平成30年 5月13日(日):初稿 |
○当事務所で扱う交通事故訴訟では、ここ数年、頚髄に関する事案が多く、頚髄損傷についての覚書です。 ・頚髄損傷大まかな分類 骨傷性頚髄損傷:頚髄を保護する頚椎椎体の圧迫・破裂・脱臼骨折等により頚髄を直接損傷するもの 非骨傷性脊髄損傷:椎体の骨折等はないが、頚部等に強い衝撃が加わり、脊髄が過伸展・過屈曲されて脊髄の中心部を損傷するもの ・非骨傷性頚髄損傷には、頚髄の中心部が損傷する中心性頚髄損傷があるが、中心性頚髄損傷は単純X線所見には縛られない臨床的な症候群であり、非骨傷性頚髄損傷とは別の概念と考えるべきとの解説もあります(エキスパートのための脊椎・脊髄疾患のMRI第2版547頁)。頚髄は、脳と同じく中枢神経であり、いったん損傷されると回復はほぼ困難とされている。 ・中心性脊髄損傷について 発症原因 コンタクトスポーツによる頚椎の過屈曲・過伸展でおこる。交通事故の追突事故でも起こりうる。過伸展損傷以外の原因でも起こりうる。 過伸展時の黄色靱帯のたるみによる後方からの頚髄圧迫と、頚椎の不安定型損傷による後方すべりによる圧迫が考えられている。 症状 外傷後の手のしびれ,何も触れないほどの痛み,自発痛が特徴 ①下肢より上肢に強い運動麻痺 ②比較的予後はよく、改善は下肢より起こるが、手指の巧緻運動障害は回復しにくい ③高齢者の過伸展損傷に多い。高齢者の方が回復が不良。 ④後縦靱帯骨化症などによる脊柱管狭窄を有する患者に多い 頚髄は脳からの電気信号を末梢組織に伝える役割を果たし、横断面でみると,中心に近づくほど上肢に分布する神経の線維が通っているため,中心部が衝撃によって障害を受ける中心性頚髄損傷では上肢に強く症状が出る。 損傷部位 古典的には頚髄中心部に出血や浮腫が起きた場合、側索椎体路では内側から外側に向かって頚髄、胸髄、腰髄の順に繊維が走行するために、上肢への神経路が下肢に比べて損傷を受けやすい。 上肢への神経路の損傷があることから、損傷レベルとしてはC3/4,C4/5,C5/6が主体となる。しかし、損傷の最強点は、頚髄の中心部とは限らない。 MRI診断 不完全型脊髄損傷である中心性頚髄損傷では、頚髄出血はまれで、浮腫や腫脹を呈することが多い。病変部ではT2強調画像で高信号を呈するが、異常信号を認めないこともしばしばある。 もとからある圧迫性頚髄症と外傷に伴う浮腫の区別は困難だが、後者の方がT2強調像では高信号が上下に長い傾向がある。 治療 受傷後早期にステロイドを使用することで,浮腫を防ぎ,二次損傷を予防する。頚部の安静保持のためにカラーを使用することもある。重症例では改善が認められないため,超早期の診断と治療が必要。 手術(頚髄減圧・固定)を行うかについては議論があり、不安定型の損傷や椎間板ヘルニア、後縦靱帯骨化症などによる脊柱管狭窄例では、手術が選択されることが多い。 以上:1,181文字
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