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後遺障害逸失利益について死亡時までに限られないとした地裁判決紹介

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令和 1年12月 3日(火):初稿
○「重度後遺障害被害者逸失利益に定期金賠償を認めた一・二審判決まとめ」に、「原告が49年生存した場合は、上記の通り、定期金では総額約2億6000万円もの膨大な逸失利益の賠償を受けることができますが、例えば20年後に別な交通事故等で死亡した場合どうなるかについては、平成8年4月25日最高裁判決で、原則として結論に変わりはないとの判断をしていますので、別コンテンツで紹介します。」と記載していました。

○平成8年4月25日最高裁判決の第一審である平成4年3月26日東京地裁判決(判タ799号225頁、判時1424号64頁)の関連部分を紹介します。事案は以下の通りです。
・Aは、昭和63年1月当時、建設関係のビル型枠工事を主な業務とする工務店に勤務していた
・Aは、同月10日、同僚の運転する普通貨物自動車に同乗して作業現場に向う途中、センターラインを越えて進行してきた大型貨物自動車と衝突し、脳挫傷、頭蓋骨骨折等の傷害を負った
・Aは、昭和63年1月10日から平成元年6月28日まで入通院して治療を受けたが、精神・知能の後遺障害(IQ「64」)が残ったので自宅でリハビリを行いつつ療養を続けていた
・Aは、同年7月4日、自宅近くの海岸に行って貝採りをしている最中、心臓麻痺を起こして死亡
・Aの遺族であるXらが、加害運転者Y2、保有者Y1、保険会社に対し、主位的には、Aの死亡とこの事故との間に相当因果関係があるものとして死亡による損害を、予備的には、相当因果関係がないとされた場合における後遺障害による損害を、それぞれ損害賠償ないし保険約款上の直接請求として請求


○一審東京地裁判決は、交通事故による精神・知能障害者がその約1年半後に心臓麻痺で死亡したことについて、死亡と交通事故との相当因果関係は認めず、被害者が水難事故により死亡したことについて、後遺障害による逸失利益は死亡時までに限られないと、死亡後の逸失利益も認めました。

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主   文
一 被告Y1株式会社及び同Y2は、連帯して、原告X1に対し金929万3160円、同X2及び同X3に対し各金464万1580円、並びにこれらに対する平成元年7月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
二 被告日産火災海上保険株式会社は、同Y1株式会社に対する本判決が確定したときは、原告X1に対し金929万3160円、同X2及び同X3に対し各金464万1580円、並びにこれらに対する平成元年7月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
三 原告らのその余の各請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用はこれを4分し、その1を被告らの負担とし、その余を原告らの負担とする。
五 この判決は、原告ら勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事   実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨

1 (主位的)
(一) 被告Y1株式会社及び同Y2は、連帯して、原告X1に対し金3226万3663円、同X2及び同X3に対し各金1613万1831円、並びにこれらに対する平成元年7月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(二) 被告日産火災海上保険株式会社は、同Y1株式会社に対する本判決が確定したときは、原告X1に対し金3226万3663円、同X2及び同X3に対し各金1613万1831円、並びにこれらに対する平成元年7月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 (予備的)
(一) 被告Y1株式会社及び同Y2は、連帯して、原告X1に対し金3532万7213円、同X2及び同X3に対し各金1766万3606円、並びにこれらに対する平成元年7月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(二) 被告日産火災海上保険株式会社は、同Y1株式会社に対する本判決が確定したときは、原告X1に対し金3532万7213円、同X2及び同X3に対し各金1766万3606円、並びにこれらに対する平成元年7月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は被告らの負担とする。
4 1(一)、2(一)及び3につき仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。

第二 当事者の主張

         (中略)

理   由
一 請求原因1(交通事故の発生)の事実のうち、(一)(事故の内容)については当事者間に争いがなく、〈書証番号略〉によれば、同(二)(事故の結果)が認められる。また、同2(責任原因)の事実のうち、(三)(被告日産火災の責任原因)については当事者間に争いがなく、〈書証番号略〉を総合すれば、同2(一)及び(二)(被告Y1及び同Y2の責任原因)の各事実を認めることができる。
 したがって、被告Y1及び同Y2は、連帯して、本件交通事故によってAが被った損害を賠償すべき責任があり、同日産火災は、同Y1に対する本判決が確定したときは右損害賠償責任の額を支払うべきものである。

二 進んで請求原因3(Aの治療経過及び死亡に至る経緯)について判断する。
1 〈書証番号略〉、証人阿部毅の証言及び原告X1本人尋問の結果によれば、以下の事実を認めることができる。
(一) 本件事故以前のAの状況

 Aは、昭和19年9月7日に出生した後、本人の意思で高校を中退して仮枠大工として働くようになり、昭和46年1月29日に原告X1と見合結婚をして、翌昭和47年2月25日に長女原告X2が、昭和49年2月2日に長男原告X3がそれぞれ生まれ、その後は父B、母C及び右Cの姉の3人を含めた7人家族で暮して来ており(父Aは昭和62年11月15日に死亡。)、一家の家計はAの仮枠大工としての収入と原告X1の製パン工場での稼働から得られる収入とで維持されていた。

 右の仮枠大工としての仕事は、以来、勤務先の工務店を数店転々とし、また、途中約2年間東京へ働きには出たものの、継続して行って来ており、本件交通事故当時は、昭和61年7月1日に入社した建設関係のビル型枠工事を主な業務とする阿部工務店において働いていた。阿部工務店でのAは、一人前の大工として仕事の能力の点においては他の者(同店の従業員数は、当時25、6名であった。)とかわらず、日当の形で得ていた給与も、昭和62年の実収入額は、他の者とほぼ同額の金208万5750円であった。

 また、仕事外でのAは、ときおり、本件死亡事故現場付近の海へ行き貝などを採ってきては、家族で食べたり隣近所へ配るということを行っており、飲酒については、毎晩2合か3合程度の晩酌をたしなむという程度であった。

(二) 荘内病院に入通院期間中のAの状況
 本件交通事故当日、本件傷害を負ったAは、半昏睡状態で事故後直ちに救急車で荘内病院に搬入され、当日のうちに壊死組織除去及び縫合、左脛骨骨折接合等の緊急手術を受け、その後、原告ら主張のとおりの入通院(入院期間中、脳神経外科への入院は、本件事故日から昭和63年2月23日までであり、その後、同月24日から同年3月16日まで及び平成元年2月20日から同年3月1日までは同病院の整形外科に入院した。)を行って治療を受け、本件後遺障害を残して平成元年6月26日症状が固定した。その経過の詳細は、次のとおりである。

(1) 脳神経外科関係の症状
 本件交通事故当日の意識レベルはⅢであり、当初は会話も困難であったが、三週間後の同月21日には意識レベルはⅠまで改善し、見当識障害も、その後しばらくは自己の名前や年齢等の質問に対し見当違いの答えを繰り返したが、同年2月に入ったころからは、依然つじつまの合わない言動はあるものの、自己の住所や職業を的確に答える等改善がみられ、同月23日に脳神経外科での入院治療は終えることとなり、整形外科での治療のため転科するはこびとなった。その後、脳神経外科へ通院して内服治療を続けた結果、入院期間中(1月22日及び2月22日)には異常と診断された脳波も、昭和63年4月8日の検査では正常なものへと回復した。しかし、自発性の低下、感情の変動、物忘れなどの症状は依然として認められる状態で、同年5月26日施行されたWAIS知能検査では、前示のとおり、動作性IQが64、言語性及び全体IQについては換算できず、課題理解が困難で思考能力も低下し、知的機能の低下が顕著である旨の診断がなされ、平成元年にはいってからも、頭重感、右頭痛とあわせて右のような状況が続いた。


         (中略)



(三) 本件死亡事故当日のAの行動
 本件死亡事故当日は、前日から降っていた雨は朝には止んでおり、日中は日も照っていたが、海中は濁っており水温は摂氏20度ほどであった。前夜に焼酎の水割りを約3合飲んでいたAは、自転車に乗って自宅から約300メートル離れた本件死亡事故の現場まで行き、ウエットスーツを着て、重りのベルト及び足ひれをつけた格好で貝採りを始め、一回は貝を採って陸に上がったが、再び海中に入って行き、心臓麻痺を起こして死亡した。発見されて海中から引き上げられたとき、海水を飲んだ形跡はなかった。

2 右認定の事実によれば、Aは、本件交通事故により本件傷害を負い荘内病院で入通院治療を続けた結果、平成元年6月26日に本件後遺障害を残して症状が固定したが、いまだ本件交通事故以前のような就労が可能な状態ではなかったため、リハビリテーションを兼ねて毎日のように海へ行って貝などを採る生活をしていたところ、本件死亡事故により死亡するに至ったものと認めることができる。

 原告らは、本件死亡事故当時、Aは本件交通事故により一種の神経衰弱状態ないしアルコール依存症に陥っていたために、酒気を帯びた状態で水温摂氏20度の海中に入るという正常な判断能力を有するものであればなさないような行動に出て死亡したものであるから、Aの死亡と本件交通事故との間には相当因果関係があると主張する。なるほど、Aは、本件交通事故以前は何ら問題なく通常の仮枠大工として稼働していたのであり(なお、〈書証番号略〉及び原告X1本人尋問の結果によれば、前示の東京での稼働期間中、Aは、金属バットで頭部を殴られ頭蓋骨骨折等の傷害を負って約1ヵ月間入院しており、その痕跡はCTスキャン上も残存していることが認められるが、前示認定の本件交通事故以前のAの状況に鑑みれば、右受傷は特段の後遺障害を残さず治癒したものと推認するのが相当である。)、本件交通事故に遭遇して本件後遺障害を残すことがなければ、リハビリテーションを行う必要もなく、大工として稼働していたであろうから、平日の日中(本件死亡事故は平日の日中に発生している。)に海へ行って貝を採るなどという行動に出ることはなかったであろうと推認される。

 したがって、本件交通事故がなければ本件死亡事故もなかったという意味での条件関係の存在は否定できないところである。しかしながら、本件交通事故によるAの症状は、荘内病院への入通院を行って治療を続けるうちに次第に回復に向かっていたのであり、前示認定の事実経過に照らすと、原告らが主張するように、本件死亡事故当時、Aが神経衰弱状態ないしアルコール依存症に陥っていたと認めることはできないし、本件死亡事故を招いた貝採り自体、正常な判断能力を欠く者の行った無謀な行動と認めることもできない。そして、他にAの死亡と本件交通事故との間に相当因果関係があることを認めるに足りる証拠はない。

 したがって、Aの死亡と本件交通事故との間に相当因果関係があることを前提とした原告らの主位的請求は理由がないといわなければならないが、本件傷害ないし後遺障害と本件交通事故との間に相当因果関係があることは前示認定より明らかであるから、被告らはこれらに基づく損害の限度において責任を負うものというべきである。

三 続いて請求原因4(二)(Aの損害・予備的請求)について判断する。
1 治療費 金373万0778円

         (中略)

8 後遺障害による逸失利益 金943万1547円
 前示の本件交通事故以前のAの状況からすれば、Aは、本件交通事故に遭わなければ症状固定時の年齢44歳から稼働可能年齢である67歳までの23年間につき、少なくとも昭和62年における同人の実収入額である208万5750円の収入を得ることができたものと推認され、入通院期間中にみられたAの症状及び後遺障害の程度に鑑み、労働能力喪失率を40パーセントとし、生活費の控除率を12パーセントとして、ライプニッツ方式により年5分の割合による中間利息を控除して、Aの逸失利益の本件事故時における現在価格を算定すると、次のとおり右金額となる。
 208万5750円×0.4×(1?0.4×0.3)×(13.7986?0.9523)=9431547.919

 ところで、被告らは、後遺障害による逸失利益を算定するにあたり、Aの死亡の事実を斟酌して、逸失利益は現実の死亡時までのものに限られるべきであると主張する。
 そこでこの点について考えるに、後遺障害の算定は、被害者の経歴、年齢、職業、健康状態その他の具体的事情を考慮した上で、経験則に基づき、その後遺障害が被害者の収入に影響を及ぼすであろうと考えられる期間を想定して行うものであり、右具体的事情の中には不法行為後その損害賠償請求事件の口頭弁論終結時までに生じた事情も含まれうるものというべきである。

 したがって、加害者の不法行為によりその労働能力に影響を及ぼすような後遺障害を残して症状が固定した被害者がその後口頭弁論終結時までに死亡した場合においても、右死亡の事実は被害者の逸失利益の算定にあたり考慮の対象となりうる(後述するように少なくとも生活費控除の点ではこれを考慮するのが相当である。)ものではあるが、右死亡を理由に逸失利益の継続期間を死亡時までとするためには、その死亡が被害者の寿命であったと評価しうるものでなければならず、死因により事実上の推定が働くことがあることはともかく、原則としては、加害者において、当該不法行為がなくとも被害者が右死亡時に確実に死亡したであろうことを立証しなければならないものと解するのが相当であり、また、このように解することが公平の原則にかなうこととなる(なお、その死亡につき第三者が責任を負うべき場合においては、当該第三者は前の不法行為による後遺障害に基づく労働能力の喪失から生じた逸失利益分につき賠償責任を負わないから、被害者が死亡による全損害の完全な賠償を不足なく受けるためには、死亡と前の不法行為との関係を問うことなく、想定される稼働可能期間中の右逸失利益分の賠償を前の不法行為者から受けるべきことは明らかである。)。

 これを本件についてみるに、Aの死亡については、前示のとおり本件事故との相当因果関係は認め難いものの、条件関係的な因果関係は是認しうるものであるから、本件交通事故がなくとも、本件死亡事故によって死亡したものと推認し、これを寿命による死亡と認めることは困難である。したがって、この点に関する被告らの主張は採用できないものといわなければならない。

 もっとも、Aの家族関係からすれば、後遺障害による逸失利益の賠償分のうち3割は、Aの生活費に充てられるべきものであったところ、Aの死亡によりその後その生活費の支出を免れていることは疑いがないから、右認定の労働能力喪失率の3割に相当する割合の控除を行うこととする。なお、前示認定の症状固定日と死亡日とは殆ど間隔がない。

9 慰謝料 金850万円
 前示認定の本件交通事故の態様、Aが本件交通事故により負った傷害の内容及び程度、入通院経過、残存した後遺障害の内容及び程度、その他、家族である原告らに与えたであろう影響等本件に現われた一切の事実を斟酌すれば、本件交通事故によるAの精神的苦痛を慰謝するための金額は、右金額と認めるのが相当である。

10 以上、弁護士費用を除く損害額は、合計金2420万2103円である。

四 填補について
 請求原因5の填補額については当事者間に争いがない。そうすると、原告らが請求しうる弁護士費用を除いた損害額は、金1688万6321円となる。

五 相続について
 〈書証番号略〉によれば、請求原因6(相続)の事実を認めることができる。したがって、弁護士費用を除いた原告らの損害額は、原告X1が金844万3160円、同X2及び同X3が各金422万1580円ということになる(一円未満切拾て)。

六 弁護士費用について
 原告らが本訴訟の提起及び遂行を原告ら代理人らに委任したことは当裁判所に顕著であるところ、本件事案の難易、経過、認容額等を考慮すると、弁護士費用の額は、原告X1が金85万円、同X2及び同X3が各金42万円とするのが相当である。

七 以上により、本訴各請求は、原告X1については金929万3160円、同X2及び同X3については各金464万1580円、並びにAの死亡日である平成元年7月5日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の各支払を被告青森定期及び同Y2に対して求め、また、被告青森定期に対する本判決が確定したときに右同額の各金員の各支払を被告日産火災に対して求める限度において理由があるからこれを認容し、その余の請求はいずれも理由がないからこれらを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法89条、92条本文、93条1項を、仮執行の宣言につき同法196条1項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官稲葉威雄 裁判官石原稚也 裁判官江原健志)

以上:7,237文字

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