに対する平成16年10月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
 本件は,平成16年10月16日,愛知県大府市内において,原告が運転する普通貨物自動車と被告が保有し運転する普通貨物自動車が正面衝突した交通事故について,不法行為(民法709条)または自動車損害賠償保障法3条(人的損害のみ)に基づく損害賠償請求権により,人的損害(付添看護費,入院雑費,休業損害,傷害慰謝料,後遺障害慰謝料,後遺障害逸失利益,弁護士費用相当損害金)及び物的損害(眼鏡,弁護士費用相当損害金)の賠償と,これに対する不法行為日(事故日)から民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を請求した事案である。
         (中略)

第3 争点に対する判断(以下,当裁判所の計算では1円未満を切り捨てる。)
1 人的損害

(1) 付添看護費 83万3672円(請求:83万7872円)

         (中略)


(3) 休業損害 666万0892円(請求:1045万7600円)
ア 原告の主張
 原告は主婦であり,平成16年賃金センサス女44歳(年齢別)平均賃金392万1600円を基礎収入とする。本件事故日から平成19年5月17日まで32か月間休業を余儀なくされた(392万1600円÷12月×32月)。
イ 被告の主張
 原告の主張する全期間について完全に就労が制限されていたとは考えられない。
ウ 判断
 原告は専業主婦であり,平成16年賃金センサス産業計・企業規模計・学歴計・女・全年齢平均賃金350万2200円を基礎収入とする。原告の傷害の内容や程度,後遺障害等級等に照らし,以下の就労制限を認める。
 H16.10.16~H17.4.17(184日):100%
 H17.4.18~H18.6.7(416日):平均70%
 H18.6.8~6.17(10日):100%
 H18.6.18~10.25(130日):平均60%
 H18.10.26~12.22(58日):100%
 H18.12.23~H19.5.17(146日):平均50%

 したがって,休業損害は666万0892円を認める。
 350万2200円÷365日×184日×100%=176万5492円
 350万2200円÷365日×416日×70%=279万4083円
 350万2200円÷365日×10日×100%=9万5950円
 350万2200円÷365日×130日×60%=74万8415円
 350万2200円÷365日×58日×100%=55万6513円
 350万2200円÷365日×146日×50%=70万0439円
 176万5492円+279万4083円+9万5950円+74万8415円+55万6513円+70万0439円=666万0892円

(4) 傷害慰謝料 314万円(請求:400万円)
ア 当事者の主張
 原告は400万円を請求し,被告は金額を争う。
イ 判断
 原告の傷害の内容や程度,入通院期間,実通院日数等を総合するに,傷害慰謝料は314万円が相当である。

(5) 後遺障害慰謝料 690万円(請求:1500万円)
ア 原告の主張
 原告には,①右大腿骨について癒合不全(常に硬性補装具を必要とする。7級10号)及び長管骨変形(12級8号),②右膝関節拘縮(10級11号。甲13),③右足関節拘縮(10級11号),④左膝関節偽関節(8級9号),⑤右膝・右足首周囲及び左膝の醜状(14級5号),⑥右下肢短縮(1cm,13級8号),⑦左中環指拘縮(12級10号),⑧腰部・下肢の激しい痛み(RSD。7級4号かそうでなくとも9級10号),⑨PTSD(12級)の後遺障害(併合5級)が残存した(甲11~16,43,48)。
 鑑定人Bは,本件事故により両下肢が挟まれたことによる骨折,筋肉や神経の圧挫,血流障害により原告がRSDを発症したと認定し,これにより立位や歩行の困難を来たし,労働能力が客観的にも相当程度制限されていることを認めている。
 後遺障害慰謝料は1500万円が相当である。

イ 被告の主張
 ③右足関節拘縮(10級11号)は認める。①右大腿骨変形は,骨癒合が完了し偽関節に当たらず,外部から想見できる程度の変形でもない(非該当)。②右膝関節拘縮は12級7号相当である(甲13は途中経過の調査結果である)。⑤右膝・右足首周囲及び左膝の醜状は非該当で,④左膝関節偽関節,⑥右下肢短縮の後遺障害は残存していない。歩行困難と本件事故との間に相当因果関係がないか,あるとしても上記後遺障害の派生症状であって,独立した評価を受けない。腰の痛みと本件事故とは相当因果関係を欠く。⑦左中環指拘縮は,遠位指節間関節の可動域制限に過ぎず,強直もしていない(非該当)。⑧腰部・下肢の激しい痛み(RSD)は,原告が主張する症状と,症状照会に対する担当医所見《甲14》に記載されている自覚症状は明らかに異なり,原告の主張に沿う症状は,伊東整形外科の診療録等に殆ど記載されておらず(乙8),一定していないなど,客観的な所見を欠く。

 RSDではなく,右下肢機能障害の派生症状と解され,独立した後遺障害としても14級9号にとどまる。⑨PTSDが認められるには,〈ア〉自分又は他人が死ぬ又は重傷を負う様な外傷的な出来事を体験したこと,〈イ〉外傷的な出来事が継続的に再体験されていること,〈ウ〉外傷と関連した刺激を持続的に回避すること,〈エ〉持続的な覚醒亢進症状があることの4要件をいずれも満たす必要があるところ,原告の症状は改善の傾向も見受けられ,身体症状の影響も否定できない(14級9号)。
 後遺障害の内容程度(併合9級相当)と,慰謝料額を争う。

ウ 判断
(ア) 原告には,〈a〉右大腿骨・脛骨骨折後の右膝関節の機能障害(右下肢の痛み・しびれ,冷感,歩行時痛等が派生。なお,原告は10級11号《関節の運動可能領域が,健側の運動可能領域の2分の1以下に制限されているもの》を主張するが,後遺障害診断書(甲2《枝番号を含む》)に照らし採用できない。12級7号が相当である),右腓骨,右第3・4趾中足骨骨折後の右足関節機能障害(右足関節拘縮。10級11号。これらを併せて右下肢の機能障害9級),〈b〉PTSD(14級9号),〈c〉左膝痛等(14級9号)の後遺障害が残存した(併合9級相当)と認められる(乙1,2,鑑定)。

(イ) ①右大腿骨変形,④左膝関節偽関節,⑤右膝・右足首周囲及び左膝の醜状,⑥右下肢短縮(0.6cm。鑑定),⑦左中環指拘縮については,自賠責保険の後遺障害等級に該当する程度の後遺障害の残存を認めるに足りる証拠がない。

(ウ) ⑧腰部・下肢の激しい痛みについては,原告はRSDの罹患を主張するが,RSDと診断するために必須とされる神経損傷,関節拘縮と骨の萎縮,皮膚の変化(皮膚温の変化,皮膚の萎縮)のいずれの要件の充足も認めるに足りる証拠はなく,採用できない。
 これらの痛みは,大腿骨及び脛骨骨折による受傷時の筋肉や神経の圧挫と血行障害を要因として,関節可動域制限の派生的症状として発生するものというべきである(鑑定)。

(エ) ⑨PTSD診断については,国際保健機関の国際疾病分類ICD-10診断ガイドラインやDSM-Ⅳ(アメリカ精神医学界の診断基準)等が用いられるべきであり,外傷体験の存在(生命を脅かされる驚異的体験により心的外傷が発生したこと),再体験(原因事故のフラッシュバックや関連性のある悪夢の存在),回避(外傷体験を想起させるような刺激を避けようとする精神活動の現れ),覚醒の亢進(入眠,睡眠困難)を必要とする。

 そうしたところ,原告について,PTSDの中核をなす再体験(フラッシュバック)に関し,原因事故発生状況と似た状況における恐怖感情や身体状況の変化,事故の再発を恐れる態度等は窺われ,その他の要件についても完全に否定することはできない。しかしながら,本件事故は「生命を脅かされる驚異的体験」とするほどに激烈なものではない。反復性(フラッシュバック)についても反復性や侵入性が顕著に認められるものではなく,車に乗ることはできるなど,回避の程度も強度ではない。心理的な感受性と覚醒の亢進による易怒性,集中困難,過度の警戒心や過剰な驚愕反応等の頑固な症状が明らかに認められるものでもない。
 これらを総合すると,原告は,本件事故によりPTSDとはいえないものの,非器質性精神障害に罹患したと認められ,14級が相当である。

(オ) そこで,後遺障害慰謝料については690万円を認める。

(6) 後遺障害逸失利益 1571万5597円(請求:3547万2347円)
ア 原告の主張
 平成16年賃金センサス女全年齢平均賃金350万2200円を基礎収入とし,労働能力喪失率79%,労働能力喪失期間21年(ライプニッツ係数12.821)が相当である(350万2200円×79%×12.821)。

イ 被告の主張
 後遺障害の内容程度を争う(併合9級相当)。

ウ 判断
 基礎収入は,平成16年賃金センサス産業計・企業規模計・学歴計・女・全年齢平均賃金350万2200円とし,既述の後遺障害の内容や程度に照らし,労働能力喪失率は35%,労働能力喪失期間は21年(ライプニッツ係数12.821)とする。後遺障害逸失利益は1571万5597円となる(350万2200円×35%×12.821)。

2 物的損害―眼鏡 4万5600円(争いなし)

第4 結論
 原告の損害は3367万3761円(人的損害3362万8161円,物的損害4万5600円)であり,55万2447円を人的損害に充当すると(争いなし),残額は3312万1314円となる。さらに,本件事故と相当因果関係を有する弁護士費用相当損害金として331万円(請求:600万円)を認めるのが相当であるから,被告は原告に対し,3643万1314円と遅延損害金を支払うべきである。なお,被告は仮執行免脱宣言を申し立てるが,本件事案の性質に照らすとこれを付すのは相当でないから,同申立ては却下する。よって,主文のとおり判決する。
 (裁判官 藤野美子)
以上:4,752文字

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