旧TOP : ホーム > 交通事故 > 交通事故判例-その他なんでも > |
平成31年 1月 8日(火):初稿 |
○「歩行者との非接触事故で自動車運転者過失責任を否定した地裁判決紹介」の続きで、その控訴審判決である平成30年1月26日大阪高裁判決(自保ジャーナル2020号58頁)の前半を紹介します。 ○亡Dの妻であり、相続人である控訴人(原告)が、被控訴人(被告)Bの運転する普通乗用自動車が歩行者であるDに衝突するなどの交通事故によってDが死亡したと主張して、被控訴人Bに対しては、民法709条に基づき、同自動車の所有者である被控訴人Cに対しては、自動車損害賠償保障法3条に基づき、連帯して約4412万円の損害賠償の支払いを求めました。 ○これに対し、一審平成29年3月23日神戸地方裁判所尼崎支部判決(自保ジャーナル2020号67頁)は、被控訴人Bの運転する自動車がDの身体に接触するなどの事実は認められないとして、控訴人の請求をいずれも棄却したのに対し、控訴人(原告)が原判決を不服として、控訴を提起しました。 ○平成30年1月26日大阪高裁判決(自保ジャーナル2020号58頁)は、被控訴人Bは、本件車両を運転して、本件交差点を右折して走行したが、交差点北側の横断歩道上又はその付近にいたDに近接した地点を走行したため、Dがこれを避けようとして転倒して、民家の外壁の石垣に後頭部を打ち付けて負傷し、その結果、急性硬膜下出血及び外傷性くも膜下出血により死亡したと認めるのが相当であるなどとして、原判決を変更し、被控訴人に対し、約3537万円の支払を命じました。この判決理由は別コンテンツで紹介します。 **************************************** 主 文 1 原判決を次のとおり変更する。 2 被控訴人らは,控訴人に対し,連帯して3537万2860円及びこれに対する平成24年10月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 控訴人のその余の請求をいずれも棄却する。 4 訴訟費用は,1,2審を通じてこれを5分し,その1を控訴人の負担とし,その余を被控訴人らの負担とする。 5 この判決は,2項に限り,仮に執行することができる。 第一 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人らは,控訴人に対し,連帯して4412万1323円及びこれに対する平成24年10月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人らの負担とする。 第二 事案の概要等 1 事案の概要及び訴訟の経過 本件は,亡D(以下「D」という。)の妻であり,相続人である控訴人が,被控訴人Bの運転する普通乗用自動車が歩行者であるDに衝突するなどの交通事故によってDが死亡したと主張して,被控訴人Bに対しては,民法709条に基づき,同自動車の所有者である被控訴人Cに対しては,自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)3条に基づき,連帯して4,412万1,323円の賠償及びこれに対する平成24年10月23日(上記事故の日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求めている事案である。 原審が,被控訴人Bの運転する自動車がDの身体に接触するなどの事実は認められないとして,控訴人の請求をいずれも棄却したため,控訴人が原判決を不服として,本件控訴を提起した。 2 前提事実 以下の事実は,当事者間に争いがないか,証拠(略)及び弁論の全趣旨により容易に認められる。 (1)事故の態様 ア 被控訴人B(昭和11年○月○○日生)は,平成24年10月23日午後4時10分頃,被控訴人Cの所有する普通乗用自動車(長さ424センチメートル,幅175センチメートル,高さ143センチメートル,以下「本件車両」という。)を運転して,兵庫県芦屋市<以下略>所在の交差点(以下「本件交差点」という。)手前の東側道路から西方に走行し,本件交差点に進入して,北側道路の方向に右折した。 イ 本件交差点及びその周囲の概況は,原判決別紙交通事故現場見取図(以下「見取図」という。)のとおりである(以下,見取図記載の各地点を「見取図[ア]地点」などという。)。 ウ D(昭和8年○月○○日生)は,上記日時頃,本件交差点の北側道路上にいたが,本件車両が本件交差点を右折したころ,見取図[ア]地点で倒れており,頭部に出血がある状態であった(以下「本件事故」という。)。 (2)Dの死亡及び控訴人の相続 Dは,本件事故の後,q1大学病院に救急搬送されたが,その翌日である平成24年10月24日,後頭部打撲を原因とする急性硬膜下出血及び外傷性くも膜下出血により死亡した。 控訴人は,Dの唯一の相続人である。 (3)本件事故現場の状況 ア 本件交差点は信号機が設置されていない。 本件交差点の東側道路は,幅員4.8メートル(うち車道部分の幅員3.0メートル,その両側の石畳部分の幅員0.9メートル)であり,西方向に向かう一方通行の規制がされ,本件交差点入口に一時停止の規制がされていた。 本件交差点の北側道路は,幅員5メートル程度で,本件交差点入口に横断歩道があり,見取図[ア]地点は横断歩道上であった。 イ 本件交差点の北東角には,隅切りが設けられた民家の外壁(高さ約1.23メートル)があり,上部のコンクリート壁(高さ0.63メートル),下部の石垣(高さ0.6メートル)で構成されていた。この石垣には,本件事故後,見取図[ア]地点付近の高さ0.25メートルの位置に毛髪が付着していた。 3 争点 (1)本件事故の態様(争点1) (2)被控訴人Bの不法行為の有無(争点2) (3)損害の額(争点3) 4 争点に関する当事者の主張 (1)争点1(本件事故の態様)について (控訴人の主張) ア 被控訴人Bは,本件車両を運転して,本件交差点を右折するに当たり,歩行者であるDの身体に本件車両の右ドアミラーを衝突させ,Dを路上に転倒させた。このことは,本件車両の右ドアミラーが屈折しており,Dの胸部に皮下出血があることから明らかである。 イ 仮に衝突させていないとしても,被控訴人BがDに近接した地点で本件車両を走行したため、これに動転して避けようとしたDを路上に転倒させた。 ウ 以上のとおり,Dの転倒は被控訴人Bの本件車両の走行によって引き起こされたものであり,その結果,Dは,民家の石垣に頭部を打ち付けて負傷し,死亡するに至った。 (被控訴人らの主張) ア 控訴人の主張は否認又は争う。 イ 本件車両の右側面に擦過痕・払拭痕がないことや微物の付着がないこと,本件車両の右ドアミラーとDに生じた皮下出血の位置には高低差があることから,本件車両がDに接触(衝突)していないことは明らかである。 ウ 被控訴人Bは,本件車両を運転して,本件交差点を右折する際,見取図〔1〕地点より少し前に出た地点で一時停止して,左方,前方及び右方の順に安全を確認して,右方に歩行者等がいなかったことから,見取図〔2〕,〔3〕の各地点を徐行して通行し,見取図〔4〕地点に至るまでに右ドアミラーを通してDを発見したものである。したがって,本件車両がDの身体に接触した事実やDに近接した地点を走行した事実はない。 エ Dは,何らかの体調不良により顔面を電柱等にぶつけた後,後ろに転倒したため本件事故が発生したものであり,Dの転倒は被控訴人Bの本件車両の走行によって引き起こされたものではない。 (2)争点2(被控訴人Bの不法行為の有無)について (控訴人の主張) 被控訴人Bは,本件車両を運転して,本件交差点を右折する際,一時停止の上,進行方向右方の安全を十分に確認して,適切な速度,態様の下で右折進行をすることにより,歩行者であるDに危害を及ぼさないように運転する義務を負っていたにもかかわらず,これを怠り,Dに本件車両を衝突させ,仮に衝突させていないとしても,Dに近接した地点で本件車両を走行して動転させることにより,本件事故を発生させた。 (被控訴人らの主張) 控訴人の主張は否認又は争う。 被控訴人Bは,本件交差点を右折する際,交差点手前で一時停止をして進行方向の安全を十分に確認し,歩行者であるDに危害を及ぼさないような速度及び方法で運転していたから,控訴人主張の注意義務違反はない。 (3)争点3(損害の額)について (控訴人の主張) ア Dの損害 3712万1323円 (ア)治療関係費 2万4740円 (イ)入院雑費 3000円 日額1500円,入院期間2日として算定する。 (ウ)文書料 3万7420円 (エ)葬儀関係費 150万円 (オ)逸失利益 552万0829円 a 自営業分 181万8390円 Dは,本件事故当時79歳であり,宗教法人q4の代表として,職務に従事して,年収60万円を得ていた。 基礎収入60万円,就労可能年数5年に対応するライプニッツ係数4.3295,生活費控除率30%として算定すると,181万8390円になる。 b 公的年金分 370万2439円 Dの平成23年分の老齢基礎年金受給額を104万1796円,平均余命9年に対応するライプニッツ係数7.1078,生活費控除率50%として算定すると,370万2439円になる。 (カ)慰謝料 3003万5334円 a 入院慰謝料 3万5334円 Dは,救急搬送後に2日間入院しており,入院慰謝料として3万5334円が認められるべきである。 b 死亡慰謝料 3000万円 被控訴人Bは,本件事故の態様について事実と異なる説明をし,焼香や謝罪もせず,不誠実な態度に終始していることから,死亡慰謝料は3000万円が認められるべきである。 イ 控訴人固有の慰謝料 300万円 控訴人は,50年以上もの間,夫婦としてDとともに生活していたのであり,控訴人固有の慰謝料として300万円が認められるべきである。 ウ 小計 4012万1323円 エ 弁護士費用 400万円 オ 合計 4412万1323円 (被控訴人らの主張) ア 治療関係費,入院雑費,文書料及び葬儀関係費は,不知。 イ 逸失利益は否認する。 (ア)自営業分 Dは,本件事故当時,高齢であり,平成23年に癌の治療を受けるなど,様々な身体の不調を抱えていたから,宗教法人q4からの年収60万円は,労務対価性がなく,基礎収入であるとは認められない。また,就労可能年数5年はより短期に,生活費控除率30%はより高率にすべきである。 (イ)公的年金分 年金受給額及び平均余命の期間は不知であり,生活費控除率50%はより高率にすべきである。 ウ 入院慰謝料,死亡慰謝料及び控訴人固有の慰謝料は否認する。 エ 弁護士費用は否認する。 以上:4,318文字
|