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令和 1年 6月 1日(土):初稿 |
○交通事故による眼とは異なる部位傷害と心因性視力障害について因果関係を認めた判例を探していますが、停車中の追突事故で視力障害を発症する被害者の事案で、視力障害との相当因果関係を認めるも、心因的要素や発症の機縁が必ずしも解明されておらず、時期の経過等による回復の可能性もないわけではないものと、5割の心因性減額を適用した平成11年10月26日広島地裁判決(自動車保険ジャーナル・第1341号)の関連部分を紹介します。 **************************************** 主 文 1 被告らは原告に対し各自金4084万4192円及び内金3834万4192円に対する平成5年7月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用はこれを5分し、その3を被告らの負担とし、その余を原告の負担とする。 この判決は原告勝訴の部分に限り仮に執行することができる。 事 実 第一 申立 一 原告 被告らは原告に対し金7037万3876円及びこれに対する平成5年7月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 訴訟費用は被告らの負担とする。 仮執行宣言 二 被告ら 原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 第二 主張 一 請求原因 1 交通事故 日 時 平成5年7月19日午後2時20分頃 場 所 広島市東区戸坂大上1丁目4番22号戸坂福祉センター先路上 加害車両 普通貨物自動車 右運転者 被告松尾 右保有者 被告会社 被害車両 普通乗用自動車 右運転者 原告 態 様 被害車両が赤信号待ちで停車中、後方から加害車両が追突し、被害車両が前方に押し出され、前方停止車両に追突したもの 2 責任 被告会社は加害車両を保有して自己のために運行の用に供していたから、自賠法3条による責任を負う。 被告松尾は加害車両を前方注視を欠いて漫然運転走行した過失があるから、民法709条の不法行為責任を負う。 3 権利侵害 原告は本件事故により頸椎捻挫、脳挫傷(疑)、胸腰部打撲、右下肢打撲等の傷害を受け、太田川病院に右事故当日の平成5年7月19日から8月31日まで44日間入院し、同年9月1日から平成8年6月30日まで通院した(実日数134日)ほか、その間別途次のとおり通院治療を受けた。 (中略) 理 由 (中略) 眼科的症状については、本件事故前の原告の視力は裸眼1・5程度で、運転免許証にも眼鏡の条件はなく、眼科的異常はなかったのに、右事故後まもなく前記のように複視やかすみ等の症状を訴え、視力も広島鉄道病院眼科での平成5年8月6日検査時点では両裸眼0・05、矯正0・07と悪化しており、その後更に低下して最終的には両裸眼及び矯正とも0・01乃至0・03程度にまで落ち、調節機能は測定不能で、視野も平成6年7月19日検査以降両眼とも各方向約10度乃至20度(通常は鼻側60度、上方50度、耳側90度、下方60度程度)であり、高度の求心性視野狭窄と診断されている。 もっとも、両眼とも前眼部、中間透光体及び眼底に器質的病変は見当たらず、対光反応にも異常所見はなく、他覚的所見としては軽度の近視性乱視が認められたのみであった。また、前記脳のCT所見が原告のような眼科的症状に繋がるとの一般的知見は目下存しない(求心的視野狭窄は大脳皮質両側の循環障害の場合に発現することがある)。 このため原告の症状は器質的客観的所見からは一般的には説明がつかないものであるが、同病院眼科担当医は、原告の受診態度や主訴の態様等からして詐病の疑いは持ち得ないとして、この種の症状には現在の医療技術では発見できない脳や神経系統に関する異常に起因する場合があり得ることも必ずしも否定できず、頭頸部外傷の後に眼科調節機能障害の一種である調節緊張に心因性の要因が加わった場合に原告のような両眼同程度の視力低下及び視野狭窄が起こり得ることが報告されている(通常の眼障害では両眼同程度というのは珍しい)ことなどから、心因性の視力障害を推定した。 なお、心因性視力障害は心因となったものが除去された場合(時が経過し、原因となっている問題が解決し、環境が変化したなどの場合も含む)には回復することもあるが、心因性視力障害の発症の機縁自体が解明されておらず、心因を突き止めることは一般には困難であり、回復は必ずしも容易ではないとされていることから、右担当医は原告について傷病名を両眼調節障害、視力障害、視野狭窄と、自覚症状を両眼視力障害、羞明とし、他覚所見として前眼部、透光体、眼底のいずれも両眼に異常なく、視力、視野の異常の原因となるような器質的病変は認められないが、心因性視力障害が疑われ、回復の見込みは少ない旨の平成8年4月2日付症状固定診断を行った。 (中略) 右認定の本件事故状況、特に衝突の激しさ、原告の右事故直後における意識障害様の症状、当初よりの整形外科的症状、早い段階における目や耳の症状の発現、脳挫傷(疑い)診断、脳のCT検査による石灰化診断、その後の諸症状の変遷の経緯、眼機能に関する器質的病変の不存在、詐病の疑いの不存在、未解明の神経的異常の存在の可能性、頭頸部外傷に心因性の要因が加わった場合の両眼同程度の視力低下及び視野狭窄の発現例に関する知見、身体障害者認定、原告の境遇、性格、脳の障害に対する畏怖、眼及び耳に関する症状について自賠責後遺障害等級認定がなされなかった経緯等を総合考慮すると、原告の前記認定の症状固定診断時における整形外科的神経症状が右事故による後遺障害であることは明らかに認められるとともに、少なくとも眼科的症状については眼科の担当医の見解と同様に右事故による受傷に原告の境遇、性格、後遺症不認定等により心因性の要素(心因及び発症の機縁の解明は困難であるが)が加わって生じた後遺障害と認めるのが相当である。 なお、原告の眼の症状について前記広島査定事務所は自賠責後遺障害等級の認定をしていないが、右不認定は心因的要素を無視したことによるものと推測され、前記説示に照らし、妥当とはいいがたく、採用しがたい。 (中略) 6 逸失利益 2405万4771円 前記3認定の原告の本件事故による後遺障害である整形外科的神経症状及び眼科的症状に照らすと、その程度は自賠責後遺障害等級14級10号及び4級1号に該当するものということができ、これに原告の症状固定後の症状や生活状況等をも加味すると、原告の逸失利益算定における労働能力喪失率は92%と認めて差し支えないものというべきである。 したがって、原告の後遺障害による逸失利益は原告主張にかかる前記4の年間平均給与額225万1000円に症状固定(平成8年4月2日)後の就労可能年数45年(67歳まで)に対応する新ホフマン係数23・231を乗じて労働能力喪失率として0・92を乗じた4、810万9、543円と認めるのが相当である。 なお、被告らは請求原因に対する認否第三段第三文のとおり原告の視力障害が心因性であることなどを理由に労働能力喪失割合及び期間の限定を主張するところ、前記3認定のとおり心因性視力障害の心因的要素や発症の機縁が必ずしも解明されておらず、時の経過等による回復の可能性もないわけではないことなどの諸事情に加えて、心因というもの自体が元来患者の内部的主観的な問題で、客観化が困難であることをも考慮し、更に原告の障害の内容等をもあわせ鑑みると、衡平の観点から心因性を賠償損害額の減額要因として評価し、前記算出の逸失利益額の半額2405万4771円を被告らの負担とするのが相当と解する。 以上:3,188文字
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