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平成30年 6月16日(土):初稿 |
○交通事故による損害賠償請求権は、旧破産法の以下の規定により、加害者の破産によって免責されると解釈されるのが一般でした。交通事故は一般に過失による損害賠償請求権であり「悪意ヲ以テ加ヘタル不法行為」には該当しないとされていたからです。 旧破産法第366条ノ12 免責ヲ得タル破産者ハ破産手続ニ依ル配当ヲ除キ破産債権者ニ対スル債務ノ全部ニ付其ノ責任ヲ免ル 但シ左ニ掲グル請求権ニ付テハ此ノ限ニ在ラズ (中略) 二 破産者ガ悪意ヲ以テ加ヘタル不法行為ニ基ク損害賠償 ○この点が争いになった平成16年8月27日大阪判決(交民集37巻4号1138頁)は次のように述べています。 二 交通事故損害賠償請求権は非免責債権か否か (1) 本件交通事故は、被告乙山の過失によって惹起されたことは疑いがなく、追突という態様が被告乙山の一方的過失に基づくものであるからといって、これがために被告乙山に故意に準じた重過失があったことにならないのはいうまでもなく、これがために故意があったとなすべきものでもない。しかるに、破産法366条の12但書き2号所定の「破産者ガ悪意ヲ以テ加ヘタル不法行為ニ基ク損害賠償請求権」として明確に「悪意」に限定する旨規定しているのであるから、本件交通事故に基づく損害賠償請求権が同条同号にいう非免責債権に該当しないことは明らかである。 (2) なお、破産法上の免責の制度趣旨は、自然人の破産者を保護し、その経済的更生を図ることが破産者の早期の破産申立を促し、引いては破産債権者の保護にも資することになることにある。他方、非免責債権が規定されているのは、正義公平の趣旨ないし政策上の観点からこれによって免責の効力を与えるのが相当でないような場合を列挙しているのであるが、これを広く解するときには、上記免責制度の趣旨を没却するおそれがあるから、免責制度の趣旨に鑑みてもなお免責するのが相当でないものに限定して解釈すべきである。そうすると、破産法366条の12但書き2号所定の「破産者ガ悪意ヲ以テ加ヘタル不法行為ニ基ク損害賠償請求権」にいう悪意とは、単なる故意ではなく、不正に他人を害する意思ないし積極的な害意を指すというべきであり、いずれにしても原告の主張には理由がない。 ○ところが破産法が改正され、現在の破産法非免責債権条項は、以下の通り規定されています。 現行破産法第253条(免責許可の決定の効力等) 免責許可の決定が確定したときは、破産者は、破産手続による配当を除き、破産債権について、その責任を免れる。ただし、次に掲げる請求権については、この限りでない。 (中略) 二 破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権 三 破産者が故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権(前号に掲げる請求権を除く。) ○この現行破産法について、事故後破産した被告自転車の過失は故意に比肩する重過失と認定し、破産免責の主張を否認した平成28年11月30日東京地裁判決(自保ジャーナル・第1990号)を紹介します。交通事故の損害賠償請求債務は、「重大な過失」と認定されると破産しても免責されないことになります。 3 破産免責について (1) 破産法253条1項3号は、破産者が故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権を非免責債権とする旨規定するところ、被告は、同条にいう重大な過失は、主観的態様において故意と同視すべき非難可能性が極めて高いものをいうとし、本件事故における被告の走行は、道路上を単独で異常とはいい難い速度で走行するものであって、これに該当しないとして、本件事故に基づき原告が被告に対し有する損害賠償請求権は、本件免責許可決定により免責された旨主張する。 (2) この点、重過失とは、一般に、故意に比肩する程度に重い過失であると解されており、被告の理解は概ねこれを容れうるものと解されるが、前記1において認めたとおり、被告は、本件事故当時、被告車である自転車を、薄暗い自転車の通行可能な歩行者優先歩道上を、時速約25㎞から30㎞という原動機付自転車の法定最高速度程度の危険な速度で走行させつつ、無灯火の上、進路前方左右の歩行者等の有無及びその安全の確認を懈怠していたものであるから、本件事故に係る被告の過失は、故意に比肩する程度に重い過失であって、被告の理解を前提としても、重過失と認めるのが相当である。したがって、本件事故により生じた原告の被告に対する損害賠償請求権が、本件免責許可決定に基づき免責されることはない。 以上:1,894文字
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