旧TOP : ホーム > 交通事故 > 交通事故判例-その他後遺障害関係 > |
令和 1年11月29日(金):初稿 |
○交通事故により重度の後遺障害を負った被害者が、被害者側には過失がないとした上で、後遺障害逸失利益について定期金賠償の方法による支払を求めたのに対し、被害者側に2割の過失があるとする過失相殺をした上で、定期金賠償の方法による支払を命じた平成29年6月23日札幌地裁判決(自保ジャーナル2003号1頁)関連部分を紹介します。 ******************************************* 主 文 1 (1) 被告Y1及び被告日本ホワイトファーム株式会社は,原告X1に対し,連帯して2293万9806円及びうち900万円に対する平成19年2月3日から,うち1393万9806円に対する平成26年3月13日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (2) 被告損害保険ジャパン日本興亜株式会社は,被告Y1又は被告日本ホワイトファーム株式会社に対する判決が確定したときは,原告X1に対し,上記1(1)の金員を支払え。 2 (1) 被告Y1及び被告日本ホワイトファーム株式会社は,原告X1に対し,連帯して335万8000円及びこれに対する平成28年10月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (2) 被告損害保険ジャパン日本興亜株式会社は,被告Y1又は被告日本ホワイトファーム株式会社に対する判決が確定したときは,原告X1に対し,上記2(1)の金員を支払え。 3 (1) 被告Y1及び被告日本ホワイトファーム株式会社は,原告X1に対し,連帯して平成28年11月から同原告の死亡まで,毎月27日限り,以下の金員を支払え。 ア 平成28年11月から平成30年3月まで7万3000円 イ 平成30年4月から平成46年6月まで20万1666円 ウ 平成46年7月以降24万3333円 (2) 被告損害保険ジャパン日本興亜株式会社は,被告Y1又は被告日本ホワイトファーム株式会社に対する判決が確定したときは,原告X1に対し,上記3(1)の金員を支払え。 4 (1) 被告Y1及び被告日本ホワイトファーム株式会社は,原告X1に対し,連帯して平成32年9月から平成81年8月まで,毎月○日限り,35万3120円を支払え。 (2) 被告損害保険ジャパン日本興亜株式会社は,被告Y1又は被告日本ホワイトファーム株式会社に対する判決が確定したときは,原告X1に対し,上記4(1)の金員を支払え。 5 (1) 被告Y1及び被告日本ホワイトファーム株式会社は,原告X2に対し,連帯して132万円及びこれに対する平成19年2月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (2) 被告損害保険ジャパン日本興亜株式会社は,被告Y1又は被告日本ホワイトファーム株式会社に対する判決が確定したときは,原告X2に対し,上記5(1)の金員を支払え。 6 (1) 被告Y1及び被告日本ホワイトファーム株式会社は,原告X3に対し,連帯して132万円及びこれに対する平成19年2月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (2) 被告損害保険ジャパン日本興亜株式会社は,被告Y1又は被告日本ホワイトファーム株式会社に対する判決が確定したときは,原告X3に対し,上記6(1)の金員を支払え。 7 訴訟費用は,これを4分し,その1を原告らの負担とし,その余を被告らの負担とする。 8 この判決は,第1項(1),第2項(1),第5項(1)及び第6項(1)に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 1 (1) 被告Y1及び被告日本ホワイトファーム株式会社は,原告X1に対し,連帯して5389万7352円及びこれに対する平成26年3月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (2) 被告損害保険ジャパン日本興亜株式会社は,被告Y1又は被告日本ホワイトファーム株式会社に対する判決が確定したときは,原告X1に対し,上記1(1)の金員を支払え。 2 (1) 被告Y1及び被告日本ホワイトファーム株式会社は,原告X1に対し,連帯して419万7500円及びこれに対する平成28年10月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (2) 被告損害保険ジャパン日本興亜株式会社は,被告Y1又は被告日本ホワイトファーム株式会社に対する判決が確定したときは,原告X1に対し,上記2(1)の金員を支払え。 3 (1) 被告Y1及び被告日本ホワイトファーム株式会社は,原告X1に対し,連帯して平成28年11月から同原告の死亡まで,毎月27日限り,以下の金員を支払え。 ア 平成28年11月から平成30年3月まで9万1250円 イ 平成30年4月から平成46年6月まで25万2083円 ウ 平成46年7月以降30万4167円 (2) 被告損害保険ジャパン日本興亜株式会社は,被告Y1又は被告日本ホワイトファーム株式会社に対する判決が確定したときは,原告X1に対し,上記3(1)の金員を支払え。 4 (1) 被告Y1及び被告日本ホワイトファーム株式会社は,原告X1に対し,連帯して平成32年9月から平成81年8月まで,毎月○日限り,44万1400円を支払え。 (2) 被告損害保険ジャパン日本興亜株式会社は,被告Y1又は被告日本ホワイトファーム株式会社に対する判決が確定したときは,原告X1に対し,上記4(1)の金員を支払え。 5 (1) 被告Y1及び被告日本ホワイトファーム株式会社は,原告X2に対し,連帯して220万円及びこれに対する平成19年2月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (2) 被告損害保険ジャパン日本興亜株式会社は,被告Y1又は被告日本ホワイトファーム株式会社に対する判決が確定したときは,原告X2に対し,上記5(1)の金員を支払え。 6 (1) 被告Y1及び被告日本ホワイトファーム株式会社は,原告X3に対し,連帯して220万円及びこれに対する平成19年2月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (2) 被告損害保険ジャパン日本興亜株式会社は,被告Y1又は被告日本ホワイトファーム株式会社に対する判決が確定したときは,原告X3に対し,上記6(1)の金員を支払え。 第2 事案の概要 1 本件は,原告X1(平成14年○月○日生。以下「原告X1」という。)が,道路を横断中に被告Y1(以下「被告Y1」という。)の運転する大型貨物自動車(以下「本件車両」という。)に衝突される事故(以下「本件事故」という。)により脳挫傷等の傷害を負い,自賠責法施行令別表第二(以下,単に「後遺障害等級」という。)3級相当の高次脳機能障害等の後遺障害が残存し,後遺障害逸失利益等の損害を被り,また,原告X1の両親である原告X2(以下「原告X2」という。)及び原告X3(以下「原告X3」という。)が,本件事故により原告X1に重篤な後遺障害が残ったために多大な精神的苦痛を被ったと主張して,被告Y1に対しては不法行為による損害賠償請求権に基づいて,本件車両の保有者である被告日本ホワイトファーム株式会社(以下「被告会社」という。)に対しては自賠責法3条に基づいて,連帯して以下の損害の賠償を求めるとともに,被告会社との間で本件車両を被保険自動車とする対人賠償責任保険契約を締結している被告損害保険ジャパン日本興亜株式会社(以下「被告日本興亜」という。)に対しては,保険契約に基づいて,被告Y1又は被告会社に対する判決が確定したときは,同額の損害の賠償を求める事案である。 (中略) 第3 当裁判所の判断 1 本件事故態様及び過失割合について (1) 前記前提事実,証拠(甲2,4,5,乙21から25まで,原告X3本人,被告Y1本人)及び弁論の全趣旨によれば,本件事故態様について,以下の事実が認められる。 (中略) 2 原告X1の損害について (1) 原告X1の治療費(292万9060円)については,当事者間に争いがない。 (中略) (7) 将来介護費用について ア 前記(5)アで認定した症状固定時における原告X1の状況に加え,証拠(甲5,8から11まで,34,乙2,3,19,原告X3本人)によれば,原告X1は,本件事故に起因する脳外傷による高次脳機能障害が残存し,平成19年6月11日付けの知能検査(WPPSI)では全IQ79,平成26年1月8日付けの知能検査(WISC-Ⅳ)では全検査69点であり,知的レベルではやや遅れており,年齢が上がるに従って学習に付いていけなくなり,小学校5年生以降は特別支援学級に進学していること,食事や排泄は自立,入浴もほぼ自立しており,1人でバスで移動し,近所への買い物も一応は可能であるが,他方で,易怒性,固執性があり,感情の起伏があって粗暴になることもあり,対人関係の構築は難しく,また,金銭管理も困難であり,原告X3の援助によって通学のための準備ができていることの各事実が認められる。 上記認定事実によれば,高次脳機能障害の後遺障害のある原告X1が,将来にわたって完全に自立した生活を送ることができる見込みがあるとは到底認めがたく,日常生活を送る上で他人の看取や支援が必要であると認められるから,将来にわたって介護の必要性があると認めるのが相当である。 イ そして,上記で認定した原告X1の自立度からすると,身体的介護は不要であるが,生活面全般における支援の必要性に鑑みて,原告X1の介護費用については,原告X1が義務教育期間中は平日においては親族による介護の負担がないが,休日,祝日,春休み,夏休み,冬休みの期間もあってその期間は介護による負担が増加することから,原告X1の義務教育期間は日額3000円(年額109万5000円,月額9万1250円)の介護費用とするのが相当である。また,原告X1が義務教育期間終了後は,原告X2及び原告X3が主として原告X1の生活全般の支援を行っていくことになるが,原告X2及び原告X3はともに有職者であるため,親族及び職業介護が中心となるものと認められるから,職業介護による介護費用を1日1万円,休日(祝日を含む。)は親族介護による費用として日額5000円として算定するのが相当である(年額302万5000円,月額25万2083円)。そして,原告X1の介護を中心的に担う原告X3が67歳に達した以降は,職業介護が中心となるものと推認されるから,日額1万円(年額365万円,月額30万4166円(小数点以下切捨て。以下,同じ。))として算定するのが相当である。 (8) 逸失利益について 原告X1が,本件事故当時4歳であり,本件事故により後遺障害等級3級3号に該当する後遺障害が残存したことは前記認定のとおりであり,前記で認定した原告X1の後遺障害固定時の状況等に鑑みると,原告X1は,本件事故により労働能力を完全に喪失したと認めることができる。そうすると,原告X1の症状固定時(平成24年12月27日)の賃金センサス(男子・学歴計・全労働者平均賃金)529万6800円を基礎収入とし,原告X1が後遺障害逸失利益に関して毎月○日限りの定期金賠償を求めているから,原告X1が就労可能となる年齢に達する日(平成32年○月○日)から原告X1が67歳に達する日(平成81年○月○日)までの間,毎月○日限り,44万1400円が後遺障害逸失利益として支払われるべきである。 なお,被告らは,後遺障害逸失利益について定期金による賠償を命じることについて争う。しかし,後遺障害逸失利益について実務上一時金によって運用される例が多いのは,事故前収入,症状固定時の後遺障害による労働能力喪失率及び症状に鑑みた労働能力喪失期間を予測して適切な金額を算定することができ,被害者側も一時金による賠償を望んでいるからであるにすぎず,定期金による賠償を命ずることができ,かつ,被害者側もその賠償方法を望んでいるときには,後遺障害逸失利益について定期金による賠償を命ずることはできるというべきである。ちなみに,民訴法117条は,定期金による賠償を命じた確定判決の基礎となった後遺障害の程度に著しい変更が生じた場合には,その判決の変更を求めることができる旨規定するところ,同条は,後遺障害逸失利益について定期金による賠償が命じられることを当然の前提としている。 (9) 慰謝料 ア 入通院慰謝料 原告X1は,本件事故から症状固定までの間,入院期間179日間,通院期間約64か月(実通院日数159日)の治療を余儀なくされたものであり,これに伴う入通院慰謝料については,310万円をもって相当と認める。 イ 後遺障害慰謝料 原告X1が,本件事故により,後遺障害等級3級3号に該当する後遺障害が残存したことは前記で説示したとおりであり,後遺障害慰謝料としては1990万円をもって相当と認める。 (10) 損害の填補及び充当 原告X1については,①平成26年3月12日,自賠責保険により2219万円が支払われたこと,②被告日本興亜から治療費として468万5944円が支払われたことは,当事者間に争いがない。 そこで,①については法定充当し,②については元本に充当すると,原告X1の損害(ただし,弁護士費用を除く。)は,以下のとおりとなる。 ア 将来介護費用(ただし,平成25年1月分から平成28年10月分までの介護費用を含む。)及び逸失利益,弁護士費用を除く損害金の合計3918万2457円 イ 過失相殺後の残額(ア×80%) 3134万5965円 ウ ②をイに元本充当 2666万0021円 エ ①をウに法定充当(ウの7年38日間の遅延損害金946万9785円) 1393万9806円 (11) 弁護士費用 弁論の全趣旨によれば,原告X1は,本件事故による損害賠償を求めるために原告ら訴訟代理人弁護士に委任したところ,本件事案の性質,内容及び認容額その他一切の事情を考慮すると,本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は,900万円をもって相当と認める。 (12) 小括 本件事故による原告X1の損害額は,前記で説示した被害者側の過失を相殺すると,以下のとおりとなる。 ア 将来介護費用及び逸失利益を除く損害額 2293万9806円 イ 平成25年1月分から平成28年10月分までの介護費用 335万8000円 ウ 将来介護費用(定期金賠償) 平成28年11月から原告X1が死亡するまで,毎月27日限り,以下の金額 (ア) 平成28年11月から平成30年3月まで7万3000円 (イ) 平成30年4月から平成46年6月まで20万1666円 (ウ) 平成46年7月以降24万3333円 エ 逸失利益(定期金賠償) 平成32年9月から平成81年8月まで,毎月○日限り,35万3120円 2 原告X2及び原告X3の損害について (1) 前記1(5)及び(7)の認定事実によれば,原告X1は,本件事故により脳挫傷等の重傷を負い,受傷当初は意識障害もあり,意識回復後も原告X2及び原告X3による懸命な介護や援助により身体的には自立するまでには至ったものの,本件事故により受けた脳損傷による高次脳機能障害のために,症状固定後も,引き続き日常生活面において原告X2及び原告X3による声かけや援助が必要となる後遺障害が残存したものであって,原告X1が本件事故当時4歳であってこれからの健全な子どもの成長を期待していた原告X2及び原告X3が本件事故により受けた精神的苦痛は相当なものであったものと認められる。これらの原告X1の事故後の病状,その後の介護の状態に鑑みると,父母である原告X2及び原告X3の慰謝料としては,それぞれ150万円をもって相当と認める。 そして,前記で説示した被害者側の過失を相殺すると,本件事故と相当因果関係のある原告X2及び原告X3の慰謝料額は,それぞれ120万円となる。 (2) また,原告X2及び原告X3は,被告らに対し,本件事故による損害賠償を求めるために,原告ら訴訟代理人弁護士に委任したところ,本件事案の性質,内容及び認容額その他一切の事情を考慮すると,本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は,それぞれ12万円をもって相当と認める。 (3) 小括 本件事故による原告X2及び原告X3の損害額は,合計でそれぞれ132万円であると認める。 3 結論 以上によれば,原告らの請求は,前記1(12)及び2(3)の限度で理由があり,その余については棄却すべきである。 よって,主文のとおり判決する。 札幌地方裁判所民事第5部 (裁判長裁判官 岡山忠広 裁判官 根本宜之 裁判官 牧野一成) 〈以下省略〉 以上:6,888文字
|